10 / 32
第10話 嫉妬に身を焦がす
しおりを挟む
やっと父親に部屋から出る事を許して貰ったチャールズはげっそりと瘦せ細っていた。
部屋に入れられて68日目の事だった。
暴れる事もなかったので毎日3食の食事は提供されていたのだが、全く手付かずの時も多くハンストかと思われたがそうではなかった。
チャールズは考える時間だけがたっぷりある中で、シェイナへの謝罪と復縁。そしてシェイナとの未来を想像する事で昼も夜も時に寝る事も忘れて時間を過ごしていた。
「湯を浴びて、髭を剃れ。スレム家に行くぞ」
「嫌だ…」
蚊の鳴くような小さな声で答えたチャールズは「は?」と問い直す父に向かって今度は叫んだ。
「嫌だと言ったんだ。誰がビヴァリーなんかと!」
懸命な訴えも鼻で笑われて一蹴される。
「お前にこれが良い、あれが良いという選択肢があるとでも思っているのか?お前にあるのは私に対して服従する義務だけだ。この無駄飯食らいがッ!」
言葉を吐きながら近づいて来た最後には拳もチャールズの頬に飛んで来た。
今までなら踏ん張る事も出来ただろうが、体力も失っているチャールズは壁に向かって吹き飛んだ。
折れた歯を「プッ」と口から吹き出してチャールズはもう一度叫んだ。
「行かねぇつったら行かねぇし!ビヴァリーなんか誰が妻にするかッ!」
倒れ込んだままのチャールズは今度は胸ぐらを掴まれて頭部を激しく揺さぶられた。
「馬鹿か?あぁ馬鹿だからこんな面倒事を起こすんだったな。バカなお前に教えてやろう。妻に迎えずともいいんだ。嫁にすれば良いだけだ!」
「勝手にしろ!俺はシェイナ以外は認めない。離せよ!」
何処にそんな力があったのか。
チャールズは胸ぐらをつかむ父の手首をギリギリと締め上げた。
「俺に指図すんな。アンタがビヴァリーを嫁にすりゃいいだろ!」
「なんだとぅ!親に向かってその言い草はなんだ!!」
「うるせぇんだよ!アンタはアンタで好きにしたらいいだろう!」
チャールズはもう19歳。今は体力も落ちてはいるがそれでも父親の腕力などとっくに上回っている。締め上げた手首を捩じるようにして放り投げると、起き上がり自分の部屋に戻って行った。
行くところがない訳ではない。
ここ暫く顔は見せていないが高齢の未亡人の話し相手や慰め役をしている時に、アパートメントの1室は買ってもらったので塒はある。
ビヴァリーにその部屋を教えなかったのはわざわざ教えるほどではないと思ったし、シェイナと結婚をした後で両親と同居になるのは目に見えていたので、シェイナを夜に啼かせる時にその声も誰にも聞かれたくはなかった。
問題は鍵は持っているのだが、その未亡人とももう3年ほど会っていない。未亡人が財テクの一環、気まぐれで購入したものなので売りに出されたりしていれば他人が住んでいる可能性もある。
鍵など付け替えれば済むのだから。
だとしても他に行くあてもないのも事実。
手早く当面の荷物をカバンに纏めたチャールズは家を飛び出して行った。
★~★
「お、開いたぞ。ラッキー」
持っていた鍵で玄関は開いた。中はといえば時が止まったように最後に出て行った時のまま。それが解ったのは掃除すら誰もしていないので、3年前に部屋を出る前食べた肉串に干からびて元の正体すら想像つかない肉や、包み紙がテーブルの上にそのままあった事だった。
「ネズミすら来なかったのかよ」
閉じ込められていた部屋ほどではないが黴臭いとチャールズは窓をあけて空気を入れ替えた。
その時、3階建ての3階の角部屋になるこの部屋の開け放たれた窓から見えた光景にチャールズは胸が躍った。
眼下に見えるのは教会の敷地。そこではシェイナが子供たちに囲まれて髪にリボンを付けてやっている姿があった。
「シェイナ…あぁ…シェイナだ…」
じわっと目には温かい涙が溢れてしまう。
恋焦がれるとはこういう事なのだろうか。
口元が何か言っているのか動くたびに、何を言ってるのかも聞こえてはこないがチャールズも合わせて口を動かす。
そして自分の唇に手を当てるとシェイナを真似て動く自分の唇に興奮してしまった。
しかし、その興奮で局部が怒張を始めた時、怒りがチャールズを包んだ。
「誰なんだ!その男は!」
シェイナの隣で汗を拭い、シェイナが差し出した水筒から水を飲む男に嫉妬と怒りがこみ上げる。
「クソッ!!」
シェイナがその男に向かって微笑む顔を見た瞬間、チャールズは窓を閉め、「ウガァァーッ」頭を掻き毟りながら床で七転八倒。転げ回った。
部屋に入れられて68日目の事だった。
暴れる事もなかったので毎日3食の食事は提供されていたのだが、全く手付かずの時も多くハンストかと思われたがそうではなかった。
チャールズは考える時間だけがたっぷりある中で、シェイナへの謝罪と復縁。そしてシェイナとの未来を想像する事で昼も夜も時に寝る事も忘れて時間を過ごしていた。
「湯を浴びて、髭を剃れ。スレム家に行くぞ」
「嫌だ…」
蚊の鳴くような小さな声で答えたチャールズは「は?」と問い直す父に向かって今度は叫んだ。
「嫌だと言ったんだ。誰がビヴァリーなんかと!」
懸命な訴えも鼻で笑われて一蹴される。
「お前にこれが良い、あれが良いという選択肢があるとでも思っているのか?お前にあるのは私に対して服従する義務だけだ。この無駄飯食らいがッ!」
言葉を吐きながら近づいて来た最後には拳もチャールズの頬に飛んで来た。
今までなら踏ん張る事も出来ただろうが、体力も失っているチャールズは壁に向かって吹き飛んだ。
折れた歯を「プッ」と口から吹き出してチャールズはもう一度叫んだ。
「行かねぇつったら行かねぇし!ビヴァリーなんか誰が妻にするかッ!」
倒れ込んだままのチャールズは今度は胸ぐらを掴まれて頭部を激しく揺さぶられた。
「馬鹿か?あぁ馬鹿だからこんな面倒事を起こすんだったな。バカなお前に教えてやろう。妻に迎えずともいいんだ。嫁にすれば良いだけだ!」
「勝手にしろ!俺はシェイナ以外は認めない。離せよ!」
何処にそんな力があったのか。
チャールズは胸ぐらをつかむ父の手首をギリギリと締め上げた。
「俺に指図すんな。アンタがビヴァリーを嫁にすりゃいいだろ!」
「なんだとぅ!親に向かってその言い草はなんだ!!」
「うるせぇんだよ!アンタはアンタで好きにしたらいいだろう!」
チャールズはもう19歳。今は体力も落ちてはいるがそれでも父親の腕力などとっくに上回っている。締め上げた手首を捩じるようにして放り投げると、起き上がり自分の部屋に戻って行った。
行くところがない訳ではない。
ここ暫く顔は見せていないが高齢の未亡人の話し相手や慰め役をしている時に、アパートメントの1室は買ってもらったので塒はある。
ビヴァリーにその部屋を教えなかったのはわざわざ教えるほどではないと思ったし、シェイナと結婚をした後で両親と同居になるのは目に見えていたので、シェイナを夜に啼かせる時にその声も誰にも聞かれたくはなかった。
問題は鍵は持っているのだが、その未亡人とももう3年ほど会っていない。未亡人が財テクの一環、気まぐれで購入したものなので売りに出されたりしていれば他人が住んでいる可能性もある。
鍵など付け替えれば済むのだから。
だとしても他に行くあてもないのも事実。
手早く当面の荷物をカバンに纏めたチャールズは家を飛び出して行った。
★~★
「お、開いたぞ。ラッキー」
持っていた鍵で玄関は開いた。中はといえば時が止まったように最後に出て行った時のまま。それが解ったのは掃除すら誰もしていないので、3年前に部屋を出る前食べた肉串に干からびて元の正体すら想像つかない肉や、包み紙がテーブルの上にそのままあった事だった。
「ネズミすら来なかったのかよ」
閉じ込められていた部屋ほどではないが黴臭いとチャールズは窓をあけて空気を入れ替えた。
その時、3階建ての3階の角部屋になるこの部屋の開け放たれた窓から見えた光景にチャールズは胸が躍った。
眼下に見えるのは教会の敷地。そこではシェイナが子供たちに囲まれて髪にリボンを付けてやっている姿があった。
「シェイナ…あぁ…シェイナだ…」
じわっと目には温かい涙が溢れてしまう。
恋焦がれるとはこういう事なのだろうか。
口元が何か言っているのか動くたびに、何を言ってるのかも聞こえてはこないがチャールズも合わせて口を動かす。
そして自分の唇に手を当てるとシェイナを真似て動く自分の唇に興奮してしまった。
しかし、その興奮で局部が怒張を始めた時、怒りがチャールズを包んだ。
「誰なんだ!その男は!」
シェイナの隣で汗を拭い、シェイナが差し出した水筒から水を飲む男に嫉妬と怒りがこみ上げる。
「クソッ!!」
シェイナがその男に向かって微笑む顔を見た瞬間、チャールズは窓を閉め、「ウガァァーッ」頭を掻き毟りながら床で七転八倒。転げ回った。
273
お気に入りに追加
1,605
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる