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第17話♥3公爵の腹のうち

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イーベルサン王国には3大公爵家がある。
アッペルバーム第二王女(第二子)が嫁いだグスベタス公爵家。

今は代替わりをしてディオンが当主。
アッペルバームは王女ではなく公爵夫人と呼ばれている。

ヨアニス第4王子は王弟となり、妻はカラスズ公爵家の次女。公爵家の家督は妻の長兄であるシュクルトが継いでいる。

あと1つの公爵家はディアマン公爵家。
王族の誰を推すでもなく中立を保っている公爵家である。
当主はコスタス。

3人とも国王となったエンリケの竹馬の友。


親友とは言っても、公爵家という王家に継いで力のある立場となれば憂いを払拭するのも仕事の一つ。

国王夫妻には成婚して5年以上が経つのに子がいない。
子がいないという事は王子や王女すらいないという事で今の段階では次の治世を統べる国王が未定のまま。側妃を召し上げてはどうかと考え出した貴族も多い。

3年目、4年目は何とか誤魔化せても5年目を過ぎたとなれば言い訳をするよりも打開策を打ち出す事の方が重要になって来る。



「陛下に、このような事を申し上げるのは心苦しい」

ディアマン公コスタス爵がポツリと呟けば、カラスズ公爵シュクルトは眉間に皺を寄せ険しい表情を見せた。

直系であるエンリケに子がいれば良いのだが、現時点では厳しいと言わざるを得ない。


カラスズ公爵シュクルトの実妹とヨアニスは婚姻をしたが立場は王弟。既に子宝には恵まれているが、こちらは王弟と言う立場である限り、子供たちの継承権は保留のままになっている。

イーベルサン王国では王弟は国王に継いでの権力があるが故に国王が逝去した時、王弟が国王に繰り上がる事はない。兄弟姉妹とは言え、血は国王を軸に考えられる。
己の兄弟姉妹から国王が出た場合、所謂「分家」扱いとなる。

補佐である王弟はその代に限り権力を有するが、繰り上がって国王になってしまうとより強力な施政を行う可能性がある。場合によっては子に継がせ裏で糸を引く。そのため王弟の子供たちは権力の集中を防ぐために継承順位が下げられる。王弟の子が国王になるのは最後の手段とも言える。


対してグスベタス公ディオン爵は涼しい顔である。エンリケが即位する前にアッペルバーム王女と結婚をし、早々に子を1人、今は3人目が腹にいる。
王弟ヨアニスの子供たちよりも継承順位は上になる。理由は間違いなく王家の血を引く王女から生まれた子。出産時の産婆の他に立会人を置けばそれが証明されるため、証明度の高さでヨアニスの子供たちは劣る。


このままエンリケに子が出来ないとなれば次の国王はグスベタス公爵家から選ぶ事になる。そうなれば3つある公爵家がようやくバランスを取り始めたのにその均衡がまた崩れる事にもなり兼ねない。
先代国王もその懸念から側妃を召し上げ、第3王子カルロスが生まれた。

側妃との子はカルロスのみ。
カルロスが予定通り婚姻をして婿入りをしていれば、エンリケに子が出来ない時に2人の子供が選ばれるのが一番波風を立てずに済む方法だった。

正妃の子ではないカルロスの子。
エンリケ、カルロス、ヨアニスの3人のうちで一番国王に似ていたのがカルロス。
見た目も、正確も仕草すらまるでコピー品かと思うほどに。
母の立場が弱いだけに万が一の時は、カルロス自身その後ろ盾の脆弱性と婿入りをせねばならない立ち位置。

3つの公爵家がカルロスを支えるという構図が出来上がる。
直系ではなく分家からの選出とする場合は、何処かが突出した力を持たずに済むため他の貴族も溜飲が下がる。


カルロスにもエメリーアナとの間に子はいるが、推せない事情があった。
国教で禁忌とされた「不貞の子」とされているからである。
婚姻をした後も、不貞行為で結ばれた親を持てば子に責任はないとは言え、貴族の中から「倫理観」の問題が噴き出すのは目に見えている。

貴族も正妻以外の女性との間に子をもうけている者もいるが、家督の継承は認めていないからで、貴族はダメで国王なら良いのかとなれば、下手をするとハチの巣をつついたようになってしまう。


カラスズ公爵シュクルトは誰が選ばれようと家は恩恵には肖れない。
投げやりな声を出した。

「陛下には側妃を。それが一番の解決策だろう」


現状では我が子が良い立ち位置になるグスベタス公ディオン爵はニヤリとほくそ笑んで、解けない問いをディアマンコスタス公爵に投げた。

「だが、側妃の選出となればこれも頭が痛い問題。違うか?ディアマンコスタス公」

「確かに選出は難儀だ。だが何も手を打たずという事は出来ない」


問題は現在の王妃キュテリアの実家が伯爵家という事だった。
学業も優秀で、品行方正。伯爵家という微妙な立場だからこそ「女性の社会進出」という男性以上に出来る女性にも活躍の場をと事業が始まっている。

実際に働き始めた女性も増え、次に続けと令嬢に対し学業に力を入れ始めた家も多い。民衆には圧倒的な支持を得てはいるが、側妃を選ぶとなった時に同じ伯爵家となれば伯爵家の中にも力関係がある。
王妃キュテリアの実家は没落貴族と呼ぶに相応しかった。

伯爵家や侯爵家には子が産める年齢の令嬢はいるのだが、王妃よりも実家の爵位や経済力が上の側妃となれば側妃が王妃に対し傅けるか。

民衆に高い支持を得ていてもそれが生まれながらの貴族令嬢も同じ考えだとは到底考えられない。


グスベタス公ディオン爵は難しい顔をするディアマン公コスタス爵に「妙案だ」と一つの提案をした。

「ディアマンコスタス公。この際だ。自己申告にはなるが身綺麗な者だけを集めた夜会を開いて見てはどうだ?未婚かどうかは調べればすぐに判る。あとは側妃となるに純潔かどうか。虚偽は縛り首になるとでも名乗り出た後に伝えれば辞退をする者も出る。残った中から選べばいいだろう」


エンリケの年齢ももう30歳。次の国王が即位する年齢を考えればそろそろ限界の年齢とも言える。

王妃キュテリアはエンリケよりも1歳年上でこの国の女性としては初産となるには厳しい年齢でもある。医学も未発達で出産で命を落とす者も少なくなく、18歳前後で結婚し21歳までには初産を経験する多くの貴族令嬢からすればどちらに難があるかも側妃を召し上げる事でその先を決めねばならない。


「カルロス殿下さえ過ちを犯さねば…」


散会した3公爵。ふとディアマン公コスタス爵だけは王宮内の執務室に戻る足を止めた。


――何故、偶然とも言えるあの時期に過ちを犯したんだ?――

去って行く2人の公爵の背を見て「陰謀?」小さく呟いた。
顎に手を当て、しばし考えたディアマン公コスタス爵は国王エンリケの元に向かった。
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