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第25話 マウント合戦
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公衆の面前で求婚をすればシェイナは断る事が出来ない。そう考えての事だったが父親の乱入で失敗した。
チャールズも少なからずシェイナの性格は知っている。
強く言えば断れない。そして「そうだ、そうだ!」と周囲が同調する事には「あれ?そうだっけ?」と思っていても合わせる事が正解と考えてしまって承諾や同意をする。
「邪魔さえ入らなかったら!シェイナと結ばれてあの部屋で一緒に暮らせたのに!」
チャールズは良い勤め先は確保した。
週に1度か10日に1度。バルサード夫人と1夜を共にすれば2週間は遊んで暮らせる金が手に入る。
月に3回ないし、4回。シェイナを部屋に1人にしてしまう事になるが、世の中の夫婦には夜勤のある夫を持つ妻もいる。シェイナに何の不自由もなく養ってやれるはずだったのだ。
渡す事の出来なかった誕生日の贈り物は父に没収されて金に変わった。
『返せよ!俺のだ!』
『子供にはまだ早い。迷惑料として一部に補填しといてやる』
『何が迷惑料だ!なら俺に払え!どれだけ俺が迷惑をしてると思ってるんだ』
『ガキが吠えるな。親がいなければ生きて来れなかった癖に。ちょっとは親孝行というものをしたらどうだ?こんなものが買えるなんて余程いいカモでもいるんだろう?子供はな?親に世話になった分だけ成長したら恩を返すものだ。折角見た目だけは良く作ってやったんだから身の程を弁えろ』
部屋に軟禁されている以上、父親に反抗したところで自由はない。
チャールズはその日を待つことにして、大人しく部屋で過ごしていた。
★~★
「えらく機嫌がいいな…親父に何かあったのか?」
「そうでしょうか。わたくし共にはいつもと変わりなく。とお見受けされますが」
食事のトレーを回収に来た執事が小さな小窓を開けた時に聞こえて来た父親の声は弾んでいた。短い会話だけを交わして執事は空になったトレーを受け取ると小さな窓を閉めた。
チャールズは父親に拘束されて屋敷に連れ戻されてからは、前回の部屋にまた押し込まれた。
部屋から出して貰えなかったが、食事は陽に3度。食べようが食べまいが与えられた。
最初は反抗心から「餓死してやる」と3日は飲み食いをしなかったけれど、考えを変えた。
部屋の中で道具を使わずとも出来る運動をしながら、出された食事はきっちり食べる。
食事の載せられたトレーしか部屋の外と行き来できる穴はなく、出して貰うためには大人しくしているしかなかった。
大人しく出来たのには理由もある。
ビヴァリーとの結婚話は立ち消えになった。
シェイナの家、エスラト男爵家との慰謝料で揉めているのと並行し、ビヴァリーの家であるスレム子爵家とはチャールズとビヴァリーの結婚話が進んでいたが暗礁に乗り上げていた。
逃げ出す前に父親はチャールズに何度も苛立ちをぶつけていた。
考えていたよりもスレム家には金がなく、出し渋っているというのだ。
「エスラト男爵家ほど金を融資してくれるわけがないだろう」
チャールズは父を「馬鹿なんだな。今更気付いたのか」と心で蔑んだ。
スレム家はビヴァリーがどうしようもないだけで、貴族の家としては比較的まともだった。家督を継ぐビヴァリーの兄も父親も世渡りは上手かった。
だからこそケインの家であるハッセル伯爵家と婚約まで行えた。
失敗だったのはビヴァリーが考えていたより、貪欲だっただけ。
世渡りは上手くても娘のしつけ方は下手だったということだ。
ガネル家と共に調停で争っているスレム家の目的は、ハッセル伯爵家からの婚約破棄、そして慰謝料から逃げる事は出来ないが、対外的に「エスラト男爵家の仕業」と世間に印象付けて被害者を装うため。
いくらかでもエスラト男爵家から慰謝料が貰えることが出来れば御の字。
但し、それはハッセル伯爵家との破談より先に纏まっておかねばならない。
「被害者だったんだな」と確定されるのと「被害者かも知れない」との憶測では雲泥の差があるからである。
調停の行方がどうなろうとスレム家はガネル家との縁を望んでいない。
誰だって寄生虫を飼いたくはないからである。ビヴァリーを嫁がせて金を毟り取られるより調停は調停と割り切ったほうがスレム家には得策。
調停が長引く事にスレム家は何度も文句を言ってきた。
自分はゴネて調停を無駄に引っ張っているのに、自分がやいのやいのと言われるのは我慢できなかったガネル男爵はキレた。
「あんな家、こっちからお断りだ!」
憤慨するガネル男爵を見て、ビヴァリーとの話が無くなった事にチャールズは胸を撫でおろした事だった。
そのビヴァリーはチャールズが再度部屋に閉じ込められて直ぐの頃に、執事から行く末を聞かされた。
執事の話によれば、ビヴァリーは表向き修道院に放り込まれた…となっているが、トレーを受け取る際にポツリとチャールズに向かって呟いた。
「ベトンス夫人が素材を手に入れたそうですよ。今度の作品は石膏像だそうです」
ベトンス夫人は一言で言えば狂気の芸術家だが、その作品が世に出る事はない。
「美しいものはより美しく」とベトンス夫人自らが手を加えるのだが芸術とは繊細な作業の連続。気に入らないと直ぐに破壊してしまうからである。
「芸術って儚いの。破壊もまた芸術と思える日が来るかしら?」が口癖。
わざわざ執事がチャールズに告げた意味。
――馬鹿が。そんな事で俺が地団太踏んで悔しがると思ったか?――
ガネル男爵の子飼いでもある執事はチャールズがビヴァリーに傾倒しているとでも思っているのか、ビヴァリーの末路を聞かせる事でマウントを取ったつもりの執事。
小窓からは手元しか見えないが、扉の向こうの執事の顔は勝ち誇って歪んでいるだろうと思うと、チャールズこそそんな執事に向かって「馬鹿め」とほくそ笑んだ。
チャールズも少なからずシェイナの性格は知っている。
強く言えば断れない。そして「そうだ、そうだ!」と周囲が同調する事には「あれ?そうだっけ?」と思っていても合わせる事が正解と考えてしまって承諾や同意をする。
「邪魔さえ入らなかったら!シェイナと結ばれてあの部屋で一緒に暮らせたのに!」
チャールズは良い勤め先は確保した。
週に1度か10日に1度。バルサード夫人と1夜を共にすれば2週間は遊んで暮らせる金が手に入る。
月に3回ないし、4回。シェイナを部屋に1人にしてしまう事になるが、世の中の夫婦には夜勤のある夫を持つ妻もいる。シェイナに何の不自由もなく養ってやれるはずだったのだ。
渡す事の出来なかった誕生日の贈り物は父に没収されて金に変わった。
『返せよ!俺のだ!』
『子供にはまだ早い。迷惑料として一部に補填しといてやる』
『何が迷惑料だ!なら俺に払え!どれだけ俺が迷惑をしてると思ってるんだ』
『ガキが吠えるな。親がいなければ生きて来れなかった癖に。ちょっとは親孝行というものをしたらどうだ?こんなものが買えるなんて余程いいカモでもいるんだろう?子供はな?親に世話になった分だけ成長したら恩を返すものだ。折角見た目だけは良く作ってやったんだから身の程を弁えろ』
部屋に軟禁されている以上、父親に反抗したところで自由はない。
チャールズはその日を待つことにして、大人しく部屋で過ごしていた。
★~★
「えらく機嫌がいいな…親父に何かあったのか?」
「そうでしょうか。わたくし共にはいつもと変わりなく。とお見受けされますが」
食事のトレーを回収に来た執事が小さな小窓を開けた時に聞こえて来た父親の声は弾んでいた。短い会話だけを交わして執事は空になったトレーを受け取ると小さな窓を閉めた。
チャールズは父親に拘束されて屋敷に連れ戻されてからは、前回の部屋にまた押し込まれた。
部屋から出して貰えなかったが、食事は陽に3度。食べようが食べまいが与えられた。
最初は反抗心から「餓死してやる」と3日は飲み食いをしなかったけれど、考えを変えた。
部屋の中で道具を使わずとも出来る運動をしながら、出された食事はきっちり食べる。
食事の載せられたトレーしか部屋の外と行き来できる穴はなく、出して貰うためには大人しくしているしかなかった。
大人しく出来たのには理由もある。
ビヴァリーとの結婚話は立ち消えになった。
シェイナの家、エスラト男爵家との慰謝料で揉めているのと並行し、ビヴァリーの家であるスレム子爵家とはチャールズとビヴァリーの結婚話が進んでいたが暗礁に乗り上げていた。
逃げ出す前に父親はチャールズに何度も苛立ちをぶつけていた。
考えていたよりもスレム家には金がなく、出し渋っているというのだ。
「エスラト男爵家ほど金を融資してくれるわけがないだろう」
チャールズは父を「馬鹿なんだな。今更気付いたのか」と心で蔑んだ。
スレム家はビヴァリーがどうしようもないだけで、貴族の家としては比較的まともだった。家督を継ぐビヴァリーの兄も父親も世渡りは上手かった。
だからこそケインの家であるハッセル伯爵家と婚約まで行えた。
失敗だったのはビヴァリーが考えていたより、貪欲だっただけ。
世渡りは上手くても娘のしつけ方は下手だったということだ。
ガネル家と共に調停で争っているスレム家の目的は、ハッセル伯爵家からの婚約破棄、そして慰謝料から逃げる事は出来ないが、対外的に「エスラト男爵家の仕業」と世間に印象付けて被害者を装うため。
いくらかでもエスラト男爵家から慰謝料が貰えることが出来れば御の字。
但し、それはハッセル伯爵家との破談より先に纏まっておかねばならない。
「被害者だったんだな」と確定されるのと「被害者かも知れない」との憶測では雲泥の差があるからである。
調停の行方がどうなろうとスレム家はガネル家との縁を望んでいない。
誰だって寄生虫を飼いたくはないからである。ビヴァリーを嫁がせて金を毟り取られるより調停は調停と割り切ったほうがスレム家には得策。
調停が長引く事にスレム家は何度も文句を言ってきた。
自分はゴネて調停を無駄に引っ張っているのに、自分がやいのやいのと言われるのは我慢できなかったガネル男爵はキレた。
「あんな家、こっちからお断りだ!」
憤慨するガネル男爵を見て、ビヴァリーとの話が無くなった事にチャールズは胸を撫でおろした事だった。
そのビヴァリーはチャールズが再度部屋に閉じ込められて直ぐの頃に、執事から行く末を聞かされた。
執事の話によれば、ビヴァリーは表向き修道院に放り込まれた…となっているが、トレーを受け取る際にポツリとチャールズに向かって呟いた。
「ベトンス夫人が素材を手に入れたそうですよ。今度の作品は石膏像だそうです」
ベトンス夫人は一言で言えば狂気の芸術家だが、その作品が世に出る事はない。
「美しいものはより美しく」とベトンス夫人自らが手を加えるのだが芸術とは繊細な作業の連続。気に入らないと直ぐに破壊してしまうからである。
「芸術って儚いの。破壊もまた芸術と思える日が来るかしら?」が口癖。
わざわざ執事がチャールズに告げた意味。
――馬鹿が。そんな事で俺が地団太踏んで悔しがると思ったか?――
ガネル男爵の子飼いでもある執事はチャールズがビヴァリーに傾倒しているとでも思っているのか、ビヴァリーの末路を聞かせる事でマウントを取ったつもりの執事。
小窓からは手元しか見えないが、扉の向こうの執事の顔は勝ち誇って歪んでいるだろうと思うと、チャールズこそそんな執事に向かって「馬鹿め」とほくそ笑んだ。
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