殿下のお世話はやめました

cyaru

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第02話  もう何もしない

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張り付いた笑顔をエルドールに向けた。


「そうでしょうか?では鼻も赤く塗ってくれば良かったですわね。気を回す事が出来ずに申し訳ないですわ」

「なっ!!そんな不細工な顔に小細工をしたところで何が変わると言うんだ!」

「そうでしょうか?誰か1人は注目してくださるかも知れませんわよ。こちらとしては家業の薬草調剤。まだご利用になっていない方がいるのであれば顔つなぎにもなりますし、道化の子か!とでも覚えて頂ければ儲けものですわ」

「するか!どうせ卑しいお前だ。食べ物が目当てなんだろう。いつもいつも草ばかり食ってるからな」

「食しているのではありません。煎じているのです」

「どうでもいい。だいたいお前は何に付けても一言多いんだ。講師でもあるまいに。目障りだ。失せろ」

相手をするのも面倒なのでアッチに行けと指さす方向にあるのは誰も手を付けない食事があるではないか。


アリスティアはこれ幸いとエルドールに「では」カーテシーを取り移動すると嫌な事は食べて忘れるに限る!っと先ずはローストビーフ。

「うっわぁ。美味しいッ!蕩けるじゃないの!」

そして交互にサンドされたトマトとモッツァレラチーズに絶妙に掛けられたオリーブオイルが絶品のカプレーゼ、今回ばかりは指で抓むことも許されるブルスケッタにキッシュ・ロレーヌもあるではないかと舌鼓を打つ。

「クハァ♡幸せだわ。口の中に楽団がいるってこんな感じかしら」


デザートは別腹なので、アップルマフィンにするか、ガトーショコラにするか、いやいや定番のエッグタルトは外せない。

「一口サイズにしてくれてるなんて。もう作ってくれた人に感謝~」

ガトーショコラが口の中で芳醇なチョコの香りを醸し出す。
どれどれ、もう1つと小皿に取ろうとトングを手に取ると友人のパトリシアがやってきた。


「まぁた1人で食べてる。は?」

?さぁ…隣に女の子ぶら下げてたから今頃はお楽しみじゃないかしら」

アレで通じてしまう悲しさよ。
パトリシアの周囲にいた令嬢にも誰の事を指しているのか説明しなくても解っているようで「うんうん」頷いていた。


「信じられない!王家が主催だからって不貞相手を連れて来る?!諸外国のお偉いさんも来てるのに!?」

「それが連れて来てたのよ~。そんな事よりパティ!このガトーショコラ!絶品よ!絶品!」

「暢気ねぇ。私だったらブチキレてるわ」

「キレたって無駄。王家にたてつく事なんて出来ないもの」


友人たちもエルドールとアリスティアが婚約した時は「美丈夫な婚約者っていいね」「王太子妃になれるかも?」と言ってくれたが最近は「顔だけってのもねぇ」と同情をしてくれる。

「お兄様で良ければ紹介するわよ」「田舎だけどお相手の居ない従兄弟がいるの」といよいよ我慢できなくなった時は受け皿もあると慰めにならない慰めもしてくれる。

社交辞令と解っていても友人の気遣いが嬉しい。

アリスティアもヤサグレながらに考えるのだ。
顔を見るたびに嫌味ばかりを言われると萎えてしまうし傷つく。

父親には「もう無理」何度も伝えたし抗議文も送ってもらったが相手は王家。
犯罪を犯したとか、相手から婚約解消や破棄と言ってくれないと臣下の伯爵家から言い出すことは出来なかった。

言い返さなければ二言目を浴びなくて済むんだろうか。
だけど食べていると嫌な事を忘れるって本当だな。

そんな事を考えながら2つ目のアップルマフィンを食べていて不意に思った。

――あれ?でもどうして私が ”躾” の真似事をしなきゃいけないの?――

言われた事にはもう反論するのも面倒だし、事実を述べるのも面倒。
ハッキリ言ってエルドールの相手をする事そのものが面倒。

だが、そもそもで!そもそもでだ。

国王と王妃が「王子とは!」ときちんと躾をしていれば済む事だし、それって婚約者がする事じゃないよね?と思ってしまった。

パトリシアの顔をマフィンを咥えてじぃぃっと見る。

「な、何よ?」

「って言うか、私、アレの世話を焼きすぎだし、手をかけ過ぎ?」

「今頃気が付いたの?!周囲は皆言ってるわよ!だいたいね、大きな声じゃ言えないけど殿下はもう21歳よ?それで王子教育が終わってないってのがおかしいのよ」

「パティ、声、大きいわ」

パトリシアはハッとして周囲を見て「オホホ」と笑う。数人がガン見していたではないか。令嬢らしく扇を広げ口元を隠してアリスティアに囁いた。

「アリス、貴女、明らかに手をかけ過ぎ。手をかけて育つならまだいいけどアレに見込みはないわ」

「そうよね!そうなんだわ!決めた。私、もう何もしないわ」

「何もって…」

「何もよ。あ~。なんで頑張っちゃったんだろう。バカらしくなったわ。そうよね。私があぁだ、こぅだと言ったところで両陛下が容認してるんだもの。そりゃアレが私なんかの言葉を聞き入れるはずもないわ」


アリスティアは憑き物がポロっと取れたように弾ける笑顔をパトリシアに向けた。

――よし、もう何もしないわ。必要最低限でいいわね――

今まで自分は何を気負っていたんだろう。
もうしない。たったこれだけで気持ちは羽根のように軽くなった。

アリスティアはパトリシアと共に3個目のアップルマフィンを頬張り幸せな気分に包まれた。
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