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第01話 アゴランが拾った
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ボーン子爵家はロマネ王国建国当時から繊維業を生業とする貴族。
細々と商売をするため売り上げから諸経費を引いて職人たちへ賃金を払えば残るか残らないかの利益。黒字と赤字を行ったり来たりするどっちかと言えば貧乏貴族だった。
家族構成は、養父ロムニー(子爵)、養母シルキー、2人の実子で兄アゴラン、そしてへリンの4人家族。へリンは捨て子でアゴランが14歳の時に友人と出掛けた釣りの帰りに拾ってきた。
当時は大陸で一番大きな領土を持つ先進国の帝国で、所得の少ない平民や低位貴族にも住宅を長期ローンで買えますよ~と不動産バブルが弾けたリメーンショックが周辺国にも影響を及ぼした大不況から持ち直しつつあった頃。
大不況の真っただ中では、その日に食べる物にも困窮した者が毎日のように夜逃げをしていて、郊外の林道には子供が捨てられる事件が多発。教会も支援に乗り出したけれど少ない日で3人、多い日では10人以上が連日運び込まれ、どこも満員御礼。
養子にどうですか?と声を掛けても誰もが食べる事に精一杯で養子を迎えるなんてとても出来なかった。
貧乏だったボーン子爵家は相変わらず貧乏だったけれど生業としているのが繊維業。
人間が生活をするのに最低限必要な「衣食住」の「衣」に携わっていた事もあるし、無駄に手を広げずに細々と経営をしていたので、あまり変わらない生活を送っていた。
爵位が子爵という事もあってかキラキラした世界とは無縁だったのも幸いしただろう。
数年経ち、捨て子も「まだそんな事をする人がいるのね!」と言われるようになっていたのだが・・・。
アゴランが拾ってきた赤子を見て子爵夫人シルキーは言った。
「食い扶持が1人増えたってさして変わらないわ」
養母シルキーはアゴランを産んで以来、2人目が欲しかったけれど流産を繰り返し3年前にはもう子供は諦めた方が良いと産婆に言われ、アゴランが拾ってきた子に「これも縁よ!」と養子に迎える事にしたのだ。
心無い者は何処にでも生息をしている。
ボーン子爵夫妻は、いつかへリンが事実を知る時が来る。
それが悪意ある者の言葉であってはならないとへリンが物事を理解し始めた5、6歳の時に【捨て子】であった事と【養子縁組】で家族になった事を都度話して聞かせた。
「とう様とかあ様じゃない??んん??」
「父さんと母さん。それは変わらないよ。でもへリンには私達ではない父さんと母さんもいる」
「誰なの?」
「それは父さんにも母さんにも判らない。だけどへリンが父さんと母さんの可愛い娘である事は変わらないよ」
「父さんと母さんが変わらない??」
「まだ難しいかな。でも負い目に感じる事は無いんだよ」
「おーめ?」
幼いへリンに両親の言葉の意味は最初は解らなかったが、年齢が上がるにつれて自身が「捨て子」だった事もへリンは理解をした。
ただ、書面上の事であり、貧乏だからと幼いうちからこき使われる事は無かったし、年の離れた兄のアゴランと差を感じるのは年齢くらい。
お客さん扱いされる事も、遠慮をされる事もなかった。
叱られる時は一緒だったし褒められるのも一緒。食事だって一緒。
養父母と言っても実の両親との違いに悩むくらいの愛情を受けてへリンは成長したのだった。
細々と商売をするため売り上げから諸経費を引いて職人たちへ賃金を払えば残るか残らないかの利益。黒字と赤字を行ったり来たりするどっちかと言えば貧乏貴族だった。
家族構成は、養父ロムニー(子爵)、養母シルキー、2人の実子で兄アゴラン、そしてへリンの4人家族。へリンは捨て子でアゴランが14歳の時に友人と出掛けた釣りの帰りに拾ってきた。
当時は大陸で一番大きな領土を持つ先進国の帝国で、所得の少ない平民や低位貴族にも住宅を長期ローンで買えますよ~と不動産バブルが弾けたリメーンショックが周辺国にも影響を及ぼした大不況から持ち直しつつあった頃。
大不況の真っただ中では、その日に食べる物にも困窮した者が毎日のように夜逃げをしていて、郊外の林道には子供が捨てられる事件が多発。教会も支援に乗り出したけれど少ない日で3人、多い日では10人以上が連日運び込まれ、どこも満員御礼。
養子にどうですか?と声を掛けても誰もが食べる事に精一杯で養子を迎えるなんてとても出来なかった。
貧乏だったボーン子爵家は相変わらず貧乏だったけれど生業としているのが繊維業。
人間が生活をするのに最低限必要な「衣食住」の「衣」に携わっていた事もあるし、無駄に手を広げずに細々と経営をしていたので、あまり変わらない生活を送っていた。
爵位が子爵という事もあってかキラキラした世界とは無縁だったのも幸いしただろう。
数年経ち、捨て子も「まだそんな事をする人がいるのね!」と言われるようになっていたのだが・・・。
アゴランが拾ってきた赤子を見て子爵夫人シルキーは言った。
「食い扶持が1人増えたってさして変わらないわ」
養母シルキーはアゴランを産んで以来、2人目が欲しかったけれど流産を繰り返し3年前にはもう子供は諦めた方が良いと産婆に言われ、アゴランが拾ってきた子に「これも縁よ!」と養子に迎える事にしたのだ。
心無い者は何処にでも生息をしている。
ボーン子爵夫妻は、いつかへリンが事実を知る時が来る。
それが悪意ある者の言葉であってはならないとへリンが物事を理解し始めた5、6歳の時に【捨て子】であった事と【養子縁組】で家族になった事を都度話して聞かせた。
「とう様とかあ様じゃない??んん??」
「父さんと母さん。それは変わらないよ。でもへリンには私達ではない父さんと母さんもいる」
「誰なの?」
「それは父さんにも母さんにも判らない。だけどへリンが父さんと母さんの可愛い娘である事は変わらないよ」
「父さんと母さんが変わらない??」
「まだ難しいかな。でも負い目に感じる事は無いんだよ」
「おーめ?」
幼いへリンに両親の言葉の意味は最初は解らなかったが、年齢が上がるにつれて自身が「捨て子」だった事もへリンは理解をした。
ただ、書面上の事であり、貧乏だからと幼いうちからこき使われる事は無かったし、年の離れた兄のアゴランと差を感じるのは年齢くらい。
お客さん扱いされる事も、遠慮をされる事もなかった。
叱られる時は一緒だったし褒められるのも一緒。食事だって一緒。
養父母と言っても実の両親との違いに悩むくらいの愛情を受けてへリンは成長したのだった。
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