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第24話 最後のお届け物
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教会を訪れたシェイナは持ってきた籠の中身を神父に渡すと、子供たちの輪の中にいるライネルを探し、見つけるなり駆け寄った。
「こんにちは!」
教えてもらった手話ももう言葉と一緒に出てしまう。
ピコピコと人差し指を向かい合わせて声をかける。
「あ、お姉さん!!こんにちはっ!!」
子供達も真似をして人差し指で ”こんにちは” と声と一緒に手振りを示す。
「今日は薬草を持ってくる日でしたね。神父様もいつも感謝されてますよ」
「どんどん使って頂ければ。もう家にあっても仕方ないので」
「仕方ないって…どうして?常備薬としては量は多いと思うけど」
「やめるんです」
「やめる?教会に寄付するのを?」
シェイナの言葉と表情に驚いたライネルだったが、周囲を囲っていた子供たちが「遊ぶの止めるの?」「もっと遊んでよ」と割り込んでくる。
「お前らなぁ。遊ぶってこれはな?さっきも言っただろう?壁に穴が開いたままなんだ。動物が入って来てしまうだろう?塞いでるんだよ」
「トントントーンって遊んでるようにしか見えないよ!」
「あ~もう!後で遊んでやるから!ちょっと待ってろって」
「そんな事言いながらライさんはお姉さんと愛を語るんだよ」
「そうだそうだ!ついでにチューもしちゃうんだ」
「するか!コンの!!マセたこと言ってんじゃねぇぞ!」
「わー逃げろ!!ライさんが怒ったぞー!」
楽しい悲鳴を上げながら子供たちが散っていくと「すみません」ライネルは頭を下げ「すぐ済みますので待っててください」と壁の穴を塞ぐために板をあてて釘を打ち付けた
顔を見せて、声をかけそれで帰ろうと思っていたシェイナは言われた通りに少し離れた植え込みの縁に腰を掛けてライネルが壁を直す様を黙って見つめた。
「これで一安心だ。いやぁ。動物ってのは国が変わっても同じなんだなぁ」
額の汗を首に回したタオルで拭きながらシェイナの隣にライネルは腰を下ろした。水筒に入れた水を美味しそうに飲むとまたタオルで口まわりを拭う。
数週間ぶりの教会へのお届け物で、過日エスラト男爵家に来た時の事に触れる事のないライネルにシェイナはライネルの優しさを感じた。
「ふぅー」と息を一つ吐くとライネルはシェイナに話しかけた。
「やめるって何をやめるんだい?」
「薬草作り。正確には…続けるんだけどこの国で作るのをやめるの。国を出るから」
「そう言えばそんな事を‥‥で?国を出る?どこへ?」
「ポメル王国に行くの。両親ももう裁判にも疲れちゃってて。私のせいで…」
「君のせいなんかじゃないよ」
しばし無言となった2人の背中に風が吹き抜ける。
「本当は…行きたくないなって思っちゃって」
「前の婚約者の事?」
「ううん。違う」
「今日明日って事じゃなかったら…急いで答えを出さなくていいんじゃないかな。何時でも話は聞くよ」
「ライさんって…優しいんだか意地悪なんだか判らないわ」
シェイナの中ではもう答えがでた。
言われた通りに全てをバラバラにして、ゆっくりと考え、そして答えを出した。
なのにライネルがはぐらかすので、シェイナなりの意地悪をしたらやり返された気分だ。
「え?俺がどれだけ意地悪かってこと悩んでんのか?」
「ち~がぅ~!ホントに判らないのっ!?」
ライネルは言葉には出来なかったが、国を出るとの言葉にもう会えなくなるのかと思うとチクリと胸が痛んだ。しかし10歳以上年齢も離れたシェイナに対し、この思いがかつて心から愛し、無理矢理王命で妻にしたのに嫌な思いばかりをさせてしまった妻、ビオレッタに対し持った感情と同じかとなれば…違っているようで似ていると思った。
ライネルは「判っているだろ」心で自分に言い聞かせた。
年齢差があるから、国が違うから、と自分を誤魔化している。
それは自分の過去があるからこの感情を持ってはいけないのだと最後は心を押し潰す。
ライネルは自分を誤魔化すようにシェイナの頭をクシャクシャと撫でると「元気出せ」声を掛けた。
「元気なんだってば!これから家まで歩くのよ?元気じゃなきゃ歩けないわ」
「歩いて?かなり遠いだろう」
「遠いと言えば遠いけど…ポメル王国よりは近いわ」
「ぷはっ!比べる距離が単位から違うだろ。送って行ってやるよ」
「いいわよ。迷子にならないし」
少し強がるシェイナにライネルはポロリと本音が零れた。
「俺が心配なんだよ」
そして、取り繕うように咄嗟に言葉を繋いだ。
「不貞腐れてもお嬢様だからな!みんなのお嬢様!」
心配なのは本当。
ライネルは帰宅するシェイナに付き添う事を告げた。
「こんにちは!」
教えてもらった手話ももう言葉と一緒に出てしまう。
ピコピコと人差し指を向かい合わせて声をかける。
「あ、お姉さん!!こんにちはっ!!」
子供達も真似をして人差し指で ”こんにちは” と声と一緒に手振りを示す。
「今日は薬草を持ってくる日でしたね。神父様もいつも感謝されてますよ」
「どんどん使って頂ければ。もう家にあっても仕方ないので」
「仕方ないって…どうして?常備薬としては量は多いと思うけど」
「やめるんです」
「やめる?教会に寄付するのを?」
シェイナの言葉と表情に驚いたライネルだったが、周囲を囲っていた子供たちが「遊ぶの止めるの?」「もっと遊んでよ」と割り込んでくる。
「お前らなぁ。遊ぶってこれはな?さっきも言っただろう?壁に穴が開いたままなんだ。動物が入って来てしまうだろう?塞いでるんだよ」
「トントントーンって遊んでるようにしか見えないよ!」
「あ~もう!後で遊んでやるから!ちょっと待ってろって」
「そんな事言いながらライさんはお姉さんと愛を語るんだよ」
「そうだそうだ!ついでにチューもしちゃうんだ」
「するか!コンの!!マセたこと言ってんじゃねぇぞ!」
「わー逃げろ!!ライさんが怒ったぞー!」
楽しい悲鳴を上げながら子供たちが散っていくと「すみません」ライネルは頭を下げ「すぐ済みますので待っててください」と壁の穴を塞ぐために板をあてて釘を打ち付けた
顔を見せて、声をかけそれで帰ろうと思っていたシェイナは言われた通りに少し離れた植え込みの縁に腰を掛けてライネルが壁を直す様を黙って見つめた。
「これで一安心だ。いやぁ。動物ってのは国が変わっても同じなんだなぁ」
額の汗を首に回したタオルで拭きながらシェイナの隣にライネルは腰を下ろした。水筒に入れた水を美味しそうに飲むとまたタオルで口まわりを拭う。
数週間ぶりの教会へのお届け物で、過日エスラト男爵家に来た時の事に触れる事のないライネルにシェイナはライネルの優しさを感じた。
「ふぅー」と息を一つ吐くとライネルはシェイナに話しかけた。
「やめるって何をやめるんだい?」
「薬草作り。正確には…続けるんだけどこの国で作るのをやめるの。国を出るから」
「そう言えばそんな事を‥‥で?国を出る?どこへ?」
「ポメル王国に行くの。両親ももう裁判にも疲れちゃってて。私のせいで…」
「君のせいなんかじゃないよ」
しばし無言となった2人の背中に風が吹き抜ける。
「本当は…行きたくないなって思っちゃって」
「前の婚約者の事?」
「ううん。違う」
「今日明日って事じゃなかったら…急いで答えを出さなくていいんじゃないかな。何時でも話は聞くよ」
「ライさんって…優しいんだか意地悪なんだか判らないわ」
シェイナの中ではもう答えがでた。
言われた通りに全てをバラバラにして、ゆっくりと考え、そして答えを出した。
なのにライネルがはぐらかすので、シェイナなりの意地悪をしたらやり返された気分だ。
「え?俺がどれだけ意地悪かってこと悩んでんのか?」
「ち~がぅ~!ホントに判らないのっ!?」
ライネルは言葉には出来なかったが、国を出るとの言葉にもう会えなくなるのかと思うとチクリと胸が痛んだ。しかし10歳以上年齢も離れたシェイナに対し、この思いがかつて心から愛し、無理矢理王命で妻にしたのに嫌な思いばかりをさせてしまった妻、ビオレッタに対し持った感情と同じかとなれば…違っているようで似ていると思った。
ライネルは「判っているだろ」心で自分に言い聞かせた。
年齢差があるから、国が違うから、と自分を誤魔化している。
それは自分の過去があるからこの感情を持ってはいけないのだと最後は心を押し潰す。
ライネルは自分を誤魔化すようにシェイナの頭をクシャクシャと撫でると「元気出せ」声を掛けた。
「元気なんだってば!これから家まで歩くのよ?元気じゃなきゃ歩けないわ」
「歩いて?かなり遠いだろう」
「遠いと言えば遠いけど…ポメル王国よりは近いわ」
「ぷはっ!比べる距離が単位から違うだろ。送って行ってやるよ」
「いいわよ。迷子にならないし」
少し強がるシェイナにライネルはポロリと本音が零れた。
「俺が心配なんだよ」
そして、取り繕うように咄嗟に言葉を繋いだ。
「不貞腐れてもお嬢様だからな!みんなのお嬢様!」
心配なのは本当。
ライネルは帰宅するシェイナに付き添う事を告げた。
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