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VOL:3  回避したのに  

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父の怒りの矛先は夕食の時間、何故かわたくしに向かって飛んできた。


「アリア。どうしてお前はそんなに性格が歪んでいるのだ?」


肉を切っていたナイフを止めてお父様を見る。
母とは並んだ位置にいる父。必然的に母も視界に入る。

いつもの事だが、母もどうやら父と同じく機嫌が頗る悪いようだ。
怒りを含んだ視線がわたくしに向けられているのが判る。

一旦瞼を伏せて、別に視界を向ければミリアが小さく「ごめん」と唇を動かし、ウィンク。


――またわたくしが悪者なの?――


返事をする気にもなれないが、父は返事を返さないわたくしに最後通告だとばかりに言葉を吐いた。


「次に同じような事をしたらお前はもう修道院に入れると言っていたはずだ」


父の声にミリアが目を潤ませて「お父様!酷いですわ!」と声を荒げる。
とんだ茶番だ。

わたくしに言わせてみれば酷いのはミリアの方なのだが、何故か周りにはそう見えない、感じられないらしい。


「モネス伯爵からも厳重抗議があった。全く・・・お前もどうしてちゃんと教育をしないんだ!」


父の怒りの矛先はわたくしだけでなく母にも向けられた。
だが、それで「すみません」と首を垂れるような女ではないのが母だ。


「まぁ!わたくしのせいだと仰るの?貴方こそ姉妹でもアリアは長子だから家を継ぐのだと甘やかしてばかりでは御座いませんの?ミリアが妹だと言うだけで講師も直ぐに外してしまい学びの機会を奪ったと言うのに!」


ヒステリックに母が声を荒げてしまうと、売り言葉に買い言葉。
元々政略結婚で中は冷え切っていた夫婦。

子はかすがいとはよく言ったもので、ミリアがいるから夫婦であり、家族でいられる。ミリアがいなければとっくに離縁をして他人となったであろう2人だ。

言い合いの喧嘩が始まり手を付けたばかりの皿も給仕に下げてもらった。
こんな罵声の中、フルーツを食べられるミリアの神経をわたくしも見習った方が生きやすいのかも知れないとさえ思ってしまう。


「だいたい家の事はお前がしっかり管理をするべきなんだ!」
「ですからミリアにももっと気を配れと言っているのです!」
「アリアは家を継ぐのだからと贅沢をさせていたのはお前だろう」
「違います!あれはアリアがミリアから取り上げた物ばかりですわ」


頭が痛くなってきた。折角調理長が作ってくれた料理もヒートアップした2人は皿ごとテーブルから落とし、今にも組み合いそうなくらいに身を乗り出して顔を近づけ、遂には立ち上がり罵り合う。


「お父様、お母様。論点がはっきりしません。子育ての方針についてのやり取りなら食事が終わった後にして頂けませんか」


聞くのも面倒だが、席を立ってしまえばさらに面倒。
それぞれが中座したわたくしを部屋に呼びつけ気が済むまで罵倒するのだ。時間など関係ない。まさに気力が尽きるまで罵倒し続けられ、「~だろう!」と言われた事に肯定しても否定しても殴られる。

なら、どうせの事だ。原因はミリアにあるのだからミリアがデザートを食べ終わらないうちにこの場で話をした方が早い。

何故か?答えは簡単だ。

父も母も、ミリアの前でわたくしを「躾」という名目をかざして汚い言葉で罵倒する事はしても、ミリアの見える所で手をあげる事はない。ミリアが見るのは頬を腫らし、いつもとは違う赤や青が皮膚を彩る事後の姿。

罵り、手をあげる事で疲れ果ててぐっすりと眠りに落ちた父と母は翌朝にはスッキリとした目覚めを迎えて全てが「事後」となっているし、ミリアは「痛いでしょう。なんて酷いケガ」と心配してあげる自分に酔いしれる。

この場で抗議の原因を言わせれば、少なくとも殴られる事はない。


「論点だと!?」
「モネス伯爵家は我が家の教育方針について抗議されたのですか?違いますでしょう?」
「当然だ。他家に口出しをされるような事ではない」
「では、抗議の内容は何でしょう。修道院に入れねばならないほどわたくしの性格が歪んでいると思われた根拠が抗議にあったのでしょう?」

父は「そうだ!」とわたくしに向かって怒鳴ると今日一番の驚きを与えてくれた。

「だいたいアリアがキール君を寄越せとゴネるのがいけないんだろう!」


暴力を回避したつもりだったが、父の言葉に頭をガツンと殴られたかと思った。
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