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第27話 閑散とした朝
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王宮で働く者全てが間者ではない。だからこそ、何時も通りに遅刻も無く出仕してきた使用人はあまりにも閑散とした城内に戸惑った。
「ねぇ…侍女頭がまだ来てないんだけど」
「深夜番は?」
「それが・・・仮眠を取って起きたらみんないなかったって。時間だからって帰ったわ」
「引継ぎも無しに?あり得ないわ」
「だってその子は見習いだったし」
「え?班長とかもいない訳?見習だけで深夜番をしたの?」
「ううん。違う。勤務についた時は全員揃ってたそうなんだけど」
そんな侍女やメイドが控えている控室に呼び鈴の音が響く。
国王や王妃、ミレリーが起床したのに洗面係や着替えを担当する者が来ないので催促をしているのだ。
「行くのは良いんだけど・・・どうするの?」
メイドが指を指したのは、誰もいない厨房。食事は毒を盛られる可能性があるため全員がそれなりの経歴を持った調理人ばかりだったのだが、1人もいないので城全体が寒さも感じる。
朝もはやくからパンを焼いたり、スープなど朝食を作るので竈に火を入れる。その温かさが今日は全く無いのだ。
二の腕を手で撫でながら寒さを誤魔化し侍女やメイドは国王たちの部屋に散っていった。
「え?朝食が無い?どういう事なの?」
「それが・・・私達もさっぱり。引継ぎをしようにも深夜番がいなかったんです」
本来なら掃除係のメイドなので洗面桶の中身は湯ではなく水。
手順も判らないので、その辺にある昨夜湯殿で使ったと思われるタオルで王妃の顔を拭くメイド。
国王も何処に何があるか解らない洗い専門の洗濯メイドなのでクローゼットから適当に取り出した衣類を着せられて上下が全く合わない色合いの服を着せられる。
ミレリーの部屋は腹をすかせたエルヴィノが愚図り、泣き喚くので「どうにかしなさいよ!」ミレリーが叫ぶがミレリーの着替えが終わらねばエルヴィノを宥める者もいない。
唯一城にはいなかったジェルマノも困惑していた。
毎朝、生まれたままの姿でニコレッタと目覚めていたのに屋敷の中に人の気配がない。
1人で服を着た事が無いジェルマノは裸のままで全ての部屋の扉を開けて「人」を探したのだが無機質で返事を返さない調度品などはあっても人間は皆無。
「さて、これはいったい?」
と考えるが、昨夜脱いだはずの服も見当たらず。見つけた所でどうやって身に纏えばいいのかも判らない。
寝惚けているのかも知れないとバスタブに飛び込んで、秒で飛び出た。
ジェルマノはバスタブにあるのは「湯」としか思っていなかったが湯かと思えば水だった。換気のために窓が開けられていて、必要以上に冷えた水の中に飛び込んでしまい、慌てて竈の前に走ったが竈には火が入っていない。
ガタガタと震えながら唯一温もりがあるのは寝台だけ。
さっきまで寝ていた寝具に包まって暖を取るのがやっとだった。
いつもと違う朝でも予定が入っていれば予定通りに来客は訪れる。
その日はルドヴィカが結んだ条約が期限を迎える。
時計の針が日付を跨げば切れるのではなく、午前10時にはその期限が来る。
その時間までに更新をするか見直しをしてもう一度条約を結ぶかをせねば、一旦切れてしまうと白紙と同じ。
ベトンス王国の大使は話し合いがある事を見越して一般にも開城される午前8時半には会議室に通されて国王を待っていた。
国王も大使が来て既に待っている事は知らされたが、どうにもならない。
条約を更新するには「王太子妃ルドヴィカ」が必要でここにはいないのだから更新はあり得なかった。
それよりもどんどん暴走の傾向を見せるミレリーを何とかせねば本当に先が無い。
「どうして今日は従者の数が少ないのだ」
「それが‥出仕予定の執事8人のうち7人、従者11人のうち9人は出仕しておらず・・・官舎にも出向いたのですが不在で・・・連絡が無いので休日の予定だった者に声を掛けてはいますが休日だからか昨夜から何処かに出掛けたか、こちらも捕まらないのです」
「休日の者は仕方ないが・・・残った者で誰かジェルマノに大使と面会するよう伝えてくれ」
「殿下ですか?殿下は昨夜も不在だったと聞いております」
「あ~そうだな。郊外にキャリ伯爵家という家があったのだがそこを買い取ったと聞く。誰か迎えに行ってやってくれ」
しかし、従者は困り顔だけを国王に返した。
「どうしたのだ?」
「いえ、待っているのはベトンス王国の大使だけではなくムスライム国、ヴァルツ王国、メッサーラ王国、オロンソ王国、フェルマ王国のそれぞれの大使もでして・・・」
自国を除いて大陸にある6つの国全ての大使が揃って国王を待っていると言う。
「何故だ?何かあったのか?」
「昨日が支払い日だったとの事で・・・ヴァルツ王国に至っては期日は1週間前。未だに支払いがされていないと言うのです」
「なんだと?会計院は何をしているんだ」
「それが・・・陛下からも殿下からも清算決済の書類は受け取っていないと。合算した金額は直ぐに解りますが、支払いは個々の事業ごとですので、その書類を今から作る事になれば1週間はかかるかと」
「何を言ってる。そんな書類は見た記憶がないぞ」
従者は国王を冷めた目で見る。内容を精査するのは従者で国王はチラッとみて印を押すだけ。見た記憶がないだけではなく、何を決済したかも覚えてはいないだろうと。
「どっちにしてもだ。品だけを買うだけ買って払いはしないとなれば今後の交易にも関わる。判った。急いで支度をする。兎に角ジェルマノも大至急連れてくるんだ。妃もだ。この際仕方がない。ミレリーも呼んで来い」
この時に国王はミレリーに対応させてはならない国を指示するのを忘れていた。
文官希望をずっと出していて、3カ月前にやっと雇われてスピード出世の従者は過去にミレリーが犯した大失態を知らなかった。
王族が対応をしてくれると思った従者はミレリーの部屋に行き、告げたのだ。
「妃殿下、お手数なのですがムスライル王国の大使の対応をお願いします」
「ねぇ…侍女頭がまだ来てないんだけど」
「深夜番は?」
「それが・・・仮眠を取って起きたらみんないなかったって。時間だからって帰ったわ」
「引継ぎも無しに?あり得ないわ」
「だってその子は見習いだったし」
「え?班長とかもいない訳?見習だけで深夜番をしたの?」
「ううん。違う。勤務についた時は全員揃ってたそうなんだけど」
そんな侍女やメイドが控えている控室に呼び鈴の音が響く。
国王や王妃、ミレリーが起床したのに洗面係や着替えを担当する者が来ないので催促をしているのだ。
「行くのは良いんだけど・・・どうするの?」
メイドが指を指したのは、誰もいない厨房。食事は毒を盛られる可能性があるため全員がそれなりの経歴を持った調理人ばかりだったのだが、1人もいないので城全体が寒さも感じる。
朝もはやくからパンを焼いたり、スープなど朝食を作るので竈に火を入れる。その温かさが今日は全く無いのだ。
二の腕を手で撫でながら寒さを誤魔化し侍女やメイドは国王たちの部屋に散っていった。
「え?朝食が無い?どういう事なの?」
「それが・・・私達もさっぱり。引継ぎをしようにも深夜番がいなかったんです」
本来なら掃除係のメイドなので洗面桶の中身は湯ではなく水。
手順も判らないので、その辺にある昨夜湯殿で使ったと思われるタオルで王妃の顔を拭くメイド。
国王も何処に何があるか解らない洗い専門の洗濯メイドなのでクローゼットから適当に取り出した衣類を着せられて上下が全く合わない色合いの服を着せられる。
ミレリーの部屋は腹をすかせたエルヴィノが愚図り、泣き喚くので「どうにかしなさいよ!」ミレリーが叫ぶがミレリーの着替えが終わらねばエルヴィノを宥める者もいない。
唯一城にはいなかったジェルマノも困惑していた。
毎朝、生まれたままの姿でニコレッタと目覚めていたのに屋敷の中に人の気配がない。
1人で服を着た事が無いジェルマノは裸のままで全ての部屋の扉を開けて「人」を探したのだが無機質で返事を返さない調度品などはあっても人間は皆無。
「さて、これはいったい?」
と考えるが、昨夜脱いだはずの服も見当たらず。見つけた所でどうやって身に纏えばいいのかも判らない。
寝惚けているのかも知れないとバスタブに飛び込んで、秒で飛び出た。
ジェルマノはバスタブにあるのは「湯」としか思っていなかったが湯かと思えば水だった。換気のために窓が開けられていて、必要以上に冷えた水の中に飛び込んでしまい、慌てて竈の前に走ったが竈には火が入っていない。
ガタガタと震えながら唯一温もりがあるのは寝台だけ。
さっきまで寝ていた寝具に包まって暖を取るのがやっとだった。
いつもと違う朝でも予定が入っていれば予定通りに来客は訪れる。
その日はルドヴィカが結んだ条約が期限を迎える。
時計の針が日付を跨げば切れるのではなく、午前10時にはその期限が来る。
その時間までに更新をするか見直しをしてもう一度条約を結ぶかをせねば、一旦切れてしまうと白紙と同じ。
ベトンス王国の大使は話し合いがある事を見越して一般にも開城される午前8時半には会議室に通されて国王を待っていた。
国王も大使が来て既に待っている事は知らされたが、どうにもならない。
条約を更新するには「王太子妃ルドヴィカ」が必要でここにはいないのだから更新はあり得なかった。
それよりもどんどん暴走の傾向を見せるミレリーを何とかせねば本当に先が無い。
「どうして今日は従者の数が少ないのだ」
「それが‥出仕予定の執事8人のうち7人、従者11人のうち9人は出仕しておらず・・・官舎にも出向いたのですが不在で・・・連絡が無いので休日の予定だった者に声を掛けてはいますが休日だからか昨夜から何処かに出掛けたか、こちらも捕まらないのです」
「休日の者は仕方ないが・・・残った者で誰かジェルマノに大使と面会するよう伝えてくれ」
「殿下ですか?殿下は昨夜も不在だったと聞いております」
「あ~そうだな。郊外にキャリ伯爵家という家があったのだがそこを買い取ったと聞く。誰か迎えに行ってやってくれ」
しかし、従者は困り顔だけを国王に返した。
「どうしたのだ?」
「いえ、待っているのはベトンス王国の大使だけではなくムスライム国、ヴァルツ王国、メッサーラ王国、オロンソ王国、フェルマ王国のそれぞれの大使もでして・・・」
自国を除いて大陸にある6つの国全ての大使が揃って国王を待っていると言う。
「何故だ?何かあったのか?」
「昨日が支払い日だったとの事で・・・ヴァルツ王国に至っては期日は1週間前。未だに支払いがされていないと言うのです」
「なんだと?会計院は何をしているんだ」
「それが・・・陛下からも殿下からも清算決済の書類は受け取っていないと。合算した金額は直ぐに解りますが、支払いは個々の事業ごとですので、その書類を今から作る事になれば1週間はかかるかと」
「何を言ってる。そんな書類は見た記憶がないぞ」
従者は国王を冷めた目で見る。内容を精査するのは従者で国王はチラッとみて印を押すだけ。見た記憶がないだけではなく、何を決済したかも覚えてはいないだろうと。
「どっちにしてもだ。品だけを買うだけ買って払いはしないとなれば今後の交易にも関わる。判った。急いで支度をする。兎に角ジェルマノも大至急連れてくるんだ。妃もだ。この際仕方がない。ミレリーも呼んで来い」
この時に国王はミレリーに対応させてはならない国を指示するのを忘れていた。
文官希望をずっと出していて、3カ月前にやっと雇われてスピード出世の従者は過去にミレリーが犯した大失態を知らなかった。
王族が対応をしてくれると思った従者はミレリーの部屋に行き、告げたのだ。
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