好きなのはあなただけじゃない

cyaru

文字の大きさ
上 下
27 / 34

第26話   愉しくて仕方がない

しおりを挟む
ベアトリスは心地よい疲れを感じながら馬車に揺られた。

久しぶりに感じた女性としての喜びは、新しい発見の連続だった。
過去の恋人としか達する事は出来ないと思っていたが、オズヴァルドは終始ベアトリスの体を芯から喜ばせた。

「体の相性は彼が最高だと思っていたけど、違ったわ。別れて正解だったって事ね」

これでオズヴァルドの全てを手に入れたと馬車の座席に横になると足をばたつかせ、これから先「美男美女」で社交界の注目を浴びる姿を瞼の裏に思い描き悶えた。


ラーベ子爵家に嫁げばベアトリスに帰る家は無くなる。
男遊びをするのなら金で済む男娼にしておくのが無難だと考えた。金で動く男娼と違い素人の場合は恋愛に気持ちが変わった時に面倒事しか起こらない。

「本気になる男はもうオズヴァルドで最後」そう思いながらも見た目の良さでオズヴァルドを超えるような男はそうそういない。爵位が子爵家で無ければ高みを望めた悲運の美丈夫。
これから先は誰もがうらやむオズヴァルドが夫なのだ。

ベアトリスはその美しさで数々の子息の心を虜にしてきた。
本命がいたからこそ、数回の体の関係は持ったけれど心は動かなかった。

だから自分が浮気でもなく、単に処理係だったと知った時はこの世の全てが色も音も香りも失ってしまったように思えた。

「だけど、案外諦めも早かったのね。ふふっ」

オズヴァルドはファウスティーナの事を愛している。それは同年代の貴族なら男女問わず既出である公然の秘密だった。婚約は白紙になってからも冷たい態度をとり続けたオズヴァルドの心の中には未だにファウスティーナが住み着いているのだと思っていた。

少しだけ意地悪をしたくなったのだ。
そこまで思い続ける気持ちとはどんなものだろうと。

ファウスティーナが困窮した生活になっている事は知っていた。
だから、第一弾として、さらに困窮を極めたらオズヴァルドがどうするのか見てみたかった。

その為に父親言っても動いてはくれないので、祖父に頼み込み父親の職場とファウスティーナの働き口に圧力をかけた。直接圧力をかけたのは木材加工場と雑貨店、そして仕立て屋だった。

商会を通じて取引停止をチラ浮かせたのは市場と青果店。

雑貨店の店主だけは「誰を雇うかは私が決める」と言い張った。取引を停止しようにも扱っている品が外に働きに出る事が出来ない者達のハンドメイド品で全てに手を回すのは難しかったし、商会も売れ残りや倉庫の肥やしを引き取ってもらっているので店が無くなるのは困ると手を回してくれない。

店も現金一括払いで購入した土地と建物だったため、抵当権を持っている金融業者から債権を買い取る事も出来ない。仕方ないので過去に何度か遊んでやった破落戸に放火をさせた。

下らない意地を張ってファウスティーナの味方をした雑貨店の店主が燃えカスとなった店の残骸を見た時の顔は今でも忘れられない。あの茫然自失とした顔をサカナにワインなら5本は空けられる。
そして解雇を告げられた伯爵やファウスティーナの落ち込んだ顔。10年分は笑った。

「結局オズヴァルドもどん底の貧乏人は要らないって訳ね」

第二弾としてオズヴァルドがまだ諦めず、冷たい態度をとり続けるなら20人ほどの破落戸にファウスティーナを慰み者にしてもらい、その後は変態が集まる娼館に売り飛ばしてやろうかと思っていたが手間が省けた。

「加虐娼館は気絶させて運ぶから泣き喚く様も見られないのよね」

正直に言えば魔法使いだからと側に置くのは許しがたい。
しかし、同時に楽しみが出来たとほくそ笑んだ。

近くに居て、所詮は使用人。
事あるごとに虐め倒せばよいだけだ。長く楽しめる玩具があると思えばいい。
オズヴァルドの気持ちはもうファウスティーナにないのだから、この際夫婦の仲睦まじい姿をファウスティーナに見せつけてやってもいい。

「選ばれなかった女って本当に惨め。あぁはなりたくないわ。金もない、男もない、運もない。ナイナイナイ。アハハハハ。ざまぁだわ。私以外の女なんか、みぃんな不幸のどん底に堕ちちゃえぇぇ。キャーハハハ」

馬車の中はレンダール家の門をくぐってもベアトリスの高笑いが続いていた。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

【完結】ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
王女に嵌められて冤罪をかけられた婚約者に会うため、公爵令息のチェーザレは北の修道院に向かう。 そこで知った真実とは・・・ 主人公はクズです。

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

10年前の婚約破棄を取り消すことはできますか?

岡暁舟
恋愛
「フラン。私はあれから大人になった。あの時はまだ若かったから……君のことを一番に考えていなかった。もう一度やり直さないか?」 10年前、婚約破棄を突きつけて辺境送りにさせた張本人が訪ねてきました。私の答えは……そんなの初めから決まっていますね。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...