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♡君の幸せ?バカ言っちゃいけません!

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長い馬車旅の果てに到着したアルメイテ国の王都は、マクシム様と暮らした地と同じアルメイテ国とは思えないほど人も多く、建物は高く立派で煌びやかな大きな街で御座いました。

フィポリス殿下は男色家であると仰っておりましたが、馬車が通れば人々が満面の笑みで手を振り、速度が歩くほどになれば子供たちが寄ってきて花を小窓から手渡していきます。

ボンヌ国ではどんなにゆっくりでも、停車してもおそらく民から何かを貰うなどと言う事はなかったと思います。王宮から公爵家を行き来する際もスピードを出しておりましたし、誰かに手を振られた経験など御座いません。


「殿下!側妃様ですよね!これお花っ。摘んできました」

窓から身を乗り出して、フィポリス殿下は子供から花を受け取ります。
野に咲く花で、とても小さな花は渡そうと子供が強く握っていたからか少し萎れております。フィポリス殿下は水筒の蓋を取ると、その中に挿しこんでしまいました。

「本当は野に咲いたままを愛でるのが花には一番なんだろうけど、彼らの気持ちもあるからね」

仰っている事は至極ごもっともなのですが、従者の膝に抱かれて言う事ではないかと存じます。わたくしの事をギロリと睨まれていた従者の方が、フィポリス殿下の愛する男性ひとなのです。


この光景もで御座いますが、旅の道中立ち寄る先でフィポリス殿下の腰に手を回し、なんなら唇さえ重ねられているお姿を拝見したのも一度や二度では御座いません。
最初は衝撃が大きかったのですが、わたくしに【略奪】の気が無いと判ると警戒心が取れたのか、従者の方も気さくに接してくださいます。


「プリエラ♡その髪飾り素敵だね」

従者の方がわたくしの髪飾りを褒めてくださいます。
お兄様からは幾つか持たせて頂きましたが、余程の場でない限りわたくしはマクシム様の労働力と交換したお金でさらに交換して頂いたこの髪飾りをつけているのです。

「そうでございましょう?キラキラして愛が籠っておりますの」


そっと髪飾りに手を添えると、窓からの陽の温度を分けてもらったのかほんのりと温かくなっておりました。


大きな宮を通り過ぎると、「あれが私の愛の住まい」だとフィポリス殿下が教えてくださいます。かなり離れた場所に屋根だけが見える建物に正妃様がお住まいなのだとか。

しばらくは同じ敷地内にある建物の1つに住んで、アルメイテ国という国に馴染んだら引っ越しなども考えればいいと仰ってくださいます。
ただ…。

「すまないが、大事にはするけれど伝えたように私の愛は彼にだけある。なので届けは出すが初夜は出来ない」

っと・・・。念押しをされてしまいました。
ですが、それも判った上で輿入れをしたのです。お兄様もその事は承知しております。
「はい」と答えて笑顔を返しますと、わたくしの住む建物が見えて参りました。

「忘れ物はないように全部持ってきましたか?」

「はい。忘れ物はないと思います。何度も点検をしましたから」

「本当に?特に心は忘れずに持ってきたかな?」

不思議な事を仰います。もし、その心がマクシム様を慕う気持ちなのであれば忘れるどころかずっと心に置いたままで御座います。

馬車が止まり、使用人の姿が見えます。先に馬車を降りたフィポリス殿下が手を貸してくださり、わたくしは足を地に降ろしたのです。

「お帰りなさいませ」

一斉に礼をされた皆さん。フィポリス殿下が用意してくださった方々で、紹介をして頂きました。


「悪いんだが、屋敷の中に入ると夫婦げんかになるから、今日は特別に入らせてもらうんだけども」

「まぁ、それでは遊びに来て頂く事も難しいではありませんか」


ちらりとフィポリス殿下の愛する男性ひとを見やりますが、はて?微笑まれております。
応接室やサロン、食堂などを案内して頂き、使用人が使用する部屋は後日と階段を上がります。

廊下の先には主の部屋、夫婦の部屋、夫人の部屋の扉が順に並んでおります。
側妃と言えど、その辺りは同じなのでしょう。例えフィポリス殿下が使用されなくても主である事は変わりないのですから。

扉の前で立ち止まったフィポリス殿下が少し屈まれ、目線を合わせて仰いました。

「では、この屋敷【だけ】の決まりを伝えましょう」

「決まり?決まりが御座いますの?わたくしが女主人ではなく?」

「女主人である事は変わりない。だが、この屋敷には架空の妻がいる主が既に住んでいる。貴女はその架空の妻の身代わりとなって頂きます」

「えぇっと…どういう事ですの?」

「こういう事」

ガチャリと扉が開くと、そこには‥‥。

「マ…マクシム…マクシム様っ!!!」

ユーリス様に支えられて、マクシム様が微笑んでおられました。
腰布一枚では御座いませんし、髪も整えられて、御髭も剃られております。
信じられないほどに清潔感に溢れたマクシム様がそこにいたのです!

「マクシム様ぁ!!うわぁぁん!!」

思わず抱き着いたのですが、違和感が御座います。マクシム様の手はだらりと下がったままで、よく見ると立っているのも片足は裾が揺れていて床を押さえておりません。

「ごめんな。まだ腕が全然上がらないんだ。支えてもらえば片足で立てるが歩くのは無理なんだ」

なんという事なの!わたくしは抱きしめた手を放したのです。
その後ろから使用人が椅子を運んできてマクシム様を座らせてくださいます。

「ラウール殿が君を娶って欲しいと突然やってきてね。あ、先触れはあったんだけど。その2日後に川漁師が手に負えないと王都まで運んできたんだ。運び込んだ医療院は私が出資した医療院でね。槍で刺された痕があると駆け付けたんだ。生きてるのが不思議なくらいだったよ。負傷して運び込まれるまでに時間がかかって、片足は膝から下が壊死が始まっていた。申し訳ない。本来ならまだ起き上がれる状態ではないんだが、彼がどうしてもと聞かなくてね」


わたくしにも椅子を勧めてくださるのですが、わたくしは椅子に腰かけたマクシム様の前に跪いて、お顔を見上げました。無くなってしまった部位はどうしようもありませんが、補助具を使えば歩けるようになる事、少しづつ物を握ったり、ゆっくり動かす事で両腕も剣は振れずとも日常生活がなんとか出来るまでは回復すると説明を受けます。

「彼の事があったから君がどれだけ彼、マクシム殿の事を思っているか知る必要もあってラウール殿は酷い言い方をして君を煽った。ラウール殿は妹思いだね。私も彼ほどに兄を思っていれば何か出来たかも知れないと思う事もあったよ。で、彼をどう思う?」

「どうって…変わりませんわ。生きていてくれてよかった…本当に」


ですが、わたくしがマクシム様に顔を向けると、そっと顔を背けてしまわれました。
そして、マクシム様は小さな声でしたが…わたくしに告げられたのです。


「こんな体では迷惑になるだけだ。俺の事はもう忘れて幸せになるんだ」

「なにをっ!何を仰るのです!」

「プリエラ。よく考えるんだ。俺は以前のような体じゃない。プリエラの負担になるような事だけはしたくない」

「だから‥‥だから迎えに来て下さいませんでしたのっ!」


沸々と怒りがこみあげて参ります。命を懸けてわたくしを守ってくださったのに、この状態になったからと言ってわたくしが負担に思う事があるなどと、とんだ言いがかりで御座います。


「マクシム様!わたくし離れません。ここに来たのはフィポリス殿下のお心が、わたくしに一切なく、そればかりかわたくしは心に思う人は別にいてもいいと言われたからです。教えて頂ければわたくし覚えます。今度はわたくしがマクシム様のお世話を致します」

「ダメだ。俺は何にもしてやれない。遠くで君の幸せを祈らせてくれないか」

パチン!!

「わたくしのっ!わたくしの幸せは遠くで祈られても叶いませんっ。何もして頂かなくて結構ですわ!見える範囲にいてくださいませ!目が合えば微笑んでくださいませ!マクシム様のお側にいる事がわたくしの幸せなのです!祈るよりも側にいてわたくしを幸せにしてくださいませ!」


恥ずかしいのですけれども、わたくしはマクシム様の唇を奪いました。
鼻がコツンと当たってしまいましたが、唇を離した時、マクシム様が泣いておられました。

「じゃぁ…少しの間だけ‥甘えてもいいかな」

もう!全く判っておられません!マクシム様はわたくしに仰ったではありませんか!


☆彡☆彡

「言っておくが1週間だろうが100年だろうか妻を手放す気はさらさらないからな」

☆彡☆彡

なので、申し上げたのです。

「言っておきますが1週間だろうが100年だろうかマクシム様を手放す気はさらさら御座いません事よ」


フィポリス殿下が馬車に乗り込まれます。フィポリス殿下の愛する男性ひとがわたくしに囁きました。

「貴女を側妃に迎えた殿下に、惚れ直しました。ありがとう」




それからは、確かに大変で御座いました。慣れない事しか御座いません。
ですが、今までにない幸福感もあるのです。
何をするにもご一緒ですので、幸せしか感じません。

湯殿でマクシム様のお洗濯の方法も1カ月かけて使用人さんに教えて頂きました。

「やってもらうのにもやっと慣れたんだぞ?プリエラに洗われた日には大変な事になる!」

「何を仰るのです。えぇっと、腕を上げてわきを…こうですの?」

「ワヒャッ!!ヒャヒャっ止めっやめテ!!くすぐったいっ!」

「奥様、わきはもう少し念入りに。回す感じで洗ってみてください」

「こうですの?(くるくる…くるくる)」

「ヒャーッハ!!ヒョゥッ!!」

まぁ!マクシム様、楽しいのですね?わたくしも楽しいですわ!

最初はものすごく声だけで抵抗をされておられましたが、下生えは濃くて石鹸がよく泡立ちます。面白くなって石鹸をモコモコさせてあげますと、お身体の一部もモコモコされるのです。座学で習った通りですわ!ただ、殿方がこんなに叫ぶとは書かれておりませんでしたけれど。


お屋敷にいる間は、マクシム様はフィポリス殿下の身代わり。
わたくしはその身代わりの夫が愛すると言う架空の妻の身代わり。

身代わり妻は楽しいですわね。

腕が動かないマクシム様に、お食事を召し上がって頂く時はわたくしが食べさせます。

「マクシム様、あ~ん♡ですわ」

「あ~ん(もぐもぐ…もぐもぐ)」

「うふっ♡頬が動いて可愛いですわね。癖になりそうですわ」


お口についたソースまで可愛く見えます。
小さなことがこんなに幸せに感じるなんて。きっとそれがマクシム様だからですわね。

Fin

☆彡☆彡

長い話にお付き合い頂きありがとうございました<(_ _)>

ちょーっと火曜日が終わるまで時間があるので番外編を投稿して完結にします。<(_ _)>
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