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第33話 抱きしめる理由
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ジョルジュは「テオドールに知らせるのに割符ようなものはないか」とシャルロットに問うた。
しかし割符と言ってもテオドールからの贈り物は何も受け取っていない。
連れて来られた時の服装のままなので装飾品もない。
――あ、そうだ!――
シャルロットはジョルジュに「テオドールが解ってくれる言葉」を伝えた。
★~★
勤務を終えたジョルジュ。
いつもは辻馬車の乗り換えも1度だが、その日は途中で下車をした後カフェで飲みたくもない茶を飲み、商店街に買い物の人が一番溢れる時間を狙って店を出て路地に身を顰める事1時間。
怪しげな雰囲気の漂う、ついでに目のトンだ老婆がその辺の草を乾燥させた自前タバコを恍惚とした表情でフカす煙が漂う部屋を「ちょっとごめんよ」と通り抜け、アベルジェ公爵家の裏口にやって来た。
ジョルジュの本職は諜報。ただ王太子妃の手駒である事は一定の人間には知られていた。
髪に手を突っ込み、耳の少し上で顔の表情を横に引っ張っていたピンを取り、鼻の穴を上向かせるために詰め込んだ木の実を片方づつ「フンッ!」と噴き出す。
テオドールも二度見、三度見する美丈夫だが、元の顔に戻ったジョルジュもかなりの美丈夫。
美丈夫と言うのはどうしても顔面偏差値が高いので、人の印象に残りやすい。そして敢えてその顔を崩し醜男になるとは誰も考えない。
醜男もそれなりに印象に残るが、その場合顔の均整がとれていないので、側面に広がった目や、天を向いた鼻の孔など部分的な特徴が印象として残る。
諜報として別の顔を持つ事は大事なのである。
裏木戸をこんこんと叩くとアベルジェ公爵家の使用人が声だけで問う。
当然ながらいきなり開けてくれる事など無い。
「ご息女の事を知らせに来た。義理の子息に目通り願いたい」
少しの間を置いて「お待ちください」と声が帰って来た。
当主を願うのではなく、テオドールを呼ぶ時に「義理の子息」と呼ぶ。
ある程度の事情は知っていますよという暗号のようなものだ。
ジョルジュの予想通り、裏木戸の扉の向こう側に来たのはテオドールだった。
「お前は誰だ」
「王太子妃殿下の命を受けたものです。テオドール殿とお見受けする」
「いかにも。テオドールだ。情報に嘘はないか」
「預かっている割符を伝える」
「割符?」
テオドールは戸惑った。シャルロットに割符になるようなものは何も渡せていない。
その上「伝える」とはどういうことだ?首を傾げた。
「浴室にローマ帝国の暗渠は今後の予定。割符になるか?」
ジョルジュの言葉が止むか止まないか。テオドールは勢いよく扉を開けた。
★~★
テオドールの元に居場所が知らされていた頃、シャルロットはサンドリヨンの部屋で食事をしていた。
食事と言ってもサンドリヨンに出されるのは1人分。
サ「半分あげる。パンもすっごく柔らかいの」
そう言いながらパンを半分にしたサンドリヨン。シャルロットが受け取ったパンはチャミングが運んで来た食事にあったパンよりかなり硬かった。明らかに焼いたのは昨日か、一昨日。
サ「フワフワでしょう?カビてないから大丈夫よ」
シ「黴って…」
サ「ここはね、食事以外は最低だけど食事は最高なの」
口に入れればパサパサするパン。
――ごめんなさい!お菓子が甘くない、美味しくないなんて贅沢はもう言いません!――
サ「私ね、ここに来る前は養母や義姉の余り物だったから・・・あいつら意地悪だったの。わざわざ埃もクルトン代わり!とか言って入れるのよ?温め直したら文句言うし。その点ここの食事は埃のクルトンは入ってないし、スープも温かいのよ。スープも半分こね。スプーンは1つしかないから先に食べて」
シ「あなたはどうするの?」
サ「スプーンの共用は嫌でしょう?私はお皿から直接飲むわ」
シャルロットは堪らなくなってサンドリヨンを抱きしめた。
あんなにクロードには「抱きしめんでえぇわ!」と思ったのに、今はサンドリヨンを抱きしめたくて堪らなかった。
いまなら不要に抱きしめてくるクロードの気持ちが解る気がする。
抱きしめなくてはいけないとか、そんなのではない。ただ抱きしめたい。それだけなのだ。
そこに理由なんて要らなかった。
夜はサンドリヨンの寝台で並んで寝る。
シャルロットには姉妹はいないけれど、いたらこんな感じなのかな?と夜遅くまでサンドリヨンとシャルロットは「チャミングのダメ出し」で盛り上がったのだった。
しかし割符と言ってもテオドールからの贈り物は何も受け取っていない。
連れて来られた時の服装のままなので装飾品もない。
――あ、そうだ!――
シャルロットはジョルジュに「テオドールが解ってくれる言葉」を伝えた。
★~★
勤務を終えたジョルジュ。
いつもは辻馬車の乗り換えも1度だが、その日は途中で下車をした後カフェで飲みたくもない茶を飲み、商店街に買い物の人が一番溢れる時間を狙って店を出て路地に身を顰める事1時間。
怪しげな雰囲気の漂う、ついでに目のトンだ老婆がその辺の草を乾燥させた自前タバコを恍惚とした表情でフカす煙が漂う部屋を「ちょっとごめんよ」と通り抜け、アベルジェ公爵家の裏口にやって来た。
ジョルジュの本職は諜報。ただ王太子妃の手駒である事は一定の人間には知られていた。
髪に手を突っ込み、耳の少し上で顔の表情を横に引っ張っていたピンを取り、鼻の穴を上向かせるために詰め込んだ木の実を片方づつ「フンッ!」と噴き出す。
テオドールも二度見、三度見する美丈夫だが、元の顔に戻ったジョルジュもかなりの美丈夫。
美丈夫と言うのはどうしても顔面偏差値が高いので、人の印象に残りやすい。そして敢えてその顔を崩し醜男になるとは誰も考えない。
醜男もそれなりに印象に残るが、その場合顔の均整がとれていないので、側面に広がった目や、天を向いた鼻の孔など部分的な特徴が印象として残る。
諜報として別の顔を持つ事は大事なのである。
裏木戸をこんこんと叩くとアベルジェ公爵家の使用人が声だけで問う。
当然ながらいきなり開けてくれる事など無い。
「ご息女の事を知らせに来た。義理の子息に目通り願いたい」
少しの間を置いて「お待ちください」と声が帰って来た。
当主を願うのではなく、テオドールを呼ぶ時に「義理の子息」と呼ぶ。
ある程度の事情は知っていますよという暗号のようなものだ。
ジョルジュの予想通り、裏木戸の扉の向こう側に来たのはテオドールだった。
「お前は誰だ」
「王太子妃殿下の命を受けたものです。テオドール殿とお見受けする」
「いかにも。テオドールだ。情報に嘘はないか」
「預かっている割符を伝える」
「割符?」
テオドールは戸惑った。シャルロットに割符になるようなものは何も渡せていない。
その上「伝える」とはどういうことだ?首を傾げた。
「浴室にローマ帝国の暗渠は今後の予定。割符になるか?」
ジョルジュの言葉が止むか止まないか。テオドールは勢いよく扉を開けた。
★~★
テオドールの元に居場所が知らされていた頃、シャルロットはサンドリヨンの部屋で食事をしていた。
食事と言ってもサンドリヨンに出されるのは1人分。
サ「半分あげる。パンもすっごく柔らかいの」
そう言いながらパンを半分にしたサンドリヨン。シャルロットが受け取ったパンはチャミングが運んで来た食事にあったパンよりかなり硬かった。明らかに焼いたのは昨日か、一昨日。
サ「フワフワでしょう?カビてないから大丈夫よ」
シ「黴って…」
サ「ここはね、食事以外は最低だけど食事は最高なの」
口に入れればパサパサするパン。
――ごめんなさい!お菓子が甘くない、美味しくないなんて贅沢はもう言いません!――
サ「私ね、ここに来る前は養母や義姉の余り物だったから・・・あいつら意地悪だったの。わざわざ埃もクルトン代わり!とか言って入れるのよ?温め直したら文句言うし。その点ここの食事は埃のクルトンは入ってないし、スープも温かいのよ。スープも半分こね。スプーンは1つしかないから先に食べて」
シ「あなたはどうするの?」
サ「スプーンの共用は嫌でしょう?私はお皿から直接飲むわ」
シャルロットは堪らなくなってサンドリヨンを抱きしめた。
あんなにクロードには「抱きしめんでえぇわ!」と思ったのに、今はサンドリヨンを抱きしめたくて堪らなかった。
いまなら不要に抱きしめてくるクロードの気持ちが解る気がする。
抱きしめなくてはいけないとか、そんなのではない。ただ抱きしめたい。それだけなのだ。
そこに理由なんて要らなかった。
夜はサンドリヨンの寝台で並んで寝る。
シャルロットには姉妹はいないけれど、いたらこんな感じなのかな?と夜遅くまでサンドリヨンとシャルロットは「チャミングのダメ出し」で盛り上がったのだった。
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