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第13話 ラーベ家。没落の始まり
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共に住み始めて1カ月ほど経ったある日。
「明日から5日は休業にするわ」と雑貨店の主が友人の結婚式に副王都に行く事となり午前中だけの仕事となったファウスティーナはグレイクと一緒に買い物に出掛けた。
働いている青果店から廃棄する食材も貰ってくるが、グレイクはそれ以外の食材も使って調理しているので、食費として現金は渡しているけれど、食卓の豪華さから到底足りているはずがないと思ったのだ。
「よぅ兄ちゃん。今日はこれを手伝ってくれよ」
露店が並ぶ青空マーケットに到着した途端、グレイクは露店の店主から次々に声をかけられる。何をするかと思いきや露店のテントが飛ばないように置き石とするための石が馬車にまだ積まれたままと聞き所定の場所に移す。
別の店では屋根の張り具合が悪いという店主の希望に応えて、ピンと屋根にしているシートを伸ばしたり、手洗い用にと置かれた水瓶の水を入れ替えてきたりと色んな店でちょっとした用件を引き受けて、その対価として売り物の品を幾つか貰っていた。
「ほら、金を払わなくても籠いっぱいになった」
「本当だわ…疑ってごめんなさい」
「金を使う時もあります。でも本当は…こんなに貰うつもりで助けてる訳じゃないんですけど」
グレイクはまた嘘を吐いた。
露天の店主の中には「ツナギ」と呼ばれる連絡係もいる。
この頃は国が欲しがる情報はないが、それでも「生きている」という報告を兼ねて彼らと他愛無い会話をするため訪れるのだ。
確かに「ツナギ」ではない露店の店主たちを手助けして、お礼として品を貰う事は多い。
しかし、金を払わないと買えない日持ちしない食材は買っている。卵であったりミルクであったり、鮮魚に精肉。それらも「くれるんです」とファウスティーナには言ったが、実は自腹を切って買っている。
それをファウスティーナに言うつもりもない。
グレイクは恩を返してもまた恩を感じてしまっていた。
寝台はいまだに2つでグレイクの寝場所は木箱を並べた簡易な寝台。
一緒に住むとなった時、2つの寝台をくっつけて3人が並んで寝るという案をファウスティーナが出した。
「真ん中でお父様が寝ればいいでしょう?」
確かに間違いは起きにくいだろうが、ハッキリ言って微妙だ。
結果として木箱を並べてグレイクが眠るで落ち着いたのだがその木箱を寝台にするのも「内職するから」とファウスティーナが自分が寝るといって譲らなかった。
「頼むから寝台で寝てくれ」と男性陣2人が頼み込んで今の形になった。木箱の寝台は固いし寝返りも打てないけれど、それでも屋根のある部屋で寝られるだけでも価値があるとグレイクは思っている。
必要なものは全て無料で手に入り、満杯なった籠をもって帰ろうとした2人に声がかかった。
「寄っていきなよ。残りはこれだけだ。安くしとくよ」
声をかけたのは花や野菜の苗を売っている露店の店主だった。
しかし、とても日当たりの良い場所に店を開いているからか、ポットに分けられている苗はどれも元気がなかった。
全部を買い取って植え替えてやりたいけれど、広さのある土地はないしそもそもで金がない。
ポットの前に掛けられた値札はファウスティーナのポケットにある金では1つ分でもその金額に足らなかった。
「どうしたんだ?」
「うん…」
口籠るファウスティーナにグレイクは苗のポットを1つ手に取ると萎れてしまっていると店主に告げた。
「そうなんだけどさ、ウチの苗は直ぐに復活するよ」
「なんでだ?」
「ラーベ子爵家の領地でここまで育てるからだよ。ちょっとくらい元気が無くてもなんてたって魔法育ちなんだ。魔法って言っても蜜なんかを口にして害になるようなものじゃないぜ?」
ラーベ子爵家の領から出荷された苗。ファウスティーナはドキリとした。
――魔法育ち?ううん…私は何もしてないわ――
ラーベ子爵家が抱えていた魔法使いはファウスティーナのみだったはず。
魔法使いはその存在そのものが珍しく、そう簡単に代わりが見つかるはずもない。
ファウスティーナが領地の苗や土に最後に魔法をかけたのは2カ月ほど前の事。婚約が白紙になる1カ月ほど前が最後だ。
今のような生活になっても婚約関係は続いていたので、どうしてもと頼まれて青果店と雑貨店に無理を言って休みを貰い出向いていた。
通常種が発芽するまで1週間、品種によって2週間。
出荷するまでの大きさの苗はそれから1、2週間。
ファウスティーナはその日数を減らすために魔法を使ってくれと頼まれていた。
種を蒔いた所にファウスティーナが魔法をかけると数日で発芽をする。芽が出た苗をこうやってポットに移すまで2週間程度だった。魔法をかけるのは基本的に種を蒔いた時だけ。
時折元気のない苗には発芽後に魔法をかける程度。
つまり目の前の苗には時系列から考えてファウスティーナはノータッチ。
「魔法育ち」の言葉が本当なら、ラーベ子爵家は新しく魔法使いを得たのだろうか。だとしても稀有な魔法使いが子爵家に力を貸すだろうか。ファウスティーナは考えた。
ファウスティーナがラーベ子爵家の為に魔法を使っていたのはあくまでも婚約者だったという関係があったからで、魔法使いを雇うとなれば法外な金額となる。
何よりラーベ子爵家には失礼だが、魔法使いはわざわざ子爵家を選ばなくても王家に仕えた方が実入りも確実で支払いが滞る心配がない。
どっちにしても自分には関係のない事だとグレイクに「帰りましょう」と声をかけて裾をツンと引っ張った時だった。
30代と見られる夫婦が「ここにいたわ」と店主を探して見つけたようで声をあげた。
「ちょっと!先週アンタの所で買った苗!全部腐ったわよ」
「腐った?そんなばかな。言いがかりだ」
「馬鹿なじゃないわ!おまけに家の庭がムカデだらけになったわ。どうしてくれるの!」
「どうするも何も…ムカデって。本当にウチの苗なんですか?」
「そうよ!ポットの中に卵があったわ。ウチの庭で孵化したのよ!本当にどうしてくれるのよ」
店主と先週買ったという客の言い合いを聞いてファウスティーナはやはりと確信を持った。
ラーベ子爵家には間違いなく魔法使いはいない。
通常の発芽をさせ、落ち葉などで出来た腐葉土をポットに詰めているのだろう。
腐葉土はきちんと管理をしていないとムカデは腐葉土など湿った場所に産卵をするため、そのまま土に混ぜ込むとムカデの卵もセットになってしまう。
ファウスティーナは土についてもあまり得意ではない土魔法で栄養分を与えていたため、腐葉土を使う事はなかった。卵が孵化するまで約1か月。
ファウスティーナがいなくなったので栄養分のある腐葉土を使ったのだろう。
そして今に至ると考えれば辻褄が合う。
店主には悪いがおそらくここ1カ月ほど販売した苗は同じ状態であろうから、今日販売した分も含めて暫くはクレームの嵐になってしまうだろう。
土魔法が使えてもファウスティーナにはどうする事も出来ない。
土に栄養や空気を含ませる事は出来ても、そこに生きている虫など命を持った物にファウスティーナの魔法は作用をしない。下手すると虫に居心地の良い土を作ってしまうかも知れないのだ。
そうなると困るから腐葉土を使わなかったファウスティーナ。
ファウスティーナは気付かなかったが、この時期からラーベ子爵家の没落が始まっていたのだった。
「明日から5日は休業にするわ」と雑貨店の主が友人の結婚式に副王都に行く事となり午前中だけの仕事となったファウスティーナはグレイクと一緒に買い物に出掛けた。
働いている青果店から廃棄する食材も貰ってくるが、グレイクはそれ以外の食材も使って調理しているので、食費として現金は渡しているけれど、食卓の豪華さから到底足りているはずがないと思ったのだ。
「よぅ兄ちゃん。今日はこれを手伝ってくれよ」
露店が並ぶ青空マーケットに到着した途端、グレイクは露店の店主から次々に声をかけられる。何をするかと思いきや露店のテントが飛ばないように置き石とするための石が馬車にまだ積まれたままと聞き所定の場所に移す。
別の店では屋根の張り具合が悪いという店主の希望に応えて、ピンと屋根にしているシートを伸ばしたり、手洗い用にと置かれた水瓶の水を入れ替えてきたりと色んな店でちょっとした用件を引き受けて、その対価として売り物の品を幾つか貰っていた。
「ほら、金を払わなくても籠いっぱいになった」
「本当だわ…疑ってごめんなさい」
「金を使う時もあります。でも本当は…こんなに貰うつもりで助けてる訳じゃないんですけど」
グレイクはまた嘘を吐いた。
露天の店主の中には「ツナギ」と呼ばれる連絡係もいる。
この頃は国が欲しがる情報はないが、それでも「生きている」という報告を兼ねて彼らと他愛無い会話をするため訪れるのだ。
確かに「ツナギ」ではない露店の店主たちを手助けして、お礼として品を貰う事は多い。
しかし、金を払わないと買えない日持ちしない食材は買っている。卵であったりミルクであったり、鮮魚に精肉。それらも「くれるんです」とファウスティーナには言ったが、実は自腹を切って買っている。
それをファウスティーナに言うつもりもない。
グレイクは恩を返してもまた恩を感じてしまっていた。
寝台はいまだに2つでグレイクの寝場所は木箱を並べた簡易な寝台。
一緒に住むとなった時、2つの寝台をくっつけて3人が並んで寝るという案をファウスティーナが出した。
「真ん中でお父様が寝ればいいでしょう?」
確かに間違いは起きにくいだろうが、ハッキリ言って微妙だ。
結果として木箱を並べてグレイクが眠るで落ち着いたのだがその木箱を寝台にするのも「内職するから」とファウスティーナが自分が寝るといって譲らなかった。
「頼むから寝台で寝てくれ」と男性陣2人が頼み込んで今の形になった。木箱の寝台は固いし寝返りも打てないけれど、それでも屋根のある部屋で寝られるだけでも価値があるとグレイクは思っている。
必要なものは全て無料で手に入り、満杯なった籠をもって帰ろうとした2人に声がかかった。
「寄っていきなよ。残りはこれだけだ。安くしとくよ」
声をかけたのは花や野菜の苗を売っている露店の店主だった。
しかし、とても日当たりの良い場所に店を開いているからか、ポットに分けられている苗はどれも元気がなかった。
全部を買い取って植え替えてやりたいけれど、広さのある土地はないしそもそもで金がない。
ポットの前に掛けられた値札はファウスティーナのポケットにある金では1つ分でもその金額に足らなかった。
「どうしたんだ?」
「うん…」
口籠るファウスティーナにグレイクは苗のポットを1つ手に取ると萎れてしまっていると店主に告げた。
「そうなんだけどさ、ウチの苗は直ぐに復活するよ」
「なんでだ?」
「ラーベ子爵家の領地でここまで育てるからだよ。ちょっとくらい元気が無くてもなんてたって魔法育ちなんだ。魔法って言っても蜜なんかを口にして害になるようなものじゃないぜ?」
ラーベ子爵家の領から出荷された苗。ファウスティーナはドキリとした。
――魔法育ち?ううん…私は何もしてないわ――
ラーベ子爵家が抱えていた魔法使いはファウスティーナのみだったはず。
魔法使いはその存在そのものが珍しく、そう簡単に代わりが見つかるはずもない。
ファウスティーナが領地の苗や土に最後に魔法をかけたのは2カ月ほど前の事。婚約が白紙になる1カ月ほど前が最後だ。
今のような生活になっても婚約関係は続いていたので、どうしてもと頼まれて青果店と雑貨店に無理を言って休みを貰い出向いていた。
通常種が発芽するまで1週間、品種によって2週間。
出荷するまでの大きさの苗はそれから1、2週間。
ファウスティーナはその日数を減らすために魔法を使ってくれと頼まれていた。
種を蒔いた所にファウスティーナが魔法をかけると数日で発芽をする。芽が出た苗をこうやってポットに移すまで2週間程度だった。魔法をかけるのは基本的に種を蒔いた時だけ。
時折元気のない苗には発芽後に魔法をかける程度。
つまり目の前の苗には時系列から考えてファウスティーナはノータッチ。
「魔法育ち」の言葉が本当なら、ラーベ子爵家は新しく魔法使いを得たのだろうか。だとしても稀有な魔法使いが子爵家に力を貸すだろうか。ファウスティーナは考えた。
ファウスティーナがラーベ子爵家の為に魔法を使っていたのはあくまでも婚約者だったという関係があったからで、魔法使いを雇うとなれば法外な金額となる。
何よりラーベ子爵家には失礼だが、魔法使いはわざわざ子爵家を選ばなくても王家に仕えた方が実入りも確実で支払いが滞る心配がない。
どっちにしても自分には関係のない事だとグレイクに「帰りましょう」と声をかけて裾をツンと引っ張った時だった。
30代と見られる夫婦が「ここにいたわ」と店主を探して見つけたようで声をあげた。
「ちょっと!先週アンタの所で買った苗!全部腐ったわよ」
「腐った?そんなばかな。言いがかりだ」
「馬鹿なじゃないわ!おまけに家の庭がムカデだらけになったわ。どうしてくれるの!」
「どうするも何も…ムカデって。本当にウチの苗なんですか?」
「そうよ!ポットの中に卵があったわ。ウチの庭で孵化したのよ!本当にどうしてくれるのよ」
店主と先週買ったという客の言い合いを聞いてファウスティーナはやはりと確信を持った。
ラーベ子爵家には間違いなく魔法使いはいない。
通常の発芽をさせ、落ち葉などで出来た腐葉土をポットに詰めているのだろう。
腐葉土はきちんと管理をしていないとムカデは腐葉土など湿った場所に産卵をするため、そのまま土に混ぜ込むとムカデの卵もセットになってしまう。
ファウスティーナは土についてもあまり得意ではない土魔法で栄養分を与えていたため、腐葉土を使う事はなかった。卵が孵化するまで約1か月。
ファウスティーナがいなくなったので栄養分のある腐葉土を使ったのだろう。
そして今に至ると考えれば辻褄が合う。
店主には悪いがおそらくここ1カ月ほど販売した苗は同じ状態であろうから、今日販売した分も含めて暫くはクレームの嵐になってしまうだろう。
土魔法が使えてもファウスティーナにはどうする事も出来ない。
土に栄養や空気を含ませる事は出来ても、そこに生きている虫など命を持った物にファウスティーナの魔法は作用をしない。下手すると虫に居心地の良い土を作ってしまうかも知れないのだ。
そうなると困るから腐葉土を使わなかったファウスティーナ。
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