紅い砂時計

cyaru

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第22話   小人はいない?

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この回はルドヴィカの視点です(*^-^*)

★~★

新しいものを知る事は大きな刺激になる。
メッサーラ王国では当たり前でも初めて見る「機器」には小人は寓話の世界の登場人物ではなく実際にいたのだろうかと声も出なかった私。

大きさとしては両手で何とか抱えられるかと思う大きさの黒い箱からジャージャーと雑音が混じる中、人の声が聞こえてきた時は足から力が抜けて腰を抜かしてしまった。

「無線機と言うんだよ。さっきの声は聞き取りにくいんだがメッサーラ王国にいる姉上の声だ」
「姉上・・・と申しますと王女殿下?」
「そう。兄上の補佐をしてこの国で言えば宰相のような仕事をしてるんだ」
「女性が?国政に直接的に携わる・・・そ、そうですわね。ベトンス王国でも王妃殿下や王太子妃殿下も積極的に大臣や議員ともやり取りをしておりました」
「性別で仕事の出来る出来ないを判断するのは間違いだと僕は考えている。尤も男にしか出来ない、女にしか出来ない事もあるけれど大抵のことはやろうと思えば出来るんだよ」


国が違えば考え方も違うのは理解が出来るが、私が学んで来た事は何だろうかと考え込む間もない衝撃が次々に襲ってくる。

やっとつかまり立ちが出来るようになったララがこの国。他国はドレスを身に纏ってダンスを踊る・・・くらいの技術力の差は恐ろしさすら感じた。

しかし、子供は好奇心の塊で、理屈から理解しようとする私と違いティトとベルクは1、2回の簡単な説明で「無線機」を使いこなした。

「周波数ってこのダイヤルで変えるんだよね?」
「そうだ。目安の印が入ってるだろう?赤いのはメッサーラの本国、黄色いのは1号鉄塔と言う中継地近くにある駐屯所、青いのは3号で緑は・・・何だったかな?」
「殿下、緑はレベスエト山の麓にある駐屯所です」
「アハハ。そうだった。‥‥だそうだ。ティト。覚えたか?」
「覚えた。でもレベエスト山はここからでも見えるけどかなり遠いよね」
「実際に行こうと思えば遠いな」

全てを理解して使おうとする私と、取り敢えず使ってみて都度解らない所を問うティトとベルク。私が文字を教えたことで2人はたった半年足らずでメッサーラの言葉も覚え2か国語を使えるようになった。

「子供の順応力って凄いよね。ティトは・・・無線機の中身にも興味があるようだけど」
「やはり中に小さな人が入ってるのでしょうか?」
「ふははっ。ルドヴィカさんも面白い事を言うね。もう壊れてしまった物があるから今度見せてあげるよ」


無線機は1台が数億とかなり高価で1台では使えず、2台以上の台数が必要だが天候にも左右されずあっという間に連絡が取りあえる。

未だに早馬を使っているこの国。
モスキー殿下に言わせると「金持ちの道楽」なのだそうだ。

何日もかけて届いた情報はもう数日、下手をすれば数週間前の物なのに有難がって人と馬を疲弊させて届ける。往復で1カ月かかるとすれば書簡1つにどれだけの金を掛けるのか?ということ。

1年で無線機4、5台の金額に匹敵する金を使って使い物にならないかも知れない情報をやり取りするのだからそう思われても仕方がないこと。


「時間が経っているとしてもそれでいいと思えるのは個人の私信だよ。僕も婚約者が送ってくれる手紙だけは無線機に代わって欲しくないと思ってるから」

大使館には大使が駐在しているため、王族がいなければならないなんて事はない。
日が経つにつれて、知らない間にもうこの国は他国によって目に見えない侵略をされていたのだと知る。

哀しい、悔しいという気持ちはなかった。
ダニエレに出会って「自分は間違ってなかった」と思って良いと知ってからは「古い体制」を変えようと手を変え品を変えて挑んだけれどほとんどは無意味な結果に終わった。

ティト達のような貧民窟の底辺で暮らすものに金を掛けるなら夕食の品を増やしたほうが良いと考える王家や貴族に何を言っても届かない。

1年間も大使館に引き籠っていればさぞかし退屈を持て余す・・・なんて事はなく毎日が刺激の連続でもっと時間が欲しいと思えてならなかった。

無線機を使って駐屯所の兵士とメッサーラ語でやり取りをするティトとベルクを見ていると従者が声を掛けて来た。

「殿下、ルドヴィカ様・ベトンス王国の大使が見えられました」
「判った。直ぐに行く」

私が結んだ条約の更新若しくは見直しの期日までもう1カ月を切っている。
ある時払いの催促なしのように「返事は急がなくていい」事を匂わせながらの大使も相当なタヌキと言う事も判った。

そして‥‥。


「なかなかに面白いことになっていますよ。若いと言うのは素晴らしい」
「何か判ったのか?」
「もう女帝と言っていいでしょうね。今や国王と王妃よりも発言力のあるのは王太子妃。先日 ”あと1カ月” と最後通告をしようと王城に出向きましたら、王太子妃が出て来ましてね」


大使の言葉を聞いて私は頭が痛くなった。
ミレリーもこの条約は更新せねば国としてどうにもならなくなると文官たちに説得をされたようで、頓珍漢な発言で大使に「考慮するように」とどちらが優勢なのかまるで解っていない発言をして控えていた文官の顔色を失わせたと言う。


『期日まで1か月?ならその期日をあと半年伸ばして頂けるかしら?』
『それは難しいですな。本国もそのような条件は飲まないと回答するでしょうし』
『話にならないわね。我が国と取引をしたいのならもっと柔軟な考えをして頂きたいわ』
『十分にこちらは譲歩しましたがね?』
『一歩下がったのなら2歩も3歩も同じ。兎に角あなたの国の事情に付き合ってる暇はないの。2人目は悪阻も酷くて今日だって私が無理をしてこの場にいるんだから。それともメッサーラは妊婦に無理をさせて当たり前とでも考えているのかしら』

条約による国の利益はかなり大きい。
現在の関税が更新なしとなって元に戻れば国の歳入は1割近く減る事になる。

一方的に期日を伸ばせと言う理由が天変地異などであれば考慮の余地があるが、妊娠とは。
夫婦が仲良くやっているのは大変結構な事だけれどせめて計画的に物事は行って欲しいものだ。

私は大使に申し訳ないと謝罪をしたのだったが、モスキー殿下はニヤリと笑った。

「無線機と違って2人目の小人はいないはずだけどね」

その言葉にベトンス王国の大使も大笑いを始める。
その意味が解らないほど私はまだ耄碌していないと胸を撫で下ろしたのだった。
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