あなたの愛はいつだって真実

cyaru

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第13話  遅れた待ち合わせ

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待ち合わせ場所に向かう馬車でもレティツィアの気持ちはどこか曇ったまま。

これまで顔を合わせれば嫌味しか言われた事もなく、頭を押さえつけられて床を舐めろと言われた事もある相手に浮き立つ心で会いに行くような気持ちは持ち合わせていなかった。

花の宴は国内3大宴と言われる1つ。この他に太陽の宴と水の宴がある。
花の宴だけが唯一平民も参加できる宴でこの時ばかりは日常よりも無礼講が認められる。

と言っても、犯罪になるような無礼講ではなく格下の者から話しかけてもいいし、日頃は声を掛ける事すら躊躇う貴族令嬢に平民の男性が玉砕覚悟の求婚もあったりする。

街中に近づくにつれ人が多くなってくる。

馬車を停められる場所も今日ばかりは限られていて御者はようやく1台分の空きを見つけてそこに馬車を寄せた。

しかし、高い位置にある御者席から見る限りバークレイの姿は見えない。

――こんな所に若奥様を1人にしていいのかな――

バークレイが来るまで付いていてやりたいのはやまやまだが、長く停車させる事も出来ない。ゆっくりとステップ台を設置し、扉を開けた。

「若奥様、ゆっくり。ゆっくりでいいですので」
「ありがとう。凄い人出ね。早く馬車も移動させないといけないわ」

それは御者も解っている。
待ち合わせの時間まではあと5分。いつもなら「あと5分しかない!」と思う事が多いのに今は「とても5分は待てない」そう思うくらい時間がゆっくりと流れている気がした。


「待ち合わせのお時間まではあと5分ほどですので、私はこれで」
「ありがとう」
「帰りはどうされますか?旦那様からはお聞きしていないのですが」
「そうね。わたくしも聞いていないの」


レティツィアが貰った伝言が掛かれた紙には、場所、日時しか書かれていなかった。これから何処に行くのか、帰りはどうするのか。バークレイでないと解らない。

「おーい!早く場所を開けてくれないか!」

来た道を見ると数台の馬車が主を下車させる事が出来るスペースの空きを待っている。

「どうにかして帰るようにするわ。バークレイ様もそこはお考えがあると思うの。構わないわ。行って」
「承知しました。では・・・お気をつけて」

乗って来た馬車が動き出すと待ちかねたと次の馬車が停車してくる。

レティツィアは指定の場所に行き、周囲を見渡した。後ろを振り返れば時刻を知らせる時計台がある。
ちらちらと振り返りながらバークレイを待つのだが、一向にバークレイらしき男性は現れない。

約束の時間から15分過ぎた時「もうこれ以上は待てないわね」と感じた。

今日は花の宴の日。お相手のいない未婚男性は同様に相手がいない未婚女性も街に繰り出すので1人でいる異性に
手当たり次第に声を掛ける者も居るし、本気で相手を探して物色している者も居る。


★その頃、バークレイ 始★

王宮からセカンドハウスに戻った時、約束の時間まではあと30分を切っていた。
例年ならもっと早くに終わるのだが、今日の花の宴に合わせて第1王子アルマンドの立太子の儀が執り行われた。バークレイの予定では2時間は余裕があったはずだがそんな余裕はもう無かった。

本宅まで戻っていたら間違いなく間に合わない。今日の為にレティツィアが着ていくであろうドレスの色に合わせて新調した服で行くはずだったがそんな事を考えている余裕もない。
急いで燕尾服から着替え、セカンドハウスを出た時、残り時間はもう10分も無かった。

セカンドハウスから待ち合わせ場所まで馬を飛ばしても10分はかかる。今日は人でごった返しているので騎乗しての乗り入れできる範囲も制限されている。バークレイは行ける所まで騎乗し、そこから走った。
しかし、馬を降りた時点でもう待ち合わせの時間は過ぎてしまっていた。

走る途中で気が付いた。
今日は花の宴の日。十分に解っていたのに花を買っていなかった。

花屋に寄ろうにも人ごみを掻き分けていたら更に遅れてしまう。
そんなバークレイの目についたのは売れ残った花をどうするかと話している花売りだった。
近寄ってみれば、所どころ花びらが無くなっている花もあるが使えなくもない。

――急いで走って来たから途中で花びらが落ちたと言えばいいだろう――

売り物にならないと花売りが言うので無料で手に入れるのも悪いとポケットにあった銀貨1枚を手渡し、待ち合わせ場所に再度加速をつけて走ったのだった。

★その頃、バークレイ 終★


待ち合わせ場所に到着すると辻馬車でも拾おうとしているのかレティツィアがキョロキョロとしていた。その近くには花を手に男性が4、5人レティツィアとの距離を詰めていた。

息を整え、ちゃんと手渡すつもりだったのだが勢いがついた花束はバサっと音を立ててレティツィアの肩にあたった。

レティツィアもいきなりだったので驚いた表情をしたがバークレイだと解ると少し怪訝な顔をして礼を述べた。

「ありがとうございます」
「なんだ?折角花をやるってのに嬉しくはないのか」
「申し訳ございません・・そのような訳ではないのです」

バークレイは心の中で「こんな言い方をしたかったんじゃないのに」と後悔するが口に出してしまった以上引っ込みはつかなかった。

花束を抱き直して花を覗き込むレティツィアを見ると胸がツキンツキンと軽い痛みを覚えた。

「ま、まぁ…似合ってるんじゃないか?」
「そうですか。ありがとうございます。屋敷に戻ったら侍女に生けてもらいますわね」

指先で花びらをツンと突くレティツィアを正面から見る事が出来なかった。
顔が異常なくらいに熱を持って吐く息も熱く感じる。

だが、この後も予定があった。本当ならゆっくりとこの場所から歩いてウィンドウショッピングでもしながらたわいもない話で話しかけて・・・と考えていたが遅れてしまった事でそんな余裕もなかった。

「早速だが人を待たせてるんだ。急ごう」

この先に待つのはきっとレティツィアも久しぶりに顔を見て喜ぶであろうゲルハ伯爵家の元執事だ。バークレイはレティツィアをいざない先を急いだ。
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