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宝物殿の解体

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無自覚。それは史上最大の凶器や人によっては狂気でもある。

目の前でフンフン!と鼻息を荒くしているのは当人だけで周りから見ると、キメているはずのどや顔ですら愛らしく見えてしまうものなのである。

その証拠に屋敷の3階で突然始まったガタガタ、ドタバタと引っ越し並みの騒音に何事かと慌ててやって来た公爵夫人は思わず声を飲み込んだ。

ちなみに飲み込んだ声は【OH!モーレツゥ】である。
決して捲りあがる事ないロングのドレープ素材のドレスなのでミニスカートではない。
決して椅子から下りる時に敢えてしたアングルから足元だけを描写をしたわけではない。
そして何より公爵夫人は小川ローザ嬢を永遠のライバルとして勝手に思い込んでいる自称姫川●弓ではない。

目の前で腰に手を当てて、【離縁ですわ!】と声をあげる娘になったばかりのエトランゼ。
その向かいには、その姿に萌えて悶え、全身を小刻みに振るわせている腹を痛めて産んだ息子。

一見、修羅場に見えなくもないこの場面。
ハッキリ言って、アルベルトへの【ご褒美】でしかない一コマである。

変態を極めたと思われるアルベルトであるが新たな扉を開けようとドアノブに手をかけた瞬間である。
そう、アルベルトは収集コレクションを廃棄される事を甘んじて受け入れたのだ。

生きて動いて自分の名を呼ぶエトランゼ

モノ言わぬコレクションにもう未練はない。
バっと立ち上がると、髪の毛が入った瓶の蓋を開け、強風注意報がそろそろ発令されるか?という南西の風に乗せて瓶の中身をぶちまける。

「ほら捨てたよ?。もう集めたりしない」
「約束ですよ!髪の毛なんか集めたらわたくし、剃髪しますからね!」
「あぁ…そんな…美しい君の髪が無くなるなど想像もしたくない!」
「そうなったらもう子作りの後で髪の毛クルクルも出来ませんよ!」
「うあぁぁ!いやだ!それは嫌だ!汗で少し湿り気のある髪は巻き心地は最高なのに!」

上歯と下歯に分けられた幼い頃、彼女の体から離れた乳歯は節分の豆まきの如く広い庭と傾斜の緩い屋根に放り投げられていったのである。

「これでいいか?」
「抜歯した親不知を集めたりしたらわたくし、総入れ歯にしますからね!」
「そっそんな…」
「タフグリ〇プとポ〇デントは経費で落ちませんのよ?!」
「そんな‥‥夜会に行くのに接待交際費でも落ちないなんて…医療費控除もないのか‥」
「ございませんっ!(キリッ)」

公爵夫人は涙にむせびながらも息子の更なる変態(変わっていくそのさま)を目の当たりにする。
褒美をくれとばかり腰に手を当てて、自称仁王立ちをキメるエトランゼの前に跪く息子。
次々に明かされる夫婦の秘め事にも息子が更生されていきつつも、【服従】という世界に足を踏み入れたまさにその時を見守る見届け人にもなったのである。


「もう集めたりしたらダメですからねっ!」

エトランゼ関係の物が次々に運び出され、窓から投げ捨てられると今からでも次の内見が出来そうなほど部屋には何もなくなってしまう。

そう、アルベルトが使用していたチェストはエトランゼが粗大ごみ回収に出したものを業者に頼み込んで払い下げてもらったものだった。

寝台もシーツやマットは公爵家で購入したものであるが、寝台をかたどっていた枠は伯爵家に昔あったシーソーやブランコ、ベンチを庭の改修時にこれも払い下げてもらった物である。
加工する際の木くずでさえお取り置きしていたアルベルトだったのだ。

くるりと部屋を見回し、先程とは打って変わった優しい声で「アル様」と呼ぶと他の部屋も片付いたかを確認していく。公爵家の家令に隠し部屋などがないかを聞いた後、にっこりと笑うのである。

ズギューンとその笑顔に撃ち抜かれて、もうアルベルトは壁の支え無しでは立ってもいられない。
しかし、体の一部分だけはしっかりと天に向かってそそり勃っている。
やはり変態は直ぐには変わらない。

こんもりと公爵家の広すぎる庭に盛られたコレクションの数々。

「アル様、出来ますよね?」
「出来るけど‥‥ご褒美は…」

ポツリと呟くアルベルトに片足を軽く上げたエトランゼは足首だけをクイクイと動かす。
ハっと何かがパッションしたアルベルトは延焼しないように結界を張ると、火の魔法で焼き尽くす。
激しく燃え盛り上に、上にと上がる炎はまさに【豪華いや、業火】

数時間のうちにワンフロアが伽藍洞になり、10年以上に及ぶコレクションは当人により消滅した。

帰りの馬車。
大きめの座席に体を倒し、エトランゼに膝枕をしてもらうアルベルト。
勿論顔は腹の方を向いている。そうする事で籠った香りを堪能するのである。

「もう離縁なんて言わないでくれるよな?」
「考えておきますわ」
「そんなっ‥‥お願いだ!僕と別れるなんて言わないでくれ」
「だってアル様、変態みたいなんですもの」
「違う!そんな域には達してない、僕はまだ見習い以前だったんだ!」

――あれで見習いにも成れないとは‥変態って奥が深いのね――

「エトランゼが望むのなら、その世界も極めてみせる!」

えっ?変態の世界を極める?わたくし的にはもうあの状況で十分に達している上に最高峰に近いと思ったのですが、あなたの知らない世界というのはやはり言葉通りなのだわ。
稲川先生は流石としか言いようがないわ!

「エトランゼに見合うような完全無欠な男に僕はなる!だから捨てないで!」

エ‥‥困りました。アルベルト様ご乱心かしら。
だって、完全無欠のロックンローラーは女には無視されるんですよ?ご存じないの?
いえ、アルベルト様はロックンローラーではないはず。確認をしなくては!

「アルベルト様は一発屋ですの?」


アルベルト様が一発屋ではない事はその夜確認が取れました。いえ、再確認と言った方がいいでしょう。
アルベルト様の放射器は誤射も多いですが衰えや項垂れる事を知らなかったのですから。
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