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従兄弟は拗らせ仲間なのか

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夜の帳が降りる。

「グラディアス様。只今戻りました」

一人の男がグラディアスの部屋のバルコニーから声を掛ける。
あと少しで口に入るほどに傾けたワイングラスを元に戻す。

「どうだった?」
「最も有効な証拠が2つとも既に天に召されているため難航しましたが何とか」
「そうか。侍女の親はどうしている」
「両親ともに後を追うように亡くなっており、現在は姉が1人市井で暮らしておりました」
「香典は奮発したか。香典返しは緑茶が良いな」
「はい。でも香典返しは風習がない国ですのでありませんが」
「冗談だ。で、姉は何と?」

「妹から聞いた話は、菓子を預かっただけでアナスタシア殿から指名をされたのだと」
「王太子妃から直接か…マズいな」
「いえ、直接ではなくあなたに頼めと言われたと中に1人いた模様です」
「ほぅ…そう言う事か」

「まだ王宮に上がったばかりで顔と名前が一致せず、全員の面通しをしたようですが仲介人に該当する者はいなかったという事です。可哀想に取り調べ後にアナスタシア殿が幽閉されたと聞いて川に身を投げたそうですよ。あっ!取り調べをした騎士にも話を聞いております」

「まさかと思うが薬を持ったのではないだろうな」

「いいえ?酒は飲ませましたが薬はNO!ダメ!絶対です。あ、これは領収書」


ピロっと領収書を1枚出すとグラディアスに差し出す。
ピっと抓むように取り上げると、綺麗どころに囲まれて安い酒を高い金で飲む店じゃないかと愚痴ってしまうのはグラディアス。
ちょっと待ってろと立ち上がると上着から財布を取り札を抜き手渡す。

「これは…会計課に通ると思うか?」
「無理だと思うので殿下に持ってきました。殿下の用事ですし?ねっ?」
「抜け目のないやつだな。まぁいい。で騎士は何と?」

「騎士も同じような事を言っておりましたが、菓子そのものは数量限定でして1日辺り1000個の販売で連日完売している菓子。その線から購入者は特定できなかったようです。しかし菓子にまぶされた薬物は所謂自然毒。知識がある者の仕業だと騎士団では特定しようとしたようですが…」

「出来なかったというのか。王族も騎士団も無能の集まりか」

「はい。その野草ですが自然毒として使うには何かにまぶすのが効果的なのですが欠点があるのです。カビが生えているような見た目になりますのでね。実際一緒に側妃と菓子を食べた侍女たちの中には塗されたものを少しはたいて落としてから食べています。ですが、側妃はそれを平然と数枚食べたと。普通人間って見た目が危なそうなものは手に取りません。食あたりなどを起こすのは見た目に問題がなさそうな物がほとんど。ですが側妃は見た目が危険そうなものを数枚食べたと証言があった事が判りました」

「随分と食い意地の張った側妃だな」

「その日は朝から具合が悪いと寝込んでいたとの事で、昼になり回復したので昼食を食べたと。まぁ売れている流行の菓子店のものなので疑わなかったと言われればそれまでですけどね」

「昼食で腹が張っているのに菓子を何枚も…か。もう1つはどうだ」

男は胸ポケットにお駄賃を仕舞うと、グラディアスは中に入れと言う。
この時期は開け放しておくと灯りに虫が集まってくる。
男は立ち上がり一礼をすると部屋に入ってくる。

「また背が伸びたのか」
「いいえ?殿下が小さくなったか老眼じゃないですかね」

躊躇することなく向かいの椅子を引くと腰を下ろしグラディアスと同じくらいに長い足を組む。
従兄弟の中でも一番若い15歳の少年のあどけなさを残しつつも残虐性を持った笑みを浮かべる。
キャッチフレーズは【NO!薬物!】で自ずと喋りたくなる拷問を日々研究している。
名前をディレイドと言う。
他人の爪は平気で剥くが、甘栗とバナナの皮を剥くのは苦手な少年である。


「で、もう1つなんですがあの側妃はヤってました」
「相手は妹の夫だそうだが、間違いないか」

「その場を見たってのは居ませんでしたが、アナスタシア殿が幽閉された後に庭師が定年をしていまして何か知らないかと思ったんですが白内障でやはり姿は見ていなかったですね。ただお盛んな声は聞いてました。その後におそらくロザリア妃だろうと思う女性が屋敷に戻っていく後ろ姿と、妹の夫が反対方向に帰っていくのを見ています」

「妹の夫か…近場で済ませたか。バカな女だ」

「それで‥‥(ぴろっ)これ…買い取ってくれるならネタがあります」

ディレイドはまた領収書をグラディアスに見せる。
途端に天井を見上げて、溜息を吐き、財布を開くと数枚の札をほら!と手渡した。

「お前なぁ。娼館の領収が落ちるわけがないだろう」
「娼館じゃないですよ?ヤミの花売りですから。ま、60後半の娼婦でしたけどね」
「それでこの値段?ボッタクリもいいところだろう」

「だって、酔わさないと出来ないと思ったんだモーン。それにそのオバちゃん。梅毒になったらしくて商売できないって言うから奮発しちゃった。てへっ♡」

「まぁいい。で?何かわかったか?」

「ご本人様から聞きましたんで間違いないですね。妹の夫はロザリア妃とヤったそうです。あれ以来青姦にハマったらしくて相手を探すのは大変だと言ってましたよ。酒と女の用意があるって言ったらペラペラのペラッペラでした」

「お日様も汚いものを見せられて気の毒だな」

「大丈夫です。梅毒感染もしてるでしょうから。症状が出る頃には妹も罹患してんじゃないですかね。ついでに妹の浮気相手にも。あの夫婦。公認でスワッピングまでしてますからね。ど変態ですよ。だけど嫁は青姦は嫌って…我儘ですよねぇ。公爵家気の毒ぅ~」

「良いんじゃないか?虫けらは暗くてじめじめしたところがお似合いだからな」
「じゃ、これで。今から彼女とデートなんで」
「彼女?出来たのか。これで叔母上も安泰だな」
「どうかなぁ。まだ反対されてるからなぁ」
「どうしてだ。やっと彼女が出来たんだろう?婚約すればいいだろう」
「出来ないよ。男同士だから。法案通してくれたら結婚するけど」

さらりと言い残し、バルコニーをピョンと飛び降りたディレイド。
彼もまた拗らせ仲間?いやいや種類が違うと首を横に振るグラディアスだった。
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