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第24話   胸のざわめき

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着々と進む浴室造り。

「そこにはタイルを張ってくれる?」
「タイルって…これですか?陶器の?」
「そうよ。もうすぐ陶器で作った配管も届くわ。届いたらこの穴に通してつなぎ目は粘土で覆って焚火の火で炙ってね」

浴槽となる湯船はもう完成をしている。
実は2回失敗をしたのだ。陶器で作った配管を通す穴を塞いで水漏れがないかも調べた時に水がドバドバと漏れてしまった。原因は木の板の隙間。

レンガで囲ったのはあくまでも保温のためなので石灰で隙間を塞いでいても水は漏れてしまう。

悩みに悩んで木の板の厚さを2.4cmとして板のつなぎ目を凹凸にして嵌め込んだ。すると水が漏れなかったのだ。

おかげでやっと水漏れをした事で溢れだした水によりぬかるんだ場所もいつもより職人の人数を増やした事でひと段落しそうだ。

地味に工事を進めているとやはりやって来た。テオドールである。

「かなり出来たね。これが湯船っていうのか」
「そうよ。お湯をなみなみと張ってザブーンっと飛び込むの。気持ちいいのよ?あ。勿論体をちゃんと洗ったあとだけど」
「そうなのか。川で渡しをしている船の事じゃなかったんだな。で?水を抜く筒はどうして陶器なんだ?鉄にすれば刀鍛冶が直ぐ作ってくれるのに」
「鉄は錆びてしまうからダメなの。あと亜鉛管は曲がってるところとか加工はしやすいけど、亜鉛が有毒だから最後に川に流す事を考えたら使えないわ。陶器は割れてしまうけど替えも効くし現状で一番いいかな」
「現状って・・・他に何かあるのか?」
「塩ビ管ね」
「エンビ??へっ?」
「いいの。いいの。で?今日はどうされましたの?」
「どうもしないよ。ロッティの顔を見に来たんだ」
「昨日と変わりませんけど?毎日暇なの?」
「そう言う訳じゃないんだが…ちょっとね」


テオドールはここ最近チャミングが従者も連れずに馬車で何処かに出掛けている事を掴んでいた。
ただ、馬車を降りるのが人通りの多い場所。馬車の中で側付の従者達から奪ったに近い服に着替えている。馬車は降り口が路地に面した方で停車をする。

下車するのは確認をしているのだが、直ぐに人ごみに紛れてしまい何処に出掛けているのかを調査中である。

シャルロットに登城しろと手紙を商会の封筒で送って来たりもだが、後ろ盾となる貴族ももういない事から経済的には支給される金には困っているとみられていて王太子も警戒を強めている。

テオドールも納入の商人に紛れてチャミングがアベルジェ公爵家に来るのではないかと以前より滞在時間も長くなった。

「湯船も良いんだが、そろそろ結婚式の事を決めないか?」
「え?まだ結婚する気でいたの?」
「当たり前だろう!何のために婚約したんだ?」
「えぇっと…破棄するため?」
「まさか!破棄なんかしないぞ。いいか?最初に言っただろう?君の事を――」
「はいはい。あの嘘っぽい言葉ね。覚えてますよ」


シャルロットは浴室を作るとか風変わりな事をしているし、危ないやつとより確実に認定するために足繁くテオドールが来ているのだと思っていた。

確実に「危険人物ポイント」は加算されているはずなのだ。あと「礼儀知らずポイント」もかなり貯まっているはずだ。

テオドールは、確かに初日に言った言葉に心はなかった。それは認める所だが、シャルロットのような人間は女性と言う括りを取っ払っても初めてだった。

キュウリを丸齧りで食べたり、農婦のような格好で畑を庭師と耕したり野菜を収穫したり、誰もが右から左に聞き流すような他国の歴史を把握していて、時折理解不能な言葉は出てくるけれど無駄がない。

毎日、会うたびに魅かれていく自分がいた。
強く拒絶されている訳ではなさそうだし、このまま結婚するものだとばかり思っていた。

「ロッティ。信じてくれ。俺はロッティに惹かれている。好きなんだ」
「へーへー。ほーほー」
「茶化さないでくれ。本当なんだよ」
「そう?でもその前に今日の予定を終わらせたいの。そのタイル、取ってくれる?」
「タイル??あぁ。これか」

10cm四方のタイルは洗い場となる部分に敷き詰めている。本当は大きさもまばらな方が滑りにくいのだが、大工職人がタイルの表面に滑り止めでガリガリと掘り込みをいれてくれたので、隣り合うタイルの掘り込みを90度回転させて床に張り付けている。

「はぁ…あと20枚くらいね」
「明日にしたらどうだ?もう外も暗くなってランプの灯りでやってるじゃないか」
「そうなんだけど…ここだけ残すのって気持ち悪いでしょう?」

==そんなものかな?そうでもないと思うが==

テオドールはこの後、アベルジェ公爵と今後のチャミングがどんな行動に出てくるか予測し対応を立てる事になっている。

そろそろ向かわねばならないのだが、胸がざわざわするのだ。
ここから離れるなと本能が訴えかける。


「そろそろお父様と約束の時間じゃない?」
「そうなんだが…なんだか嫌な感じがするんだ」
「嫌な感じ?大丈夫よ。新月だけど雨が降ってる訳でもないし嵐でもないわ」
「天気じゃないんだよ…なんだか・・・」
「お昼に脂分の多いものでも食べたんじゃないの?婚約破棄の話はまた今度ね。さぁ、お父様の所に行って」


シャルロットに「行け行け」と急かされてテオドールはその場を離れた。
アベルジェ公爵家の敷地内だし…そう思ったのが小さな油断だった。

危機はすぐそこまで迫っていた。
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