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絵姿はわんこそばのように

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結婚をすると男性は変わると申しますが、旦那様となったアルベルト様も同じでございます。

婚約期間は2カ月ほどと短かったのですが、我が家に来られた時は時折お兄様とお兄様のお部屋で長々と話す事は御座いましたが、この国の筆頭騎士様でもありますしとても礼儀正しく、両親も【流石公爵家のご子息は違う】とお兄様と比べても仕方がないのに褒めちぎっておりました。

まぁ、どんな仕草もちょっとしたことでもとても洗練された所作ですし、言葉選びも馬の腹を背に求婚をされた時と現在以外はお手本ともされるような方でした。

しかし今は…


昼間ですので使用人はおります。

結婚祝いだと、アルベルト様のお母様が所有していたというこの土地と屋敷を頂いたのですが使用人は全て、えぇ、家令も執事も門番も全て!通いの雇用契約でございました。
理由を伺うと

「だってエトランゼを啼かせている声を聞かせたくないんだ」

わたくし、声を潰そうかと本気で考えました。

朝9時から夕方は18時まで。週休は2日で、休みの日は休日のみ雇用の方が来られます。
初日こそ全ての使用人さんだけでなく、わたくしもドン引き致しましたが、慣れとは不思議なものです。美人は3日で見飽きると申す通り、3日も立てば細い目も遠い目もする使用人はいなくなりました。
あとはわたくしがこの恥辱に耐えるのみでございます。

そう、今は昼間。1時間半ほど前に朝食が終わり寛ぐ時間でございます。

「エトランゼっ‥‥良い香りだ…この柔らかさ…堪らないッ」

菓子の事では御座いません。
サロンのソファに腰を下ろしているのはアルベルト様。わたくしはその膝の上におります。
そして胸や首元の匂いを嗅がれ、胴体をくまなくマッサージされております。
お尻に固いものがあたりますので座り心地が良くありません。
はしたないと思いますが太ももで挟むと何故か恍惚とされたお顔になるアルベルト様。

アルベルト様はあまりふくよかではないわたくしの胸は至宝だと言い、顔を埋めるのがお好きです。

「はぁ…どうして服なんか着なければならないんだろう」
「風邪を引いてしまいますからね」
「でも邪魔だとは思わないか?そうだ、寝台に行こう」

初夜以来、隙あらば子作りをしようとするアルベルト様です。
夜の寝台は明け方までアルベルト様の独壇場。最近になりやっと使用人に湯あみを手伝ってもらいましたがそれまでアルベルト様がそれはそれは丁寧にわたくしを洗ってくださっておりました。

初めてわたくしの体をみた50代のアルワナくらいの女性使用人は涙ぐんでおられました。
麻疹でもここまでは!というほど体のあらゆる部分に咲いている紅い華。
温かいタオルで優しく揉みほぐしながら「こうすると早く消えるんですよ」と言いますが、消える前に増え続けるのです。これほどまでに無駄な労力は御座いません。

ここまでくると「愛されているのですね」という言葉よりも「お労しい」と言われます。

アルベルト様に抱っこされてモミモミされておりましたが荷物を抱えて使用人がやってきます。

「奥様、部屋にあったものは全て持ってきましたが、どうします?」

抱えて持ってきたのは、あの絵姿と肖像画です。壁や天井一面にくまなく張られて、壁紙が数ミリも見えなかったのですが、奥の部屋は想像を超えておりました。
大事なので強調します。

【超えていたのは想像。妄想ではありません】

奥の部屋は広さで言えば30帖ほどでしょうか。その部屋も壁紙、天井はどんな色なのだろう?と思うほどわたくしの絵姿と肖像画が飾られていて、衝立も20程ありましたが全て両面に飾られておりました。

150サイズの段ボールを2つだけ見せられましたが、廊下には17個あると言います。
とんでもない資源の無駄使い。紙は裏面を使えばとも思うのですがわたくしの絵姿が流出する可能性もあります。
他者から見ればとんだ意識過剰な女と後ろ指を指され夜会では笑いものになるでしょう。

「さぁ、アルベルト様」

アルベルト様を促し、段ボールから数枚を無造作に掴んでアルベルト様に持たせます。

「いや…エトランゼ。ここまでしなくても…」
「いいえ。これからのわたくし達の生活がかかっておりますの」
「だが…」
「お願いでございます…アル様♡」

自信のほどはと聞かれれば、底辺を這うほどの某国の内閣支持率に似た折れ線グラフ並みと答えますが、上目使いで「私はウサギ」と目をウルウルさせてアルベルト様の手にそっと手を添えて、禁断の愛称呼び。

「ヒョウワァウッ!!」

手にした絵姿をアルベルト様は燃える暖炉にくべていきます。
この調子でわんこそばの給仕のように上手く火が回る程度の枚数を調整しつつ渡していきます。

「はい!どんどん!」

ポイポイ!

「はい!じゃんじゃん!」

ポイポイ!

しかし、量が多すぎます。木や炭と違って紙は灰が溜まっていくのです。
廊下の分まではとてもここで燃やせそうにないと思ったわたくしは廊下にある分は調理で火を起こす際に使用して頂く事にして、運び込まれた2箱をアルベルト様の手で燃やし尽くさせました。

「あぁ…エトランゼが…」
「ここにおりますわ。愛しいアル様」
「い、愛しい?本当か…ムフウッ…そ、そうだった」
「絵姿のほうが良かったのですか?」
「いや、生身の方が断然良いに決まっているじゃないか」

コレクションが灰になったのですから、辛くない筈はないのです。ですがいつも通りわたくしの指をちゅっちゅと吸い始めるアルベルト様。

ご褒美です。
口の中でそっとアルベルト様の舌や歯をツンツンとしてあげると、ハっと表情が固まりました。

失敗でした。何を期待されたのかわたくしの手をグーのままパクリと口に入れられて窒息しそうになっております。慌てて使用人さん達に手伝ってもらって口から手を抜いたら、涙ながらに訴えられました。

「どうして!?もっと奥まで手を入れて物理的にも心臓を握ってくれないんだ!」

えっと‥‥無理です。そんな趣味ないので。
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