30 / 32
第30話 ポメル王国へ出立
しおりを挟む
「困った事があれば…アガトン家に家令がいるから頼って欲しい。手紙は出しておく」
まだ帰国は出来ないライネルはポメル王国まで乗り換え、乗り換えでトラックでの移動になるが出立するエスラト男爵一家を見送るために初めて仕事を休み、やって来ていた。
「ありがとう。ポメル王国に行ったら…星空の見えるスポットに連れて行ってください」
「そうだな。うん。約束するよ」
小指で指切りをする後ろから「出発しますよ~早く乗り込んでくださーい」係員の声がする。
「じゃ、行ってきます」
「うん。気を付けて」
「ふふっ。トラックに揺られるだけなので」
シェイナは敷物にすると痛みが軽減すると言われて買ったクッションをギュッと抱いた。
トラックに揺られながらシェイナは色々と思い出していた。
ライネルに「それは関係がない」と言われ、全てを一緒に考えて混乱していたが1つ1つを分解して考えた。確かにどれも繋がっているのだが、相互関係を考えるからこそ混乱してしまった。
大事なのは自分がどうしたいか。
ライネルはチャールズとやり直すのも出来ない事ではないと言ったが、シェイナが出した結論は「NO」出来ないという結論だった。
見てしまったもの、起きてしまった事は変える事は出来ず、忘れる事も出来ない。
RE:スタートをしたとしても間違いなくシェイナは今のチャールズと過去のチャールズを比べてしまうと思った。
婚約者だった時も何度も思ったのだ。ソバカスだらけの自分よりも可愛い令嬢は沢山いる。家の事があってチャールズを「見るだけ」と目の保養にする令嬢もいたが、「私の婚約者なのに」と嫉妬もした。
その嫉妬が小さなもので済んだのはチャールズが裏切っていた事実を知らなかったから。その前提が崩れた時、どんなに謝られても、誠実な対応をされても以前のように純粋に信じる事は出来ないと思い至った。
少しの心残りはあったけれど、それは「好き」とか恋愛感情ではなくチャールズを好きだった自分自身への「情」ではないかと感じた。
確かに楽しかったのだ。何も知らずに笑っていられた頃はチャールズの全てが許せたし、自分ならなんとかできるかも?と根拠のない自信もあった。
――愚かだったけど、それも含めて私なのよね――
反省もした。
チャールズにキツい言葉で、全てを否定してしまったこと。
もう好きでも何でもないが、1人の人間としての自分を否定されたようでカっとなってしまった。
ライネルの事もシェイナの中では1つの区切りが出来た。
年齢差にして11歳。年も離れていて少し影もある。そんなライネルに惹かれてしまったけれど、両親と共にポメル王国に行くのを区切りとしてライネルへの気持ちにも区切りをした。
国に残る事も出来た。
ケインだけでなく、国王陛下や王太子殿下からも家に詫び状は届いたし、悪評についても国王が自ら発言した事で収まっていくのも時間の問題。
だが、両親は予見していたのだ。事実を知った時に人々がどんな対応をしてくるか。
掌を返したように、笑顔で何事もなく話しかけてくる人たちはシェイナには滑稽に見えた。
だからライネルと距離を置こうと考えたのだ。
ずっと近くに居れば、今度は両親が側にいないのでライネルに甘えてしまう。
チャールズのように自分本位にライネルの事を考えてしまいそうになる自分が怖った。
ガタゴトと力強く多くの人間と荷物を載せたトラックはポメル王国に近づいていく。
何台目になるか。トラックを乗り換えて5日目。
ポメルの街が見えた時、乗客が身を乗り出してその街並みを見た。
峠からは広い街がよく見えて郊外へと延びる線路にトラック以上の煙を吐き出して真っ直ぐに進む汽車が見えた。
街の中にも線路があり、こちらは路面電車という近距離用の鉄道が走っていて、まるで違う世界に来たようだった。
トラックを降りると、ごった返す人の中に二度見、三度見しそうになる美しい女性と、2,3歳児だろうか。ピンクのフリルが沢山ついたワンピースを着た女児を抱く男性がエスラト男爵に声をかけて来た。
その女性こそ、ライネルのかつての妻ビオレッタと夫アキレス、その子供だった。
まだ帰国は出来ないライネルはポメル王国まで乗り換え、乗り換えでトラックでの移動になるが出立するエスラト男爵一家を見送るために初めて仕事を休み、やって来ていた。
「ありがとう。ポメル王国に行ったら…星空の見えるスポットに連れて行ってください」
「そうだな。うん。約束するよ」
小指で指切りをする後ろから「出発しますよ~早く乗り込んでくださーい」係員の声がする。
「じゃ、行ってきます」
「うん。気を付けて」
「ふふっ。トラックに揺られるだけなので」
シェイナは敷物にすると痛みが軽減すると言われて買ったクッションをギュッと抱いた。
トラックに揺られながらシェイナは色々と思い出していた。
ライネルに「それは関係がない」と言われ、全てを一緒に考えて混乱していたが1つ1つを分解して考えた。確かにどれも繋がっているのだが、相互関係を考えるからこそ混乱してしまった。
大事なのは自分がどうしたいか。
ライネルはチャールズとやり直すのも出来ない事ではないと言ったが、シェイナが出した結論は「NO」出来ないという結論だった。
見てしまったもの、起きてしまった事は変える事は出来ず、忘れる事も出来ない。
RE:スタートをしたとしても間違いなくシェイナは今のチャールズと過去のチャールズを比べてしまうと思った。
婚約者だった時も何度も思ったのだ。ソバカスだらけの自分よりも可愛い令嬢は沢山いる。家の事があってチャールズを「見るだけ」と目の保養にする令嬢もいたが、「私の婚約者なのに」と嫉妬もした。
その嫉妬が小さなもので済んだのはチャールズが裏切っていた事実を知らなかったから。その前提が崩れた時、どんなに謝られても、誠実な対応をされても以前のように純粋に信じる事は出来ないと思い至った。
少しの心残りはあったけれど、それは「好き」とか恋愛感情ではなくチャールズを好きだった自分自身への「情」ではないかと感じた。
確かに楽しかったのだ。何も知らずに笑っていられた頃はチャールズの全てが許せたし、自分ならなんとかできるかも?と根拠のない自信もあった。
――愚かだったけど、それも含めて私なのよね――
反省もした。
チャールズにキツい言葉で、全てを否定してしまったこと。
もう好きでも何でもないが、1人の人間としての自分を否定されたようでカっとなってしまった。
ライネルの事もシェイナの中では1つの区切りが出来た。
年齢差にして11歳。年も離れていて少し影もある。そんなライネルに惹かれてしまったけれど、両親と共にポメル王国に行くのを区切りとしてライネルへの気持ちにも区切りをした。
国に残る事も出来た。
ケインだけでなく、国王陛下や王太子殿下からも家に詫び状は届いたし、悪評についても国王が自ら発言した事で収まっていくのも時間の問題。
だが、両親は予見していたのだ。事実を知った時に人々がどんな対応をしてくるか。
掌を返したように、笑顔で何事もなく話しかけてくる人たちはシェイナには滑稽に見えた。
だからライネルと距離を置こうと考えたのだ。
ずっと近くに居れば、今度は両親が側にいないのでライネルに甘えてしまう。
チャールズのように自分本位にライネルの事を考えてしまいそうになる自分が怖った。
ガタゴトと力強く多くの人間と荷物を載せたトラックはポメル王国に近づいていく。
何台目になるか。トラックを乗り換えて5日目。
ポメルの街が見えた時、乗客が身を乗り出してその街並みを見た。
峠からは広い街がよく見えて郊外へと延びる線路にトラック以上の煙を吐き出して真っ直ぐに進む汽車が見えた。
街の中にも線路があり、こちらは路面電車という近距離用の鉄道が走っていて、まるで違う世界に来たようだった。
トラックを降りると、ごった返す人の中に二度見、三度見しそうになる美しい女性と、2,3歳児だろうか。ピンクのフリルが沢山ついたワンピースを着た女児を抱く男性がエスラト男爵に声をかけて来た。
その女性こそ、ライネルのかつての妻ビオレッタと夫アキレス、その子供だった。
205
お気に入りに追加
1,610
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
出生の秘密は墓場まで
しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。
だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。
ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。
3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
侍女から第2夫人、そして……
しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。
翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。
ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。
一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。
正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。
セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる