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第32話 不穏な噂
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貧民窟に到着をするとミセス・モローが「遅かったじゃなぁい♡」と何故かコルネリアに腕を組んでくる。
「離せよ。俺の妻だ」
「いいじゃなぁい。減るモンじゃなし。男の嫉妬は嫌われるわよ」
「よくねぇよ!離せって。お前も男だろうが!」
「失礼しちゃう。男なんて随分前に捨てたわ。コレはただの飾りよ。か・ざ・り」
飾りにしては主張が激しい気がするがギュッとコルネリアを抱きしめると「先に行ってて♡」周囲にいた子供達にコルネリアを託した。
「アンタはこっち!」
ヴェッセルの腕を掴んだミセス・モローはモロー傭兵の顔になってコルネリアの視界には入らない路地にヴェッセルを連れ込んだ。
「どうしたんだ?」
「どうしたじゃねぇよ。妙な噂が流れていやがる」
「妙な噂?どんな」
「この貧民窟の人間を使って良くない事を起こそうとジェッタ伯爵家が企てているって噂だ」
「はぁっ?何処でそんな噂が!」
ミセス・モローは傭兵上がりの気持ちは乙女。刺繍やレース編みで小銭を稼ぐが情報屋でもある。かつての仲間など伝手も多く色んな情報が入ってくるのである。
情報屋としてはミセスは無くなってモロー傭兵となるので口調もがらりと変わってしまう。
「噂が流れ始めたのはここ1週間から10日って所だ。貴族からじゃなくて盛り場から広がってる。そこまでは解っているがまだ発信源が特定できてねぇんだ。放っておいても所詮は絵空事だが…お嬢ちゃんの事業もあるだろう。噂ってのは気を付けてねぇととんでもない所に飛び火すっからな」
「1週間から10日…副王都から戻って来た頃だな。それにしても盛り場か…貴族じゃないな」
「あぁ。貴族じゃぁねぇな。貴族なら平民に伝わる頃にはもっと具体的になってる」
噂と言うのは人の口から口で伝搬して行くが、個人の想像などが加わってどんどん進化をしていく。この場合で言えば「良くない事」と言うのがクーデターであったり、王族の暗殺であったり、要人の誘拐などその時に流行っている歌劇などが盛り込まれて行くのだ。
稚拙な噂も貴族の間ならもっと広がっただろうが、民衆で盛り場を利用する者は男性が殆ど。女性はそこで働くものが多いが身近な話題でないと食いつきも悪い。
民衆にしてみれば名が知れた者の痴情の縺れなどスキャンダラスなものは食いつくが、政治絡みや事業絡みは話が面倒臭いし、貧民窟の人間を使ったところで面白みも何もない。
どうせなら王太子を使ってなどとした方がまだ食いつく。なので広まらないままで伝聞に想像が加わっていない状態だった。
「手間をかけるがもうちょっと調べてみてくれ。あと、人間を2,3人回してくれないか」
「それはいいが、どうしたんだ」
「今日もだが、周囲を嗅ぎまわっていると言うか…監視?とまでもいかないな。そう言う奴がいるんだ。子爵家ならとっ捕まえるが、ジェッタ伯爵家に迷惑はかけられない」
「あら?モテモテね。惚気かしらぁん」
「突然女に戻るな!!」
「いやぁね。男は随分前に捨てたと言ったでしょうに。うふん♡」
「ちっ。情報屋で使いまくってる癖にっ」
「あら?妬いてる?いいのよ?タイプじゃないけど相手してあ・げ・る」
「間にあっとるわ!!」
間にあってはいないが、そちらの趣味はないヴェッセルはグイっと唇を突き出してくるミセス・モローを手で押して遠ざけた。
ヴェッセルの機嫌は途端に悪くなった。自分なのかそれともコルネリアなのか。つけたり様子を伺っているのが高位貴族の回し者か、それとも言い寄って来た恋人同士だと自己陶酔した女なのか。
後者であればコルネリアに知られずにカタをつけることも出来るが前者は簡単ではない。
ジェッタ伯爵家の事業もあるので動くにしても動き方がある。
幸いにも貧民窟にいる今はその視線を感じない。
この区画に足を踏み入れると直ぐに違和感を感じた住人に目をつけられて身ぐるみ剝がされた上にここに来た目的も洗いざらい話したくなる状況に追い込まれる。
過去に王太子が放った間者がミセス・モローの愛玩具になったのは秘密だ。
「どこ行ってたの?」
「ちょっとな。で?どうだ?出来栄えは」
「それが…水が回らないのよ。もう少し導水路に傾斜をつけた方がいいわ。勢いで回ると思うの」
水量がもっとあれば豪快に回ったかも知れないが緩やかに桶に流れ込むので溜まった水が溢れるだけ。
残念そうな顔をするコルネリアも愛おしくて堪らない。
ついでにヴェッセル渾身の洗濯物絞り丸太も子供が懸命に丸太の上で足で蹴り上げるようにするがピクリとも動かない。
こちらは原因がすぐに分かった。
木枠に引っかける突起を角柱にしたから回らないのだ。
原因が判った時のコルネリアの顔。残念と落胆に呆れが加わっていたがヴェッセルの心をギューギューに絞り上げるくらいに可愛い!とヴェッセルは胸を押さえて悶えた。
「離せよ。俺の妻だ」
「いいじゃなぁい。減るモンじゃなし。男の嫉妬は嫌われるわよ」
「よくねぇよ!離せって。お前も男だろうが!」
「失礼しちゃう。男なんて随分前に捨てたわ。コレはただの飾りよ。か・ざ・り」
飾りにしては主張が激しい気がするがギュッとコルネリアを抱きしめると「先に行ってて♡」周囲にいた子供達にコルネリアを託した。
「アンタはこっち!」
ヴェッセルの腕を掴んだミセス・モローはモロー傭兵の顔になってコルネリアの視界には入らない路地にヴェッセルを連れ込んだ。
「どうしたんだ?」
「どうしたじゃねぇよ。妙な噂が流れていやがる」
「妙な噂?どんな」
「この貧民窟の人間を使って良くない事を起こそうとジェッタ伯爵家が企てているって噂だ」
「はぁっ?何処でそんな噂が!」
ミセス・モローは傭兵上がりの気持ちは乙女。刺繍やレース編みで小銭を稼ぐが情報屋でもある。かつての仲間など伝手も多く色んな情報が入ってくるのである。
情報屋としてはミセスは無くなってモロー傭兵となるので口調もがらりと変わってしまう。
「噂が流れ始めたのはここ1週間から10日って所だ。貴族からじゃなくて盛り場から広がってる。そこまでは解っているがまだ発信源が特定できてねぇんだ。放っておいても所詮は絵空事だが…お嬢ちゃんの事業もあるだろう。噂ってのは気を付けてねぇととんでもない所に飛び火すっからな」
「1週間から10日…副王都から戻って来た頃だな。それにしても盛り場か…貴族じゃないな」
「あぁ。貴族じゃぁねぇな。貴族なら平民に伝わる頃にはもっと具体的になってる」
噂と言うのは人の口から口で伝搬して行くが、個人の想像などが加わってどんどん進化をしていく。この場合で言えば「良くない事」と言うのがクーデターであったり、王族の暗殺であったり、要人の誘拐などその時に流行っている歌劇などが盛り込まれて行くのだ。
稚拙な噂も貴族の間ならもっと広がっただろうが、民衆で盛り場を利用する者は男性が殆ど。女性はそこで働くものが多いが身近な話題でないと食いつきも悪い。
民衆にしてみれば名が知れた者の痴情の縺れなどスキャンダラスなものは食いつくが、政治絡みや事業絡みは話が面倒臭いし、貧民窟の人間を使ったところで面白みも何もない。
どうせなら王太子を使ってなどとした方がまだ食いつく。なので広まらないままで伝聞に想像が加わっていない状態だった。
「手間をかけるがもうちょっと調べてみてくれ。あと、人間を2,3人回してくれないか」
「それはいいが、どうしたんだ」
「今日もだが、周囲を嗅ぎまわっていると言うか…監視?とまでもいかないな。そう言う奴がいるんだ。子爵家ならとっ捕まえるが、ジェッタ伯爵家に迷惑はかけられない」
「あら?モテモテね。惚気かしらぁん」
「突然女に戻るな!!」
「いやぁね。男は随分前に捨てたと言ったでしょうに。うふん♡」
「ちっ。情報屋で使いまくってる癖にっ」
「あら?妬いてる?いいのよ?タイプじゃないけど相手してあ・げ・る」
「間にあっとるわ!!」
間にあってはいないが、そちらの趣味はないヴェッセルはグイっと唇を突き出してくるミセス・モローを手で押して遠ざけた。
ヴェッセルの機嫌は途端に悪くなった。自分なのかそれともコルネリアなのか。つけたり様子を伺っているのが高位貴族の回し者か、それとも言い寄って来た恋人同士だと自己陶酔した女なのか。
後者であればコルネリアに知られずにカタをつけることも出来るが前者は簡単ではない。
ジェッタ伯爵家の事業もあるので動くにしても動き方がある。
幸いにも貧民窟にいる今はその視線を感じない。
この区画に足を踏み入れると直ぐに違和感を感じた住人に目をつけられて身ぐるみ剝がされた上にここに来た目的も洗いざらい話したくなる状況に追い込まれる。
過去に王太子が放った間者がミセス・モローの愛玩具になったのは秘密だ。
「どこ行ってたの?」
「ちょっとな。で?どうだ?出来栄えは」
「それが…水が回らないのよ。もう少し導水路に傾斜をつけた方がいいわ。勢いで回ると思うの」
水量がもっとあれば豪快に回ったかも知れないが緩やかに桶に流れ込むので溜まった水が溢れるだけ。
残念そうな顔をするコルネリアも愛おしくて堪らない。
ついでにヴェッセル渾身の洗濯物絞り丸太も子供が懸命に丸太の上で足で蹴り上げるようにするがピクリとも動かない。
こちらは原因がすぐに分かった。
木枠に引っかける突起を角柱にしたから回らないのだ。
原因が判った時のコルネリアの顔。残念と落胆に呆れが加わっていたがヴェッセルの心をギューギューに絞り上げるくらいに可愛い!とヴェッセルは胸を押さえて悶えた。
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