追放されましたが、私は幸せなのでご心配なく。

cyaru

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第26話  カーティスへの面会人

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国としての情報が他国より収集能力に劣っていても、民衆は違う。

食料が近いうちに足らなくなる。レブレス王国との国境が封鎖されて物資は入って来なくなる。そんな噂が流れると真偽など確かめているはずがない。

民衆は金を握りしめて店舗に殺到し、食料品や日用品は開店と当時に連日売り切れ。

それまで買い物と言えば屋敷に商人を呼びつけていた貴族ですら仕立て屋や宝飾品などには興味を示さず、生きるために必要な物資を直接出向いて買い求める。

そこには厳しい身分制度など何処にもない。
「貴族だ、爵位だ」そんな事を叫んだってジャガイモに群がる民衆には聞こえない。

大臣たちは「物資はある」と呼びかけをするものの、大臣がそんな事を言うくらいなので騙されてはならないと余計に民衆の焦りに拍車をかけるだけとなってしまった。

実際、品不足は顕著で買い占めるから足らないと呼びかけても、レブレス王国との国境を越えて来る商人たちの数も激減しているので、国か管理する倉庫を開放し物資があると見せかけているだけだった。

それも半年続けば大きな倉庫も次々に空っぽになりネズミすら走らない。そこに餌がないからである。

治安も悪くなり、毎日のように騎士団には窃盗、強盗の被害が寄せられてきて向かわせる騎士の数も足らない。

余力のある平民はフットワークも軽いため、王都ではなく地方の大きな街に引っ越しをする者も現れた。少なくとも王都よりも地方の方が田畑がある分、食料には困らない、そんな判断からの行動である。

王都周辺の農夫たちの元には生涯で着る事もないような上等な布で作ったドレスやらを持ってきて「何でもいいから食料と交換してくれ」と貴族が殺到した。


そんな民衆の報告を受けてカーティスは更に追いつめられていた。
手持ちの私兵は全員が辞してしまい1人もいない。騎士団に人間を回せと指示をだしてウェルシェスの捜索にあたらせてはいるが、騎士団にも仕事があり捜索に人も時間も割くくらいなら強盗などの取り締まりをしたいくらい。

片手間の捜索となってしまっては見つけられるはずもなく、探すのも遠くまでは行けないため王都の中だけ。まるで意味のない捜索でカーティスの望む報告が聞けるはずもなかった。

「馬鹿みたいね。ニンジンがない、大根がないって。芋でも齧っていればいいのよ」

両手の全ての指で輝く指輪の石。太陽の光にあててみたり、角度を変えてその輝きを愉しむライラは日を追うごとに悪くなる現状を鼻で笑った。

こんな状態になってしまっては宝飾品店も閑古鳥が鳴きっぱなし。在庫整理に丁度いいと毎日のように登城してはライラに宝飾品を買わせていく。

ウェルシェスを王都追放にして直ぐに届いたレブレス王国からの知らせ。
議会はカーティスに支給される予算を承認せず、ライラの買い物はカーティスの私財から全てが支払われていた。


「いい加減にしろ。指は10本しかないのに指輪を幾つ買うつもりだ」

「あら?指輪にまで妬きもち?」

「する訳がない。買い物を控えろと言ったはずだ」

「そうね、でも他にすることがないのよ。楽しみをやめろなんて言わないわよね」


2か月前だったか、3か月前だったか。カーティスはライラを追い出そうとしたことがあった。しかし何故か議会がそれを許さなかった。

カーティスは最悪のシナリオを頭に描いた。

議会にとっては国王カーティスを引きずり下ろし、血の薄い侯爵家の子息に玉座を与えようとしている。その大義名分にはライラと、ライラの散財を黙認し民衆を蔑ろにする国王が必要であることなど直ぐに解る。

――こんな女と塔に幽閉なんて冗談じゃない――

カーティスにとっての起死回生はウェルシェスを探し出し、レブレス王国が突きつけた期日までにウェルシェスに対話をさせて、マルスグレット王国に有利な条件でレブレス王国を引かせる事のみ。

捨てたい女は捨てることも出来ないのに、必要な女は見つからない。

残った2人の側妃はウェルシェスの行き先は何度問うても「知らない」と言い、レブレス王国以外で国境を接する国との関係を現状維持することで精いっぱい。流石のカーティスもそこに別件をさらに背負わせてしまって倒れられては困るため必要以上の追及が出来ないままだった。

期日まで残り2か月を切り、焦りも最高潮になったカーティスの元に1人の貴族が面会をしたいと申し出て来た。

「誰だ」

「それが…ベルドーマン・プリンガ―でして。先触れを出していないからと…」

「プリンガ―?!す、す、すっ、直ぐに通せ!先触れなど必要あるか!!早くここへ!」

従者が扉の向こうに消えると、カーティスは飛び上がって喜んだ。
プリンガ―と言えばウェルシェスの実家であるプリンガ―伯爵家。

ベルドーマンはウェルシェスの兄だ。間違いなく吉報を持ってきたのだと議会の議長や大臣などカーティスの事を見下したヤカラの顔を思い浮かべるとこみ上げる笑いが抑えきれない。

――勝った。この土壇場に来て私は勝ったのだ――

こみ上げる笑いが零れ、笑い声が響く部屋でカーティスは今か今かとベルドーマンを待った。
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