好きなのはあなただけじゃない

cyaru

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第04話   伯爵家の処遇

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マガリン王国では結婚をするのに身分は関係がないが、取り調べでビルギッタを妻に迎えるのは兄のニコライ。結婚後はそれまでと同様ビルギッタを数人の男達で守って行こうと周囲からすれば首を傾げたくなる確約をしていたと聞く。1人の女性を複数の男性が共有するなどあり得ない話だ。

そんな確約があるとは知らず、ルフィード伯爵もファウスティーナも、当時は共に住んでいた母親もニコライが選んだのなら文句をつける必要もないと、恋人が出来た事を喜んでいたくらいだ。
平民のビルギッタがニコライの執務を手伝えるようにみんなで協力すればいいとさえ思っていたのだ。

事実を知って、当事者以外は鳩が豆鉄砲を食ったように目がテンになった。勿論ファウスティーナも。

ニコライたちの関係はそれほど周囲には異常に見えた。


爵位だけが残されたのはマガリン王国の貴族たちに対しての見せしめの意味があっただろうし、ファウスティーナが膨大な魔力ではないにしても魔法が使えるので一族郎党を処刑するのは惜しいと判断されたからだった。

しかし、処刑された方がまだ良かったかも知れない。
住む場所も貴族の住まう一画ではなく平民と同じ区画で間借り。

平民の区画で住まう事に文句はないが平民には貴族に対し良い思いをしていない者も多く、毎日嫌がらせをされてしまう。

突然石礫がガシャン!とガラスを突き破って投げ込まれるのは日常茶飯事。共同の井戸も誰かがいれば使わせてもらえないし部屋から出れば扉の前に動物の死骸や汚物を置かれている事もある。

身に覚えのない事で悪評を流されるのも当たり前で、挨拶をしても無視されるかニヤニヤと嫌な笑みを返されるか。

全員ではないものの、中にはそんな行動をする者も多かった。

嫌がらせをする者を捕まえて「何故そんな事をするのか」と問うても納得できる理由はない。
単に「嫌いだから」とそれだけで行動に移してしまい、「貴族を追い出せ!」と声高らかに自分のしている事を犯罪とも思わず正当化して考えるようになってプロ市民化していく。

面倒な人種である事は間違いないので「それはちょっとなぁ」と感じる者も声をあげる事はない。矛先が自分に向くのを嫌がるからだ。

それでも生きていくために金を稼がねばならず、父は肉体労働を余儀なくされ、ファウスティーナはかつての使用人の親族が経営する青果店や雑貨店で経理の仕事をし、帰りには仕立て屋で刺繍や縫製の内職を貰って金を稼いだ。

その日の生活がやっとであっても王家主催の夜会には出席をせねばならず何度も着回した襤褸を着て恥をかかねばならない。

それが嫌で母親は早々に父親と離縁し、実家に戻って行った。
淡い期待で連れて行ってもらえるかと思ったのだが、母親は「貴女も面倒見てくれなんて言えない」とファウスティーナを置いて出て行ってしまった。

ファウスティーナの母親にしてみれば後妻なので血の繋がらないニコライと完全に縁を切りたいのもあっただろうが、我が子と言えど犯罪者となったニコライと半分でも同じ血が流れているファウスティーナを連れてくるなら受け入れないと言われたとすれば合点がいく。

ファウスティーナと婚約していたオズヴァルドの家、ラーベ子爵家が距離を置きたい、全くの無関係になりたいと言い出しても仕方のないことで受け入れるしかなかった。

ファウスティーナが稀有な魔法使いだとしてもニコライの犯した罪はそれ以上に重かった。

ラーベ子爵に呼び出された今日は、もう兄は処刑をされたというのに未だに父には不定期に呼び出しがありルフィード伯爵は今日で5日目、王宮に留置かれていた。ラーベ家にはファウスティーナが行くしかなかった。


伯爵令嬢と言えど、馬車があるはずもなく辻馬車に乗る事すら贅沢な生活を送っている今、ファウスティーナは雨であろうが雪であろうが歩くしかなかった。

「なんだか、もうどうでも良くなっちゃったな」

ルフィード家にしてみればこの婚約に然程旨味はなかった。
技術者は探し出して派遣する方だったし、ファウスティーナは婚約者なのだから助けてくれとラーベ子爵に言われて無償で魔力を使って日照り続きなら多少使える水魔法で雨を降らせ、水魔法よりは魔力を使うが土魔法で萎びた苗を蘇らせたりと家業を手伝ったが支払われたのは人間を融通した分だけだった。

「契約書が無いにしても…良いように使われちゃったなぁ」

ファウスティーナは少なからずともオズヴァルドの事は嫌いではなかったが、最後だというのに目も合わせないのはそれがオズヴァルドの気持ちなのだろうと思うとどうでも良くなってしまった。

周囲を見て人がいないと確認をするとファウスティーナは傘をクルクルと回した。
傘に落ちた雨水が勢いを付けて飛んでいく。

「くよくよしても仕方ないわ。ラーベ家の為に魔法を使わなくていいなら…もう1つ内職でも増やそうかな」

傘を回していた手を止め、少し早めに歩きだした。
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