殿下のお世話はやめました

cyaru

文字の大きさ
27 / 57

第27話  エルドールの確率論

しおりを挟む
従者に挨拶をして帰ろうとするアリスティアをエルドールは追いかけ、後ろから腕を掴んで歩みを止めた。

「殿下!何をされるんです」

アリスティアを馬車まで送る係を申し付けられた従者がエルドールの手を離そうと掴んだが逆に空いた手で弾かれてしまった。

従者にしてみれば相手はエルドール。第一王子なので無碍な事は出来ず言葉で「おやめください」というのが精一杯。


「なんだっていいだろう。僕たちは婚約者同士なんだ。お前が口出しをする事じゃない」

「しかし!本日はそのような予定ではありません」

「予定など未定だ!アリス、話がしたいんだ。少しで良い。時間をくれないか」


エルドールは必死になってアリスティアに懇願をした。
何があっても今日を逃せば確実に会えるという時間は取れなくなることからアリスティアに話しておきたい事があった。

地方への視察に行くことになり、エミリアとの結婚への時間はその間止まることになった。戻って来るのが何時と明確な日付が判らないのに1年後とされた結婚式に帰って来られるかどうかも判らないため、一時中断した。

それはいいのだ。エミリアと結婚する気はないのでエミリアとなら結婚の話が棚上げされるのも、先延ばしになり見直しになるのもエルドールにとっては僥倖としか言えない。

問題は婚約破棄の方だ。
国王は視察に行くのなら待つ、そんなニュアンスを感じ取れるような言葉を吐いたが信用は出来ない。

慰謝料代わりに直轄領がフェルマン伯爵家の所有になればフェルマン伯爵家は国王に貸した金も無かった事にする算段。つまり、国王には婚約を続けるメリットもデメリットもない。ついでに借金も無くなるのだ。

結婚の先延ばしと同じく、婚約破棄の手続きも止めてもらう必要があったが、それを国王に言ったところで匂わせの返事をまた返されるだけ。

動いてくれると期待するだけ無駄だと言う事である。

なら、当事者でもあるアリスティアに「手続きは待ってくれ」と言ってもらうのが一番だ。エルドールが言ったところで効果は無くてもアリスティアがフェルマン伯爵に一言いえば、娘に甘いフェルマン伯爵は再考するはず。

願わくばこのまま既成事実を作ってしまえば直轄領の話も立ち消えになる。

だからどうしてもエルドールはアリスティアと話がしたかったし時間を作って欲しかった。


「離してください」

「ご、ごめん。痛かったか?」

手を離したが、アリスティアは逃げたりしない事にエルドールは安心した。
安心はしたのだが…。

「大丈夫でしたか?打撲などに効果のある塗り薬なんです。良かったらお使いくださいませ」

アリスティアは可愛い小さな薬ケースに入った軟膏を従者に差し出した。

「わぁぁ♡いいんですか?」

「えぇ。先ほど手を傷めましたでしょう?塗って少しして患部が熱を持ったような感じがしたら洗い流してください。それは効き過ぎになってしまいます。水で洗って薄めれば丁度になりますわ。使い終わったらよく洗ってくださいまし。軟膏の詰め替え用も容器を持参いただければ格安で売っておりますわ」

「助かります。これって子供でも使って大丈夫ですか?」

「お子様がいらっしゃるの?」

「はい、9歳、7歳、4歳でもう雨の日なんか家の中で水龍が暴れているようなものなんですよぅ。男の子ばかりなんでテーブルから飛んでみたり、ドアに掴まって開閉するのを楽しんだり。先日なんか隣の屋根からウチの屋根に飛び移ろうとして妻が失神したくらいで。ホントに生傷が絶えなくて」

「それは大変ですわ。試供品ですけど子供でも切り傷に使える優しい効能のクリームタイプを作りましたの。ご帰宅の際にお時間があれば屋敷に寄ってくださいませ。試供品なので無料ですし…良ければ使い心地などを後日お知らせ頂ければ風邪のひき始めなどに飲むドリンク剤をお礼に差し上げますわ」

「良いんですかぁ!!なんだか得しちゃったなぁ」


そこにエルドールの割り入る隙間もないほどにエルドールに手を弾かれた従者と笑顔で話し始める。
しかも「痛かったでしょう?」とアリスティアは従者の手まで取っている。

めらめらと従者に対し嫉妬の炎が燃え上がり、「いい加減にしろ!」と突き飛ばしてしまった。

「うわっ!」

「大丈夫ですか?腰を打ちましたね」

「待て待て待て!アリス!まさか従者の尻を撫でるとかするなよ!」

「見せて頂けます?」

<< はぁっ?! >>

従者とエルドールの声が重なる。
従者は「ここでは脱げません。今日は勝負パンツじゃないですし、ちょっと横が破れかけててスリット状なんです」ワタワタとして聞かれてもいない誰得情報まで暴露してしまった。

「いやですわ。患部を見るのはお医者様。私は後ろを向いて頂ければ結構ですわ」

「アハハ。そ、そうですよね。アハハ」

また、そこにもエルドールの割り入る隙はない。
エルドールはわざと転んでみようかと思ったが、転んだ隙にそのまま立ち去られそうな気がして転べなかった。
しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...