26 / 31
第26話 カーティスへの面会人
しおりを挟む
国としての情報が他国より収集能力に劣っていても、民衆は違う。
食料が近いうちに足らなくなる。レブレス王国との国境が封鎖されて物資は入って来なくなる。そんな噂が流れると真偽など確かめているはずがない。
民衆は金を握りしめて店舗に殺到し、食料品や日用品は開店と当時に連日売り切れ。
それまで買い物と言えば屋敷に商人を呼びつけていた貴族ですら仕立て屋や宝飾品などには興味を示さず、生きるために必要な物資を直接出向いて買い求める。
そこには厳しい身分制度など何処にもない。
「貴族だ、爵位だ」そんな事を叫んだってジャガイモに群がる民衆には聞こえない。
大臣たちは「物資はある」と呼びかけをするものの、大臣がそんな事を言うくらいなので騙されてはならないと余計に民衆の焦りに拍車をかけるだけとなってしまった。
実際、品不足は顕著で買い占めるから足らないと呼びかけても、レブレス王国との国境を越えて来る商人たちの数も激減しているので、国か管理する倉庫を開放し物資があると見せかけているだけだった。
それも半年続けば大きな倉庫も次々に空っぽになりネズミすら走らない。そこに餌がないからである。
治安も悪くなり、毎日のように騎士団には窃盗、強盗の被害が寄せられてきて向かわせる騎士の数も足らない。
余力のある平民はフットワークも軽いため、王都ではなく地方の大きな街に引っ越しをする者も現れた。少なくとも王都よりも地方の方が田畑がある分、食料には困らない、そんな判断からの行動である。
王都周辺の農夫たちの元には生涯で着る事もないような上等な布で作ったドレスやらを持ってきて「何でもいいから食料と交換してくれ」と貴族が殺到した。
そんな民衆の報告を受けてカーティスは更に追いつめられていた。
手持ちの私兵は全員が辞してしまい1人もいない。騎士団に人間を回せと指示をだしてウェルシェスの捜索にあたらせてはいるが、騎士団にも仕事があり捜索に人も時間も割くくらいなら強盗などの取り締まりをしたいくらい。
片手間の捜索となってしまっては見つけられるはずもなく、探すのも遠くまでは行けないため王都の中だけ。まるで意味のない捜索でカーティスの望む報告が聞けるはずもなかった。
「馬鹿みたいね。ニンジンがない、大根がないって。芋でも齧っていればいいのよ」
両手の全ての指で輝く指輪の石。太陽の光にあててみたり、角度を変えてその輝きを愉しむライラは日を追うごとに悪くなる現状を鼻で笑った。
こんな状態になってしまっては宝飾品店も閑古鳥が鳴きっぱなし。在庫整理に丁度いいと毎日のように登城してはライラに宝飾品を買わせていく。
ウェルシェスを王都追放にして直ぐに届いたレブレス王国からの知らせ。
議会はカーティスに支給される予算を承認せず、ライラの買い物はカーティスの私財から全てが支払われていた。
「いい加減にしろ。指は10本しかないのに指輪を幾つ買うつもりだ」
「あら?指輪にまで妬きもち?」
「する訳がない。買い物を控えろと言ったはずだ」
「そうね、でも他にすることがないのよ。楽しみをやめろなんて言わないわよね」
2か月前だったか、3か月前だったか。カーティスはライラを追い出そうとしたことがあった。しかし何故か議会がそれを許さなかった。
カーティスは最悪のシナリオを頭に描いた。
議会にとっては国王カーティスを引きずり下ろし、血の薄い侯爵家の子息に玉座を与えようとしている。その大義名分にはライラと、ライラの散財を黙認し民衆を蔑ろにする国王が必要であることなど直ぐに解る。
――こんな女と塔に幽閉なんて冗談じゃない――
カーティスにとっての起死回生はウェルシェスを探し出し、レブレス王国が突きつけた期日までにウェルシェスに対話をさせて、マルスグレット王国に有利な条件でレブレス王国を引かせる事のみ。
捨てたい女は捨てることも出来ないのに、必要な女は見つからない。
残った2人の側妃はウェルシェスの行き先は何度問うても「知らない」と言い、レブレス王国以外で国境を接する国との関係を現状維持することで精いっぱい。流石のカーティスもそこに別件をさらに背負わせてしまって倒れられては困るため必要以上の追及が出来ないままだった。
期日まで残り2か月を切り、焦りも最高潮になったカーティスの元に1人の貴族が面会をしたいと申し出て来た。
「誰だ」
「それが…ベルドーマン・プリンガ―でして。先触れを出していないからと…」
「プリンガ―?!す、す、すっ、直ぐに通せ!先触れなど必要あるか!!早くここへ!」
従者が扉の向こうに消えると、カーティスは飛び上がって喜んだ。
プリンガ―と言えばウェルシェスの実家であるプリンガ―伯爵家。
ベルドーマンはウェルシェスの兄だ。間違いなく吉報を持ってきたのだと議会の議長や大臣などカーティスの事を見下したヤカラの顔を思い浮かべるとこみ上げる笑いが抑えきれない。
――勝った。この土壇場に来て私は勝ったのだ――
こみ上げる笑いが零れ、笑い声が響く部屋でカーティスは今か今かとベルドーマンを待った。
食料が近いうちに足らなくなる。レブレス王国との国境が封鎖されて物資は入って来なくなる。そんな噂が流れると真偽など確かめているはずがない。
民衆は金を握りしめて店舗に殺到し、食料品や日用品は開店と当時に連日売り切れ。
それまで買い物と言えば屋敷に商人を呼びつけていた貴族ですら仕立て屋や宝飾品などには興味を示さず、生きるために必要な物資を直接出向いて買い求める。
そこには厳しい身分制度など何処にもない。
「貴族だ、爵位だ」そんな事を叫んだってジャガイモに群がる民衆には聞こえない。
大臣たちは「物資はある」と呼びかけをするものの、大臣がそんな事を言うくらいなので騙されてはならないと余計に民衆の焦りに拍車をかけるだけとなってしまった。
実際、品不足は顕著で買い占めるから足らないと呼びかけても、レブレス王国との国境を越えて来る商人たちの数も激減しているので、国か管理する倉庫を開放し物資があると見せかけているだけだった。
それも半年続けば大きな倉庫も次々に空っぽになりネズミすら走らない。そこに餌がないからである。
治安も悪くなり、毎日のように騎士団には窃盗、強盗の被害が寄せられてきて向かわせる騎士の数も足らない。
余力のある平民はフットワークも軽いため、王都ではなく地方の大きな街に引っ越しをする者も現れた。少なくとも王都よりも地方の方が田畑がある分、食料には困らない、そんな判断からの行動である。
王都周辺の農夫たちの元には生涯で着る事もないような上等な布で作ったドレスやらを持ってきて「何でもいいから食料と交換してくれ」と貴族が殺到した。
そんな民衆の報告を受けてカーティスは更に追いつめられていた。
手持ちの私兵は全員が辞してしまい1人もいない。騎士団に人間を回せと指示をだしてウェルシェスの捜索にあたらせてはいるが、騎士団にも仕事があり捜索に人も時間も割くくらいなら強盗などの取り締まりをしたいくらい。
片手間の捜索となってしまっては見つけられるはずもなく、探すのも遠くまでは行けないため王都の中だけ。まるで意味のない捜索でカーティスの望む報告が聞けるはずもなかった。
「馬鹿みたいね。ニンジンがない、大根がないって。芋でも齧っていればいいのよ」
両手の全ての指で輝く指輪の石。太陽の光にあててみたり、角度を変えてその輝きを愉しむライラは日を追うごとに悪くなる現状を鼻で笑った。
こんな状態になってしまっては宝飾品店も閑古鳥が鳴きっぱなし。在庫整理に丁度いいと毎日のように登城してはライラに宝飾品を買わせていく。
ウェルシェスを王都追放にして直ぐに届いたレブレス王国からの知らせ。
議会はカーティスに支給される予算を承認せず、ライラの買い物はカーティスの私財から全てが支払われていた。
「いい加減にしろ。指は10本しかないのに指輪を幾つ買うつもりだ」
「あら?指輪にまで妬きもち?」
「する訳がない。買い物を控えろと言ったはずだ」
「そうね、でも他にすることがないのよ。楽しみをやめろなんて言わないわよね」
2か月前だったか、3か月前だったか。カーティスはライラを追い出そうとしたことがあった。しかし何故か議会がそれを許さなかった。
カーティスは最悪のシナリオを頭に描いた。
議会にとっては国王カーティスを引きずり下ろし、血の薄い侯爵家の子息に玉座を与えようとしている。その大義名分にはライラと、ライラの散財を黙認し民衆を蔑ろにする国王が必要であることなど直ぐに解る。
――こんな女と塔に幽閉なんて冗談じゃない――
カーティスにとっての起死回生はウェルシェスを探し出し、レブレス王国が突きつけた期日までにウェルシェスに対話をさせて、マルスグレット王国に有利な条件でレブレス王国を引かせる事のみ。
捨てたい女は捨てることも出来ないのに、必要な女は見つからない。
残った2人の側妃はウェルシェスの行き先は何度問うても「知らない」と言い、レブレス王国以外で国境を接する国との関係を現状維持することで精いっぱい。流石のカーティスもそこに別件をさらに背負わせてしまって倒れられては困るため必要以上の追及が出来ないままだった。
期日まで残り2か月を切り、焦りも最高潮になったカーティスの元に1人の貴族が面会をしたいと申し出て来た。
「誰だ」
「それが…ベルドーマン・プリンガ―でして。先触れを出していないからと…」
「プリンガ―?!す、す、すっ、直ぐに通せ!先触れなど必要あるか!!早くここへ!」
従者が扉の向こうに消えると、カーティスは飛び上がって喜んだ。
プリンガ―と言えばウェルシェスの実家であるプリンガ―伯爵家。
ベルドーマンはウェルシェスの兄だ。間違いなく吉報を持ってきたのだと議会の議長や大臣などカーティスの事を見下したヤカラの顔を思い浮かべるとこみ上げる笑いが抑えきれない。
――勝った。この土壇場に来て私は勝ったのだ――
こみ上げる笑いが零れ、笑い声が響く部屋でカーティスは今か今かとベルドーマンを待った。
1,104
お気に入りに追加
1,959
あなたにおすすめの小説
神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました
青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。
それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

元婚約者に未練タラタラな旦那様、もういらないんだけど?
しゃーりん
恋愛
結婚して3年、今日も旦那様が離婚してほしいと言い、ロザリアは断る。
いつもそれで終わるのに、今日の旦那様は違いました。
どうやら元婚約者と再会したらしく、彼女と再婚したいらしいそうです。
そうなの?でもそれを義両親が認めてくれると思います?
旦那様が出て行ってくれるのであれば離婚しますよ?というお話です。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

私の婚約者は誰?
しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ライラは、2歳年上の伯爵令息ケントと婚約していた。
ところが、ケントが失踪(駆け落ち)してしまう。
その情報を聞き、ライラは意識を失ってしまった。
翌日ライラが目覚めるとケントのことはすっかり忘れており、自分の婚約者がケントの父、伯爵だと思っていた。
婚約者との結婚に向けて突き進むライラと、勘違いを正したい両親&伯爵のお話です。
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。
金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。
前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう?
私の願い通り滅びたのだろうか?
前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。
緩い世界観の緩いお話しです。
ご都合主義です。
*タイトル変更しました。すみません。

婚約者を交換しましょう!
しゃーりん
恋愛
公爵令息ランディの婚約者ローズはまだ14歳。
友人たちにローズの幼さを語って貶すところを聞いてしまった。
ならば婚約解消しましょう?
一緒に話を聞いていた姉と姉の婚約者、そして父の協力で婚約解消するお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる