あなたの愛はいつだって真実

cyaru

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第16話  何も思いだせない

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木の下で雨宿りをした3人。テオドロとチッチョは雨が降っているので焚火は出来ず1時間おきに交代で眠った。

「お、気が付いたか。寒くないか?」
「ここは‥‥」
「川べりっス」

確かにそのようだが、聞きたかった返事ではない。
レティツィアは体を起こそうとしたのだが、全身に激痛が走った。そして寒い。兎に角寒かった。

川縁かわべりだからな。待ってろ。毛布取ってくる」

テオドロは簡易テントから這い出ると馬の鞍から厚さがなくシーツかと思うような毛布を持ってきた。包んでもらうと寒さが和らぐ。それでも寒いのには変わりがない。

しかし現状ではそれ以上のことは出来なかった。

「無いよりマシだ。先ずはその乾きも悪そうな服を着替えないとな。家まで送ってやるよ。家は何処だ?」

「家・・・家?」

「あーっと。混乱してるな。聞き方が悪かった。名前を聞こうか。お嬢さんと呼んでもいいが名前の方が良いだろう?」

「テオドロ隊長。おっさんに名前聞かれても恐怖しかないっス」

テオドロは細い目になったが、プイっと拗ねてそっぽを向いた。

「名前・・・レティツィア…です」
「レティちゃんね。えぇっと。見た所、着てるモノがかなり良いんだけど姓は解るかな?」
「クラン・・・です。でも・・・家の名前は名乗ると叱られるので」
<< 叱られる?! >>


テオドロとチッチョは「不味い」と同じ事を思った。
レティツィアは暴漢に襲われて川に落ちたのだろうと思ったのだが、よくよく考えてみるとこれくらい上質な布を使った衣服を着ている女性となれば間違いなく貴族だろうと思われた。

その上で「姓を名乗ると叱られる」となると家を放逐された可能性が高い。
そんな所に「救護しました」と連れて行けばテオドロとチッチョが帰った後にどうなるか判らない。

家から放り出された後、暴漢に襲われた。実際の事情は分からなくても大抵のものはそう考えるだろう。

しかし、レティツィアはさらに2人を驚かせる言葉を発した。

「なんだか・・・何も思いだせない・・・」

<< フェッ?! >>

「判らないんです…名前はレティツィア・クラン。でも・・・それ以外が解らないんです」

テオドロはチッチョの腕を掴み小声で囁いた。

「記憶喪失ってやつ?」
「それなら自分の名前も解らないんじゃないっスか?」
「それもそうだな」

このままでは良くない。意識は戻ってもレティツィアは「寒い」とガタガタ震えている。寝転がっているシートの直ぐ下は土なので体温もなかなか戻らない。

悩んだ挙句2人はレティツィアに少し我慢をしてもらい、10kmほど先にあるロッソ家が休憩所としている子爵家に向かう事に決めた。

問題はその子爵家は主であるヴィルフレードの乳母の生家。
兎に角世話焼きなので立ち寄るとのだ。

昔の人なので遠慮なんかをしてしまうと「まだ足らない?!」と倍になる。
と言われるヴィルフレードですら仔猫になってしまう。

50歳でも大往生と言われるのに77歳となっても現役で鍬を振って畑を耕しているし、あれもこれもとしたがる。痒いところに手が届き過ぎる。

「兎に角食べて寝ろ」が信条なので一旦立ち寄ると大量の食事が出てくる。2泊3日の滞在で人間なら4kg、馬だって7kgほど体重が増えてしまう。

「取り敢えずは行くしかないだろう。チッチョは先に言って湯の準備を頼んでくれ」
「了解ッス」

そうと決まれば取り敢えず簡易テントを片付ける。設営も早かったが撤収も早い。
5分とかからずチッチョは馬に跨ると「2番隊!チッチョ、行ッきまァす!」と馬に鞭を入れた。

地面から泥と水飛沫をあげてチッチョが先に出た後、テオドロはレティツィアを包んだ毛布の端を縛り、先ずは下向けにレティツィアを馬に引っかけるようにして乗せると、テオドロも馬に飛び乗る。

馬の背の上でレティツィアを抱き起し、胸と腰を2カ所ロープでレティツィアと自分の体を縛る。

「揺れるかも知れないが少しの間我慢してくれよ?」
「は…はい…」
「寒いだろ。くっついてるからちょっとは温かいと思うが…行くぞ!」


川縁かわべりには葦が茂っていて運よく引っ掛かるように流れ着いたレティツィアは「助かった」と思いながらも名前以外の記憶に靄がかかったように思い出せない事にも寒さとは別に震えた。

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