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本編
第22話 子爵の叔父様とトラップ
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ラザール侯爵家の外郭を囲う高く、長い重厚な塀。
前の人生ではエドゥアールの武の側近だったリシャールがエドゥアールやカサエルとは一切接点を持たず西国の騎士団に入団した事は私も調べて知っていた。
勿論事実かどうかの確認も済んでいる。
話では小隊を任されていると言う事だったが、本当に人の口というのは都合の良い言葉を吐きだすもので正確には小隊の中で区分けされた5~8人の班の長になったというだけだ。
年齢もカサエルと同じ22歳。隊長を任されるには「最年少」と言えど若すぎる。
西国は士官学校を卒業すればエリートコースからスタートするが士官学校の卒業は飛び石をしても23歳なのだからたたき上げがそんな出世をしていたら誰も15年制の士官学校になど行きはしない。
小隊の中にいる長であり人数に触れなければ複数の隊員を纏めているのも嘘ではない。人がどうその言葉を捉えるか都合のいい錯誤を狙った言葉。
何代も国境線を前進後退とさせてきた侯爵家。剣と同様に言葉も巧みに操って来ただけはある。
尤も、私が調べて直ぐに解るくらいなのだから、人の話だけを鵜呑みにしている貴族も手間が省けた分だけ注意力も欠落しているのだろう。
それはそうと、少し通り過ぎてしまったけれど騎乗した兵士はこちらに向かって馬を進めてくれたおかげで馬車から下りずに窓を開けて話が出来るのは有難い。
なんせ今の年齢は10歳。騎乗した兵士と話をするには余りにも身長差があり過ぎる。
失礼かも知れないが、馬車の中からなら目線は合うのだ。
「こんな所まで、と言いたいところですがアーグセット公爵家の茶会でしたかね」
「あら、ご存じでしたの?伊達に頭の両脇に地獄耳を付けているわけではないのですわね」
「そっちこそ毒よりもキツい毒舌。食事の度に毒の中和も大変だな」
彼はブルゾック子爵。父の実弟であり末弟、私の叔父になる。
父の兄弟姉妹最後にベルセル侯爵家に生まれて一番先に後継になる事を放棄した変わり者だ。
年齢もカサエルやリシャールと同じ22歳。
前の人生では関わる事はなかったが、講師との講義で新しい仮説を立てて検証する中で「臨死」と言うものを研究している先駆者として紹介され、まさかの親族に驚いた事だった。
年齢は若いが、ブルゾック子爵も異世界人には強い興味を持っていて早々に後継になる事を放棄したのもその研究に没頭したいからだった。ちなみに「後継にはなりません」と公言したのが11歳だ。
6、7歳の時に大病を患い、生と死の境を彷徨ったからか治癒してからは研究一筋。
「ラザール侯爵家に何か御用で?」
「帰り道なだけですわ。叔父様こそ何故ここに?」
「リシャール殿に会うためだ」
「え・・・ですがリシャール様は・・・」
「西国にいる‥‥事になっているよ」
「えっ?!」
してやられた!私も烏合の衆に過ぎなかったのだ。
調べもせずに言葉を鵜呑みにする者と、調べたんだからとそれが事実だと信じてしまった私も同じ穴の狢だ。「なんだ、この程度か」とラザール侯爵家を甘く見ていた。
そう、戦など実際に剣を交えることはあっても実行部隊が辺境伯、侯爵家はその戦略を立てる頭脳戦を展開するのが役割なのだ。
2重、3重にトラップがあって当たり前だったのに。
この5年間、両親を防波堤にし、さしたる問題も起きなかったので何処か気の弛みもあったのだ。
叔父のブルゾック子爵はあっけらかんと明かしたが誰彼構わずにラザール侯爵家が秘匿している事実を公言する人ではない。息をするように私に事実を告げるにはそれなりの理由がある。
「リシャール様はお屋敷にいらっしゃると?」
「いいや?ここに居たらとっくに嘘もバレているよ。侯爵家はそこまで馬鹿じゃない」
「では、何故?リシャール様に会うためと・・・」
「あとで屋敷に伺うよ。兄上たちがアーグセット公爵家の茶会で留守、そしてここで出会う・・・時が来たという事でもあるだろうからね」
証明の難しい空想とも言える世界を研究しているからかつかみどころのない叔父様だ。
先に私の馬車が、少し遅れて叔父様が騎乗しベルセル家の門をくぐる。
ベルセル家も全てが安全な訳ではない。
叔父様を部屋に招いた私はタチアナに暖炉に火を入れるよう頼んだ。
「そこまで寒くは御座いませんが・・・承知しました」
その間に私は紙とペンを用意し、叔父様に「筆談で」と笑顔を向ける。
最後に灰にしてしまえば言った言わないの水掛け論にしかならないのだから筆談は便利な話術なのだ。
前の人生ではエドゥアールの武の側近だったリシャールがエドゥアールやカサエルとは一切接点を持たず西国の騎士団に入団した事は私も調べて知っていた。
勿論事実かどうかの確認も済んでいる。
話では小隊を任されていると言う事だったが、本当に人の口というのは都合の良い言葉を吐きだすもので正確には小隊の中で区分けされた5~8人の班の長になったというだけだ。
年齢もカサエルと同じ22歳。隊長を任されるには「最年少」と言えど若すぎる。
西国は士官学校を卒業すればエリートコースからスタートするが士官学校の卒業は飛び石をしても23歳なのだからたたき上げがそんな出世をしていたら誰も15年制の士官学校になど行きはしない。
小隊の中にいる長であり人数に触れなければ複数の隊員を纏めているのも嘘ではない。人がどうその言葉を捉えるか都合のいい錯誤を狙った言葉。
何代も国境線を前進後退とさせてきた侯爵家。剣と同様に言葉も巧みに操って来ただけはある。
尤も、私が調べて直ぐに解るくらいなのだから、人の話だけを鵜呑みにしている貴族も手間が省けた分だけ注意力も欠落しているのだろう。
それはそうと、少し通り過ぎてしまったけれど騎乗した兵士はこちらに向かって馬を進めてくれたおかげで馬車から下りずに窓を開けて話が出来るのは有難い。
なんせ今の年齢は10歳。騎乗した兵士と話をするには余りにも身長差があり過ぎる。
失礼かも知れないが、馬車の中からなら目線は合うのだ。
「こんな所まで、と言いたいところですがアーグセット公爵家の茶会でしたかね」
「あら、ご存じでしたの?伊達に頭の両脇に地獄耳を付けているわけではないのですわね」
「そっちこそ毒よりもキツい毒舌。食事の度に毒の中和も大変だな」
彼はブルゾック子爵。父の実弟であり末弟、私の叔父になる。
父の兄弟姉妹最後にベルセル侯爵家に生まれて一番先に後継になる事を放棄した変わり者だ。
年齢もカサエルやリシャールと同じ22歳。
前の人生では関わる事はなかったが、講師との講義で新しい仮説を立てて検証する中で「臨死」と言うものを研究している先駆者として紹介され、まさかの親族に驚いた事だった。
年齢は若いが、ブルゾック子爵も異世界人には強い興味を持っていて早々に後継になる事を放棄したのもその研究に没頭したいからだった。ちなみに「後継にはなりません」と公言したのが11歳だ。
6、7歳の時に大病を患い、生と死の境を彷徨ったからか治癒してからは研究一筋。
「ラザール侯爵家に何か御用で?」
「帰り道なだけですわ。叔父様こそ何故ここに?」
「リシャール殿に会うためだ」
「え・・・ですがリシャール様は・・・」
「西国にいる‥‥事になっているよ」
「えっ?!」
してやられた!私も烏合の衆に過ぎなかったのだ。
調べもせずに言葉を鵜呑みにする者と、調べたんだからとそれが事実だと信じてしまった私も同じ穴の狢だ。「なんだ、この程度か」とラザール侯爵家を甘く見ていた。
そう、戦など実際に剣を交えることはあっても実行部隊が辺境伯、侯爵家はその戦略を立てる頭脳戦を展開するのが役割なのだ。
2重、3重にトラップがあって当たり前だったのに。
この5年間、両親を防波堤にし、さしたる問題も起きなかったので何処か気の弛みもあったのだ。
叔父のブルゾック子爵はあっけらかんと明かしたが誰彼構わずにラザール侯爵家が秘匿している事実を公言する人ではない。息をするように私に事実を告げるにはそれなりの理由がある。
「リシャール様はお屋敷にいらっしゃると?」
「いいや?ここに居たらとっくに嘘もバレているよ。侯爵家はそこまで馬鹿じゃない」
「では、何故?リシャール様に会うためと・・・」
「あとで屋敷に伺うよ。兄上たちがアーグセット公爵家の茶会で留守、そしてここで出会う・・・時が来たという事でもあるだろうからね」
証明の難しい空想とも言える世界を研究しているからかつかみどころのない叔父様だ。
先に私の馬車が、少し遅れて叔父様が騎乗しベルセル家の門をくぐる。
ベルセル家も全てが安全な訳ではない。
叔父様を部屋に招いた私はタチアナに暖炉に火を入れるよう頼んだ。
「そこまで寒くは御座いませんが・・・承知しました」
その間に私は紙とペンを用意し、叔父様に「筆談で」と笑顔を向ける。
最後に灰にしてしまえば言った言わないの水掛け論にしかならないのだから筆談は便利な話術なのだ。
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