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会合への乱入者
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居並ぶ帝国の使節団。ハーパー大使を始めとして末席の補佐官も眼光が鋭い。
向かいのシリウスを中央に俯きがちな次官と文官が席を埋めていく。
表情を変えずにハーパー大使は口火を切る。
「では、昨日の報告をお願い出来ますかな」
シリウスはわずかな希望を持って両隣の次官の顔を盗み見るが「殿下、どうぞ」と言わんばかりに無言を貫く。シリウスは屈辱を感じながらも震える拳を握りしめた。
「も、申し訳ありません。輪転機の具合が良くなく資料をお渡し――」
「書面など必要はない。口頭で結構と昨日申し上げたはずだが」
「そっ…そうなのですが…担当がっ担当が過日より休暇を――」
「担当云々必要なし。責任者の貴方が!ご説明下さればよろしい」
万事休す。シリウスには打つ手がない。全てをアナスタシアに丸投げしやるものだと思っていたため今日の議題に上がる項目をさらりと斜め読みしたくらいである。
残念な事に、答えなければならない第三国の国名すら思い出せないのだ。
書面がなければ回避できるかと思えば口頭で良いと言う。そう言われても何の説明も出来ない。
アドリブすら出てこないのだ。
それでもこうなった責任は自分にはなく、次官や文官が余りにも無能すぎるのだとそれをハーパー大使に訴えようとしたが「もう結構」と一蹴されてしまった。
「本日の議題も条約更新はないと判断をさせて頂く」
「お、お待ちください。そちらは更新をお願いしますっ」
「シリウス殿、昨日と今日の議題。別物だとお考えなら大間違い。2つが揃ってなければ意味がない。それは我が帝国だけでなく貴国も同義。片方だけ都合よくというのはこちらも子供の使いで陛下の名代を賜っている訳ではない。愚弄するのであれば、開戦も辞さず…よろしいか」
今日の議題は【安全保障条約の更新】である。騎士団はいても隣国が攻めてくればひとたまりもない。交通の要所がある立場故に、過去にアナスタシアが帝国の関税を四半期は課税なし、残りを他国の25%とする事で、万が一の時は帝国の武力介入で守ってもらうというものだった。
昨日の議題と連動をしているのは、もしもの時に隣国から派兵をしていれば間に合わないので第11街道の整備と共に迂回路をもうけ、その迂回路に派兵する兵士たちの駐屯場も整備する事になっているのだ。
道の整備は昨日の議題、駐屯場の整備やそれにかかる費用の負担割合が今日の議題だ。
次官や文官たちは昨日の議題が出来上がっている事を前提に今日の条約更新、付随する負担割合については纏め上げてはいるが、相手があっての会合。こちらの言い分が全て通るわけではなく何処で折り合いをつけるか。それがシリウスの仕事でもあるのだ。
国王も王妃も帝国相手の折衝はアナスタシアに丸投げをした。
これとは切り離す事が出来る案件で気に入られ指名を受けているアナスタシアにこれ幸いと全てを丸投げして、王妃もそれがブーメランで帰ってきたが、帝国との折衝が必要なものは全てシリウスに投げる代わりに数か国の協議が必要なものを担当したのだ。
「お待ちくださいっ!き、休憩を!休憩を致しましょう」
「休憩?寝言を言われては困る。まだ始まって10分も経っておらんではありませんか」
「それは承知しています。1時間、いえ、30分でいいのです」
「10分ですな。我々も忙しい。身にならんのであれば早々に帰国せねばなりませんので」
「では15分!お願いしますっ」
「やれやれ」と呆れ顔の帝国側に了解をもらい15分の休憩に入る。
しかし、席を立つのはシリウスのみ。次官や文官は素知らぬ顔で資料に見入る。
シリウスは両隣の次官に「来てくれ」と小声を掛けるが、聞えぬふりをされてしまう。
ここで大声を出す事は出来ない。帝国側の次官はこれ見よがしに腕時計を見る。
「頼む。来てくれないか」シリウスの懇願する声に次官は面倒臭そうに席を立った。
ホッとしながらもそれで解決の糸口は見えない。シリウスは「自分の不手際で」と次官に謝罪させることを考えていた。次官もそんな事だろうと思ったからこそ聞こえないふりをしたのだ。
部屋から出るとシリウスは2人の次官に頼み込んだ。
「すまないが、お前たちの不手際という事で話をおさめてくれ」
「何を言ってるんです?それが通用するとでも?」
「そうですよ。話を聞いていましたか?責任者に口頭で!と言われてるんですよ」
「だから!その責任者は今からお前たちになったという事だ」
「そんなバカな話がありますか?なんのための殿下なのですか。我々の独断でそれをしてよいのならとっくにそうしていますよ。もう言わせて頂きますが殿下がいない方が仕事が捗るんです。アナスタシア様の時は本当にこんな事なかったですよ?むしろ我々の失態をその場で切り抜けて下さってました。責任転嫁された事など一度もありませんよ」
憤慨した次官2人は堰が決壊したのか、言いたい放題である。
思い切り殴り飛ばしたくもなるが、ここで殴れば責任を取る者がいなくなる。
怒りを堪えているところに「時間ですが」と声がかかった。
次官は何も言わずに入室していく。シリウスは最後に部屋に入った。
着席をし、横目で次官2人を交互に見る。「上手くやってくれよ」と思った時、ノックをする音がした。全員が扉の方を向いた。
「なんだ。会議中だぞ」
シリウスは扉を開けた衛兵を睨みつける。しかし衛兵は「どうぞ」と扉の向こうに声を掛けた。
王太子である自分の言葉を無視するとは!と叱りつけようとすると男が2人入って来た。
一人は自分とさほど変わらない年齢。もう一人はかなり若い。
誰だ?シリウスはその顔を見ても誰なのか判らなかったが、見知った顔ではない。
帝国側の人間か…遅れてくるとは‥
ガタン!ガタッ!!帝国側の人間が全員起立をし、敬礼をしている。
先ほどまで偉そうにしていたハーパー大使まで最上級の敬礼をしていた。
「楽にしてくれ。遅れたのは私だ」
「何処に座ればいいかな?こっち?」
2人は帝国側の中央に陣取った。それまで椅子に腰かけていた帝国側の全員は手を後ろに組んで直立不動の姿勢を取り、顔は文官ではなく武官の顔になっていた。
「シリウス殿、久しいな」
「え、と…はい?」
隣の次官は立ち上がり、頭を下げながらシリウスに小声で「帝国の皇帝陛下ですよ」と伝える。
「さして際立った何かがある顔ではない。4年前にみた程度なら忘れられて当然だろう。気にするなシリウス殿。微塵も感じるものはない」
「いえ、申し訳ございませんっ。ほ、本日はどのような…」
椅子を後ろに引き、長い足を組んで、片手で顎を支えるようにしながら皇帝グラディアスはシリウスを見てニヤリと笑った。隣に座るディレイドも口角をあげている。
「花を愛でに来たついでだ」
「花…で御座いますが…我が国にそんな花が…ありましたか」
「知らぬか?儚くも凛とした花を。どこぞの痴鈍に手折られてなぁ」
シリウス以外、その場にいるものは皇帝の言葉が何を指しているのかを悟る。
扉の向こうが騒がしくなった。皇帝が直々に来ているとの知らせに国王と王妃が全てを放り投げて来たのである。
「揃ったか」
「まだだよ~枯れかけた毒花がまだだと思うし」
「毒花?何の事です?」
ディレイドはシリウスの隣に座る次官をちょいちょいと手招きする。
顔を見合わせて次官は一礼し、前のめりになった。
「側妃のロザリア。ここに連れて来てよ」
「承知致しました」
次官が席を立つが、シリウスはその言葉が納得できなかった。
「失礼でしょう!帝国よりは小国ですが側妃を呼び捨てにするなど!」
ドンッ!!
グラディアスは足をテーブルの上に叩きつける様に置くと、足を組みなおした。
「呼んで来い‥‥と言っておるのだ。二度も言わすな」
圧倒的な威厳のある圧力にシリウスは蛇に、いや大蛇に睨まれた蛙だった。
向かいのシリウスを中央に俯きがちな次官と文官が席を埋めていく。
表情を変えずにハーパー大使は口火を切る。
「では、昨日の報告をお願い出来ますかな」
シリウスはわずかな希望を持って両隣の次官の顔を盗み見るが「殿下、どうぞ」と言わんばかりに無言を貫く。シリウスは屈辱を感じながらも震える拳を握りしめた。
「も、申し訳ありません。輪転機の具合が良くなく資料をお渡し――」
「書面など必要はない。口頭で結構と昨日申し上げたはずだが」
「そっ…そうなのですが…担当がっ担当が過日より休暇を――」
「担当云々必要なし。責任者の貴方が!ご説明下さればよろしい」
万事休す。シリウスには打つ手がない。全てをアナスタシアに丸投げしやるものだと思っていたため今日の議題に上がる項目をさらりと斜め読みしたくらいである。
残念な事に、答えなければならない第三国の国名すら思い出せないのだ。
書面がなければ回避できるかと思えば口頭で良いと言う。そう言われても何の説明も出来ない。
アドリブすら出てこないのだ。
それでもこうなった責任は自分にはなく、次官や文官が余りにも無能すぎるのだとそれをハーパー大使に訴えようとしたが「もう結構」と一蹴されてしまった。
「本日の議題も条約更新はないと判断をさせて頂く」
「お、お待ちください。そちらは更新をお願いしますっ」
「シリウス殿、昨日と今日の議題。別物だとお考えなら大間違い。2つが揃ってなければ意味がない。それは我が帝国だけでなく貴国も同義。片方だけ都合よくというのはこちらも子供の使いで陛下の名代を賜っている訳ではない。愚弄するのであれば、開戦も辞さず…よろしいか」
今日の議題は【安全保障条約の更新】である。騎士団はいても隣国が攻めてくればひとたまりもない。交通の要所がある立場故に、過去にアナスタシアが帝国の関税を四半期は課税なし、残りを他国の25%とする事で、万が一の時は帝国の武力介入で守ってもらうというものだった。
昨日の議題と連動をしているのは、もしもの時に隣国から派兵をしていれば間に合わないので第11街道の整備と共に迂回路をもうけ、その迂回路に派兵する兵士たちの駐屯場も整備する事になっているのだ。
道の整備は昨日の議題、駐屯場の整備やそれにかかる費用の負担割合が今日の議題だ。
次官や文官たちは昨日の議題が出来上がっている事を前提に今日の条約更新、付随する負担割合については纏め上げてはいるが、相手があっての会合。こちらの言い分が全て通るわけではなく何処で折り合いをつけるか。それがシリウスの仕事でもあるのだ。
国王も王妃も帝国相手の折衝はアナスタシアに丸投げをした。
これとは切り離す事が出来る案件で気に入られ指名を受けているアナスタシアにこれ幸いと全てを丸投げして、王妃もそれがブーメランで帰ってきたが、帝国との折衝が必要なものは全てシリウスに投げる代わりに数か国の協議が必要なものを担当したのだ。
「お待ちくださいっ!き、休憩を!休憩を致しましょう」
「休憩?寝言を言われては困る。まだ始まって10分も経っておらんではありませんか」
「それは承知しています。1時間、いえ、30分でいいのです」
「10分ですな。我々も忙しい。身にならんのであれば早々に帰国せねばなりませんので」
「では15分!お願いしますっ」
「やれやれ」と呆れ顔の帝国側に了解をもらい15分の休憩に入る。
しかし、席を立つのはシリウスのみ。次官や文官は素知らぬ顔で資料に見入る。
シリウスは両隣の次官に「来てくれ」と小声を掛けるが、聞えぬふりをされてしまう。
ここで大声を出す事は出来ない。帝国側の次官はこれ見よがしに腕時計を見る。
「頼む。来てくれないか」シリウスの懇願する声に次官は面倒臭そうに席を立った。
ホッとしながらもそれで解決の糸口は見えない。シリウスは「自分の不手際で」と次官に謝罪させることを考えていた。次官もそんな事だろうと思ったからこそ聞こえないふりをしたのだ。
部屋から出るとシリウスは2人の次官に頼み込んだ。
「すまないが、お前たちの不手際という事で話をおさめてくれ」
「何を言ってるんです?それが通用するとでも?」
「そうですよ。話を聞いていましたか?責任者に口頭で!と言われてるんですよ」
「だから!その責任者は今からお前たちになったという事だ」
「そんなバカな話がありますか?なんのための殿下なのですか。我々の独断でそれをしてよいのならとっくにそうしていますよ。もう言わせて頂きますが殿下がいない方が仕事が捗るんです。アナスタシア様の時は本当にこんな事なかったですよ?むしろ我々の失態をその場で切り抜けて下さってました。責任転嫁された事など一度もありませんよ」
憤慨した次官2人は堰が決壊したのか、言いたい放題である。
思い切り殴り飛ばしたくもなるが、ここで殴れば責任を取る者がいなくなる。
怒りを堪えているところに「時間ですが」と声がかかった。
次官は何も言わずに入室していく。シリウスは最後に部屋に入った。
着席をし、横目で次官2人を交互に見る。「上手くやってくれよ」と思った時、ノックをする音がした。全員が扉の方を向いた。
「なんだ。会議中だぞ」
シリウスは扉を開けた衛兵を睨みつける。しかし衛兵は「どうぞ」と扉の向こうに声を掛けた。
王太子である自分の言葉を無視するとは!と叱りつけようとすると男が2人入って来た。
一人は自分とさほど変わらない年齢。もう一人はかなり若い。
誰だ?シリウスはその顔を見ても誰なのか判らなかったが、見知った顔ではない。
帝国側の人間か…遅れてくるとは‥
ガタン!ガタッ!!帝国側の人間が全員起立をし、敬礼をしている。
先ほどまで偉そうにしていたハーパー大使まで最上級の敬礼をしていた。
「楽にしてくれ。遅れたのは私だ」
「何処に座ればいいかな?こっち?」
2人は帝国側の中央に陣取った。それまで椅子に腰かけていた帝国側の全員は手を後ろに組んで直立不動の姿勢を取り、顔は文官ではなく武官の顔になっていた。
「シリウス殿、久しいな」
「え、と…はい?」
隣の次官は立ち上がり、頭を下げながらシリウスに小声で「帝国の皇帝陛下ですよ」と伝える。
「さして際立った何かがある顔ではない。4年前にみた程度なら忘れられて当然だろう。気にするなシリウス殿。微塵も感じるものはない」
「いえ、申し訳ございませんっ。ほ、本日はどのような…」
椅子を後ろに引き、長い足を組んで、片手で顎を支えるようにしながら皇帝グラディアスはシリウスを見てニヤリと笑った。隣に座るディレイドも口角をあげている。
「花を愛でに来たついでだ」
「花…で御座いますが…我が国にそんな花が…ありましたか」
「知らぬか?儚くも凛とした花を。どこぞの痴鈍に手折られてなぁ」
シリウス以外、その場にいるものは皇帝の言葉が何を指しているのかを悟る。
扉の向こうが騒がしくなった。皇帝が直々に来ているとの知らせに国王と王妃が全てを放り投げて来たのである。
「揃ったか」
「まだだよ~枯れかけた毒花がまだだと思うし」
「毒花?何の事です?」
ディレイドはシリウスの隣に座る次官をちょいちょいと手招きする。
顔を見合わせて次官は一礼し、前のめりになった。
「側妃のロザリア。ここに連れて来てよ」
「承知致しました」
次官が席を立つが、シリウスはその言葉が納得できなかった。
「失礼でしょう!帝国よりは小国ですが側妃を呼び捨てにするなど!」
ドンッ!!
グラディアスは足をテーブルの上に叩きつける様に置くと、足を組みなおした。
「呼んで来い‥‥と言っておるのだ。二度も言わすな」
圧倒的な威厳のある圧力にシリウスは蛇に、いや大蛇に睨まれた蛙だった。
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