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第07-1話 夫と夫の恋人、そして義両親②-①
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ハーベル公爵家での生活はとても窮屈なものだった。
「何かお手伝いする事は御座いませんか?」
夫のバークレイはまだ家督を継いではおらず、義父となった公爵に問うてみるが「ゆっくりしてくれ」と言うだけで仕事は与えられない。
「私も茶会のお手伝いを致します」
義母となった公爵夫人が友人を招いて茶会を開くと聞いたので、ホストとして何か手伝えないかと問うてみれば「部屋でゆっくりして」と遠回しに部屋から出ないでくれと言われる。
そして肝心の夫、バークレイは・・・と言えば。
「きゃはは。やだもう・・・また?昨夜から何回目なの?」
「フロルが魅力的なのがいけないんだよ」
部屋に入らなくても、開け放たれた窓から昼も夜も関係なく寝台の上で体を重ねる恋人の声が聞こえてくる。
フローラとはボッラク伯爵家の令嬢でバークレイとの付き合いが長い恋人だった。
社交場には出して貰えなかったレティツィアでもこの2人が「真実の愛」を具現化したのだという話は誰からとなく聞いて知っていた。
公爵家と伯爵家。嫁いでも問題はないのだがフローラの家であるボッラク伯爵家は手広く事業をしていてそれなりの資産家。
領地が災害に見舞われるまでは関係を黙認していたが、公爵家と繋がりを今更強めた所で得る利益もない。それよりも新興貴族の中にはいち早く海の向こうの大陸と交易を始めた家もあり、フローラをそちらに嫁がせた方が家にとっても利益になる。
幸いにも新興貴族は「成金貴族」とも言われている元は平民。
貞操観念については平民の感覚なので妊娠してしまったり連れ子さえいなければ十分に射程圏内だった。
目をつけていた新興貴族が買い付けで3年間大陸に渡航中。そろそろ手を切らせないといけないが遊べるのも未婚の間だけだとボッラク伯爵も大目に見ていた。
バークレイは堂々とフローラを屋敷に呼び、部屋も与えただけでなく専属の侍女までつけていた。
フローラが我が物顔で使っている部屋は本来ならレティツィアが使用する部屋。
フローラの髪を梳くのも身支度を整える役をするのもレティツィアの侍女。
「あの子にはあの子で考えがあるの。判ってあげて?男っていつまでも子供みたいな所があるの。嫌がらせに見えるかも知れないけれど、根はいい子なの」
何の冗談なのだろうか。
侯爵夫妻でも我が子をここまで持ち上げたりはしなかったがところ変われば品変わると言ったところかと返答に困るレティツィアを公爵夫人は「ここが貴女の部屋よ」と案内をしてくれた。
そこは客間の中でも「招かれざる客」を宿泊させる部屋。日当たりも悪く、窓枠の外側には「趣があるでしょう?」と義母の公爵夫人は言ったが、苔がビッシリ。
――趣ね。確かに見ようによってはそうよね――
物は言いようで角が立つとはよく言ったもので、最大限にポジティブな意味合いを持つと伝えれば悪いイメージも薄まってくれる。
そんな部屋には外鍵が付いていてレティツィアの在室中は解錠される事はない。バークレイとフローラの逢瀬を見て以来レティツィアは自由に行動する事も出来なくなった。
手紙を出す相手もいないが、レティツィアに宛てられた手紙はもれなく開封されて手元に届く。教会の礼拝をおこなう旨を認めた手紙も公爵夫妻が内容を確認し、問題ないと判断しなければ発送もされなかった。
ハーベル公爵家としては肥沃な領地を持ち安定した収入のあるクラン侯爵家との縁を持てたのは不幸中の幸い。正直言ってレティツィアを望んだ時「喪中だから」と断られるかと思っていた。
それだけ経済的にもう後がない状況だったので背に腹は代えられず申し込んだ婚約、そして結婚。
その他にパイプは幾つかあった方が良いと資産家であるボッラク伯爵家にも目をつけていた。
だからこそ、クラン侯爵家のレティツィアは都合が良かった。
母親が侯爵の愛人なのだから、夫が愛人を持ち1つ屋根の下と敷地内と区別があっても同居する事に理解があって当然だと考えていた。
「何かお手伝いする事は御座いませんか?」
夫のバークレイはまだ家督を継いではおらず、義父となった公爵に問うてみるが「ゆっくりしてくれ」と言うだけで仕事は与えられない。
「私も茶会のお手伝いを致します」
義母となった公爵夫人が友人を招いて茶会を開くと聞いたので、ホストとして何か手伝えないかと問うてみれば「部屋でゆっくりして」と遠回しに部屋から出ないでくれと言われる。
そして肝心の夫、バークレイは・・・と言えば。
「きゃはは。やだもう・・・また?昨夜から何回目なの?」
「フロルが魅力的なのがいけないんだよ」
部屋に入らなくても、開け放たれた窓から昼も夜も関係なく寝台の上で体を重ねる恋人の声が聞こえてくる。
フローラとはボッラク伯爵家の令嬢でバークレイとの付き合いが長い恋人だった。
社交場には出して貰えなかったレティツィアでもこの2人が「真実の愛」を具現化したのだという話は誰からとなく聞いて知っていた。
公爵家と伯爵家。嫁いでも問題はないのだがフローラの家であるボッラク伯爵家は手広く事業をしていてそれなりの資産家。
領地が災害に見舞われるまでは関係を黙認していたが、公爵家と繋がりを今更強めた所で得る利益もない。それよりも新興貴族の中にはいち早く海の向こうの大陸と交易を始めた家もあり、フローラをそちらに嫁がせた方が家にとっても利益になる。
幸いにも新興貴族は「成金貴族」とも言われている元は平民。
貞操観念については平民の感覚なので妊娠してしまったり連れ子さえいなければ十分に射程圏内だった。
目をつけていた新興貴族が買い付けで3年間大陸に渡航中。そろそろ手を切らせないといけないが遊べるのも未婚の間だけだとボッラク伯爵も大目に見ていた。
バークレイは堂々とフローラを屋敷に呼び、部屋も与えただけでなく専属の侍女までつけていた。
フローラが我が物顔で使っている部屋は本来ならレティツィアが使用する部屋。
フローラの髪を梳くのも身支度を整える役をするのもレティツィアの侍女。
「あの子にはあの子で考えがあるの。判ってあげて?男っていつまでも子供みたいな所があるの。嫌がらせに見えるかも知れないけれど、根はいい子なの」
何の冗談なのだろうか。
侯爵夫妻でも我が子をここまで持ち上げたりはしなかったがところ変われば品変わると言ったところかと返答に困るレティツィアを公爵夫人は「ここが貴女の部屋よ」と案内をしてくれた。
そこは客間の中でも「招かれざる客」を宿泊させる部屋。日当たりも悪く、窓枠の外側には「趣があるでしょう?」と義母の公爵夫人は言ったが、苔がビッシリ。
――趣ね。確かに見ようによってはそうよね――
物は言いようで角が立つとはよく言ったもので、最大限にポジティブな意味合いを持つと伝えれば悪いイメージも薄まってくれる。
そんな部屋には外鍵が付いていてレティツィアの在室中は解錠される事はない。バークレイとフローラの逢瀬を見て以来レティツィアは自由に行動する事も出来なくなった。
手紙を出す相手もいないが、レティツィアに宛てられた手紙はもれなく開封されて手元に届く。教会の礼拝をおこなう旨を認めた手紙も公爵夫妻が内容を確認し、問題ないと判断しなければ発送もされなかった。
ハーベル公爵家としては肥沃な領地を持ち安定した収入のあるクラン侯爵家との縁を持てたのは不幸中の幸い。正直言ってレティツィアを望んだ時「喪中だから」と断られるかと思っていた。
それだけ経済的にもう後がない状況だったので背に腹は代えられず申し込んだ婚約、そして結婚。
その他にパイプは幾つかあった方が良いと資産家であるボッラク伯爵家にも目をつけていた。
だからこそ、クラン侯爵家のレティツィアは都合が良かった。
母親が侯爵の愛人なのだから、夫が愛人を持ち1つ屋根の下と敷地内と区別があっても同居する事に理解があって当然だと考えていた。
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