追放されましたが、私は幸せなのでご心配なく。

cyaru

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第19話  変態ではない

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本格的に雪が降り始め、タビュレン子爵領が真っ白に染まった。

雪の降る中、等間隔に並んだ領民たちが掛け声を挙げる。何をするかと言えば急いで焼き上げた陶器の筒も配置が終わり、本格的な補修は春が来てからだとしてもキノコの家となる石の家、そしてこの先は刈り取った羊の毛を洗浄するであろう建物に湯を通すのである。

水車は日常でも使うため、1週間もあれば製作が出来てキノコの家に水を汲み上げる事は出来るようになった。火を起こしキノコの家は中に入るとサウナ状態。

等間隔に並んでいるのは通水をした時に湯が漏れ出していないかを確認するためである。

「よーし!流すぞ!」

「おぉーっ!」「おぉーっ!」

掛け声は伝達をされて最終地点となる「仮の洗浄小屋」にいるウェルシェスとベールジアンの元まで伝わってきた。

キノコの家から最終地点までは直線距離で1km。その間配置をした陶器の筒の長さは総延長で7kmになる。道になる部分に配管をしているので、途中で折れ曲がり、全部で3つある仮の洗浄小屋と1つの湯殿棟にも配置をされているからである。

道にも雪が積もり、真っ白だった世界。

湯を流し始め30分も経つとキノコの家周辺の配管をした部分の色が変わった。
配管を流れる湯で積もった雪が解けて土が見え始めたのである。

「うぉー!!雪が積もってるのに土が見えるぞー!!」

領民の声に遠くを目を凝らしてみると確かにずっと先に茶色い部分が見える。
落穂で作ったミノを防寒具で着用している領民の頭にも雪が積もり、人も白くなっているのに茶色い部分が見えるという事は湯が流れている証拠。

「やった!ウェリー!成功だ!」

「ルジー。まだよ。漏水していたらこの雪でももう一度掘って直さなきゃ」

「そうだな…でも、画期的な事だ。これで雪道で彷徨わなくていい。道があると解ればそれだけでも全然違う」


これまでは降り積もった雪を領民が家の周囲だけでなく、善意で雪かきをして道を繋げていた。掘れ込んで両側に雪の壁が出来た部分が道だったのだ。

土の色が見える道を冬季に見た事など無かった。

土の色は時間の経過とともに徐々に延伸していく。
しかし、2時間もすれば色の変わる事は無くなった。

キノコの家からはずっと湯は流され続けているけれど、ウェルシェスとベールジアンのいる最終地点までは水が流れてくることはなかったのだ。

いや、水は流れている。それが湯ではないだけ。
ちょろちょろと出始めた水に手を浸すとピリリと痛みを感じるくらいに冷たかった。
流し続ける事で凍る事はないが、この温度ではとても羊の毛は洗えない。

それに最終地点の周囲の道は白いまま。

「どこまでが湯なのか。確かめてみよう」

ざくざくと雪を踏みしめてウェルシェスとベールジアンは歩いた。


「危ないから…手…」

「手?あぁそうね。雪道には慣れてないから助かりますわ」


――俺が繋ぎたいだけって言うと怒るかな――

そんな事も思いながらもベールジアンは手袋をしてモコモコしていてもウェルシェスと手を繋げることが嬉しくて堪らない。それだけで体は燃え上がるように熱くなり寒さも感じなかった。

歩きながらウェルシェスはふと思いついた。

「ねぇ…陶器の筒を麻布でも包んでみたら保温になるんじゃないかしら。少しは温度が保てると思うの」

「そうだな。でも…見てくれ!ここ!土が見える!」

喋るたびに白い息が立ち上る。ベールジアンは興奮していた。
繋いでいる手をブンブンと前後に揺らした。

結果的に、湯殿にする家の湯は十分すぎる温度があった。そのままでは火傷をしてしまうのでおそらくは60度ほど。

湯殿の次にある家では温度が50度を切るくらいで、更にその次になると人間の体温よりも少し低い。管を通した道が見えるのはこの家までで、その先はもう湯とも呼べない温度になって最終地点では0度より少し高い2、3度。

「使えるのはキノコの家と、湯殿の家、その次までだな」

「そうね。でもその間の漏水はどう?」

見渡してみるが湯が漏れ出して土がべちょべちょになっている個所はなかった。むしろウェルシェスとベールジアンが最初に待っていた最終地点の家の周囲で漏れ出していて、雪がシャーベット状になっていた。氷になってしまうのは時間の問題だろう。

「今日は風も出て来たから、ここまでね。明日は凍っているかも知れないけど土の道が見えない部分は接続部を掘ってその先には流れないようにしましょう」

「でも、あの水だって使い道はあるぞ?洗い物に川に降りなくていいんだ」

「だとしてもよ。漏水をしている以上なんとかしなきゃ。今日はもう仕方がないけど今年は3軒目以降は水を流さないほうがいいわ」

「うん。そうだな。流さないでいよう」


なんでもウェルシェスの言葉には従ってしまうベールジアンをウェルシェスはじぃぃっと見た。

――まさか手を解きたいというのか?!――

「ど、どうした?」

「なんとなく…ルジーには意見はないの?直ぐに撤回しちゃうけど」


ヒクリとベールジアンの頬が動く。


「あ、あぁ~そうだな。なんていうか…こうしろ!って言われると」

「言い方…ごめんなさい。改めるわ」

「改めなくていい。俺は…そう言ってもらった方が動きやすいっていうか…命令に従うって事じゃないんだ。その後に失敗だとして責任を負わせる気もない。ただなんていうか…その方がいいかなって思うんだ」


ベールジアンの本心である。
命令ではなく躾けられる感じが好きなのだが変態ではない。

ウェルシェスはまだベールジアンの牧羊犬のような性格が理解できていなかった。
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