婚約も二度目なら

cyaru

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第07話  美丈夫が背負うもの

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シャウテン子爵家から釣書つりがきが届くと同封されていた絵姿を見て母親がウットリ。

「はぁ♡美丈夫ッて絵姿でも目の保養になるわねぇ。神々しいわ」
「そう?お父様もお日様の下に行くと頭頂部が神々しいわよ?」
「やだ…現実に引き戻さないで。目を背ける事実なのに」

妻と娘の会話にジェッタ伯爵は手を頭頂部に当てる。

――まだ大丈夫…毛根は生きている。きっと――

指の腹に触れる残り少ない感触に安堵したジェッタ伯爵だが、妻の手にする絵姿を見て男なのにウットリ。

嫉妬をするでもなく、絵姿は本物の2割増し、3割増しと言われているが半分の8掛けにしても「こりゃ美丈夫だな」と思える未来の息子。


あの金が無かったら大変なことに!!と慌ててしまったところに「貴殿の財布ですよね?」とスマートに届けてくれて、お礼がしたいと言っても固辞をした謙虚さ。

ジェッタ伯爵の中でヴェッセルの好感度は爆上がり。こんな青年が婿に来てくれたらなぁっと冗談半分で言ってみたら「いいですよ」と即答。

その時も「凄く整った顔だな」と思ったがそれだけじゃない。

――生まれてくる子は、めっちゃ可愛いんじゃないか?――

と、期待をしてしまう。
可愛いコルネリアの子供だと忖度はかなり加わるが、何よりヴェッセルはかなり上背があった。165cmで成長が止まって、ちょっと横に成長してしまったジェッタ伯爵はヴェッセルを思い浮かべ「モデル体型?」とも想像してしまう。

コルネリアにそっくりで、すらりとした体躯がヴェッセル譲りとなれば人類最?!

ニマニマしていると目のまえにいる人類最の妻が微笑んでいた。


シャウテン子爵家は小さな領地だが鉱山があるので採掘した鉄鉱石を鍛冶屋に卸している家。
質の良い鉄鉱石は騎士団お抱えの武具になる。他にも日用品なら鍋やフライパン、家屋を作る時も家具を作る時も留め具や小さな部材となる鉄製品は欠かせないし、馬車にも襲撃に備えて内外の板材の間に鉄板を挟んでいる。

強度もあるのに薄くてそこまで重くない。
シャウテン子爵領産の純度も高い鉄鉱石は色々な品になって身の回りに沢山ある。

ヴェッセルの噂を知らない訳ではないが、財布を拾って届けてくれた時、「娘の婿に」と言った時の少し照れた顔。噂のような男だとは思えなかったのだ。


ちゃんと手順に則って釣書つりがきも送って来たシャウテン子爵家。父親が言い出した事なので1度、若しくは数回会って丁寧にお断りをするしかないとコルネリアは初回の顔合わせに向かった。

場所はシャウテン子爵家。
家屋の中ではなく庭に作ったオープンテラスだと聞いていた。

「動く不細工」とも言われている父親は確かに美丈夫とはかけ離れた所にいる見た目。
出っ歯だし、鼻の穴も奥深くまでハッキリと見える。

しかし、その隣で椅子に腰かけるヴェッセルは息を飲む美しさだった。

――わぁ‥美丈夫ってそこにいるだけで花を背負ってるって本当だわ――

ヴェッセルの背後は離れた所にまだ蕾にもなっていないミニバラの生垣があるけれど、まるで背中に大きく、そして満開を迎えたバラが飛び交っている幻覚も見えてしまう。

「先日はありがとうございました。大変助かりました」
「いいえ。当たり前の事をしただけです。それよりも本日はわざわざお越し頂き感謝いたします」

165cmの父親と並ぶと180cmはゆうに超えた上背のあるヴェッセルはより上背がある様に見える。そっと隣にいた母親がコルネリアに耳打ちをした。

「お父様の胸元にベルトの位置がある様に見えるんだけど気のせいかしら」
「気のせいじゃないわ。脚…長さの極限だもの」
「貴女と並んだら…ベルトの位置が目線かしら」
「失礼ね!そこまで低くないわよ!」

そう言ったもののコルネリアの身長は背伸びをしても160cmには遠く及ばない153cm。失礼ね!とは言ったものの隣に並んだら本当に目線にベルトがあるような気がした。

「こちらの我儘を聞き入れて頂き感謝します」

と、ジェッタ伯爵が言えば

「愚息で良ければどうぞ、どうぞ。身を固めてくれるなら親としては入り婿だろうが何だろうが構いません」

とにこやかに返事を返してくれるシャウテン子爵。

――息子の噂知らないのかな…手を焼いてる感じじゃなさそう――

いやいや。外面の良さならハーベ伯爵夫妻もそうだったじゃないかとコルネリアが警戒をしたのが良くなかったのか、シャウテン子爵がヴェッセルに言う。

「ボーっとしてないで。お嬢さんに庭でも案内してあげなさい」

――お構いなくぅ!!そんな美丈夫。至近距離は心臓の負担が大きいですっ――

コルネリアの無言の固辞は効き目がない。吊るすだけで効果があると3年目になった防虫剤並みの効果しかなかったようで、コルネリアの視界にはヴェッセルの差し出した大きな手が見えた。

「案内しますよ。お手をどうぞ」

――半径1m以内の美丈夫の破壊力の凄さよ――

コルネリアは向けられる眩しい笑顔に目が潰れたかと思った。
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