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第11話 こんなの望んでない
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次兄でも小言はあるだろうな思いながら、へらっと笑って振り返るとそこにいたのは次兄だけでなく父親も長兄もいた。
「いやぁ…連絡しようと思ってたんだけど忙しくて。留守にしちゃってごめん!!玄関が開かないからこっちに回ってみたんだ」
睨みつけてくる3人に努めて明るくカスパルは声を掛けたのだが、3人は何も言わない。カスパルはゆっくりと3人に頭を掻きながら近づいた。
「何も食べてないんだ。夕食は‥‥もう終わっちゃった?」
話しかけるが3人は全く返事を返さない。
「庭から入るのは行儀が悪いと解ってるよ。でも玄関でもドアノックはしたんだよ。だけど誰も――」
「開けるはずがないだろう。こんな時間に来客など予定にないからな」
やっと声を返してくれたのは長兄だったが、いつもと声色が違う。
カスパルが次の言葉を発しようとした時、やっと父親が口を開いた。
「出て行け。お前はもうハーベ伯爵家の人間ではない」
「え?…やだな。父上。だから連絡できな――」
「御託はいい。出ていけと言っている」
父親の言葉が途切れると次兄がシャツなどがはみ出したまま留め具を閉じたトランクを「ほら」差し出してきた。
「あの…どうして…俺、連絡できなかったのは悪いと思ってるよ?」
事の次第が飲み込めないカスパルに次兄が呆れた声で教えてくれた。
「お前は5日前に廃籍になった。ついでにご希望通り婚約も無事に破棄になっている。何処へでも好きな所に行くといい」
「廃籍?!ど、どういう…それに婚約破棄ってなんだよ」
「言葉の通りだ。そんな事も説明しないと判らないか?廃籍と言うのはお前の籍を――「
「判ってるよ!どうしてだって聞いてるんだよ」
「そんな事は説明されなくてもお前の言動を振り返ればいいんじゃないか?さぁ、出ていくんだ。抓み出されたいのか?」
次兄はトランクを受け取らないカスパルの腕を掴んで正門の方に歩き始めた。「離せよ」カスパルは抵抗するが領地に行くとあってひ弱な体ではこの先が思いやられると騎士団で鍛錬を積んだ力には敵わない。
「兄上!父上!!」声を張り上げて叫ぶが誰もカスパルを助けてはくれなかった。
正門まで引きずられるようにして歩いたカスパルは途中で片方靴も脱げ、擦れてしまった足は血が滲んでいた。
「元気でな。領地まで歩いてくるのなら飯くらいは奢ってやるよ」
「行ける訳ないだろ!!」
「なら今生の別れだな」
「兄上!なんで?なんでだよ。どうしてこんないきなり!!」
「いきなり?14年間も時間があっただろう。実質の時間としても5年以上はあったはずだ。思い当たる事が無いとすればお前はそれだけの人間だったという事だ。まぁお前の望んだ通りだろうから文句を言われる筋合いもない」
「望んだって…兄上、うわっ!!」
突き飛ばされて尻もちをついたカスパルの横にトランクが放り投げられ、当たる!と思ったカスパルが身構えると、続いて正門が無情にガチャンと音を立てて閉じられた。
咄嗟に這うようにして正門の鉄格子を掴んで次兄を呼んだが次兄は振り返る事もなく門道を歩いて行った。
「なんなんだよ…いきなり」
さっき投げられたトランクの元に戻ってみると「控え」と大きな印が押された書類が着替えの中に無造作に突っ込まれていた。抜き取って文字に目を走らせる。
「嘘だろ…俺、伯爵家の籍を抜かれてるのか…」
廃籍になった証明書などは何処にもない。その書類はハーベ伯爵家に籍がある者を証明した書類。書かれているのはハーベ伯爵家に子息は2人となっていて長兄と次兄の名前がある。カスパルの名前があるはずの場所には空欄で何も書かれていなかった。
「こんなの望んでないよ!なんでだよ!!」
書類を握りしめたままもう一度正門の鉄格子を掴み、叫んだがカスパルの声に返事は帰って来なかった。
「いやぁ…連絡しようと思ってたんだけど忙しくて。留守にしちゃってごめん!!玄関が開かないからこっちに回ってみたんだ」
睨みつけてくる3人に努めて明るくカスパルは声を掛けたのだが、3人は何も言わない。カスパルはゆっくりと3人に頭を掻きながら近づいた。
「何も食べてないんだ。夕食は‥‥もう終わっちゃった?」
話しかけるが3人は全く返事を返さない。
「庭から入るのは行儀が悪いと解ってるよ。でも玄関でもドアノックはしたんだよ。だけど誰も――」
「開けるはずがないだろう。こんな時間に来客など予定にないからな」
やっと声を返してくれたのは長兄だったが、いつもと声色が違う。
カスパルが次の言葉を発しようとした時、やっと父親が口を開いた。
「出て行け。お前はもうハーベ伯爵家の人間ではない」
「え?…やだな。父上。だから連絡できな――」
「御託はいい。出ていけと言っている」
父親の言葉が途切れると次兄がシャツなどがはみ出したまま留め具を閉じたトランクを「ほら」差し出してきた。
「あの…どうして…俺、連絡できなかったのは悪いと思ってるよ?」
事の次第が飲み込めないカスパルに次兄が呆れた声で教えてくれた。
「お前は5日前に廃籍になった。ついでにご希望通り婚約も無事に破棄になっている。何処へでも好きな所に行くといい」
「廃籍?!ど、どういう…それに婚約破棄ってなんだよ」
「言葉の通りだ。そんな事も説明しないと判らないか?廃籍と言うのはお前の籍を――「
「判ってるよ!どうしてだって聞いてるんだよ」
「そんな事は説明されなくてもお前の言動を振り返ればいいんじゃないか?さぁ、出ていくんだ。抓み出されたいのか?」
次兄はトランクを受け取らないカスパルの腕を掴んで正門の方に歩き始めた。「離せよ」カスパルは抵抗するが領地に行くとあってひ弱な体ではこの先が思いやられると騎士団で鍛錬を積んだ力には敵わない。
「兄上!父上!!」声を張り上げて叫ぶが誰もカスパルを助けてはくれなかった。
正門まで引きずられるようにして歩いたカスパルは途中で片方靴も脱げ、擦れてしまった足は血が滲んでいた。
「元気でな。領地まで歩いてくるのなら飯くらいは奢ってやるよ」
「行ける訳ないだろ!!」
「なら今生の別れだな」
「兄上!なんで?なんでだよ。どうしてこんないきなり!!」
「いきなり?14年間も時間があっただろう。実質の時間としても5年以上はあったはずだ。思い当たる事が無いとすればお前はそれだけの人間だったという事だ。まぁお前の望んだ通りだろうから文句を言われる筋合いもない」
「望んだって…兄上、うわっ!!」
突き飛ばされて尻もちをついたカスパルの横にトランクが放り投げられ、当たる!と思ったカスパルが身構えると、続いて正門が無情にガチャンと音を立てて閉じられた。
咄嗟に這うようにして正門の鉄格子を掴んで次兄を呼んだが次兄は振り返る事もなく門道を歩いて行った。
「なんなんだよ…いきなり」
さっき投げられたトランクの元に戻ってみると「控え」と大きな印が押された書類が着替えの中に無造作に突っ込まれていた。抜き取って文字に目を走らせる。
「嘘だろ…俺、伯爵家の籍を抜かれてるのか…」
廃籍になった証明書などは何処にもない。その書類はハーベ伯爵家に籍がある者を証明した書類。書かれているのはハーベ伯爵家に子息は2人となっていて長兄と次兄の名前がある。カスパルの名前があるはずの場所には空欄で何も書かれていなかった。
「こんなの望んでないよ!なんでだよ!!」
書類を握りしめたままもう一度正門の鉄格子を掴み、叫んだがカスパルの声に返事は帰って来なかった。
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