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刃を掲げる来訪者
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やっと一人になれると思ったが、どうやらまだ来訪者がいるらしい。
アナスタシアは首を少し突いた羽柄の先を血を拭うように指先を動かす。
意識だけは扉に向かわせ、次に来る招かざる客人を迎えるため扉の方に遅れて顔も向けた。
尻もちをついた程度で衛兵に付き添ってもらわねばならなかったのだろう。
そうでなければこうも簡単にこの塔に来訪する者が現れるはずがない。
この客がシリウスとは違う意味で今、階段を上がっているのは言われずとも判る。
この塔に幽閉をされて訪れた人間はシリウスだけだ。
衛兵の数はおそらく2~4人が交代。衛兵がおそらく食事のトレーも用意しているのだろう。王宮内ではなく騎士団の食事だろうと言うのは憶測ではあるが使われている食器のカップで想定をつける。
生かされている原因と指示をしているのはシリウスの独断だろう。
既に自分は死んでいる者として扱われているのかも知れない。
それはそれで大変に僥倖。
首を押さえていた指を見て止血が出来たと思ったアナスタシアはいよいよ階段を上り切って扉の前に立った来訪者を待った。
扉は外から内側にしか開かない。上手くいけば逃げられるかも知れない。
アナスタシアの頭の中には王宮の敷地内の地図がある。
空や木々を見ていた毎日。何かを壊したり作ったりするような音は聞こえなかった。
軽微なものは判らないがおおよそで頭の中にある配置で変わってはいないだろう。
何より、自分が抜ける事で危機的状況に陥ると思っていた公務、政務、執務。
結婚してからは日を追うごとに増えていった業務。
職員には感謝をせねばならないが、そろそろ限界だろう。
カチっと扉の留め具を外す音がした。ゆっくりと開く扉。
来訪者はアナスタシアの姿を確認すると一瞬目を見開いたと思うと見る間に鬼のような顔になった。
「どうして!どうしてあなたがここにいますの!!」
椅子に腰かけたアナスタシアに飛び掛かるかの勢い近づいてくる。
数歩手前で止まると、ギっと睨みつける。
「これはロザリア妃殿下。このような場所にどうされましたの」
テーブルに茶でもあれば優雅に一口飲んでいるかのように語りかける。
それが気に障ったのか、ロザリアは激昂した。
明日は大事な会合そう言って昼間に折角作っていった軽食もゴミになった。
ならば徹夜だろうと今度は調理長に無理を言って夜食を作ってもらった。
シリウスを愛したわけではない。しかし不貞の子かも知れないと身勝手に流してしまい罪悪感もあった。子が流れたと知った時、シリウスは本気で毒を仕込んだ者に対して怒ってくれたのだ。
ただ、その毒を仕込み憎まれたのも、子が流れいたわりの気持ちで手を握って貰えたのもロザリアだっただけである。
アナスタシアが幽閉をされた事は知っていた。だがもう1年半も経てば死んでいるだろうと思った。ロザリアの中で幽閉されるという事はそこで毒杯を煽るという意味でもあったからだ。
己のした事の罪に対しての罪悪感からアナスタシアを失ったシリウスの失意を埋めようと側妃として寄り添うつもりだった。
勿論父が怖くて早く子を成したかったという気持ちはあるが、叱責をされながらもシリウスを労わって来たつもりである。
だから昼は失敗をしたが、明日は大きな会合。夜食を作って持って行こうとすると執務室から出ていくシリウスが見えた。執務室の灯りが消えている事から徹夜の作業はないだろうに何処に行くのか。
そっと後をつけると西の塔に入っていく。心のざわめきが大きくなった。
ロザリアは既に毒杯を煽り、人知れずどこかに葬られたのだろうと思い込んでいたアナスタシアを偲んで来たのだろうと少し心が落ち着いた。
戻ろうとすると、塔の上に空いた小さな窓から声が漏れ聞こえてくる。
シリウスのアナスタシアへの思いが途切れ途切れに聞こえてくる。
そして、微かに聞こえてくる女性の声。ブルブルと全身が震えた。
――まさか!生きているの?いいえ、死んだはず。ならあの声は?――
忌みもあるこの塔に新しい側妃を?いや、もしかすると新しい王妃を囲っている?
ここならば廃妃となったアナスタシアを葬った場所。誰も近寄らないその盲点を突いたのか?
衛兵に肩を支えられて戻っていくシリウスが去っていくとロザリアは塔の中に入った。
これが激昂せずにいられようか!ロザリアは許せなかった。
死んだと見せかけて囲っていたシリウスも!囲われていたアナスタシアも!
罪を自分なりに償い寄り添おうと思っていた自分の気持ちを踏みにじれたように感じたのだ。
「こっちが聞きたいですわ!あ、貴女のような罪人が何故シリウス様とっ!」
「それはシリウス殿下にお聞きくださいませ」
「わたくしに秘密で…なんと小賢しいっ!」
テーブルの周りに散らばったままの薔薇の花を踏みつけ、衛兵が幾つか拾い上げた花を茎からむしり取って床に投げつけた。
「貴女に秘密にしていたかどうかなど、わたくしが知る必要が御座いまして?」
「どうやって!どうやってシリウス殿下をたぶらかしたの!その体?許せないッ」
「許して頂かねばならぬ事など何も御座いません」
「この女狐!売女ッ!そうか…この1年半殿下の渡りがないと思ったら…捨てられた女の癖に未練たらしい事ッ!許せないッ!許さないッ!」
「殿下のお渡りがあるかないかなど、わたくしには関係が御座いません。今、王宮がどうなっているか、この国の世継ぎがどうなのか、それさえわたくしには関係のない事」
「ないわけがないでしょう?貴女がッ!大事な殿下のお種を毎晩いやらしいその体で搾り取っているのでしょうが!返しなさいよ!お種を注いでもらえるのはわたくしだけっ!わたくしだけなのよッ!」
どうやら目の前の女は、あのシリウスにも相手にしてもらえていないだろう。
トラウザーズを下ろし自慢げに昂ぶりを見せていった愚かな前夫。
こちらは興味も何もありはしないと言うのに勘違いも甚だしい。
「残念だけど、貴女が想像しているような事は御座いませんわ。ここにシリウス殿下が来られていたのは月に一度。こちらとしても迷惑をしていましたから、側妃である貴女の言葉ならお聞き入れくださるのでは?ここに行くなと言えば何も問題は御座いませんでしょう」
「つ、月に1度?そんなっ‥‥わたくしの所には一度も…」
「貴女の所にどうだったかなど知る由もありませんが、想像しているような事は御座いません。シリウス殿下の子を成す役目はわたくしの役目では御座いませんもの」
「嘘よ…そんなの嘘‥‥知ってるのよ。わたくしを抱きながら貴女の名前を呼ぶ殿下…貴女が殿下を離さないからよ。図々しいにもほどがあるわ。わたくしがどんな思いで側妃として王宮に上がったか知っていて?どんな思いで好きでもない男に抱かれていたか知っていて?」
「馬鹿馬鹿しい。誰が誰の名を呼ぼうとわたくしに何の関係がありますの。貴女は公爵家の令嬢。貴族の女に課せられた務めを果たしたまででございましょうに」
アナスタシアはロザリアの気持ちが全く判らなかった。
愛も恋も塔に入り、解き放たれた気持ちの中には存在をしないもの。
シリウスもだが愛し合うと言う意味が解らない。
しかし、馬鹿馬鹿しいと一蹴されたロザリアはドレスに仕込んだ暗器を手に握った。
怪しく光る短剣。万が一の時は己の命を絶つために妃が持たされるものである。
だが、アナスタシアはそれを見ても動じない。同じ【妃】と言っても既に廃妃となり何も持たない自分。生きていたとして塔で朽ち果てるか、ここで刺されるかの違いだけ。
「お好きになさったら如何かしら」
「脅しだと思っているの?元!王太子妃殿下流石だわとでも言ってもらえると思っているの!」
「言いたければお好きに」
「殺してやるっ!貴女さえいなければっ!」
アナスタシアに向かってロザリアは短剣を振りかぶった。
アナスタシアは首を少し突いた羽柄の先を血を拭うように指先を動かす。
意識だけは扉に向かわせ、次に来る招かざる客人を迎えるため扉の方に遅れて顔も向けた。
尻もちをついた程度で衛兵に付き添ってもらわねばならなかったのだろう。
そうでなければこうも簡単にこの塔に来訪する者が現れるはずがない。
この客がシリウスとは違う意味で今、階段を上がっているのは言われずとも判る。
この塔に幽閉をされて訪れた人間はシリウスだけだ。
衛兵の数はおそらく2~4人が交代。衛兵がおそらく食事のトレーも用意しているのだろう。王宮内ではなく騎士団の食事だろうと言うのは憶測ではあるが使われている食器のカップで想定をつける。
生かされている原因と指示をしているのはシリウスの独断だろう。
既に自分は死んでいる者として扱われているのかも知れない。
それはそれで大変に僥倖。
首を押さえていた指を見て止血が出来たと思ったアナスタシアはいよいよ階段を上り切って扉の前に立った来訪者を待った。
扉は外から内側にしか開かない。上手くいけば逃げられるかも知れない。
アナスタシアの頭の中には王宮の敷地内の地図がある。
空や木々を見ていた毎日。何かを壊したり作ったりするような音は聞こえなかった。
軽微なものは判らないがおおよそで頭の中にある配置で変わってはいないだろう。
何より、自分が抜ける事で危機的状況に陥ると思っていた公務、政務、執務。
結婚してからは日を追うごとに増えていった業務。
職員には感謝をせねばならないが、そろそろ限界だろう。
カチっと扉の留め具を外す音がした。ゆっくりと開く扉。
来訪者はアナスタシアの姿を確認すると一瞬目を見開いたと思うと見る間に鬼のような顔になった。
「どうして!どうしてあなたがここにいますの!!」
椅子に腰かけたアナスタシアに飛び掛かるかの勢い近づいてくる。
数歩手前で止まると、ギっと睨みつける。
「これはロザリア妃殿下。このような場所にどうされましたの」
テーブルに茶でもあれば優雅に一口飲んでいるかのように語りかける。
それが気に障ったのか、ロザリアは激昂した。
明日は大事な会合そう言って昼間に折角作っていった軽食もゴミになった。
ならば徹夜だろうと今度は調理長に無理を言って夜食を作ってもらった。
シリウスを愛したわけではない。しかし不貞の子かも知れないと身勝手に流してしまい罪悪感もあった。子が流れたと知った時、シリウスは本気で毒を仕込んだ者に対して怒ってくれたのだ。
ただ、その毒を仕込み憎まれたのも、子が流れいたわりの気持ちで手を握って貰えたのもロザリアだっただけである。
アナスタシアが幽閉をされた事は知っていた。だがもう1年半も経てば死んでいるだろうと思った。ロザリアの中で幽閉されるという事はそこで毒杯を煽るという意味でもあったからだ。
己のした事の罪に対しての罪悪感からアナスタシアを失ったシリウスの失意を埋めようと側妃として寄り添うつもりだった。
勿論父が怖くて早く子を成したかったという気持ちはあるが、叱責をされながらもシリウスを労わって来たつもりである。
だから昼は失敗をしたが、明日は大きな会合。夜食を作って持って行こうとすると執務室から出ていくシリウスが見えた。執務室の灯りが消えている事から徹夜の作業はないだろうに何処に行くのか。
そっと後をつけると西の塔に入っていく。心のざわめきが大きくなった。
ロザリアは既に毒杯を煽り、人知れずどこかに葬られたのだろうと思い込んでいたアナスタシアを偲んで来たのだろうと少し心が落ち着いた。
戻ろうとすると、塔の上に空いた小さな窓から声が漏れ聞こえてくる。
シリウスのアナスタシアへの思いが途切れ途切れに聞こえてくる。
そして、微かに聞こえてくる女性の声。ブルブルと全身が震えた。
――まさか!生きているの?いいえ、死んだはず。ならあの声は?――
忌みもあるこの塔に新しい側妃を?いや、もしかすると新しい王妃を囲っている?
ここならば廃妃となったアナスタシアを葬った場所。誰も近寄らないその盲点を突いたのか?
衛兵に肩を支えられて戻っていくシリウスが去っていくとロザリアは塔の中に入った。
これが激昂せずにいられようか!ロザリアは許せなかった。
死んだと見せかけて囲っていたシリウスも!囲われていたアナスタシアも!
罪を自分なりに償い寄り添おうと思っていた自分の気持ちを踏みにじれたように感じたのだ。
「こっちが聞きたいですわ!あ、貴女のような罪人が何故シリウス様とっ!」
「それはシリウス殿下にお聞きくださいませ」
「わたくしに秘密で…なんと小賢しいっ!」
テーブルの周りに散らばったままの薔薇の花を踏みつけ、衛兵が幾つか拾い上げた花を茎からむしり取って床に投げつけた。
「貴女に秘密にしていたかどうかなど、わたくしが知る必要が御座いまして?」
「どうやって!どうやってシリウス殿下をたぶらかしたの!その体?許せないッ」
「許して頂かねばならぬ事など何も御座いません」
「この女狐!売女ッ!そうか…この1年半殿下の渡りがないと思ったら…捨てられた女の癖に未練たらしい事ッ!許せないッ!許さないッ!」
「殿下のお渡りがあるかないかなど、わたくしには関係が御座いません。今、王宮がどうなっているか、この国の世継ぎがどうなのか、それさえわたくしには関係のない事」
「ないわけがないでしょう?貴女がッ!大事な殿下のお種を毎晩いやらしいその体で搾り取っているのでしょうが!返しなさいよ!お種を注いでもらえるのはわたくしだけっ!わたくしだけなのよッ!」
どうやら目の前の女は、あのシリウスにも相手にしてもらえていないだろう。
トラウザーズを下ろし自慢げに昂ぶりを見せていった愚かな前夫。
こちらは興味も何もありはしないと言うのに勘違いも甚だしい。
「残念だけど、貴女が想像しているような事は御座いませんわ。ここにシリウス殿下が来られていたのは月に一度。こちらとしても迷惑をしていましたから、側妃である貴女の言葉ならお聞き入れくださるのでは?ここに行くなと言えば何も問題は御座いませんでしょう」
「つ、月に1度?そんなっ‥‥わたくしの所には一度も…」
「貴女の所にどうだったかなど知る由もありませんが、想像しているような事は御座いません。シリウス殿下の子を成す役目はわたくしの役目では御座いませんもの」
「嘘よ…そんなの嘘‥‥知ってるのよ。わたくしを抱きながら貴女の名前を呼ぶ殿下…貴女が殿下を離さないからよ。図々しいにもほどがあるわ。わたくしがどんな思いで側妃として王宮に上がったか知っていて?どんな思いで好きでもない男に抱かれていたか知っていて?」
「馬鹿馬鹿しい。誰が誰の名を呼ぼうとわたくしに何の関係がありますの。貴女は公爵家の令嬢。貴族の女に課せられた務めを果たしたまででございましょうに」
アナスタシアはロザリアの気持ちが全く判らなかった。
愛も恋も塔に入り、解き放たれた気持ちの中には存在をしないもの。
シリウスもだが愛し合うと言う意味が解らない。
しかし、馬鹿馬鹿しいと一蹴されたロザリアはドレスに仕込んだ暗器を手に握った。
怪しく光る短剣。万が一の時は己の命を絶つために妃が持たされるものである。
だが、アナスタシアはそれを見ても動じない。同じ【妃】と言っても既に廃妃となり何も持たない自分。生きていたとして塔で朽ち果てるか、ここで刺されるかの違いだけ。
「お好きになさったら如何かしら」
「脅しだと思っているの?元!王太子妃殿下流石だわとでも言ってもらえると思っているの!」
「言いたければお好きに」
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