あなたが1から始める2度目の恋

cyaru

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第30話  ポメル王国へ出立

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「困った事があれば…アガトン家に家令がいるから頼って欲しい。手紙は出しておく」

まだ帰国は出来ないライネルはポメル王国まで乗り換え、乗り換えでトラックでの移動になるが出立するエスラト男爵一家を見送るために初めて仕事を休み、やって来ていた。

「ありがとう。ポメル王国に行ったら…星空の見えるスポットに連れて行ってください」
「そうだな。うん。約束するよ」

小指で指切りをする後ろから「出発しますよ~早く乗り込んでくださーい」係員の声がする。

「じゃ、行ってきます」
「うん。気を付けて」
「ふふっ。トラックに揺られるだけなので」

シェイナは敷物にすると痛みが軽減すると言われて買ったクッションをギュッと抱いた。

トラックに揺られながらシェイナは色々と思い出していた。


ライネルに「それは関係がない」と言われ、全てを一緒に考えて混乱していたが1つ1つを分解して考えた。確かにどれも繋がっているのだが、相互関係を考えるからこそ混乱してしまった。

大事なのは自分がどうしたいか。

ライネルはチャールズとやり直すのも出来ない事ではないと言ったが、シェイナが出した結論は「NO」出来ないという結論だった。

見てしまったもの、起きてしまった事は変える事は出来ず、忘れる事も出来ない。

RE:スタートをしたとしても間違いなくシェイナは今のチャールズと過去のチャールズを比べてしまうと思った。

婚約者だった時も何度も思ったのだ。ソバカスだらけの自分よりも可愛い令嬢は沢山いる。家の事があってチャールズを「見るだけ」と目の保養にする令嬢もいたが、「私の婚約者なのに」と嫉妬もした。

その嫉妬が小さなもので済んだのはチャールズが裏切っていた事実を知らなかったから。その前提が崩れた時、どんなに謝られても、誠実な対応をされても以前のように純粋に信じる事は出来ないと思い至った。

少しの心残りはあったけれど、それは「好き」とか恋愛感情ではなくチャールズを好きだった自分自身への「情」ではないかと感じた。

確かに楽しかったのだ。何も知らずに笑っていられた頃はチャールズの全てが許せたし、自分ならなんとかできるかも?と根拠のない自信もあった。

――愚かだったけど、それも含めて私なのよね――

反省もした。
チャールズにキツい言葉で、全てを否定してしまったこと。
もう好きでも何でもないが、1人の人間としての自分を否定されたようでカっとなってしまった。

ライネルの事もシェイナの中では1つの区切りが出来た。
年齢差にして11歳。年も離れていて少し影もある。そんなライネルに惹かれてしまったけれど、両親と共にポメル王国に行くのを区切りとしてライネルへの気持ちにも区切りをした。

国に残る事も出来た。
ケインだけでなく、国王陛下や王太子殿下からも家に詫び状は届いたし、悪評についても国王が自ら発言した事で収まっていくのも時間の問題。

だが、両親は予見していたのだ。事実を知った時に人々がどんな対応をしてくるか。
掌を返したように、笑顔で何事もなく話しかけてくる人たちはシェイナには滑稽に見えた。

だからライネルと距離を置こうと考えたのだ。
ずっと近くに居れば、今度は両親が側にいないのでライネルに甘えてしまう。
チャールズのように自分本位にライネルの事を考えてしまいそうになる自分が怖った。


ガタゴトと力強く多くの人間と荷物を載せたトラックはポメル王国に近づいていく。
何台目になるか。トラックを乗り換えて5日目。

ポメルの街が見えた時、乗客が身を乗り出してその街並みを見た。
峠からは広い街がよく見えて郊外へと延びる線路にトラック以上の煙を吐き出して真っ直ぐに進む汽車が見えた。

街の中にも線路があり、こちらは路面電車という近距離用の鉄道が走っていて、まるで違う世界に来たようだった。


トラックを降りると、ごった返す人の中に二度見、三度見しそうになる美しい女性と、2,3歳児だろうか。ピンクのフリルが沢山ついたワンピースを着た女児を抱く男性がエスラト男爵に声をかけて来た。

その女性こそ、ライネルのかつての妻ビオレッタと夫アキレス、その子供だった。
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