11 / 31
第11話 他にもあった!
しおりを挟む量としては領民が食べる分しか収穫は出来ないけれど、タビュレン子爵領でおそらく一番食べられている穀物。それが壺の中に入っていた。
「ソルガムじゃないの!凄いわルジー!」
「え?凄いって言われても…何が凄いのかさっぱり解らないんだが」
「ソルガムは小麦にアレルギーがある人でも食べられる穀物なの。とっても貴重なのよ」
「アレルギー?あぁ食べると発疹が出たり息がしにくくなるアレ?」
「そうよ!このソルガムはね――」
ウェルシェスにとってみればこのソルガムが普通に食べられている事が驚きだった。
小麦にアレルギーがあると乳製品のアレルギーと同じでほとんどのものが食べられなくなる。このソルガムは「グルテンフリー」と呼ばれている穀物でタカキビやモロコシと呼ばれる事もあるが、タカキビと呼ばれてもキビではないし、モロコシと呼ばれるのでトウモロコシと思われるが、そもそもで種類が違うのである。
聞けば、菌に浸食をされながらも小麦が取り敢えず収穫を出来ていたのと毒キノコが生えていたのは、ソルガムを植えていた土を肥料代わりに小麦畑に撒いていた事が原因だと思われる。
ソルガムは本当に捨てる所のない植物で、実は人間の主食になるし、茎などは腐らせて所謂腐葉土にすれば人間が食せるキノコの培地となり、更にその後に畑に使えばよい土にもなるのだ。
本来の中間作業のキノコの栽培には使っていないからこそ、養分があり過ぎて毒キノコが顔を出してしまったのだろう。
使い方を間違ってしまえば薬も毒になるのと同じだ。
「ソルガムも育てましょう」
「それは良いけど…肝心の種が買えないよ」
「心配しないで。追い出された側妃だけどお金は何とかなるわ。そうね…この件も叔母様に手紙で知らせないと!」
「そんなに凄い事なのか?」
「そりゃそうよ。小麦を使った食材全般がダメな人でも食べられるのよ?何より!不作の年も今後を考えれば間違いなく訪れるわね。人が食べるには問題のあるソルガムでもグルテンフリーだからワンコやニャンコのご飯のツナギにも使えるのよ。余程じゃなかったら買い手は必ずいるって事」
ベールジアンは今まで特に考えた事もなく、誰も買わないけど食べられるし捨てるのは勿体ないと領地で消費してきた貧乏食の代表格である穀物が実は凄い物で、ソルガムという名前もあった事に驚きながらも、目の前で嬉しそうに語るウェルシェスを見て「やはり側妃の仕事をしてると違うな」とちょっぴり寂しい気持ちになった。
勝った負けたではなく、ほんの少しだけ「もしかしたらワンチャンあるかも?」などと考えてしまったけれど、生きる世界が違う、そんな気がしたのだ。
「他には何があるのかしら」
「そうだな。山の斜面を利用してブルーベリーが少し収穫出来るかな。だけどワインなんかにするには量が少ないし、これも領民がジャムなんかにして時々街に売りに行く小遣い稼ぎ程度。他には…春になれば山菜が取れるくらいだな。見ての通り山に囲まれているから春になれば山菜料理をご馳走するよ」
「山菜?何が取れるの?」
「青こごみ…赤こごみ…ふきのとう…それからアマナもあるかな」
「マジ…凄すぎて何も言えないわ」
「言ってる気がする…って何が凄いんだ?」
「山菜って旬の時期に食べるだけじゃなくて、他にも使ってない?咳が出る時とか傷口に塗ったりとか」
「あぁ、してるよ。フキノトウなんかは切り傷とかに葉っぱを使うし、打ち身には根っこを潰して塗ったりするけど?薬師なんかいないし、医者もいないから自分でなんとかするしかないしさ」
「それよ!!薬草なの。きっと他にもあるわ。何がある?」
「何って…えぇっと…」
突然言われても、その時、その時で「あぁ、これが必要」と思って庭を探したり、山に分け入ったりするので直ぐには名前が出てこないベールジアンに、立ち上がったウェルシェスは近寄ってきて肩をユッサユッサと揺する。
「思い出ぁしぃてぇ!!ルジーっ!!」
――不味いっ!やめるんだ!――
揺すられて後ろに行く時は良い。
前に体が揺れた時に、甘くてトロンとしそうないい香りが鼻孔を突く。
――やべぇ…めっちゃ良い香りなんだが――
「思い出すの!思い出した?!他には?!」
――ウェリーの香り―――
おっと不味い。言いかけて手で口を塞いだベールジアンに「思い出したのね?」目をキラキラさせたウェルシェスが至近距離で顔を近づけて来た。
絶体絶命。圧倒的多数の雄の本能に僅かに残る理性が「ダメだ!ベールジアン!」脳内で必死の攻防を繰り広げた。
1,355
お気に入りに追加
1,959
あなたにおすすめの小説
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました
青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。
それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

私の婚約者は誰?
しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ライラは、2歳年上の伯爵令息ケントと婚約していた。
ところが、ケントが失踪(駆け落ち)してしまう。
その情報を聞き、ライラは意識を失ってしまった。
翌日ライラが目覚めるとケントのことはすっかり忘れており、自分の婚約者がケントの父、伯爵だと思っていた。
婚約者との結婚に向けて突き進むライラと、勘違いを正したい両親&伯爵のお話です。

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました
しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。
自分のことも誰のことも覚えていない。
王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。
聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。
なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

愛しているからこそ、彼の望み通り婚約解消をしようと思います【完結済み】
皇 翼
恋愛
「俺は、お前の様な馬鹿な女と結婚などするつもりなどない。だからお前と婚約するのは、表面上だけだ。俺が22になり、王位を継承するその時にお前とは婚約を解消させてもらう。分かったな?」
お見合いの場。二人きりになった瞬間開口一番に言われた言葉がこれだった。
初対面の人間にこんな発言をする人間だ。好きになるわけない……そう思っていたのに、恋とはままならない。共に過ごして、彼の色んな表情を見ている内にいつの間にか私は彼を好きになってしまっていた――。
好き……いや、愛しているからこそ、彼を縛りたくない。だからこのまま潔く消えることで、婚約解消したいと思います。
******
・感想欄は完結してから開きます。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる