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VOL.16 お礼→差し入れ
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「あれ?先日のお姉さん達じゃないか。どうしたんだ?」
声を掛けてきたのはシェリーを馬に同乗させた兵士。
48歳だそうだが、勿論妻帯者。
警護団の団員が少なく動けるうちは駆り出されていると言う。
「先日のお礼をと思いまして。皆さんで分けて頂けると助かります」
「へぇー。お礼かぁ。珍しいな。ちょっと待っててくれ。班長呼んでくるから」
走り去る兵士だったが、わらわらと他の兵士が集まって来る。
荷物はどうするんだ?とシェリーに聞き、「分けてください」と言えば次々に馬車の屋根から荷物を降ろし始め、籠に入った焼き立てのパンの香りに誰もが生唾を飲み込んだ。
「食っていいのか?」
1人の兵士がパンの籠を指差すと、返事を待つまでもなくあっという間に手が伸びて来て籠が空っぽになっていく。見れば一心不乱に何もつけないパンを口いっぱいに頬張って雄叫びを上げていた。
「見てくれ!こんなブ厚いハムが挟まってるぞ!」
「うんめぇぇーっ!」
「ズルいぞ!お前それ3つ目じゃねぇか!寄越せよ!」
「まだあります!ありますから!慌てないでくださいませ!!」
兵士達で大渋滞を起こした鍛錬場の入り口。
我先にとパンを手に取る兵士の中には上着の中にパンを入れてまた1つと持って行く者もいる。
「こらぁ!お前達何やってんだぁ!!」
「ヤッベェ。班長だ」
両手にパンを持って兵士達があっという間に散って行った後にグレゴリーがやってきた。
サシャリィとシェリーはペコリと頭を下げて「先日のお礼だ」と告げたのだが…。
「困るんだ。こうやって礼だと持って来られると今度から礼はあるのかと仕事に優劣をつけたり、礼がないとなると手を抜く者も出るから受け取っていないんだよ」
サシャリィとシェリーは困惑してしまった。
もうパンの入った籠は数個を残すのみとなってしまい、まともに残っているのはシャツなどの布製品くらい。お礼をするのが当たり前だと自分の中の基準で考えて行動してしまい失敗したのだ。
「申し訳ございません。勝手な事を…問い合わせれば良かったです」
「ん~。まぁ気持ちは判らないでもないんだが、気にするなと言っただろう?」
「あの…勝手だと思ったのですが側溝の蓋の補修工事も頼んでしまったのです」
「そんな事まで?!うわぁ…それはもう礼とかって範疇を超えてるじゃないか」
「本当に…ごめんなさい」
しょんぼりするサシャリィとシェリーを見てシェリーを馬に同乗させた兵士が口を挟んだ。
「班長、そりゃ班長が悪いよ」
「俺が?」
「気にするなって言ってもそりゃ相手に寄るでしょう?彼女たちは礼をするのが当たり前って教えられてるんです。ハッキリその場でこういう理由があるから受け取れないと言わないと!単に気にするなってだけならそりゃ社交辞令ってもんですよ」
グレゴリーを窘めながらも布を手に取って「シャツだ!」っと目を輝かせる兵士。
少し考える素振りをしてサシャリィにごり押しをするような声を掛けた。
「お礼じゃなくて差し入れですよね?」
「あ…いえ…それは…おれ――」
「差し入れですよねっ?」
「差し…入れで御座いますか?」
「そ!差し入れ。差し入れならこの辺の住民も持って来てくれるから受け取ってるんだ。それに側溝の蓋。助かるよ。何度か警護団から国に申し入れてるんだけど許可が下りなくてね。子供たちが踏み抜きでもしたら大変だからな」
パッとサシャリィの顔が明るくなり、「はい、差し入れです」と合わせた。
その笑顔を見て何故かグレゴリーは口元を手で覆って耳まで赤くした顔を背けた。
グレゴリーを見た兵士はシェリーにシャツの説明を求め、サシャリィにはグレゴリーに警護団が受け取れる品などについて話を聞いてくれと言い残しシャツの入った木箱を抱えて、シェリーを手招きで呼び寄せると家屋の中に入って行った。
残されたサシャリィは手でパタパタと顔に風を送るグレゴリーに近寄る。
だが‥‥。
「待ってくれ!それ以上近寄るな!」
「何故です?お話を…」
「話はするっ!するんだが‥‥あの日から川には入ってないし着替えてないんだ。臭いから近寄るな」
色々な理由で距離を取ってと言われた事はあるが、サシャリィは「臭いから」と言う理由で断られたのは初めてだった。
声を掛けてきたのはシェリーを馬に同乗させた兵士。
48歳だそうだが、勿論妻帯者。
警護団の団員が少なく動けるうちは駆り出されていると言う。
「先日のお礼をと思いまして。皆さんで分けて頂けると助かります」
「へぇー。お礼かぁ。珍しいな。ちょっと待っててくれ。班長呼んでくるから」
走り去る兵士だったが、わらわらと他の兵士が集まって来る。
荷物はどうするんだ?とシェリーに聞き、「分けてください」と言えば次々に馬車の屋根から荷物を降ろし始め、籠に入った焼き立てのパンの香りに誰もが生唾を飲み込んだ。
「食っていいのか?」
1人の兵士がパンの籠を指差すと、返事を待つまでもなくあっという間に手が伸びて来て籠が空っぽになっていく。見れば一心不乱に何もつけないパンを口いっぱいに頬張って雄叫びを上げていた。
「見てくれ!こんなブ厚いハムが挟まってるぞ!」
「うんめぇぇーっ!」
「ズルいぞ!お前それ3つ目じゃねぇか!寄越せよ!」
「まだあります!ありますから!慌てないでくださいませ!!」
兵士達で大渋滞を起こした鍛錬場の入り口。
我先にとパンを手に取る兵士の中には上着の中にパンを入れてまた1つと持って行く者もいる。
「こらぁ!お前達何やってんだぁ!!」
「ヤッベェ。班長だ」
両手にパンを持って兵士達があっという間に散って行った後にグレゴリーがやってきた。
サシャリィとシェリーはペコリと頭を下げて「先日のお礼だ」と告げたのだが…。
「困るんだ。こうやって礼だと持って来られると今度から礼はあるのかと仕事に優劣をつけたり、礼がないとなると手を抜く者も出るから受け取っていないんだよ」
サシャリィとシェリーは困惑してしまった。
もうパンの入った籠は数個を残すのみとなってしまい、まともに残っているのはシャツなどの布製品くらい。お礼をするのが当たり前だと自分の中の基準で考えて行動してしまい失敗したのだ。
「申し訳ございません。勝手な事を…問い合わせれば良かったです」
「ん~。まぁ気持ちは判らないでもないんだが、気にするなと言っただろう?」
「あの…勝手だと思ったのですが側溝の蓋の補修工事も頼んでしまったのです」
「そんな事まで?!うわぁ…それはもう礼とかって範疇を超えてるじゃないか」
「本当に…ごめんなさい」
しょんぼりするサシャリィとシェリーを見てシェリーを馬に同乗させた兵士が口を挟んだ。
「班長、そりゃ班長が悪いよ」
「俺が?」
「気にするなって言ってもそりゃ相手に寄るでしょう?彼女たちは礼をするのが当たり前って教えられてるんです。ハッキリその場でこういう理由があるから受け取れないと言わないと!単に気にするなってだけならそりゃ社交辞令ってもんですよ」
グレゴリーを窘めながらも布を手に取って「シャツだ!」っと目を輝かせる兵士。
少し考える素振りをしてサシャリィにごり押しをするような声を掛けた。
「お礼じゃなくて差し入れですよね?」
「あ…いえ…それは…おれ――」
「差し入れですよねっ?」
「差し…入れで御座いますか?」
「そ!差し入れ。差し入れならこの辺の住民も持って来てくれるから受け取ってるんだ。それに側溝の蓋。助かるよ。何度か警護団から国に申し入れてるんだけど許可が下りなくてね。子供たちが踏み抜きでもしたら大変だからな」
パッとサシャリィの顔が明るくなり、「はい、差し入れです」と合わせた。
その笑顔を見て何故かグレゴリーは口元を手で覆って耳まで赤くした顔を背けた。
グレゴリーを見た兵士はシェリーにシャツの説明を求め、サシャリィにはグレゴリーに警護団が受け取れる品などについて話を聞いてくれと言い残しシャツの入った木箱を抱えて、シェリーを手招きで呼び寄せると家屋の中に入って行った。
残されたサシャリィは手でパタパタと顔に風を送るグレゴリーに近寄る。
だが‥‥。
「待ってくれ!それ以上近寄るな!」
「何故です?お話を…」
「話はするっ!するんだが‥‥あの日から川には入ってないし着替えてないんだ。臭いから近寄るな」
色々な理由で距離を取ってと言われた事はあるが、サシャリィは「臭いから」と言う理由で断られたのは初めてだった。
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