冷血皇帝陛下は廃妃をお望みです

cyaru

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双子バトル

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「ファーフィー頼む。この通りだっ!」
「またですの?」
「ちょっとだけ?ね?ザフィールに休日やるからさ」
「ザっ!ザフィール様は関係ないでしょう!」
「じゃ、仕方ない。1人で行くか…ザフィールは5年休みなしだな」
「グッ‥‥この悪魔!冷血っ!」

残念な事に皇帝グラディアスは転移魔法だけは使えない。
なのでいつも塔に行く時は近くまでファーフィーに転移をしてもらっているのだ。
そこでカラスに擬態をして塔まで飛んでいく。

「わたくし、カラスなんて嫌だわ。せめてクジャクにしてくださいまし」
「いや、クジャクちょっとしか飛ばないし。メスは地味だけどいいのか」
「じゃ、せめてオオルリとか?」
「いいけど、メスは地味でスズメみたいな感じだけどいいのか」
「ぬぅ…じゃ、タンチョウでいいわ」
「ハシビロコウじゃな―――いですよね。アハハ」

ギロリとファーフィーに睨まれたところで、腕に違和感を感じる。
何かあった時のためにと1枚の風切羽を置いてきたが、根元が圧迫か何かをされているのだろう。腕の一部がギュッと押される感覚がある。

「どうなさいましたの?」
「置いてきた風切羽に何かあったみたいだ…痛っ‥」
「え?レディの部屋に感知器になるようなものを?ド変態皇帝ではありませんか!」
「いや、そこは謝る。でも心配で…痛ったたたた」
「腕を見せてくださいましな」

グラディアスは腕まくりをすると痛いと言う部分はまた目視では何もない。
ただとにかく何かに押されているか先端が潰されているような痛みを訴える。

「あのねぇ。こんなに感覚をビンビンにしたものを置いてくるなんて…軽蔑するわよ」
「いや、悪気はなくて。ただ心配だった…痛っててて」
「変ねぇ‥‥これは羽柄を潰してるのかしら」
「そうかも…うぉっ…また痛みが強くなった…絶対何か起こってる。連れて行ってくれ」
「はいはい。じゃザフィールは長期休暇…いいわね?」
「おぅ…いっ痛っ!!」

見る間に腕の一部がうっ血していく。うっ血の部分は範囲を広げていく。
不思議な事にそれまで押されていた物がなくなったかのように痛みがない。

グラディアスはファーフィーと顔を見合わせた。
推測するに羽柄が何かに押されていて、それをグラディアスは感じ取った。
あくまでも羽柄にかかった負荷を感じていたのだ。
それがなくなった途端にうっ血したものが見える。
つまりは羽柄が何かを突き抜けたという事である。そしてうっ血。
恐らく羽柄の先端はストローのようになっているので吸い取ったのだろう。

「マズいんじゃなくて?」
「転移を」

そっとファーフィーがうっ血した部分に手を翳す。傷が薄くなっていった。
そして詠唱を始めるといつもの転移先に飛ぶ。鬱蒼と茂った森の中である。
いつもはここで擬態をするのだが、大事な事に気が付いた。

「しまった…朔月さくげつじゃねぇかよっ!」
「お忘れでしたの?だからわたくしの魔力が上がってますのよ?」
「それを先に言えよ!」
「いやいや、違いますわよね?魔力が減退する頃は自己管理。母様に言われましたわよね?」
「あ~もうぉ!判った!ごめんなさいっ!一度城にお願いしますっ!」


朔月さくげつは一般的には新月とも言われ、月がない夜である。
全く魔力がなくなる訳ではないが、グラディアスは朔月さくげつには魔力が半減する。
逆にファーフィーは満月の日は魔力が半減する。
減った分は相手の魔力が倍増するのだ。通常の1.5倍になる。

カラスに擬態は出来るがおそらく行って帰るとなると帰りで魔力切れを起こす。
グラディアス一人ならなんとか行って帰れるがファーフィーを擬態させねばならず通常の半分では心もとない。一旦城に戻りグラディアスは剣を手にした。

ファーフィーは【女の子の部屋に何てことを!】っと対になった道化師の人形を1体手にした。
これならば、異変を感知しても目が光るだけである。

「人形も持っていくのか?」
「あのね?風切羽なんて自分の一部でしょう?変態の中の屑みたいな行為よ」
「スミマセン…他に持ち合わせがなくて…」
「だいたいね!廃妃って塔に入れられたんならさっさと連れてきなさいよ」
「いや、でも‥‥また政略みたいになったら可哀想だなぁって思って‥」
「それでずっとカラスになってても何も変わらないでしょうがっ!ドヘタレ!」

戦場では躊躇う事無く向かってくる敵兵を炎魔法で焼き払い、慈悲のない裁決で貴族であろうと首を刎ね一つ間違えば恐怖政治が始まるかと思われるほどに冷酷な皇帝と呼ばれたけれど!
ただ、好きになってしまった女性に対してはとことんまで奥手なのだ。
きっと我が強い妹3人に囲まれているからだとグラディアスは自分を分析している。

「とにかく行きますわよ。全く、今日が朔月さくげつでなかったら大変よ?」
「いや、満月なら…あ、転移が何度もは無理だな」
「ホントにもう!高くつきますからね」
「請求書回してください(ショボン)」

ファーフィーは再度詠唱を始めた。時間的に何かあったのなら間に合わないかもと直接塔の中に転移をする。そして転移をした2人の前に見えた光景。それは‥。



「殺してやるっ!貴女さえいなければっ!」

まさにロザリアがアナスタシアに向かって短剣を振り上げ一歩目を踏み出す瞬間だった。
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