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国王と王妃

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予定していた官吏だけでは足らず、増員された官吏によって清掃作業がされていく。

さりげなく全ての窓が開け放たれたのは言うまでもない。

【割るな。危険】

締め切る事は命にも関わる。危険な香りは殻の中に閉じ込めなくてはならないのだ。



「では、再開を致します。国王ヒュブリス・アヴィス。メングローザ公爵の行使した公爵権限に於ける告発は全て【可】。妥当であったと判定を致しました。加えて王妃リュル・アヴィス殿下より発言のあったベルン国との内約も確認が取れました。ヒュブリス・アヴィス、貴方の部屋にある確約書も押収致しました。この件に置いてベルン国とは漁業権、湖水の分水権について該当するルーレ男爵を交え会合を持つようにしております。第三王女殿下の婚約は白紙となりました。婚約の白紙につきましては先ほどもご尽力いただいたリアーノ国の第8王子にお力添えを頂きました。メングローザ公爵への致傷事案については現行犯ですのでメングローザ公爵の回復を待って刑事裁判を行いますが、判定についてのみ異議があればどうぞ」


「私は間違ったことをした。だが!間違っていない事もあったはずだ。誰だってそうだろう?旨いものが食いたい、大きな家に住みたい、仕立ての良い服を着たい、夜はぐっすり眠り将来に不安を感じたくない!そうだろう?どうしてそれが国王なら許されないのだ?国王だから出来ることをして何が悪いと言うのだ。何故私だけが罰を受けねばならないのだ、おかしいだろう」


レイリオス公爵が議員席から手をあげた。議長がポイフル公爵をちらりと見るがポイフル公爵は前を向いたままで議長の方を見ない。

「レイリオス公爵。発言を許可します」

「ありがとうございます。陛下…」


国王はレイリオス公爵に顔を向けたが、想定される処罰に怯え睨みつける気力もない。
だらしなく開いた口からは息が漏れる音が聞こえる。


「国王だから許されないのではない。誰であっても許されない行為。それを行っただけだ。そしてその行為を行うにあたり、国王という権力と地位を使った。それは誰もが使えるものではない。それすら判らぬほどになられたか。かの日、王家はかろうじて首の皮一枚繋がった。あの時は仕方がなかったと思う臣下が今もいることがそもそもおかしいのです。もう正しましょう。今がその時です」


声もなく首を横に振り続ける国王をレイリオス公爵は黙って見つめ、直ぐに目を逸らした。
そこにあるのは諦め。未練がましくまだ何かに縋ろうという男は哀れで見ていられなかった。

議長も暫く見ていたが、もう何も言う事はないのだろう。
前を向き、傍聴席に陣取る民衆を静かに端から端へ目線を流し、小さく一つ頷いた。



「では、判定を受けて議会で決定した事を伝えます。現在の王政を廃止。国王のいない共和国コモンウェルスとして新たに道を切り開いていく事とする。国名については今より1年後。国民の投票により決定をするが現在識字率は全体の10%に満たず、早々に識字率の向上は困難であるため、各市や街、村などをチーム、チームを細分化しリーダーと成る者がが意見をまとめ、投票とする。

現在のアヴィス王家は消滅。但しここにメングローザ公爵から爵位譲渡の申し出を受理及び認可。リュル・アヴィスをリュル・メングローザと改め、女性当主による公爵家の誕生を認め、女児3名、男児1名もそれに附随するものとする。リュル・メングローザ公爵。これからも民の為、国の発展に貢献するよう望みます。

最後にヒュブリス・アヴィス。刑事事件が今後開廷をされるため、現時点において判定の処分である絞首刑はその裁判が結審するまでは延期とします。

異議のあるものは起立を」



誰も立ち上がる者はいないと思われたが、皆が一斉にカタンと音がしたほうを向いた。
立ち上がったのは王妃だった。

「異議がありますか?」

「はい。夫ヒュブリスについては結審を待つと言う事で異議は御座いません。ですがわたくしに対しては寛大すぎる、甘すぎる判定だと感じます。この命を以て王家の罪の一部を謝罪する事をお許し願いたく思います」


静まり返った議場内に1人の女性の声が響いた。


「王妃様が居なかったら、今抱いているこの子は産まれませんでした!王妃様が田舎でも助産院を作ってくれたことでこの子は産まれてくることが出来たんです!王妃様は何も悪くない!王妃様が罪人だと言うのなら私も!この子も罪人です!」

「5年前の洪水を思い出してくれ!何もかも流されてあるのは命だけだった。王妃様はそこに泥だらけになって王女殿下と来てくれたんだ!王子殿下がまだお腹にいるにも関わらずだ!近くの村や町の空き家を無償で提供してくれた上に復興にもいち早く動いてくれたんだ。俺は今、その町に住んでいる。仕事もある!洪水の前の生活が出来てるのは王妃様のおかげなんだ!王妃様を罰するなら俺も罰してくれ!」

同意する声が大きくなっていく。身を乗り出して声をあげるのは傍聴席の民衆だった。何人も外に駆けだして「王妃様が罰せられる!こんな事許せるか?!」と声を上げると何重にも取り囲んだ民衆から王妃を擁護する声がわき上がる。



「聞こえますか?これが貴女の愛した民衆の希望です。命を以て謝罪をするのではなく、その命、公爵となって民の為に働く事に使った方が有意義だと思いませんか?」


「ですが、わたくしにはイデオットという許されない犯罪を犯した息子もいるのです。イデオットに生を授けた罪は消えるものではありません」


「籍を抜いても子供は子供ですし親であると言う事は変わりません。近くにいれば今までの分もと甘やかしたり必要以上に厳しくしたりもあるでしょう。貴女は貴女なりに離れた地で出来ることをしてあげればいいのではないですか?ご存じかと思いますが犯罪を犯す者はいるのです。どうすれば犯罪に手を染めずにいてくれるのか、どうすれば更生してくれるのか…長年の課題ですがね」


王妃、いやリュル・メングローザ公爵の目からは涙があふれて止まらなかった。
目頭を指で押さえても頬を伝っていく涙は止まらない。小さく鼻をひとつすすると顔をあげた。

「はい‥‥ありがとうございます。この先も…フゥグッ…皆さまと共に…ありがとう‥」


☆彡☆彡☆彡
コモンウェルスは色々な解釈の仕方がありますが、英国のピューリタン革命によるものと同じ感じと思って頂くといいかなぁ…なんて (〃´∪`〃)ゞ
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