好きなのはあなただけじゃない

cyaru

文字の大きさ
上 下
3 / 34

第03話   兄の大失態

しおりを挟む
見送ってくれるのはラーベ子爵家の従者のみ。
それまでは何人かの女性使用人も見送ってくれたし、馬車に乗り込むにも手助けをしてくれたものだが、こうも扱いは変わるのだなとファウスティーナは来る時には使わずに済んだが、玄関から出てアプローチの先端から滴る水滴に「持ってきて良かった」と傘をさした。

サーサーと降り出した雨の中、1人で傘をさし玄関から門まで、かつてラーベ子爵夫人と共に植えた花に見送られながら歩き、門を出てからは家までの道のりを歩いた。

伯爵令嬢ともあろうものが従者も連れず、徒歩。それだけでもあり得ないのだがファウスティーナに限ってはそんな常識の範疇外にその存在があった。

ルフィード伯爵家と言えば裕福とは言えなくても借金もなく健全な経営をしている家で、領民の信頼も厚くごく一般的な貴族だったのだが、ファウスティーナの兄ニコライがとんでもない事をしでかしてしまい、世間の評価も資産も一夜にして失ってしまった。

何をしたかと言えば、コシュアン国の王女がマガリン王国を挟んだ反対側の隣国チュブアン王国に留学をしていたのだが、期間を終えてコシュアン国への帰国の途中でマガリン王国に数日滞在をした。

その王女はゆくゆくはコシュアン国を統べる女王になる事が決まっていて、国賓の扱いを受けていたのだがそこで兄のニコライがやらかしてしまった。


何を思ったのか2年ほど前から兄のニコライだけでなく数人の高位貴族の子息と第1王子はビルギッタという平民の女性に傾倒してしまっており、遠い国の王が周囲に女性を侍らせるハーレムのような「逆ハーレム」状態となっていた。
幸いにも第1王子には婚約者がいなかったから良かったものの、いれば大騒ぎになっただろう。

例の如く庭でビルギッタを囲んで茶会をしようと一行が歩いてきたところに向かいからコシュアン国の王女が第2王子に案内をされて回廊を歩いて来た。

事もあろうかニコライは「こちらには第1王子殿下がいらっしゃるのだ」と第2王子だけでもその発言は大問題なのにコシュアン国の王女に向かって「引け!道を開けろ」と言い放ってしまった。

当然、大問題になる。

コシュアン国を怒らせてしまえばただでさえマガリン王国とチュブアン王国は仲が宜しくない。毎度毎度国境線はここだ!とお互いの決めたラインを主張する領土問題を抱えていた。
それを取り持ってくれていたのがコシュアン王国。

王女は「よろしいわ。こちらがばよろしいのね?」と薄く笑い、帰国後、それまで仲介役に入ってくれていた立場も引いてしまったのだ。

そうなればチュブアン王国は遠慮なく侵攻してきてしまった。
国境を守る兵士は突然奇襲をかけて来たチュブアン王国の軍隊にあっという間に制圧され、マガリン王国の領土は少し小さくなった。

王家としては第1王子の放蕩ぶりは以前から問題視されていたにも関わらず放置していたとして王家所有の財産からコシュアン王国への迷惑料全てを負担する事が議会で可決された。

第1王子は責任を取らされて王子である身分は剥奪となり、その血を悪用されてはかなわないと生涯王宮の北にある塔に幽閉となった。北の塔に入れば翌日には出てくることができるのだが反対するのは第1王子だけだった。
翌日の夕方、夜のうちに毒杯を賜った元王子は十分な観察時間を置いて物言わぬ骸となった事を確認されて塔から運び出された。

ビルギッタもニコライもその場にいた子息はコシュアン王国に侘びの意味もあっただろう。公開で絞首刑となりその亡骸も重罪を犯した者達と共にごちゃ混ぜにされてしまった。

当人が責任を取るだけでは済まずに、公爵家、侯爵家の子息の家は領地を何カ所か没収された。ルフィード伯爵家も例外ではないのだが王女に向かって直接言葉を吐いたのがニコライだった事もあり、ルフィード伯爵家に残ったのは爵位だけになった。

それが7カ月前の事だった。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...