貴方は好きになさればよろしいのです。

cyaru

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本編

エリカ様観察日記~とある文官の忘備録~

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彼女の名前はエリカ。年齢は15歳。
姓は「忘れちゃったぁ」と少々イタい方のようだ。

異世界から来たと言う通り、身に纏っている衣類や僅かな手荷物も我々の世界の物とは違っていた。


「やだ!あたしのっ!エリたんのブレザー返してよ!」

エリたん。とな。

やはりイタい。
幼子が自分の名前を「私」「僕」の代わりに使う事はあってもその年齢になると恥ずかしさを知り、せいぜい家族の前でしか ”たん” を付けて呼ぶ事はない。

呼称は右から左に受け流すが、誰かにこの日記が後世、目に触れた時の為に「氏」を加えることにする。

ブレザー。

つまり上着であることは理解できるが家紋のような模様が胸元にあり「校章」だと言う。
校章とは何かと問えば、エリたん氏のいた世界では7歳になる年齢からは小学校という6年間の教育を受け、それが終われば次の3年間は中学校で学ぶと言う。

その後は高校というこれまた学問を学ぶ場に3年。但し中学校と違って全員が希望すれば学べるわけではなく選抜試験があり、さらに学びたければ大学、大学院、そして専門学校とあるのだと言う。

こちらでは騎士が登用されるのに試験はあるが、婦女子が試験を受ける事などない。

12年間も学業を専攻するのならさぞかし・・・と思えば、高校は「お金があれば入れる学校はいっぱいある」そうで「ママは心配ないってぇ。てへっ♡」舌を上唇にちょこんとあてたエリたん氏ポースをキメられた。

可愛いのか、かっこいいのか。判別は不可能だった。

持ち物も変わっていて「スマホ」という硝子盤のようなものを持っていて「充電させてよ」というのだがそもそもで「充電」の意味が解らない。

エリたん氏が言うにはスマホで全て解決出来るそうで、買い物をする際も「チャージ」と、どうやらスマホというものに金が入っているらしいが、壊しても金は出て来ないと言うし財布だけど財布ではないとこれまた不思議な事を言う。

時折、理解が追いつかない言葉を話すエリたん氏に誰もが次の言葉に聞き入ったが、大半は直ぐに離れて行った。話す内容に中身が無いのだ。

その「スマホ」とやらも構造はまるで判っていないようで「アプリ」というものを「タップ」すれば良いと言うのだがタップと言えばこちらでは「かかと」を打ち鳴らすダンスの1つ。

しかし足ではなく指先だと言い、真っ黒いままの硝子盤に「タップ」をされても変化はなくエリたん氏のを見る機会には恵まれなかった。

「アプリ」は色々あると言うが「便利なものなの!」というだけで、こちらも何がどう便利なのか判らない。

「えぇ~。知らないとかぁ・・・なくなぁい?」

知らないから聞いているのだが、エリたん氏は知らないとこちらを小馬鹿にするものの詳細は語らない、いや、語れないのだと理解は出来た。

ちなみに語尾を上げて発音するのが正しいらしく我々の常識ともやはり違う異世界人だと認識させられる。


「スマホ」とやらも「帰ったら機種変するし、要らない」というので何とか鍛冶屋などに頼んで分解をしてみればこれまた中身はサッパリ判らない。

エリたん氏に問うてみれば「お店に聞くか、作った人に聞け」という返事。
そのお店も作った人もこちらには判らない。つまりは手詰まりだという事だ。

結局、手にしていた品で用途が判別出来たのは化粧品だけだった。
その化粧品もエリたん氏がいうのは「プチプラ」つまり・・・プチプライス。安価で購入できるものではないそうだが資金は「パパ活」をすれば手に入ると自慢げに語られた。

パパ活とは年配男性と遊べばいいと言うが我々には娼婦との違いが判らなかった。

物珍しさもあるし、令嬢達もエリたん氏の元には訪れたが1カ月もすれば誰も行かなくなった。エリたん氏の美意識は高いようだが、どうにも付いていけないのだ。

ドレスを身に纏う令嬢はそれがお洒落でもあるがマナーだと教えられているけれどエリたん氏の美意識や価値観は違う。下着というものが無い事を笑われ「恥ずかしくない?ないわー」と揶揄される。

ちなみに【なくない】は語尾を上げるが【ないわー】の音階は同じだ。


見せ下着というものがあるそうで、それを装着したエリたん氏はどのような姿勢でも見せ下着が見える位置までの裾丈で素足を股下から見せる。令嬢達には真似できない。

まるで営業中の娼婦のような恰好を強要されることや、パーソナルスペースに遠慮なく踏み込む距離感、衛生観念のない振る舞いに耐えられない者が続出した。


想像するだけでゾッとする。
茶を飲むだけでも椅子に足をあげ「ペディキュア持ってない?」と色のついた足の爪を散々触ったその手で菓子を掴み、頬張る。

「うっわ・・・不味っ。残りあげる」

と…渡されても遠慮しか出来ないだろう。

カチャカチャと音をたてて、大きな口を開けて咀嚼中でも話しかける。その辺りに口の中から物が吹き飛ぼうがお構いなしで不味ければ噛んでいる途中で皿に戻す。

クチャクチャと口の中の音を聞かされる茶会など何の拷問だろうか。

良く言えば自由奔放。悪く言えば不作法。
文献に残る異世界人と違いかなり特殊な分類をされるだろう。


しかし、蓼食う虫も好き好きという言葉があるがまさにその通りで第1王子エドゥアール殿下とカサエル殿はそんなエリたん氏に優しい目を向けエリたん氏の言葉に相槌を打つ。

王族や公爵家となればやはり住む世界が違うので異世界人が理解出来るのだろう。

差し出された菓子や、飲みかけのカップを何の抵抗もなく口に出来る2人を周囲は気持ちだけでなく物理で遠巻きに見る。勿論私も遠目に見る1人であるのは言うまでもない。
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