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第11話 他にもあった!
しおりを挟む量としては領民が食べる分しか収穫は出来ないけれど、タビュレン子爵領でおそらく一番食べられている穀物。それが壺の中に入っていた。
「ソルガムじゃないの!凄いわルジー!」
「え?凄いって言われても…何が凄いのかさっぱり解らないんだが」
「ソルガムは小麦にアレルギーがある人でも食べられる穀物なの。とっても貴重なのよ」
「アレルギー?あぁ食べると発疹が出たり息がしにくくなるアレ?」
「そうよ!このソルガムはね――」
ウェルシェスにとってみればこのソルガムが普通に食べられている事が驚きだった。
小麦にアレルギーがあると乳製品のアレルギーと同じでほとんどのものが食べられなくなる。このソルガムは「グルテンフリー」と呼ばれている穀物でタカキビやモロコシと呼ばれる事もあるが、タカキビと呼ばれてもキビではないし、モロコシと呼ばれるのでトウモロコシと思われるが、そもそもで種類が違うのである。
聞けば、菌に浸食をされながらも小麦が取り敢えず収穫を出来ていたのと毒キノコが生えていたのは、ソルガムを植えていた土を肥料代わりに小麦畑に撒いていた事が原因だと思われる。
ソルガムは本当に捨てる所のない植物で、実は人間の主食になるし、茎などは腐らせて所謂腐葉土にすれば人間が食せるキノコの培地となり、更にその後に畑に使えばよい土にもなるのだ。
本来の中間作業のキノコの栽培には使っていないからこそ、養分があり過ぎて毒キノコが顔を出してしまったのだろう。
使い方を間違ってしまえば薬も毒になるのと同じだ。
「ソルガムも育てましょう」
「それは良いけど…肝心の種が買えないよ」
「心配しないで。追い出された側妃だけどお金は何とかなるわ。そうね…この件も叔母様に手紙で知らせないと!」
「そんなに凄い事なのか?」
「そりゃそうよ。小麦を使った食材全般がダメな人でも食べられるのよ?何より!不作の年も今後を考えれば間違いなく訪れるわね。人が食べるには問題のあるソルガムでもグルテンフリーだからワンコやニャンコのご飯のツナギにも使えるのよ。余程じゃなかったら買い手は必ずいるって事」
ベールジアンは今まで特に考えた事もなく、誰も買わないけど食べられるし捨てるのは勿体ないと領地で消費してきた貧乏食の代表格である穀物が実は凄い物で、ソルガムという名前もあった事に驚きながらも、目の前で嬉しそうに語るウェルシェスを見て「やはり側妃の仕事をしてると違うな」とちょっぴり寂しい気持ちになった。
勝った負けたではなく、ほんの少しだけ「もしかしたらワンチャンあるかも?」などと考えてしまったけれど、生きる世界が違う、そんな気がしたのだ。
「他には何があるのかしら」
「そうだな。山の斜面を利用してブルーベリーが少し収穫出来るかな。だけどワインなんかにするには量が少ないし、これも領民がジャムなんかにして時々街に売りに行く小遣い稼ぎ程度。他には…春になれば山菜が取れるくらいだな。見ての通り山に囲まれているから春になれば山菜料理をご馳走するよ」
「山菜?何が取れるの?」
「青こごみ…赤こごみ…ふきのとう…それからアマナもあるかな」
「マジ…凄すぎて何も言えないわ」
「言ってる気がする…って何が凄いんだ?」
「山菜って旬の時期に食べるだけじゃなくて、他にも使ってない?咳が出る時とか傷口に塗ったりとか」
「あぁ、してるよ。フキノトウなんかは切り傷とかに葉っぱを使うし、打ち身には根っこを潰して塗ったりするけど?薬師なんかいないし、医者もいないから自分でなんとかするしかないしさ」
「それよ!!薬草なの。きっと他にもあるわ。何がある?」
「何って…えぇっと…」
突然言われても、その時、その時で「あぁ、これが必要」と思って庭を探したり、山に分け入ったりするので直ぐには名前が出てこないベールジアンに、立ち上がったウェルシェスは近寄ってきて肩をユッサユッサと揺する。
「思い出ぁしぃてぇ!!ルジーっ!!」
――不味いっ!やめるんだ!――
揺すられて後ろに行く時は良い。
前に体が揺れた時に、甘くてトロンとしそうないい香りが鼻孔を突く。
――やべぇ…めっちゃ良い香りなんだが――
「思い出すの!思い出した?!他には?!」
――ウェリーの香り―――
おっと不味い。言いかけて手で口を塞いだベールジアンに「思い出したのね?」目をキラキラさせたウェルシェスが至近距離で顔を近づけて来た。
絶体絶命。圧倒的多数の雄の本能に僅かに残る理性が「ダメだ!ベールジアン!」脳内で必死の攻防を繰り広げた。
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