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本編
第28話 デヴュタントの招待状
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本来なら修正をした帝国行きで13歳のデヴュタントには出席しなくて済むようにと考えていたのだが、どうやらそうも言っていられなくなった。
裁判院にも不服申し立てをしたのだが、受付こそしてもらえたものの裁判院も暇ではないのでここで行なうべきかの事前審査は当然される。事前の審査で調停も公判も不要と突き返されてしまったのだ。
私の申し立ては「先ずは所定の官庁に次第を問い、その結果話し合いを設けてそれでも解決をしなければ」と突き返されたため、代弁士を雇い裁判院の言う通り何度目かの次第を問い、「上の者と話をしてくれ」と投げられ、彼らの言う「上の者」に面会を求めれば「窓口で何が悪かったかを先ず聞け」と戻される。
結局タライマワシ状態となったのだ。
「出国は無理なのかしら」
「お嬢様、諦めてはダメです。こう言っては・・・なんですが王族のどなたかにご相談をされてみては如何でしょう」
確かにそれが一番早い方法だと判るのだが「誰に」となればこれまた問題が起きる。
頻繁に届くエドゥアールからの贈り物。
私はなんだかんだと理由を付けてデヴュタント前だからと茶会も、見知った者だけの夜会も欠席してきた。
しかし、貴族の中には「我が家には王家の方が来て下さる」というステイタス欲しさに王族を招く事があり、そのなかでもエドゥアールは「短時間で良ければ」と顔を出してくれる上に「お足代」も少なくて済むと招く貴族が多かった。
上は侯爵家から下は平民の商会が行う小さなパーティーにもエドゥアールは顔を出す。そして婚約者とは言わないが、「公爵家のご令嬢に手を出すな」と牽制をするのだ。
迷惑な話で公爵家で婚約者がいない令嬢は私の他にもう1人。
そのもう1人は3家ある公爵家で一番力のあるエルマス公爵家の女児フェアリム。生後2か月だ。
そうなるとエドゥアールが誰の事を指しているのか。判らない者など誰もいない。
2年ほど前まではアーグセット公爵家の当主カサエルが結婚を申し込んだはずだと口にするものがいたのだが今でっはすっかりそんな事を言う者はいなくなった。
何故ならカサエルがその少し前、2年半ほど前だろうか。
何処かに出掛けた帰りに暴漢に襲われて、馬車が全焼。火だるまになったもののなんとか一命は取り止めたが顔の殆どを火傷。熱で喉も痛めたようで声も出せない状態と聞く。
見た目を気にする者が多く、今では包帯公爵と呼ばれ屋敷を訪れるものも少ないうえ、当人は社交を一切行わなくなった。
1度目の人生であればエドゥアールの側近だったし見舞いにも行っただろう。しかし2度目の今はと言えば個人的感情で言えば行きたくないし、行くとすれば年齢からして私は除外される。
一度は融資の話と婚約の話もあり、僅かだが借りた金もあったようで両親が見舞いには行ったが当人には会えなかったと言う。
エリカ様がどうなったのだろうかと考えたこともあったが、私が考えてどうなるものでもない。
そして届いた封筒の対角線上を指先で止めて息を吹きかけてクルクルと回す。
「この中身が出国許可証ならどんなに嬉しい事かしら」
「お嬢様。この封筒も届くのは生涯一度きりで御座います。少し前まではこの日にはもうお嬢様が帝国にいらっしゃるのだとタチアナは寂しくも思いましたが!!とびっきり可愛くして差し上げますよ」
「いいわよ。ダンスだってお父様とでしょう?面倒だわ」
「ではザウェル坊ちゃまにお願いすればどうでしょう」
「お兄様と?お兄様は領地に居らっしゃるしこんな事の為に呼び戻すなんて」
「こんな事っ?!お嬢様!一生に一度のデヴュタントなのですよ」
そう。喉から手が出るほど欲しい手紙は届かないのに、煩わしい贈り物と不幸の手紙のような招待状だけはきっちりと届く。
伯爵位までは全員に届くがそれ以下の爵位は任意の抽選。
招待状が届いた言えば毎日がお祭り状態だと聞くが、私は喪に服しているようなもの。
母までその日の為にと白の中でも更に白を際立たせたドレスを誂えて興奮している。
「見て。ティナ。最高級品よ」
「勿体ない。たった1日の為に。領民の汗を何だと思っているんです」
「その1日の為に領民も働くの。さぁ袖を通してみて」
「当日でいいですわ」
「何を言ってるの!わたくしだってここまでの品は着る事も出来なかったのよ」
「ならお母様に差し上げるわ。当日もお母様がそれを着て出席してくださると嬉しいわ。きっとお似合いよ」
「ティナッ!」
流石にこれは嫌味だと判ったようだ。
自分磨きを怠らない母は実年齢よりも若く見られると自慢しているが私には年相応にしか見えない。
ほぼレースの純白のいかにもデヴュタントです!なんてドレスは無理があり過ぎる。
私も1度目のデヴュタントは父の後、婚約者だったエドゥアールと踊り大人の仲間入りになるのだと胸を膨らませたが、2度目となればどうでもいい。
夫に先立たれた寡婦が2人目の夫との結婚式はしたくないという感情に近いかも知れない。
が、このデヴュタントの会場がとんでもない阿鼻叫喚の場になるとは誰も考えなかっただろう。私もここまであの黄色いリボンから始まった変化が影響を齎しているとは思わなかったのだから。
裁判院にも不服申し立てをしたのだが、受付こそしてもらえたものの裁判院も暇ではないのでここで行なうべきかの事前審査は当然される。事前の審査で調停も公判も不要と突き返されてしまったのだ。
私の申し立ては「先ずは所定の官庁に次第を問い、その結果話し合いを設けてそれでも解決をしなければ」と突き返されたため、代弁士を雇い裁判院の言う通り何度目かの次第を問い、「上の者と話をしてくれ」と投げられ、彼らの言う「上の者」に面会を求めれば「窓口で何が悪かったかを先ず聞け」と戻される。
結局タライマワシ状態となったのだ。
「出国は無理なのかしら」
「お嬢様、諦めてはダメです。こう言っては・・・なんですが王族のどなたかにご相談をされてみては如何でしょう」
確かにそれが一番早い方法だと判るのだが「誰に」となればこれまた問題が起きる。
頻繁に届くエドゥアールからの贈り物。
私はなんだかんだと理由を付けてデヴュタント前だからと茶会も、見知った者だけの夜会も欠席してきた。
しかし、貴族の中には「我が家には王家の方が来て下さる」というステイタス欲しさに王族を招く事があり、そのなかでもエドゥアールは「短時間で良ければ」と顔を出してくれる上に「お足代」も少なくて済むと招く貴族が多かった。
上は侯爵家から下は平民の商会が行う小さなパーティーにもエドゥアールは顔を出す。そして婚約者とは言わないが、「公爵家のご令嬢に手を出すな」と牽制をするのだ。
迷惑な話で公爵家で婚約者がいない令嬢は私の他にもう1人。
そのもう1人は3家ある公爵家で一番力のあるエルマス公爵家の女児フェアリム。生後2か月だ。
そうなるとエドゥアールが誰の事を指しているのか。判らない者など誰もいない。
2年ほど前まではアーグセット公爵家の当主カサエルが結婚を申し込んだはずだと口にするものがいたのだが今でっはすっかりそんな事を言う者はいなくなった。
何故ならカサエルがその少し前、2年半ほど前だろうか。
何処かに出掛けた帰りに暴漢に襲われて、馬車が全焼。火だるまになったもののなんとか一命は取り止めたが顔の殆どを火傷。熱で喉も痛めたようで声も出せない状態と聞く。
見た目を気にする者が多く、今では包帯公爵と呼ばれ屋敷を訪れるものも少ないうえ、当人は社交を一切行わなくなった。
1度目の人生であればエドゥアールの側近だったし見舞いにも行っただろう。しかし2度目の今はと言えば個人的感情で言えば行きたくないし、行くとすれば年齢からして私は除外される。
一度は融資の話と婚約の話もあり、僅かだが借りた金もあったようで両親が見舞いには行ったが当人には会えなかったと言う。
エリカ様がどうなったのだろうかと考えたこともあったが、私が考えてどうなるものでもない。
そして届いた封筒の対角線上を指先で止めて息を吹きかけてクルクルと回す。
「この中身が出国許可証ならどんなに嬉しい事かしら」
「お嬢様。この封筒も届くのは生涯一度きりで御座います。少し前まではこの日にはもうお嬢様が帝国にいらっしゃるのだとタチアナは寂しくも思いましたが!!とびっきり可愛くして差し上げますよ」
「いいわよ。ダンスだってお父様とでしょう?面倒だわ」
「ではザウェル坊ちゃまにお願いすればどうでしょう」
「お兄様と?お兄様は領地に居らっしゃるしこんな事の為に呼び戻すなんて」
「こんな事っ?!お嬢様!一生に一度のデヴュタントなのですよ」
そう。喉から手が出るほど欲しい手紙は届かないのに、煩わしい贈り物と不幸の手紙のような招待状だけはきっちりと届く。
伯爵位までは全員に届くがそれ以下の爵位は任意の抽選。
招待状が届いた言えば毎日がお祭り状態だと聞くが、私は喪に服しているようなもの。
母までその日の為にと白の中でも更に白を際立たせたドレスを誂えて興奮している。
「見て。ティナ。最高級品よ」
「勿体ない。たった1日の為に。領民の汗を何だと思っているんです」
「その1日の為に領民も働くの。さぁ袖を通してみて」
「当日でいいですわ」
「何を言ってるの!わたくしだってここまでの品は着る事も出来なかったのよ」
「ならお母様に差し上げるわ。当日もお母様がそれを着て出席してくださると嬉しいわ。きっとお似合いよ」
「ティナッ!」
流石にこれは嫌味だと判ったようだ。
自分磨きを怠らない母は実年齢よりも若く見られると自慢しているが私には年相応にしか見えない。
ほぼレースの純白のいかにもデヴュタントです!なんてドレスは無理があり過ぎる。
私も1度目のデヴュタントは父の後、婚約者だったエドゥアールと踊り大人の仲間入りになるのだと胸を膨らませたが、2度目となればどうでもいい。
夫に先立たれた寡婦が2人目の夫との結婚式はしたくないという感情に近いかも知れない。
が、このデヴュタントの会場がとんでもない阿鼻叫喚の場になるとは誰も考えなかっただろう。私もここまであの黄色いリボンから始まった変化が影響を齎しているとは思わなかったのだから。
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