好きなのはあなただけじゃない

cyaru

文字の大きさ
上 下
33 / 34

最終話   好きなのはあなただけじゃない

しおりを挟む
シュガバータ王国に到着をしたばかりの頃ファウスティーナとルフィード伯爵がする事は何もない。

何かあるだろうと考えてみるが、何もする事がない。
思えばそんな生活を以前はしていたのだが、全てを失った時に救いの手を出してくれた使用人達の優しさを知り、その後は全てを自分が行い、怠ければ食事も食べられなくなる。そんな生活に慣れ始めた頃にシュガバータ王国にやって来たので、大いに戸惑った。


何故かと言えばグレイクが何もかもしてしまう。

グレイクは仕事も内勤に変えて貰って朝は8時前に家を出るが、帰宅は定時で17時終わりの18時には台所で立っている。
休日は朝から掃除をしたり、作り置きで日持ちのする料理を作ったりと忙しい。

全てをグレイクがやってくれるし、大きくて嵩張る荷物や食材は配達。朝もルフィード伯爵用にブルーベリードリンクが届く。

習い事でも始めればいいかと色々なお試し教室にも行ってみた。
楽しいのは楽しいのだ。友人も出来るし文句はないのだが…する事がない。

「やらなきゃ!みたいな…全世界の刺繍は私が背負ってる!ってまでは重すぎるんだけど、何て言うのかな…全部を負担してもらってるのが嫌っていうか…」
「なら働いてみるかい?何がしたい?」
「何でもいいけど…言葉がまだほとんどわからないから語学教室行くのが先かなぁ」
「なら、これはどうかな」

グレイクが差し出してきたチラシは最近始まったばかりの商売で観葉植物をレンタルやリースするもの。金融商会の入り口付近にある観葉植物は強盗などに襲われた時におおよその身長を割り出すのにも置かれていたり、転勤の多い家庭では購入をすると持ち運ぶ事が出来ないがレンタルなら楽しめる。

問題はレンタル期間が終わって戻って来た植物のケアだった。

「水をやり過ぎ、やりなさ過ぎ、肥料なんかも丁度にしてるのに追加されて肥料焼けをしたりその逆で他の庭木にあげちゃったりで困ってるらしいんだ」

「やってみたいわ。これなら水魔法と土魔法も使えるもの」

「合わないと思ったら辞めていいよ。無理に続けることはないからさ」

「そ~れ~が~嫌なの!全部面倒見て貰ってる事になるでしょう?ちょっとでもいいから家計を助けたいの」

助けたいといっても、グレイクの場合は内勤になったが組み手などの指導もしているので結構な額の収入がある。財テクも基本は買ったら寝かせるのだが、買う株数が多いので10ミィ値上がりしただけでも数十万の利益が出る。勿論その逆もあるけれど、下がったところで寝かせているので損益のまま確定させる事もない。

※国が違うので通貨単位もミィです。


「自分の金は好きに使うといいよ。生活費に幾ら入れないと!って稼ぎに追われて仕事をして欲しくないんだ」
「そうなんだけど、それでもちゃんと負担してる分があるって実感が欲しいのよ」

グレイクとしては近い将来離縁をするので、離縁後も生活の面倒はみるが自分の金として残しておいてほしい。未だに貧乏性が抜けない2人が心配でならない。

ファウスティーナはファウスティーナで胸にもやもやしたものを抱えている。
グレイクは甘やかしすぎなので、べったり甘えると廃人になってしまいそうになる。いや、もう既にグレイクなしの生活は出来ないのではと思っている。

――それじゃダメなのよ。1人が負担するのはダメ!――

グレイクの稼ぎには到底足らないとしてもファウスティーナは働いて生活を支える柱の添え木でいいのでなりたかった。



★~★

年下の義父のいる生活は周囲も驚く。単に妻が若いというだけで色眼鏡で見る者もいるが諜報を担う者の花形はやはり実際に潜入する部隊。グレイクはそんな超一流の集まる舞台から、窓際と呼ばれる手配課に配置転換を希望してきた。

「よっぽど奥さんの事好きなんだろうな」
「可愛いんだろ?下手すりゃ娘じゃねぇか」

そう言われるけれど、46歳になったグレイクに19歳のファウスティーナ。案外仲良くやっている。

ルフィード伯爵も語学教室に通い始め同年代の未亡人と「ヨモギ探しデート」を楽しんだりもしている。

仕事を始めたファウスティーナ。額が少なくても自分で稼いだお金は格別だった。

でも悩みがあった。

「私って…何の役にも立ってないわ」
「どうした?仕事で嫌な事でもあったか?聞いてやるから何でも言ってごらん」
「仕事には何の不満もないの。むしろもっとみんなに観葉植物を身近で楽しんでもらえるにはどうしたらいいかなって考えてるの」

グレイクもファウスティーナの勤める会社の観葉植物が好評なのは見聞きしていた。
買ってみたものの育て方が解らず、気がつけば枯れていた。そんなお悩みもファウスティーナが出張してきて水魔法と土魔法で観葉植物が元気になっていく。

あとは植物に合わせた水やりや、直射日光の当たらない場所など部屋を実際に見て「ここに置くと良いです」とこの頃は風水という当たるも八卦当たらぬも八卦なおまじないのようなものも、植物の状態がメインで話題として提供したりもしている。

業績も徐々に伸びてまだ店主とファウスティーナの2人だけだが右肩上がりの成長を遂げている。


何故か落ち込んでいるファウスティーナだったが、この日はグレイクも1つ報告があった。
マガリン王国で余罪が多く取り調べが異例の長期化をしていたラーベ子爵夫妻とオズヴァルド、そしてベアトリスの処刑が決まり、執行されたのだ。

明るい話題ではないので、切り出すタイミングを見計らっていたが、その事よりもグレイクはファウスティーナの元気のなさが気になった。

「何の役にも立ってないって誰かに言われたとか?そんな他人の言うような事は気にするな」
「違うの。そう思うのは私なの」
「どうしてそんな事を思うんだ?」
「だって…家事だってグレイクさんがしてくれるし‥私はいつもしてもらうだけ。生活費だって3年目になるのに半分も入れる事が出来ないし…」
「そんな事気にしなくていいよ。家事は俺がしたくてしてるだけだ。それに…ファウスティーナの事が好きだからこんなオジサンと一緒に住んでくれてとても嬉しいよ。何にもしてないなんて事はない。って…46のジジイに言われても嬉しくないよな」

グレイクはテヘっと照れてみるが、職場でも新卒の女性職員に言われた。
「テヘとペロ。両方の複合も合わせて年齢制限がある」と。グレイクはトイレのブースで泣いた。

が、目の前のファウスティーナは様子がおかしい。
じぃぃ…っと真顔で真っ直ぐに目を見てくる。何処かで感じたデジャヴ。

「好きなのは…あなただけじゃないわ。私も貴方の事…グレイクさんのこと好きだもの」

突然の言葉にグレイクは脳内が有名歌劇俳優大運動会状態。
もう伝えなければと思った事が異次元の彼方に吹き飛んでしまった。

――これは冗談で返したほうがいいのか?ガチなのか?――

「ま、待て。ちょっと混乱した。時間をくれ」
「だめ!ちゃんと聞いて。友達とか店長さんとか犬や猫に対しての好きじゃないの。私、グレイクさんの事好きなの」
「あ。あの…嬉しいんだけど…でも落ち着け。俺は冗談抜きで46なんだ。誤差があっても44、45歳だ。君は19歳。これからもっと――」
「グレイクさん以上の男性なんて現れないわ。離れ…たくないの」

――こ、これはガチなやつだ…どうすれば――

返事に迷うグレイクにファウスティーナは泣き顔になりそうな笑顔を浮かべた。

「ごめんなさい…こんな気持ちは押し付けたらあの人たちと一緒になっちゃう。忘れて。いいの。もうすぐ3年目になるし…」

「忘れられる訳ないだろう!どれだけ…どれだけ3年目の日が来なければ良いと思ったか。この先もファウスティーナの夫であり続ける事が出来るなんて…これが冗談でないなら今日は人生最良の日だ」


グレイクはファウスティーナの前に跪いた。手を取り、顔を見上げた。

「ファウスティーナ・ルフィードさん。私、グレイクと結婚してください。残りの人生は貴女と共にありたい」
「はいっ!私が80になっても90になっても愛してくださいっ」

―無理だよ…俺100超えてるじゃないか――

「アハハ…1日でも1秒でも長く一緒に居られるように長生きするよ」

ガバッと抱き着いて耳元で囁くファウスティーナに現実を直視してしまうグレイク。

「子供は3人欲しいわ!」

――待て、って事は今すぐ大当たりを引いても子供が成人する前に俺、還暦じゃないか――

その日のグレイクは諜報の現役を引退した事も体力の限界を感じての事だったが、夫婦生活についても同じ問題を抱える事になり、筋トレに励むようになる。



そして夢でしか描けなかった朝食風景も現実味を帯びてくる。

「1歳年上の婿かぁ。それも良いけどファティはね、亡くなったニコライと言い合いをしててね」

ニコライと言う名に胸がチクリとするが、ルフィード伯爵は軽くウィンク。

「お兄様!お父様が好きなのはお兄様だけじゃないわ!って私を取り合いしてくれたんだよ。父親冥利に尽きるぞ」

世の奥様方が義両親から孫を遠回しに急かされる気持ちも痛感するのだった。


Fin

★~★
読んで頂きありがとうございました<(_ _)>

今回は「好きなのはあなただけじゃない」と文字で書くと何通りかのニュアンスで聞こえてしまうお話でした。

オズヴァルドに対しては、あなたが好きって言ってるだけでしょ!っていう独りよがり。
グレイクに対しては、同じ思いを持つのはあなただけじゃないっていう共感(シンクロ)です(*^-^*)

後ろに「の」を付けてもアクセントをどう置くか?で変わってきます。

好きなのはあなただけじゃないの‥‥他にも好きな人いるもーん
好きなのはあなただけじゃないの‥‥オズヴァルドに対してのように「アンタだけでしょ」こちらは疑問符付けた方が解りやすいですかね(笑)

何となくワシがニャッポン語を完全制覇出来ない理由と言う名の言い訳が出来た気がします(え?)


今回もコメント沢山ありがとうございます!
ナマケモノペースで御座いますが返信をしていきますので、気長に待って頂けると嬉しいです(*^-^*)

番外編については「公開時間のお知らせ」の通りです(今は消えてますけど…汗)

初日の公開時間のお知らせ「なぞなぞ」の答え

21時40分 チーズケーキ、マカロン、プリン。3時のおやつはなぁんだ?
3時のおやつ→3のおやつ
ってことでプリンで御座いました(*ノωノ)スキ

ちなみに「なぞなぞ」にしたのはその回のタイトルが「謎の男、グレイク」だったからです(;^_^A

では、読んで頂きありがとうございました\(^▼^)/

しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...