あなたの愛はいつだって真実

cyaru

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第17話  38歳の鼻たれ小僧

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マルムズ子爵家はロッソ家が持つ領地の中では飛び地であり、王都に最も近い位置にある領地の管理を任されている家である。

チッチョが先に到着をしたのだが「湯を浴びたい」と言うだけで何故か全力で活動を始める。

「あ、あの湯があれば…」
「は?聞こえないね」
「だからー!!湯だけで良いんです!」
「は?よく聞こえないね…年かねぇ」
「ババアだからな―――っ!!」
「誰がババアだってんだい!」

都合の悪い事は全て聞こえてしまう地獄耳を持つヴィルフレードの乳母アマニー。
聞こえないねと言いながらもしっかり井戸から湯を汲み上げて湯船に水を張ると火を入れて沸かし始めた。

「ほら」と火吹き棒を手渡される。

「あんた!若いんだからしっかり吹きな!」
「ぁい」
「返事は元気よく ”ハイッ” ヴィルは教えてないのかい?」
「教えてもらっておりますっ!」

チッチョに風呂の湯を沸かさせている間に大量の食事を作り始めてしまった。

「2人なんだけどな…あの子あんまり食べれそうにないし」

明らかに20人分はありそうな食材を調理し始めるのでチッチョは見なかった事にした。

フーフーとチッチョが懸命に火吹き棒で息を吹いているところにテオドロが到着をした。

「どうしたんだい!アンタたち!まさか誘拐したんじゃないだろうね!」
「違いますよ!!拾ったんです!」
「飴玉やパンじゃあるまいし人間が落ちてる訳ないだろう!」
「そうじゃ無く川に浮いてた、いや引っ掛かってたんだよ!」
「は?なら拾ったにならないだろう!」

しかし、テオドロも注意をして運んではきたのだが、レティツィアは真っ青になって全身が痙攣しているのかと思うくらいに震えていた。

「アンタ!まさか湯の中に放り込もうと思ったんじゃないだろうね!」
「そ、そうだけど…温めないといけないと思って」
「バカタレ!こっちに連れておいで。小童!そっちじゃなく暖炉に火を起こしなッ!」

アマニーはテオドロに命じてレティツィアを寝室に運び込むと包んでいた毛布を取り、2人の上着も剥ぎ取った。

「その腰にぶら下げてる剣!!貸しな!」
「え?これを?何するんです?」
「服を脱がせるんだよ」
「あの…寒いって震えてるのに裸にし――」
「黙って言う事を聞きなッ」

しかし剣は明らかに大きすぎて肌を傷つけてしまう。
アマニーは裁縫箱から鋏を取り出すとレティツィアのドレスを切り、テオドロに手伝って貰ってレティツィアの体を拭いた。

「ちゃんと目を閉じてただろうね?薄くあけてたら容赦しないよ」
「あけてません!もう真っ暗しか見えませんって」
「しっかり支えてるんだよ。服を着せるからね」

簡単な寝間着だが、アマニーはレティツィアに寝間着を着せると今度は手にはミトン、足には靴下。首回りにはスカーフ、そして毛糸で編んだ帽子を頭に被せた。

「そんなにしちゃって良いんですか?」
「今は体温をあげる方が先。ほら!暖炉の火。もっとガンガン燃やしな!」

季節はもうすぐ夏。こんな時期に暖炉の火が轟轟と燃え盛る事など無い。あっという間に部屋全体が温かいを通り越してまるで寒冷地にあるサウナになった。

テオドロもチッチョもアマニーも部屋にいるだけで汗が噴き出す。

10分もしないうちにレティツィアの震えは完全に止まったがアマニーはレティツィアの側から離れず、今度は2人に着替えのある場所、タオルや寝具の替えを置いている場所を指示して持って来させた。

「大丈夫ですかね?」
「もうすぐ汗が噴き出すと思うからまた着替えを手伝っておくれ」
「あ、僕手伝うっス」
「アンタは若いからダメ!」
「えぇーっ・・・気持ちは23歳っスよ?4つもサバ読んでるんスよ?」
「若いわ!!」

アマニーの言った通り今度は玉のような汗をかき始めた。
テオドロにまた「目を閉じな!」と手伝わせ、汗を拭きとり着替えをさせた。

「暫くは寝かせてやりな…怪我もしてるから熱を出すかも知れないねぇ。どうするんだい?」
「どうするって言われても…」
「まさかババアとジジイしかいない家に置いていくなんて言うんじゃないだろうね」


テオドロもチッチョもこれから先をどうするかは判断が出来なかった。
混乱をしていたのかも知れないが、だとしても「家名を名乗れば叱られる」など令嬢が言うはずがない。

「閣下に問います。申し訳ないんですが…」

テオドロは一旦チッチョと共に辺境に戻り、ヴィルフレードに判断を仰ぎ再度戻ってくるまで面倒を見てくれないかとアマニーに頼んだ。

「背中の傷もだが、腕の傷もそれなりに深さがあります。緊急なので運びましたが動かすのは数日は止めた方が良いと思うんです」

「そうだねぇ。行って帰って10日かい?」

「10日・・・閣下の回答次第ですがなんとか10日で戻ってきます」

「判った。ヴィルに問うておいで。ただ迎えに来るにしても王都に送るにしても馬車が必要だよ。だいたいご令嬢を芋虫みたいに・・・全く最近の若いもんは!」

「グルグルは僕の案じゃないっス」

「私から見れば一番隊も鼻たれ小僧だよッ!」

77歳のアマニーにすれば38歳のテオドロも年齢の半分に足りてないのだから確かに鼻たれ小僧である。
テオドロとチッチョはアマニーにレティツィアを預け、辺境に向かったのだった。
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