紅い砂時計

cyaru

文字の大きさ
上 下
3 / 34

第03話   純白のドレス

しおりを挟む
この回は王太子ジェルマノの視点です。

★~★


「どうして?!どうしてお義姉様は出席してくださらないの?!」

国王との話の後、ルドヴィカは馬車に乗り込み早々に王宮を後にした。引き留めようとしたのだが何故か兵士が僕の行く手を遮った。やっと兵士が持ち場に戻った時にはもうルドヴィカは姿が見えなくなっていた。

ルドヴィカは参列しないと告げるとミレリーは僕のシャツを掴んでさめざめと泣く。

「昔からそうだったの。お義姉様はわたくしの事が嫌いなのです」
「好きとか嫌いとかそんな問題ではないんだ」
「どうしてですの?それ以外に理由などないでしょう?」
「王太子である僕の成婚の儀だ。好きだのとくだらない感情よりも優先されるんだ。出席しない事を父上が認めたんだ。その意味くらい解るだろう」
「そんな!なら陛下にもう一度頼んでください!」


何故こんな女を一時でも可愛いと思ってしまったのか。
相手をするのも面倒になり、ミレリーを置いてまた部屋を出るがこの王城の何処にも僕が1人になれる場所などないと気が付く。

今なら判る。ミレリーは嘘を吐いている。
こんな事は考えるまでもなく分かった事だ。

ヴィーは公爵家の者とは家族でありながらも他人。
ミレリーの事を好きか嫌いか、それ以前にヴィーはミレリーの事には関心も無ければ興味もない。

『異母妹が出来たんだって?』
『そのようですわね』
『そのようって…他人事だな』
『他人ですもの』


そもそもで突然「異母妹です」と父親の不貞を目の前にして平常でいられる人間などいない。ヴィーがミレリーに対し何の思いもないのは異母妹である事を認めたのは両親であり自分ではない。

社交界でこの手の噂を他の誰かに「ここだけの話」と広めたり、何の話だろうと聞き耳を立てるのは自分のことではないから出来る事。つまりヴィーにとっても他人事なのだ。

だから僕はヴィーの家族になろうとヴィーに誓った。

なのに・・・。


病床は寂しい場だった。
見舞いに来てくれる者がいなかった訳ではないが、お決まりの言葉を吐いて帰っていく、その繰り返し。

寝ていても執務は出来るのに大事を取って執務も出来ない。
体を動かす事も出来ず、フラストレーションは溜まる一方だった

そんな見舞客の中にキュレック公爵がいた。
ヴィーの近況報告なら従者が都度早馬で知らせてくれる。

キュレック公爵もまたお決まりの言葉を吐いたのだが、1人違った者がいた。それがミレリーだ。
定型文だけを聞かされる毎日に辟易としていれば、どんなつまらない話でも新鮮に思える。ただそれだけだった。

ヴィーの異母妹。それだけでどうしてあんなに足繁く通ってくることが出来たのか。
内通者がいたのだろうがそれも今更の話だ。

あの店がどうの、この菓子がどうの。どこぞの令嬢があぁだこぅだと正直中身のないつまらない話に相槌を打つのも疲れてしまい、少し脅かせばもう来なくなる。そう思って手を出したのだが間違いだった。

つかの間の快楽を吐き出したあと、僕は激しい後悔に見舞われたのだが、知られてはならないという秘匿感は更に強い快楽で僕を支配した。

何より相手がはミレリーだ。そこそこの金を握らせれば身を引く。その程度はヴィーの異母妹なのだから弁えているだろうと思ったのだが、とんだ策士だった。

思うように動けない僕に跨って腰を振るミレリー。
その場を事もあろうか父上と母上に見つかってしまった。
本来なら来るはずのない時間。ミレリーが2人が来るように仕向けた事を知った時は・・・。

その後、ミレリーの懐妊が判った。
良いように扱っているつもりでミレリーは僕を嵌めたのだ。

母上の絶望したような顔は今でも忘れられない。
母上はミレリーのような女を毛嫌いしているのだ。

中身のない、売りが若さだけの女を。


――もう折衝は始まっている頃だろうか――

僕が行けなかったためにヴィーが無理矢理に選ばれて隣国に行って半年。
その頃にはもうミレリーが婚約者となっていて、ヴィーは伯爵家に養女に出された。

本人がいない間にどんどん物事が進んでいく。
嬉々としているのはミレリーだけで使用人も僕を見る目は冷たくまるで木彫り人形に囲まれているようだった。


「ねぇ。結婚式にはこんなドレスがいいんですぅ」

甘えてくるミレリーの腹がどんどん大きくなって嫌悪感を覚えた。
申し訳ないのだが、「子供が動く」と腹に手をあてさせられた時は悍ましい感触に僕は吐き気を覚えた。

僕が距離を置けば置くほどにミレリーは近づいてくる。
執務を行うのに支障が出始めてやっとミレリーの出入りを禁止する事も出来たが、夜は苦痛の日々。


真っ白い純白のウェディングドレスの試着をしたミレリーからは目を背けてしまった。

これがヴィーなら。
飾られたドレスにヴィーを重ねて僕は嗚咽を漏らした。



★~★

2日目は2時間に1話のペースです。

なので次は12時台、そして14時台・・・って感じです。

慌てな~い♪慌てない♪っとルドヴィカが仲間を増やしていく日になります(*^-^*)
なので、起伏は午後に登場するクズがヒートアップ!していくくらいでしょうか(;^_^A
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「君を愛す気はない」と宣言した伯爵が妻への片思いを拗らせるまで ~妻は黄金のお菓子が大好きな商人で、夫は清貧貴族です

朱音ゆうひ
恋愛
アルキメデス商会の会長の娘レジィナは、恩ある青年貴族ウィスベルが婚約破棄される現場に居合わせた。 ウィスベルは、親が借金をつくり自殺して、後を継いだばかり。薄幸の貴公子だ。 「私がお助けしましょう!」 レジィナは颯爽と助けに入り、結果、彼と契約結婚することになった。 別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0596ip/)

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

姉の身代わりで冷酷な若公爵様に嫁ぐことになりましたが、初夜にも来ない彼なのに「このままでは妻に嫌われる……」と私に語りかけてきます。

恋愛
姉の身代わりとして冷酷な獣と蔑称される公爵に嫁いだラシェル。 初夜には顔を出さず、干渉は必要ないと公爵に言われてしまうが、ある晩の日「姿を変えた」ラシェルはばったり酔った彼に遭遇する。 「このままでは、妻に嫌われる……」 本人、目の前にいますけど!?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる

田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。 お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。 「あの、どちら様でしょうか?」 「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」 「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」 溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。 ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

待ち遠しかった卒業パーティー

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アンネットは、暴力を振るう父、母亡き後に父の後妻になった継母からの虐め、嘘をついてアンネットの婚約者である第四王子シューベルを誘惑した異母姉を卒業パーティーを利用して断罪する予定だった。 しかし、その前にアンネットはシューベルから婚約破棄を言い渡された。 それによってシューベルも一緒にパーティーで断罪されるというお話です。

処理中です...