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第10話 小旅行から帰ってみれば
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小旅行から帰ったカスパルは、人でごった返す馬車乗り場でごねるエリーゼに辟易していた。
「えぇーっ?今日は一緒に居られないの?」
「家に帰らなきゃいけないからな。ほら、空っぽだし」
財布の中身を開いて、満足に遊べる金も持ち合わせがないと見せてもエリーゼは食い下がる。
「そんなの金融商会に行けばいいでしょう?もっと一緒にいたーい」
「金融商会はもう営業を終えてるよ。また明日家に行くからさ」
「やだぁ、つまんなーい。もっと一緒にいたいのぉ」
腕に縋り、上目遣いでエリーゼは甘えて見せるが、カスパルの気持ちはもう冷め切っていた。
幾ら大好物とは言え、毎日、毎食同じ物を食べれば飽きてしまう。
小旅行に行く前からもうエリーゼには飽きていた。
帰れば捨てるつもりだったので、エリーゼがどんなに可愛い子ぶってもウザく感じる。
――ま、空きがない時のキープでいいかな――
女性遍歴も19歳と言う若さなのに、それなりにあるカスパルはエリーゼのような女の扱いには慣れていた。この手の女はいきなり別れを切り出すとストーカーのよう付け回したり、自傷行為をちらつかせたりと面倒しか起こさない。
そして、カスパルの事は本命かも知れないが本命以外にも男がいる。ただそちらは「慰め役」なので寂しい時や体が疼く時に相手をさせるだけなのでキープにもなっていない。
男に都合のよい女がいるように、女にも都合のよい男はいるのだ。
慰め役と会う機会が多くなると気持ちも傾倒していくのでその時に「次の恋を応援しているよ」と綺麗に別れればつき纏われる事もない。静かにフェードアウトするのが基本だ。
「兎に角、今日は屋敷に戻らないと。1週間も戻ってないんだぜ?親父に外出禁止なんて言われたら会えなくなるだろう?」
「つまんなーい。パパさん厳しぃぃ」
「そう言うもんなんだよ。判ってくれよ」
「はぁい。でもぉ…エリー寂しいっ。泣いちゃう」
――ケッ!勝手に泣けや!――
心で毒吐きながらもカスパルは優しい笑みを浮かべてエリーゼの唇を噛むようにしてキスをするとエリーゼは納得したようで家のある方向に向かう辻馬車乗り場に何度も振り返りながら歩いて行った。
ご丁寧にカスパルはそんなエリーゼを姿が見えなくなるまで見送る。
「ホンット。うぜぇ女」
小旅行で使った水筒を手にして残った水を口に含んで、うがいをする。
ペッと吐き出してカスパルは家路についた。
★~★
カスパルがハーベ伯爵家に戻ったのはもう時間も19時になろうかと言う時間だった。
辻馬車を乗り継ぎ屋敷の前で降りたカスパルは正門をくぐって直ぐガラガラと屈強な男が荷台に数人乗り込んだ荷馬車とすれ違った。
事業で訪れる者達が正門を使う事は先ずない。
なんだろうと思いながらも門道を歩き、やっと玄関に到着したのだが扉は施錠されていて開かなかった。
ドンドン!!
「開けてくれよ」
いつもなら兄か母親がやって来て玄関を開けてくれるのだが、何度扉を叩いても向こう側に人の気配がしない。ジェッタ伯爵家と同じく使用人もいない屋敷なので家人が来ない事にはどうにもならない。
「仕方ないな。窓から入るか」
深夜に抜け出して遊びに行くこともあるカスパルは私室の窓は出入りが出来るように施錠をしていない。しかし高さがあるので旅行帰りの疲れた体で窓枠を乗り越えるのは面倒。
そうは言っても何時まで経っても誰も玄関を開けないのだから仕方がない。
外壁に添って庭を歩き、私室の窓まできて窓の向こうに見える部屋の内装を見てカスパルは手にしていた小ぶりのトランクが手から落ち、落ちた拍子に留め具が外れて中身が散らばった。
「なんだこれ!どういう事なんだ?」
部屋の異様な様子に早く中に入ろうとするのだが、施錠をしていないはずの窓はガタガタと揺らしても開かない。
カスパルの部屋は寝台も棚も全てが無くなっていた。それだけではない。中がよく見えるのはカーテンも外されていて、なんなら壁紙すら剥がされている。
「さっきすれ違ったのって…大工?いやいや、父上から内装を変えるなんて聞いてないぞ」
訳が分からないが、こうしてはいられないと次兄の部屋を目指した。
長兄はもう結婚しているので屋敷の2階に部屋を移している。両親の部屋も2階。1階に部屋があるのはカスパルと次兄だった。
次兄の部屋の前にやって来て窓から中を覗くと内装や家具はあるものの、トランクや木箱が一部に積み上げられていた。
「領地に行くのが早まったのかな?でもそれも聞いてないけどな」
次兄は領地で代官となり長兄を支えるのでいずれは領地に向かう事は知っていたが、それが今だとは思わなかった。
次兄の部屋も窓は全て施錠されていて中に入ることは出来ない。
他に入れるとすればリビング。しかし庭からいきなりこんな時間に帰ってくればエリーゼにも言ったようにただでさえ行き先も告げずに1週間も留守にしていたのだ。
叱られるに決まっているので行きたくなかった。
特に今回、抜け出したが筆頭公爵家の夜会は「絶対に遅れるな。粗相もするな」と厳しく言われていたのだ。公爵家から抗議文でも届いていれば鉄拳の3,4発は覚悟しなければならない。
――殴られるのは嫌だな――
そう思い、頬に手を当てたカスパルに「カスパルか?」次兄が呼ぶ声が聞こえた。
「えぇーっ?今日は一緒に居られないの?」
「家に帰らなきゃいけないからな。ほら、空っぽだし」
財布の中身を開いて、満足に遊べる金も持ち合わせがないと見せてもエリーゼは食い下がる。
「そんなの金融商会に行けばいいでしょう?もっと一緒にいたーい」
「金融商会はもう営業を終えてるよ。また明日家に行くからさ」
「やだぁ、つまんなーい。もっと一緒にいたいのぉ」
腕に縋り、上目遣いでエリーゼは甘えて見せるが、カスパルの気持ちはもう冷め切っていた。
幾ら大好物とは言え、毎日、毎食同じ物を食べれば飽きてしまう。
小旅行に行く前からもうエリーゼには飽きていた。
帰れば捨てるつもりだったので、エリーゼがどんなに可愛い子ぶってもウザく感じる。
――ま、空きがない時のキープでいいかな――
女性遍歴も19歳と言う若さなのに、それなりにあるカスパルはエリーゼのような女の扱いには慣れていた。この手の女はいきなり別れを切り出すとストーカーのよう付け回したり、自傷行為をちらつかせたりと面倒しか起こさない。
そして、カスパルの事は本命かも知れないが本命以外にも男がいる。ただそちらは「慰め役」なので寂しい時や体が疼く時に相手をさせるだけなのでキープにもなっていない。
男に都合のよい女がいるように、女にも都合のよい男はいるのだ。
慰め役と会う機会が多くなると気持ちも傾倒していくのでその時に「次の恋を応援しているよ」と綺麗に別れればつき纏われる事もない。静かにフェードアウトするのが基本だ。
「兎に角、今日は屋敷に戻らないと。1週間も戻ってないんだぜ?親父に外出禁止なんて言われたら会えなくなるだろう?」
「つまんなーい。パパさん厳しぃぃ」
「そう言うもんなんだよ。判ってくれよ」
「はぁい。でもぉ…エリー寂しいっ。泣いちゃう」
――ケッ!勝手に泣けや!――
心で毒吐きながらもカスパルは優しい笑みを浮かべてエリーゼの唇を噛むようにしてキスをするとエリーゼは納得したようで家のある方向に向かう辻馬車乗り場に何度も振り返りながら歩いて行った。
ご丁寧にカスパルはそんなエリーゼを姿が見えなくなるまで見送る。
「ホンット。うぜぇ女」
小旅行で使った水筒を手にして残った水を口に含んで、うがいをする。
ペッと吐き出してカスパルは家路についた。
★~★
カスパルがハーベ伯爵家に戻ったのはもう時間も19時になろうかと言う時間だった。
辻馬車を乗り継ぎ屋敷の前で降りたカスパルは正門をくぐって直ぐガラガラと屈強な男が荷台に数人乗り込んだ荷馬車とすれ違った。
事業で訪れる者達が正門を使う事は先ずない。
なんだろうと思いながらも門道を歩き、やっと玄関に到着したのだが扉は施錠されていて開かなかった。
ドンドン!!
「開けてくれよ」
いつもなら兄か母親がやって来て玄関を開けてくれるのだが、何度扉を叩いても向こう側に人の気配がしない。ジェッタ伯爵家と同じく使用人もいない屋敷なので家人が来ない事にはどうにもならない。
「仕方ないな。窓から入るか」
深夜に抜け出して遊びに行くこともあるカスパルは私室の窓は出入りが出来るように施錠をしていない。しかし高さがあるので旅行帰りの疲れた体で窓枠を乗り越えるのは面倒。
そうは言っても何時まで経っても誰も玄関を開けないのだから仕方がない。
外壁に添って庭を歩き、私室の窓まできて窓の向こうに見える部屋の内装を見てカスパルは手にしていた小ぶりのトランクが手から落ち、落ちた拍子に留め具が外れて中身が散らばった。
「なんだこれ!どういう事なんだ?」
部屋の異様な様子に早く中に入ろうとするのだが、施錠をしていないはずの窓はガタガタと揺らしても開かない。
カスパルの部屋は寝台も棚も全てが無くなっていた。それだけではない。中がよく見えるのはカーテンも外されていて、なんなら壁紙すら剥がされている。
「さっきすれ違ったのって…大工?いやいや、父上から内装を変えるなんて聞いてないぞ」
訳が分からないが、こうしてはいられないと次兄の部屋を目指した。
長兄はもう結婚しているので屋敷の2階に部屋を移している。両親の部屋も2階。1階に部屋があるのはカスパルと次兄だった。
次兄の部屋の前にやって来て窓から中を覗くと内装や家具はあるものの、トランクや木箱が一部に積み上げられていた。
「領地に行くのが早まったのかな?でもそれも聞いてないけどな」
次兄は領地で代官となり長兄を支えるのでいずれは領地に向かう事は知っていたが、それが今だとは思わなかった。
次兄の部屋も窓は全て施錠されていて中に入ることは出来ない。
他に入れるとすればリビング。しかし庭からいきなりこんな時間に帰ってくればエリーゼにも言ったようにただでさえ行き先も告げずに1週間も留守にしていたのだ。
叱られるに決まっているので行きたくなかった。
特に今回、抜け出したが筆頭公爵家の夜会は「絶対に遅れるな。粗相もするな」と厳しく言われていたのだ。公爵家から抗議文でも届いていれば鉄拳の3,4発は覚悟しなければならない。
――殴られるのは嫌だな――
そう思い、頬に手を当てたカスパルに「カスパルか?」次兄が呼ぶ声が聞こえた。
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