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第28話 退職?許しませんけど?
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ガタガタと走る馬車。賊を乗せて走った時は音を感じなかったがグレイクに「車輪に細工をしている」と言われて「なるほどー」と親子で納得をした2人だったが、予定通りに森の中にある家に4日滞在し、シュガバータ王国に出立をした。
堂々としたもので、細い抜け道を使う事もなく大街道をひた走る。
「急ぐ時と逃げる時は変に小細工するからダメなんです。堂々としていれば案外抜けられます」
ルフィード伯爵にも覚えがあった。会合の時間に間に合いそうになくて御者の知る抜け道なら15分短縮出来ると抜け道に向かったのだが、運悪く荷馬車が荷を崩して立ち往生し、結果的に1時間も遅れてしまった。
混み合うからと避けた大通りはそれなりに混雑はしていたものの流れが速いのだ。少しの遅れで済んだのにと悔やんだ事があった。
ファウスティーナも昔友人の令嬢達と「かくれんぼ」をした時に、難しそうな場所に隠れてしまうと早くに見つかったりしたものだ。「ここにはいないだろう」と明らかに隠れてます!と言う場所ほど見つかり難かった。
馬車泊になる事もあったが、グレイクは数日おきに宿屋の宿泊もさせてくれた。
「お金がかかるでしょう?私も娘も馬車の中で寝るのは問題ないですよ?」
「まさか。どうしてもの時は馬車で寝て頂いてますが、宿が取れる時は宿屋で湯も浴びて、寝具で寝てください」
「だけど、タダじゃないでしょう?私は馬車で寝るから1人分でもいいのよ?」
「タダではないかな、でも考えている以上に安いと思うよ」
ジト目になって「嘘じゃないでしょうね?」とグレイクに目で訴えるファウスティーナ。グレイクは宿屋の受付に行き、1泊の料金を提示してもらった。
「本当だ…どうしてこんなに安いんですか?」
「お客様は当館の株主様ですので優待券をご利用頂いております」
「カブ主?優待券?え‥‥グレイクさん蕪でも育ててるの?」
「育ててると言えばそうかも知れないな。買ったきりで売ってないし」
「ほぇ??意味が解らないんだけど」
マガリン王国には株式会社や有限会社などはない。しかしこの先にあるチュブアン王国、マーマレド王国、シュガバータ王国には一般の平民でも金を出し合ったり、株式を買ってもらいその金で事業をするシステムがある。
国境までほど近い地域にはマガリン王国ではない国の建てた宿屋やレストランなどが立ち並ぶ。勿論他国に入ればマガリン王国の会社ではなく商会だが運営している宿屋もある。
「じゃぁ優待券と言うのは株式を買えばもらえるの?」
「儲けているかなどにもよるかな。赤字の時はないこともあるし、こうやって宿に安く泊まれるというのもあれば旅の幌馬車代が安くなる、特産品が送られてくる、現金で支払うなど色々あるからね」
「そうなのね。グレイクさんは宿屋の株券ばかり買ってるってこと?」
「それはちょっと危ないかな。橋とか造ったりする会社とかレストランとか馬車の部品とか色々だよ。他国で暮らしていると、生活費は支給されるから自分の金はあまり使う事が無くてね」
株式に馴染みがないどころか初耳のファウスティーナには券を買うだけで色々と貰えるお得なシステムに興味深々なのだが、100株とか1000株の単位であったり、1株幾らなので買う時にはその100倍、1000倍の金が必要であるのと、価格が毎日上下するので買う時は安く、売る時は高くと言われてもピンとこない。
解ったのは初期費用にはそれなりの額が必要なのだという事だけだった。
「奥さんなんだから面白そうと思えばやってみるといい。小額から出来るから溶けてしまっても怒ったりしないさ」
「溶ける?お金が溶けるの?」
「あ~…なんていうか…価値が無くなる?とか買った時の金額よりもかなり少なくなるとかそう言う事だ」
「え…そんなの怖すぎて出来ない…やだ…」
「大丈夫だよ。儲ける事だってあるんだ」
「無理だわ。頑張って働いたお金が1日で減ったりするなんて…その日は不浄から出て来られないわ」
「それは困るな。昼から夜まで我慢しなきゃいけなくなる」
「出先ですればいいでしょう?」
「あはは。仕事辞めるし家にずっといるよ」
「エェーッ?!」
――なぜ驚く?諜報は危険な仕事だから喜ぶところだろう?――
グレイクが仕事を辞めるというとファウスティーナは盛大に驚き、ススっとグレイクから距離を取る。なんなら「シッシッ」と追い払う手ぶりも加わっているではないか。
「仕事しないなんて社会のクズです。理由があってしないのはまだ理解をしますけど働けますよね?働けるのに敢えて働かないなんて…しかも定職についているのに辞めちゃう?どんだけ贅沢な俺様、ううん殿様なのよ」
ビシィ!と言い切るファウスティーナ。
仕事を選ぼうにも選択肢などなかったファウスティーナには何とも信じられない。毒舌になろうというものだ。
「で、でも危険な仕事なんだよ。生命保険にも加入出来ないんだ」
「だとしても!!クビって言われたわけじゃないんでしょう?今の仕事嫌いなの?」
「いや、嫌いかどうかとか‥そこは考えたことが無かったな」
「フェッ?じゃぁなんで10年も続けているの?」
「10年じゃないよ。養成所からなら28年だ」
「にじゅっ!?だったら猶更でしょ?何が嫌なの?お弁当がないから?作るわよ?夕食の残りだけど」
「その夕食作るのって…」
「グレイクさんでしょ?」
――って事は弁当って詰めるだけって事だよな。俺でも出来るぞ?――
それを愛妻弁当と呼ぶかどうかは別問題としても、グレイクは43歳。体力の衰えを技でカバーしている年齢層でもある。正直この年になってまた別の国に行けと言われるのも辛い。
何より3年間しかいられないにしてもファウスティーナと一緒に居たかった。ルフィード伯爵ともママゴトと言われても親子を感じたかったのだ。例えグレイクの方がルフィード伯爵より1歳年上だとしても。
「兎に角!仕事を辞めるのは許しません!ある日突然全てを失う事だってあるのよ?それが自分の責任じゃ無くても何もかも失っちゃうことがあるの」
「はいはい。判った。辞めないよ。でも弁と――」
「こういうことは決める前に相談っ!!相談ですよっ!」
「解りましたー。次から気を付けまーす」
「ふざけてるの?(ギロリ)」
「いえ(背筋ピン!)」
弁当は作ってくれるんだねと念押ししようとしたのだが、それよりも強力な物言いで寄り切られてしまったグレイクだった。
その様子を少し離れた場所から御者たちと「道中ダンゴ」を食べながら眺めていたルフィード伯爵は「うんうん」頷くだけで助け船にもならない事が判明した。
堂々としたもので、細い抜け道を使う事もなく大街道をひた走る。
「急ぐ時と逃げる時は変に小細工するからダメなんです。堂々としていれば案外抜けられます」
ルフィード伯爵にも覚えがあった。会合の時間に間に合いそうになくて御者の知る抜け道なら15分短縮出来ると抜け道に向かったのだが、運悪く荷馬車が荷を崩して立ち往生し、結果的に1時間も遅れてしまった。
混み合うからと避けた大通りはそれなりに混雑はしていたものの流れが速いのだ。少しの遅れで済んだのにと悔やんだ事があった。
ファウスティーナも昔友人の令嬢達と「かくれんぼ」をした時に、難しそうな場所に隠れてしまうと早くに見つかったりしたものだ。「ここにはいないだろう」と明らかに隠れてます!と言う場所ほど見つかり難かった。
馬車泊になる事もあったが、グレイクは数日おきに宿屋の宿泊もさせてくれた。
「お金がかかるでしょう?私も娘も馬車の中で寝るのは問題ないですよ?」
「まさか。どうしてもの時は馬車で寝て頂いてますが、宿が取れる時は宿屋で湯も浴びて、寝具で寝てください」
「だけど、タダじゃないでしょう?私は馬車で寝るから1人分でもいいのよ?」
「タダではないかな、でも考えている以上に安いと思うよ」
ジト目になって「嘘じゃないでしょうね?」とグレイクに目で訴えるファウスティーナ。グレイクは宿屋の受付に行き、1泊の料金を提示してもらった。
「本当だ…どうしてこんなに安いんですか?」
「お客様は当館の株主様ですので優待券をご利用頂いております」
「カブ主?優待券?え‥‥グレイクさん蕪でも育ててるの?」
「育ててると言えばそうかも知れないな。買ったきりで売ってないし」
「ほぇ??意味が解らないんだけど」
マガリン王国には株式会社や有限会社などはない。しかしこの先にあるチュブアン王国、マーマレド王国、シュガバータ王国には一般の平民でも金を出し合ったり、株式を買ってもらいその金で事業をするシステムがある。
国境までほど近い地域にはマガリン王国ではない国の建てた宿屋やレストランなどが立ち並ぶ。勿論他国に入ればマガリン王国の会社ではなく商会だが運営している宿屋もある。
「じゃぁ優待券と言うのは株式を買えばもらえるの?」
「儲けているかなどにもよるかな。赤字の時はないこともあるし、こうやって宿に安く泊まれるというのもあれば旅の幌馬車代が安くなる、特産品が送られてくる、現金で支払うなど色々あるからね」
「そうなのね。グレイクさんは宿屋の株券ばかり買ってるってこと?」
「それはちょっと危ないかな。橋とか造ったりする会社とかレストランとか馬車の部品とか色々だよ。他国で暮らしていると、生活費は支給されるから自分の金はあまり使う事が無くてね」
株式に馴染みがないどころか初耳のファウスティーナには券を買うだけで色々と貰えるお得なシステムに興味深々なのだが、100株とか1000株の単位であったり、1株幾らなので買う時にはその100倍、1000倍の金が必要であるのと、価格が毎日上下するので買う時は安く、売る時は高くと言われてもピンとこない。
解ったのは初期費用にはそれなりの額が必要なのだという事だけだった。
「奥さんなんだから面白そうと思えばやってみるといい。小額から出来るから溶けてしまっても怒ったりしないさ」
「溶ける?お金が溶けるの?」
「あ~…なんていうか…価値が無くなる?とか買った時の金額よりもかなり少なくなるとかそう言う事だ」
「え…そんなの怖すぎて出来ない…やだ…」
「大丈夫だよ。儲ける事だってあるんだ」
「無理だわ。頑張って働いたお金が1日で減ったりするなんて…その日は不浄から出て来られないわ」
「それは困るな。昼から夜まで我慢しなきゃいけなくなる」
「出先ですればいいでしょう?」
「あはは。仕事辞めるし家にずっといるよ」
「エェーッ?!」
――なぜ驚く?諜報は危険な仕事だから喜ぶところだろう?――
グレイクが仕事を辞めるというとファウスティーナは盛大に驚き、ススっとグレイクから距離を取る。なんなら「シッシッ」と追い払う手ぶりも加わっているではないか。
「仕事しないなんて社会のクズです。理由があってしないのはまだ理解をしますけど働けますよね?働けるのに敢えて働かないなんて…しかも定職についているのに辞めちゃう?どんだけ贅沢な俺様、ううん殿様なのよ」
ビシィ!と言い切るファウスティーナ。
仕事を選ぼうにも選択肢などなかったファウスティーナには何とも信じられない。毒舌になろうというものだ。
「で、でも危険な仕事なんだよ。生命保険にも加入出来ないんだ」
「だとしても!!クビって言われたわけじゃないんでしょう?今の仕事嫌いなの?」
「いや、嫌いかどうかとか‥そこは考えたことが無かったな」
「フェッ?じゃぁなんで10年も続けているの?」
「10年じゃないよ。養成所からなら28年だ」
「にじゅっ!?だったら猶更でしょ?何が嫌なの?お弁当がないから?作るわよ?夕食の残りだけど」
「その夕食作るのって…」
「グレイクさんでしょ?」
――って事は弁当って詰めるだけって事だよな。俺でも出来るぞ?――
それを愛妻弁当と呼ぶかどうかは別問題としても、グレイクは43歳。体力の衰えを技でカバーしている年齢層でもある。正直この年になってまた別の国に行けと言われるのも辛い。
何より3年間しかいられないにしてもファウスティーナと一緒に居たかった。ルフィード伯爵ともママゴトと言われても親子を感じたかったのだ。例えグレイクの方がルフィード伯爵より1歳年上だとしても。
「兎に角!仕事を辞めるのは許しません!ある日突然全てを失う事だってあるのよ?それが自分の責任じゃ無くても何もかも失っちゃうことがあるの」
「はいはい。判った。辞めないよ。でも弁と――」
「こういうことは決める前に相談っ!!相談ですよっ!」
「解りましたー。次から気を付けまーす」
「ふざけてるの?(ギロリ)」
「いえ(背筋ピン!)」
弁当は作ってくれるんだねと念押ししようとしたのだが、それよりも強力な物言いで寄り切られてしまったグレイクだった。
その様子を少し離れた場所から御者たちと「道中ダンゴ」を食べながら眺めていたルフィード伯爵は「うんうん」頷くだけで助け船にもならない事が判明した。
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