18 / 34
第17話 冗談にならない冗談
しおりを挟む
雑貨店の向かいにあるカフェに出向いたのオズヴァルドだが、カフェの向かいにあるはずの物がないことに驚いた。
あるにはあるのだが形を変えた無残な姿で、店主が手配をしたのか焼けて煤けた残骸を荷馬車で乗り付けた屈強な男達が片付け始めている場だったのだ。
この区画で火事があったのは報告で知っていたが雑貨店だとは思わなかった。
出火は深夜との事なのでファウスティーナが怪我をしている心配はないが、職を失った事でこれから先ファウスティーナがどうするのか。オズヴァルドの心配はまた新たなステージに入った。
「こんな時こそ俺が側にいてやらないと」
家を継ぐまでオズヴァルドには自由にできる金は多くあるわけではないが、2、3か月生活の面倒を見るくらいは何とかなる。
今まではファウスティーナに危害を加えられてはかなわないと住み家となっている部屋までは近くまでしか行った事はなかったが、母親名義の別荘もある事だし、この機会に生活の場を別荘に移させようと考えた。
本来の予定まで早めるつもりもなかったが、別荘に住まうようにしておいてベアトリスと結婚し家督を継ぐ。そうすればその後のファウスティーナの生活もずっと見てやれる。
オズヴァルドは自分の事を天才じゃないかなと疑った。
余りにも全てにおいて問題がない、非の打ち所がない案じゃないかと自画自賛した。
だとすればあとは行動あるのみ!
オズヴァルドは勇んでファウスティーナの住まうアパートメントの部屋に向かった。
★~★
雑貨店が燃えてしまった事で収入の要となる仕事を全て失ってしまったルフィード伯爵とファウスティーナは仕事の斡旋所に通うのだが、なんだかんで全く仕事にはありつけなかった。
年齢がネック、職歴がない、家が遠い、資格がないなど断る理由は幾らでもあって、やる気と誠意があってもどうにもならなかった。
今日は時給が通常で980ニャウなのに600ニャウ。それでも食べなければ生きていけないので商会に対し斡旋所の職員に問い合わせて貰ったのだが、お断りという返事を貰ってしまった。
「どこも雇ってくれないの。確かに!!確かに私には職歴とかないけど…ミルクを配達するのに文官の職歴が必要だなんて…」
「ミルクの配達に文官の職歴?無茶苦茶だな」
グレイクは驚くが、驚きはルフィード伯爵からも飛び出した。
「下水清掃員の仕事を申し込んだんだが…騎士団長の経験がないと無理と言われたよ」
「騎士団長?!そんな経歴がある人に応募させる方が無理だ!」
断わる理由など幾つでも内容問わず後付けは幾らでも出来る。
誰かが意図的に仕事を与えないように操作しているとしか思えなかった。
実入りが無ければ生きている日数分だけ僅かな貯えも消えていく。
住む場所もタダではなく、もうすぐ引っ越しをせねばならず1世帯、2世帯と空き室も多くなっていくアパートメントでも家賃は払わねばならない。
グレイクは「気落ちするな」とファウスティーナの肩に手を置いた。
その肩は考えていた以上に細くて小さく、グレイクは更に小さく震える動きも感じてしまった。
――父親なら守ってやりたいと思うだろうな――
そんな事を思いつつも、かの日の思いが胸を過る。
――妻としてなら大義名分もあり守れるのに――
そんなグレイクの思いを感じているのかいないのか。
ファウスティーナは肩に置かれたグレイクの手に手を乗せた。
グレイクは手から電撃が走ったような衝撃を感じた。
コテンとその手の上に頭を乗せるように傾けたファウスティーナは「ありがとう」と言う。
グレイクは不謹慎にも胸がドキドキしてしまった。
「はぁ~。私にもグレイクさんのような家事スキルがあればなぁ…高齢の先代さんとかに後妻なら介護要員として迎えて貰えるかも知れないのに」
「ははは。可愛いお前をそんなところにやりはしないよ」とルフィード伯爵が言えば、グレイクも思わず言葉が口から飛び出してしまった。
「そんな事をさせるくらいなら、嫁さんにして国に連れて帰るよ!」
<< ふぇっ? >>
ファウスティーナとルフィード伯爵がキョトンとした間抜け顔でグレイクを見る。言ってしまった物は引っ込みもつかない。グレイクは慌てて「1つの方法として・・・だけで他意はないっていうか…」もごもごとその場に小さくなった。
場は静まり返ってしまう。グレイクは居た堪れない。
「そうね、それもいいかも!グレイクさんのような夫だったら人生が楽しそう!美味しいごはんも食べられるし」
「ファティ、まさかグレイク君に胃袋を掴まれたのか?」
「ガッツリ掴まれちゃった♡」
「奇遇だな、父さんもだよ」
しかし、この父娘は何処までもお人好しであり、冗談もジョークで受け流してくれる。
「いや、冗談だから!冗談!…その…年齢差もあるし最後の保険っていうのかな?そんなカンジデ…」
「ふふっ。ありがとう。解ってますわ。グレイクさんも心配してくれてるのよね」
「あはっあはは。そうだよね。まさか、まさかのそのまさか!と思っちゃったよ。娘婿が年上って。あははは。グレイク君は場を和ませる達人だなぁ」
「本当ね。グレイクさんと結婚する女性が羨ましいわ。私もあと20歳年上だったらグレイクさんに自分を売り込むんだけど」
グレイクには冗談のつもりが冗談でもなく、本気にしそうな言葉だった。
あるにはあるのだが形を変えた無残な姿で、店主が手配をしたのか焼けて煤けた残骸を荷馬車で乗り付けた屈強な男達が片付け始めている場だったのだ。
この区画で火事があったのは報告で知っていたが雑貨店だとは思わなかった。
出火は深夜との事なのでファウスティーナが怪我をしている心配はないが、職を失った事でこれから先ファウスティーナがどうするのか。オズヴァルドの心配はまた新たなステージに入った。
「こんな時こそ俺が側にいてやらないと」
家を継ぐまでオズヴァルドには自由にできる金は多くあるわけではないが、2、3か月生活の面倒を見るくらいは何とかなる。
今まではファウスティーナに危害を加えられてはかなわないと住み家となっている部屋までは近くまでしか行った事はなかったが、母親名義の別荘もある事だし、この機会に生活の場を別荘に移させようと考えた。
本来の予定まで早めるつもりもなかったが、別荘に住まうようにしておいてベアトリスと結婚し家督を継ぐ。そうすればその後のファウスティーナの生活もずっと見てやれる。
オズヴァルドは自分の事を天才じゃないかなと疑った。
余りにも全てにおいて問題がない、非の打ち所がない案じゃないかと自画自賛した。
だとすればあとは行動あるのみ!
オズヴァルドは勇んでファウスティーナの住まうアパートメントの部屋に向かった。
★~★
雑貨店が燃えてしまった事で収入の要となる仕事を全て失ってしまったルフィード伯爵とファウスティーナは仕事の斡旋所に通うのだが、なんだかんで全く仕事にはありつけなかった。
年齢がネック、職歴がない、家が遠い、資格がないなど断る理由は幾らでもあって、やる気と誠意があってもどうにもならなかった。
今日は時給が通常で980ニャウなのに600ニャウ。それでも食べなければ生きていけないので商会に対し斡旋所の職員に問い合わせて貰ったのだが、お断りという返事を貰ってしまった。
「どこも雇ってくれないの。確かに!!確かに私には職歴とかないけど…ミルクを配達するのに文官の職歴が必要だなんて…」
「ミルクの配達に文官の職歴?無茶苦茶だな」
グレイクは驚くが、驚きはルフィード伯爵からも飛び出した。
「下水清掃員の仕事を申し込んだんだが…騎士団長の経験がないと無理と言われたよ」
「騎士団長?!そんな経歴がある人に応募させる方が無理だ!」
断わる理由など幾つでも内容問わず後付けは幾らでも出来る。
誰かが意図的に仕事を与えないように操作しているとしか思えなかった。
実入りが無ければ生きている日数分だけ僅かな貯えも消えていく。
住む場所もタダではなく、もうすぐ引っ越しをせねばならず1世帯、2世帯と空き室も多くなっていくアパートメントでも家賃は払わねばならない。
グレイクは「気落ちするな」とファウスティーナの肩に手を置いた。
その肩は考えていた以上に細くて小さく、グレイクは更に小さく震える動きも感じてしまった。
――父親なら守ってやりたいと思うだろうな――
そんな事を思いつつも、かの日の思いが胸を過る。
――妻としてなら大義名分もあり守れるのに――
そんなグレイクの思いを感じているのかいないのか。
ファウスティーナは肩に置かれたグレイクの手に手を乗せた。
グレイクは手から電撃が走ったような衝撃を感じた。
コテンとその手の上に頭を乗せるように傾けたファウスティーナは「ありがとう」と言う。
グレイクは不謹慎にも胸がドキドキしてしまった。
「はぁ~。私にもグレイクさんのような家事スキルがあればなぁ…高齢の先代さんとかに後妻なら介護要員として迎えて貰えるかも知れないのに」
「ははは。可愛いお前をそんなところにやりはしないよ」とルフィード伯爵が言えば、グレイクも思わず言葉が口から飛び出してしまった。
「そんな事をさせるくらいなら、嫁さんにして国に連れて帰るよ!」
<< ふぇっ? >>
ファウスティーナとルフィード伯爵がキョトンとした間抜け顔でグレイクを見る。言ってしまった物は引っ込みもつかない。グレイクは慌てて「1つの方法として・・・だけで他意はないっていうか…」もごもごとその場に小さくなった。
場は静まり返ってしまう。グレイクは居た堪れない。
「そうね、それもいいかも!グレイクさんのような夫だったら人生が楽しそう!美味しいごはんも食べられるし」
「ファティ、まさかグレイク君に胃袋を掴まれたのか?」
「ガッツリ掴まれちゃった♡」
「奇遇だな、父さんもだよ」
しかし、この父娘は何処までもお人好しであり、冗談もジョークで受け流してくれる。
「いや、冗談だから!冗談!…その…年齢差もあるし最後の保険っていうのかな?そんなカンジデ…」
「ふふっ。ありがとう。解ってますわ。グレイクさんも心配してくれてるのよね」
「あはっあはは。そうだよね。まさか、まさかのそのまさか!と思っちゃったよ。娘婿が年上って。あははは。グレイク君は場を和ませる達人だなぁ」
「本当ね。グレイクさんと結婚する女性が羨ましいわ。私もあと20歳年上だったらグレイクさんに自分を売り込むんだけど」
グレイクには冗談のつもりが冗談でもなく、本気にしそうな言葉だった。
153
お気に入りに追加
1,712
あなたにおすすめの小説

嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる