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第03話 兄の大失態
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見送ってくれるのはラーベ子爵家の従者のみ。
それまでは何人かの女性使用人も見送ってくれたし、馬車に乗り込むにも手助けをしてくれたものだが、こうも扱いは変わるのだなとファウスティーナは来る時には使わずに済んだが、玄関から出てアプローチの先端から滴る水滴に「持ってきて良かった」と傘をさした。
サーサーと降り出した雨の中、1人で傘をさし玄関から門まで、かつてラーベ子爵夫人と共に植えた花に見送られながら歩き、門を出てからは家までの道のりを歩いた。
伯爵令嬢ともあろうものが従者も連れず、徒歩。それだけでもあり得ないのだがファウスティーナに限ってはそんな常識の範疇外にその存在があった。
ルフィード伯爵家と言えば裕福とは言えなくても借金もなく健全な経営をしている家で、領民の信頼も厚くごく一般的な貴族だったのだが、ファウスティーナの兄ニコライがとんでもない事をしでかしてしまい、世間の評価も資産も一夜にして失ってしまった。
何をしたかと言えば、コシュアン国の王女がマガリン王国を挟んだ反対側の隣国チュブアン王国に留学をしていたのだが、期間を終えてコシュアン国への帰国の途中でマガリン王国に数日滞在をした。
その王女はゆくゆくはコシュアン国を統べる女王になる事が決まっていて、国賓の扱いを受けていたのだがそこで兄のニコライがやらかしてしまった。
何を思ったのか2年ほど前から兄のニコライだけでなく数人の高位貴族の子息と第1王子はビルギッタという平民の女性に傾倒してしまっており、遠い国の王が周囲に女性を侍らせるハーレムのような「逆ハーレム」状態となっていた。
幸いにも第1王子には婚約者がいなかったから良かったものの、いれば大騒ぎになっただろう。
例の如く庭でビルギッタを囲んで茶会をしようと一行が歩いてきたところに向かいからコシュアン国の王女が第2王子に案内をされて回廊を歩いて来た。
事もあろうかニコライは「こちらには第1王子殿下がいらっしゃるのだ」と第2王子だけでもその発言は大問題なのにコシュアン国の王女に向かって「引け!道を開けろ」と言い放ってしまった。
当然、大問題になる。
コシュアン国を怒らせてしまえばただでさえマガリン王国とチュブアン王国は仲が宜しくない。毎度毎度国境線はここだ!とお互いの決めたラインを主張する領土問題を抱えていた。
それを取り持ってくれていたのがコシュアン王国。
王女は「よろしいわ。こちらが引けばよろしいのね?」と薄く笑い、帰国後、それまで仲介役に入ってくれていた立場も引いてしまったのだ。
そうなればチュブアン王国は遠慮なく侵攻してきてしまった。
国境を守る兵士は突然奇襲をかけて来たチュブアン王国の軍隊にあっという間に制圧され、マガリン王国の領土は少し小さくなった。
王家としては第1王子の放蕩ぶりは以前から問題視されていたにも関わらず放置していたとして王家所有の財産からコシュアン王国への迷惑料全てを負担する事が議会で可決された。
第1王子は責任を取らされて王子である身分は剥奪となり、その血を悪用されてはかなわないと生涯王宮の北にある塔に幽閉となった。北の塔に入れば翌日には出てくることができるのだが反対するのは第1王子だけだった。
翌日の夕方、夜のうちに毒杯を賜った元王子は十分な観察時間を置いて物言わぬ骸となった事を確認されて塔から運び出された。
ビルギッタもニコライもその場にいた子息はコシュアン王国に侘びの意味もあっただろう。公開で絞首刑となりその亡骸も重罪を犯した者達と共にごちゃ混ぜにされてしまった。
当人が責任を取るだけでは済まずに、公爵家、侯爵家の子息の家は領地を何カ所か没収された。ルフィード伯爵家も例外ではないのだが王女に向かって直接言葉を吐いたのがニコライだった事もあり、ルフィード伯爵家に残ったのは爵位だけになった。
それが7カ月前の事だった。
それまでは何人かの女性使用人も見送ってくれたし、馬車に乗り込むにも手助けをしてくれたものだが、こうも扱いは変わるのだなとファウスティーナは来る時には使わずに済んだが、玄関から出てアプローチの先端から滴る水滴に「持ってきて良かった」と傘をさした。
サーサーと降り出した雨の中、1人で傘をさし玄関から門まで、かつてラーベ子爵夫人と共に植えた花に見送られながら歩き、門を出てからは家までの道のりを歩いた。
伯爵令嬢ともあろうものが従者も連れず、徒歩。それだけでもあり得ないのだがファウスティーナに限ってはそんな常識の範疇外にその存在があった。
ルフィード伯爵家と言えば裕福とは言えなくても借金もなく健全な経営をしている家で、領民の信頼も厚くごく一般的な貴族だったのだが、ファウスティーナの兄ニコライがとんでもない事をしでかしてしまい、世間の評価も資産も一夜にして失ってしまった。
何をしたかと言えば、コシュアン国の王女がマガリン王国を挟んだ反対側の隣国チュブアン王国に留学をしていたのだが、期間を終えてコシュアン国への帰国の途中でマガリン王国に数日滞在をした。
その王女はゆくゆくはコシュアン国を統べる女王になる事が決まっていて、国賓の扱いを受けていたのだがそこで兄のニコライがやらかしてしまった。
何を思ったのか2年ほど前から兄のニコライだけでなく数人の高位貴族の子息と第1王子はビルギッタという平民の女性に傾倒してしまっており、遠い国の王が周囲に女性を侍らせるハーレムのような「逆ハーレム」状態となっていた。
幸いにも第1王子には婚約者がいなかったから良かったものの、いれば大騒ぎになっただろう。
例の如く庭でビルギッタを囲んで茶会をしようと一行が歩いてきたところに向かいからコシュアン国の王女が第2王子に案内をされて回廊を歩いて来た。
事もあろうかニコライは「こちらには第1王子殿下がいらっしゃるのだ」と第2王子だけでもその発言は大問題なのにコシュアン国の王女に向かって「引け!道を開けろ」と言い放ってしまった。
当然、大問題になる。
コシュアン国を怒らせてしまえばただでさえマガリン王国とチュブアン王国は仲が宜しくない。毎度毎度国境線はここだ!とお互いの決めたラインを主張する領土問題を抱えていた。
それを取り持ってくれていたのがコシュアン王国。
王女は「よろしいわ。こちらが引けばよろしいのね?」と薄く笑い、帰国後、それまで仲介役に入ってくれていた立場も引いてしまったのだ。
そうなればチュブアン王国は遠慮なく侵攻してきてしまった。
国境を守る兵士は突然奇襲をかけて来たチュブアン王国の軍隊にあっという間に制圧され、マガリン王国の領土は少し小さくなった。
王家としては第1王子の放蕩ぶりは以前から問題視されていたにも関わらず放置していたとして王家所有の財産からコシュアン王国への迷惑料全てを負担する事が議会で可決された。
第1王子は責任を取らされて王子である身分は剥奪となり、その血を悪用されてはかなわないと生涯王宮の北にある塔に幽閉となった。北の塔に入れば翌日には出てくることができるのだが反対するのは第1王子だけだった。
翌日の夕方、夜のうちに毒杯を賜った元王子は十分な観察時間を置いて物言わぬ骸となった事を確認されて塔から運び出された。
ビルギッタもニコライもその場にいた子息はコシュアン王国に侘びの意味もあっただろう。公開で絞首刑となりその亡骸も重罪を犯した者達と共にごちゃ混ぜにされてしまった。
当人が責任を取るだけでは済まずに、公爵家、侯爵家の子息の家は領地を何カ所か没収された。ルフィード伯爵家も例外ではないのだが王女に向かって直接言葉を吐いたのがニコライだった事もあり、ルフィード伯爵家に残ったのは爵位だけになった。
それが7カ月前の事だった。
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