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第29話 おひさしぶりね
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この日に合わせて周辺の6か国は綿密に計画し、国境ギリギリの所までパイプラインも敷設している。
貴族の家にも間者を忍ばせ、利になると判断した貴族には内密に話を持ち掛けてきた。
殆どは新興貴族と揶揄される若い当主のいる低位貴族ばかり。
高位貴族になればなるほど既に資産は持っているため、保身に走り今の立ち位置を現状維持しようとするためうっかりと話を持って行けば国王に知り得た情報を流す恐れもある。
慎重に慎重を期した1年。
ルドヴィカは迎えに来たムスライル国の「自動車」という鉄の箱にティトと乗り込んだ。
原油を精製して出来るガソリンが燃料となって走る自動車は燃料が切れなければほぼ走り続ける。ほぼと言うのは馬にも飼い葉の他に水や蹄鉄の付け替えなどメンテが必要なのと同じでガソリンではなく動力を冷やすための水であったり、円滑にタービンと言う部品などを動かすオイルも必要だった。
「どっちにしてもメンテナンスは必要なのですね」
「えぇ。そうです。ですが運べる荷物の量が格段に変わります。何より疲れを知らないのが自動車ですから」
「そう?でも燃料が切れたら止まっちゃうんだろ?」
「ティト!お口!」
「いいんですよ。子供はこれくらい正直な方が良い。この年から身分だなんだと畏まるようでは大成しません」
「俺は子供じゃない!16歳なんだ」
「ティトっ!!」
「ふふふ。残念。ムスライル国の成人は20歳。16歳はまだ子供だよ」
「ちぇっ!どいつもこいつも!子ども扱いばぁっか!!つまんねぇ」
指先も隠れていなければティトの頬をキュッと抓るのだが、指先も覆われていてそれも出来ない。
恐縮しながらルドヴィカは揺れも結構激しい自動車に揺られて王城の正門をくぐった。
閑散とした王城の中に聊か驚いたが、間者であった従者や使用人が一斉に引き上げればこうもなるだろうとルドヴィカは案内役が先導する部屋で王族を待った。
ルドヴィカの予想で来る確率が一番高いのはジェルマノ。
国王と王妃は一番苦手とするだろうからムスライル国とベトンス王国はジェルマノに任せるだろうと踏んだ。
大失態を犯したミレリーをここに寄越すほど国王も馬鹿ではないと思ったのだが・・・。
――1年も離れたら勘も鈍るのかしら?――
「もう!なんだっての?」
「妃殿下、もうお待ち頂いておりますからお静かに!」
「解ってるわよ。いちいち指図しないで!」
やって来たのはミレリーだった。
一緒にやって来て隣に腰掛けるムスライル国の大使の機嫌が一気に悪くなる最悪の空気。
「余程に我が国を軽く見ているのだろうな」
怒りを含んだ呆れの言葉がミレリーの地獄耳にも聞こえたのだろう。
「なにかと思ったら。神様と結婚する国?まぁいいわ。何でもいいけど、支払いをして欲しいんでしょ?会計院に行けば払って貰えるわよ。大使にまでなって取り立てもしなきゃいけないなんて。神様って何処にいるのかしらね?」
「妃殿下!お止めください!」
「もう。何よ・・・はいはい。判ったわよ。えぇっと隣は奥さんでしょ?会計院で手続きが終わるまでお茶でもご馳走するわ。庭で良い?あぁ~でも顔もヴェールで隠していたらお茶も飲めないわよね」
立ち上がろうとする大使を手で制し、ルドヴィカは小さく頷くと静かに立ち上がり、ヴェールを上にあげてうなじで止めたホックを外し、頭部を隠していた布を取り払った。
「嘘‥‥お義姉様・・・」
「久しぶりねミレリー。先ずはそうね・・・ご出産おめでとう。かしら?」
微笑みも浮かべず無機質な表情で言い放ったルドヴィカにミレリーは従者の制止を振り切り、ルドヴィカの目の前まで歩いてくると、手を大きく振り上げ、勢いをつけて振り下ろした。
ゴシュ‥‥鈍いような鋭いような奇妙な音がした。
「あっ‥‥あっ・・・アギャァァーッ!!」
「気安く触れてんじゃねぇよ。この阿婆擦れ」
「ティト!あなたそんなものを!」
「俺、護衛だから。足に忍ばせた暗器出すより簡単だろう?」
「簡単って・・・」
ミレリーが振り上げた手。勢いよく振ってきたところにティトが短剣を鞘からは抜かずに叩きつけた。
ルドヴィカに届く手前でミレリーの手首はあらぬ方向を向いて、ミレリーは床に転がりのたうち回る。
「ミレリー。貴女、王太子妃になったんでしょう?」
ミレリーに聞こえているかは判らない。それでもルドヴィカは声を掛けた。
従者がミレリーの手をグルグルと包帯で巻く間もミレリーの獣のような叫び声は止む事が無い。
やっと少し落ち着きを取り戻したが、同時に国王に呼ばれ城にやって来たジェルマノが騒ぎを聞きつけて部屋に飛び込んできた。
貴族の家にも間者を忍ばせ、利になると判断した貴族には内密に話を持ち掛けてきた。
殆どは新興貴族と揶揄される若い当主のいる低位貴族ばかり。
高位貴族になればなるほど既に資産は持っているため、保身に走り今の立ち位置を現状維持しようとするためうっかりと話を持って行けば国王に知り得た情報を流す恐れもある。
慎重に慎重を期した1年。
ルドヴィカは迎えに来たムスライル国の「自動車」という鉄の箱にティトと乗り込んだ。
原油を精製して出来るガソリンが燃料となって走る自動車は燃料が切れなければほぼ走り続ける。ほぼと言うのは馬にも飼い葉の他に水や蹄鉄の付け替えなどメンテが必要なのと同じでガソリンではなく動力を冷やすための水であったり、円滑にタービンと言う部品などを動かすオイルも必要だった。
「どっちにしてもメンテナンスは必要なのですね」
「えぇ。そうです。ですが運べる荷物の量が格段に変わります。何より疲れを知らないのが自動車ですから」
「そう?でも燃料が切れたら止まっちゃうんだろ?」
「ティト!お口!」
「いいんですよ。子供はこれくらい正直な方が良い。この年から身分だなんだと畏まるようでは大成しません」
「俺は子供じゃない!16歳なんだ」
「ティトっ!!」
「ふふふ。残念。ムスライル国の成人は20歳。16歳はまだ子供だよ」
「ちぇっ!どいつもこいつも!子ども扱いばぁっか!!つまんねぇ」
指先も隠れていなければティトの頬をキュッと抓るのだが、指先も覆われていてそれも出来ない。
恐縮しながらルドヴィカは揺れも結構激しい自動車に揺られて王城の正門をくぐった。
閑散とした王城の中に聊か驚いたが、間者であった従者や使用人が一斉に引き上げればこうもなるだろうとルドヴィカは案内役が先導する部屋で王族を待った。
ルドヴィカの予想で来る確率が一番高いのはジェルマノ。
国王と王妃は一番苦手とするだろうからムスライル国とベトンス王国はジェルマノに任せるだろうと踏んだ。
大失態を犯したミレリーをここに寄越すほど国王も馬鹿ではないと思ったのだが・・・。
――1年も離れたら勘も鈍るのかしら?――
「もう!なんだっての?」
「妃殿下、もうお待ち頂いておりますからお静かに!」
「解ってるわよ。いちいち指図しないで!」
やって来たのはミレリーだった。
一緒にやって来て隣に腰掛けるムスライル国の大使の機嫌が一気に悪くなる最悪の空気。
「余程に我が国を軽く見ているのだろうな」
怒りを含んだ呆れの言葉がミレリーの地獄耳にも聞こえたのだろう。
「なにかと思ったら。神様と結婚する国?まぁいいわ。何でもいいけど、支払いをして欲しいんでしょ?会計院に行けば払って貰えるわよ。大使にまでなって取り立てもしなきゃいけないなんて。神様って何処にいるのかしらね?」
「妃殿下!お止めください!」
「もう。何よ・・・はいはい。判ったわよ。えぇっと隣は奥さんでしょ?会計院で手続きが終わるまでお茶でもご馳走するわ。庭で良い?あぁ~でも顔もヴェールで隠していたらお茶も飲めないわよね」
立ち上がろうとする大使を手で制し、ルドヴィカは小さく頷くと静かに立ち上がり、ヴェールを上にあげてうなじで止めたホックを外し、頭部を隠していた布を取り払った。
「嘘‥‥お義姉様・・・」
「久しぶりねミレリー。先ずはそうね・・・ご出産おめでとう。かしら?」
微笑みも浮かべず無機質な表情で言い放ったルドヴィカにミレリーは従者の制止を振り切り、ルドヴィカの目の前まで歩いてくると、手を大きく振り上げ、勢いをつけて振り下ろした。
ゴシュ‥‥鈍いような鋭いような奇妙な音がした。
「あっ‥‥あっ・・・アギャァァーッ!!」
「気安く触れてんじゃねぇよ。この阿婆擦れ」
「ティト!あなたそんなものを!」
「俺、護衛だから。足に忍ばせた暗器出すより簡単だろう?」
「簡単って・・・」
ミレリーが振り上げた手。勢いよく振ってきたところにティトが短剣を鞘からは抜かずに叩きつけた。
ルドヴィカに届く手前でミレリーの手首はあらぬ方向を向いて、ミレリーは床に転がりのたうち回る。
「ミレリー。貴女、王太子妃になったんでしょう?」
ミレリーに聞こえているかは判らない。それでもルドヴィカは声を掛けた。
従者がミレリーの手をグルグルと包帯で巻く間もミレリーの獣のような叫び声は止む事が無い。
やっと少し落ち着きを取り戻したが、同時に国王に呼ばれ城にやって来たジェルマノが騒ぎを聞きつけて部屋に飛び込んできた。
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