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VOL:2  ペル伯爵家の立ち位置

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「それはもうお怒りでした」
「そうでしょうね」

言伝を頼んだ従者はげっそりと頬骨が浮き出るように見えるのはキール様のお怒りがそれだけ凄まじかったのだろう。

キール様がお怒りになるのも判らぬではない。
婚約者同士の言わばデートが観劇だけで終わるはずが無い。

宿泊まではまだないとしても、観劇が終わった後の寛ぐ場も、夕食の為のレストランの予約も全てミリアが「これがしたい」「ここで食事したい」などの希望を叶えたものだったし、婚約をして1年となるためキール様はアクセサリーのセットを特別に注文し、無理を言って急がせて誂えさせていたのだ。


「モネス伯爵家には詫び状と何か見繕っておかねばならないわね」


頭の痛い事だ。今、モネス伯爵家を敵に回すのは得策ではない。
ミリアが問題を放り投げて行った後に訪れたニードル公爵の妻はモネス伯爵家の出自。政略結婚とは言え格下の伯爵家から何故公爵家のしかも嫡男に嫁げたのかと言えば「金」だ。

モネス伯爵家は数代前に運送業界で莫大な財を築き、その私財は王家をいや、国家予算を遥かに超えると言われている。


問題は資産や業界における発言力だけではなかった。


キール様の父である現伯爵は公爵家に嫁いだ妹とは恋人かと思うほど今も仲が良く、行き過ぎたシスコンと言われている。

キール様は見目麗しい子息で、公爵夫人は甥であるキール様を実子以上に可愛がっている。事業に入り込めたのもミリアとキール様、いやモネス伯爵家とペル伯爵家が姻戚となる婚約があったからこそ。

この事で婚約が無くなってしまえば我が家が他の貴族からも干されてしまうのは目に見えている。

ニードル公爵家に目をつけられるという事はあらゆる事業にはもう参入出来なくなるし、各種業界は結局繋がっている事からモネス伯爵家に手を切られれば末端の商会も取引はしてくれなくなる。



目の前の使用人だって同じ。

使用人のほどんとは騎士爵や良い所で男爵家の子女たち。
結婚などで家を出て、平民と同じ暮らしをしていても籍は貴族。

1つの家に行儀見習い時から勤める者よりも待遇の良い家に転職をする者のほうが圧倒的に多い。

彼らも生きて行かねばならず、転職しようにも過去にペル伯爵家で使用人をしていたとなれば次に雇ってくれる先では足元をみられ、二束三文で労働力を売る事になる。

最後の手段が縁故採用。
縁故採用を嫌うのは自由に動けず、縁故であるが故に賃金が安くなる。俗にいう【家族なのに給料を払うの?】という古臭い考え方だ。

だから内情を知る使用人がいの一番に逃げ出す。
金融商会の取り付け騒ぎのようになるから商会が手を引く。
下手をすればその日の食料ですら手に入らなくなる可能性だってある。

失態は早めに手を打たねば路頭に迷ってしまう。


詫び状を送るのは当たり前だが、詫び状に添える品も選ばねばならない。

これが正直頭が痛い。国内でモネス伯爵家に買えない品はない。
モネス伯爵家が買えない品を他の貴族が買えるはずが無い。

そんな家に送らねばならない侘びの品。事業の事に集中をしたいのに余計な事まで考えねばならずわたくしは溜息しか出なかった。


そんな溜息も悩みもポロで散々な結果に終わり、機嫌の悪い父には届かなかった。
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