あなたの愛はいつだって真実

cyaru

文字の大きさ
上 下
3 / 32

第03話  過去のレティツィア④-②★婚約

しおりを挟む
運が良いのか悪いのか。
レティツィアには6歳の時に婚約者が出来た。

婚約者となった男性はゲルハ伯爵。

婚約した時、レティツィアは6歳。
ゲルハ伯爵は47歳だった。

婚約をする年齢に制限はなくても結婚は男女とも17歳の日を迎えてからとなっていたため、10年以上の婚約期間となった。


年齢差は有るものの、このような縁談は珍しい事でもく一般的だった。

現国王がまだ即位も立太子もする以前から剣術の指導を行い、引退する時は専属であり筆頭の護衛騎士を務めたゲルハ伯爵は王家からの信頼も非常に厚く、繋がりが持てれば王家と侯爵家の関係もより密になる。そんな魂胆のある婚約だった。


変わった事と言えば通常は宿泊をするような事はあまりないのだがレティツィアはほぼ生活の拠点をゲルハ伯爵家に置いているような生活形態になった。

婚約者と言えど伯爵家に住まわせることは出来ないが、数日の宿泊なら可能。
ゲルハ伯爵は3日泊まらせ、1日返すとまた3日宿泊。ほぼ同居に等しいような宿泊をさせた。

当然理由がある。

6歳の子供なので大人の、しかも祖父といってもいいくらいの男性を目の前にして怯えるのは当然だろうと暫くは「良き保護者」であろうと接してきた。

婚約を結んで3か月目。
オドオドしていたレティツィアもゲルハ伯爵を「おじさま」と呼んで笑顔を向けてくれるようになった。

なので、もう一歩踏み込んで幼い婚約者にウサギの人形をプレゼントしようと考えた。

「おじさまっ!うさぎさん。ありがとう!」
「次は何がいいかな?クマさん?リスさんかな?」
「ううん。わたくし、この子だけでいいっ!」

ぬいぐるみどころか、母親から何も贈られた経験が無いレティツィア。
他の異母兄弟姉妹が大人から贈り物を貰っている事を知っていて、それがとても羨ましかったが母親に言えばもらえるのは躾用の鞭か平手。とても言い出せなかった。


ゲルハ伯爵家に呼ばれた時だけは、パンを千切る時にパラパラとパンくずが落ちても殴られないし、カトラリーの音をさせたら食事を取り上げられる事もない。

朝も「洗い物は済んだのか」と母親に蹴り起こされる事もなく昼前まで寝てしまっても怒られない。

ゲルハ伯爵は幼いレティツィアをとことん甘やかしてくれた。

だから初めて貰ったウサギのぬいぐるみに「ラビ」と名をつけてそれはそれは喜んだ。

外に出れば貴族の子供には誘拐の危険がある上に、庶子のレティツィアに護衛をつけて金を払うのを嫌がった侯爵は外出を禁止していた。

異母兄弟姉妹も母親の違う者同士が仲良くすることを侯爵は許さなかったので、レティツィアには年齢の近しい友人と呼べる人間もいなかった。

ウサギのぬいぐるみは初めての友達だったので、とても嬉しかったのだが、初めて貰ったレティツィアはぬいぐるみの扱い方が解らなかった。

出された茶をぬいぐるみに飲ませようとして溢してしまった。

「どうしよう。ごめんなさい!ごめんなさい!」

ゲルハ伯爵は驚いた。
レティツィアの謝り方は6歳の子供にしては異常だった。
顔色は真っ青、唇を震わせ、その場にしゃがみ込んで手で頭を覆い泣きながら謝るのだ。

「いいんだよ。溢したっていいんだ。先ずは着替えよう。いいね?」
「ごめんなさい!もう汚しません!ごめんなさい!」
「レティ。良いんだよ。さぁ、マーサと着替えておいで?」

剣一筋で結婚どころか子供もいないゲルハ伯爵は使用人に知恵を借りた。

伯爵家の侍女頭であるマーサにはレティツィアと年齢が同じくらいの孫がいるため、この年齢の子供は走り回って服を汚すのが当たり前と言われ、汚す事はないだろうと思いつつもレティツィア用に服も揃えていた。

着替えを待つゲルハ伯爵の元に従者がやって来て「見てくれ」と耳打ちをする。

まだ結婚をする前だ。
6歳とは言え女性の裸を見るのは忍びなかったが、連れて行かれた先でレティツィアを見たゲルハ伯爵は声を失った。

レティツィアの小さな体は服で見えない部分にのみ、赤や青、紫になった暴行の痕が色を残していて、背中やお尻には火傷の痕まであったのだ。

「なんて事を・・・この事は侯爵は知っているのか?」
「存じないと思われます。滅多に顔も見せないそうですから」

レティツィアが庶子であるがゆえに、本宅のように使用人に囲まれた生活でない事は知っていたゲルハ伯爵は直ぐにでも保護しようと考えたが、世間は世知辛い。

苦情を言っても侯爵家と伯爵家なら爵位の高い方が優遇され、暴行はないものとされるし、なにより婚約者と言えど服で見えない部分の体にある痕跡を知っていると言えば教会の教えに背いたとこの婚約は無くなってしまう。

この傷が原因で婚約が無くなったとなればさらに酷い折檻を受けるのは考えるまでもない。

許されている範囲の中で2,3日の宿泊が許されていたのでレティツィアをほぼ同居と言って過言ではない頻度で宿泊をさせるしかなかった。


レティツィアとゲルハ伯爵との関係は良好だった。

何れは妻になるけれどゲルハ伯爵は孫娘のようなレティツィアを可愛がってくれたし、最低限の衣食住しか与えてくれない父、気分で強弱があるだけの折檻を与える母親とは違ってレティツィアに貴族令嬢がすべき教育を与えてくれた。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

処理中です...