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さらば王子
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ざわざわとする議場。
外では入りきれなかった民衆が王宮の外壁を何重にもなり囲っている。
議場は王宮内にあるため広さにも限りがある。
余りの傍聴人の多さに議場を変更してはどうかという声もあったが、国王と(元)王太子が私室を抜け出した事はどこからか民衆の知るところとなり、民衆側から却下された。
敷地内に入れてしまえばそれがこの結果を待つ庶民だけとは限らないし、城には他の王女や王子もいる。誘拐される可能性もあるのだ。
民衆は王政が廃止になるとしても、王妃や第一王女、第二王女が貧しい者や労働者達の為にいろいろと手を尽くしてきた事を知っているのだ。
第三王女も13歳、第二王子に至ってはまだ4歳。子供に罪はない事を国王以上に民衆は知っている。
「運んでる最中に牛だって逃げる事もあるんだぜ」
「そうだ、そうだ。蛇だって逃げる事があるんだ。牢屋の隙間も潰してしまえ!」
「他人様でも悪さするようなやつは二度と太陽の下に出てくんな!」
当然ながら国王と(元)王太子イデオットに対しての風当たりは強い。
議場にメングローザ公爵は現れなかった。
鋭利な刃物の場合は状況にもよるが縫合などもしやすいし、切り口も比較的早くに塞がるのだが使用されたのは散々鍵穴を壊すために捩じり曲がっていたペーパーナイフだっただめ、まだ安静が必要であるからだ。
国王は官吏ではなく兵士に付き添われて議場に入ってきた。
その姿に貴族議員からも庶民からもどよめきが起こった。美しい金髪は真っ白になり若い頃から美丈夫と名高かったそのかんばせは目は落ちくぼんで頬も白かった肌がドス黒く見えている。
まだ40代前半だと言うのに、背を丸め兵士の中央にいる国王は浮浪者のようにも見える。
対比するように王妃は飾り付けた宝飾品は一切なく、髪もただ結い上げただけ。せいぜい髪を止めている髪紐があるだけだ。ドレスも薄いグレー一色でこれで肩口が白い布地ならまるでシスターである。
化粧もしているのかどうかの薄化粧で唇の色だけが少し頬より色があるだけ。
国王とは違い、背を伸ばし真っ直ぐに前を見据えている。
そしてもう1人。先日リアーノ国から第8王子(第二王女の婚約者)が直々に連行してきたのが(元)王太子イデオットだった。
国王と同じく兵士に連れられて入って来たのだが、その手首には木の枷が嵌められていた。
ただそのような見た目にも関わらず、堂々と肩で風を切るように歩くさまはまるで破落戸だった。
かつて見た目も良かったため、話をした事のない者には【見るだけは目の保養】と言われた事もあったイデオットだが、庶民の傍聴席に陣取った令嬢たちは一様に眉を顰めた。
「それでは、メングローザ公爵による公爵権限の行使についての裁決を発表する前に、公布する事があります。王太子イデオット・アヴィスはその身分を剥奪。アヴィス王家からは廃籍となりました。事由は4か国における強盗団にその身を置き、犯行にも加わっております。ベルン国、ビーノ国からは即決裁判によりそれぞれベルン国では懲役15年、ビーノ国では終身刑が確定をしております。残るブルーメ王国では来月から裁判が開始、リアーノ国では11年が求刑されており結審を待つ段階となっています」
ヒュン!!ベチャっ!!
議長の言葉が一旦途切れた時、何処からか腐った生卵が飛んできてイデオットの少し前に落ちた。投げたのが貴族議員なのか傍聴席の庶民なのかは判らない。
割れた卵からの酷い匂いに議長はコホンと咳ばらいをすると
「気持ちは判りますが、先走りは行けません。最後まで聞くように」と誰に言うでもなく告げた。
官吏がそそくさと割れた卵を片付ける中、議長は続けた。
「イデオット・アヴィスの身分を剥奪したのはリアーノ国で逮捕された連絡を受けた日となっており、犯罪を犯した時刻に於いてはアヴィス王家の者であった事から、被害のあった各国の当主に対し王妃殿下、並びに第一王女、第二王女、第三王女、第二王子の私財よりそれを弁済しております。ですが弁済をしても罪が消える事はなく今回、身分剥奪について申し渡すため、引き渡し条約のあるリアーノ国第8王子のお力添えのもと、この場が設けられた。王子並びに王太子時の私財については全てを没収。スミルナ侯爵令嬢に対しての国費流用も認められたためスミルナ侯爵家は残る動産、不動産を全て差し押さえております。
尚、引き渡し条約に基づき明日13時に王宮の牢を出た後、リアーノ国まで専用荷馬車で護送される事になっております。言葉を交わす事は出来ませんが護送される最中に王子、王太子時代に感慨深い思い出のある方のお声がけ、差し入れまで禁止する事はありませんのでご了承ください」
ヒュン!!ベチャっ!!ヒュン!!グチャっ!!バシッ!!ドロリ‥‥
「俺は明日は仕事で行けねぇんだよ!!チクショー!!」
「俺も明日は日勤なんだよ!コンチクショー!!」
「静かに!!静かに!!話は最後まで聞きなさいと言ったでしょう!!」
ピタリと飛ばなくなる腐った生卵。しかし清掃道具を持った官吏はまだ動かない。
連行してきた兵士は見越していたのだろう。甲冑を付けバイザーを下ろしている。
「では、イデオット。何か異議は」
「私は強盗団に騙されたんだ…何も悪くない。そもそもの諸悪の根源は父上と母上だ。私は何一つ自由になるモノなどなかった!何故罰せられなければならないのだ!品行方正にこの国では生きて来たではないか!他国でやった事を何故罰するのだ?差し引きゼロ、プラマイゼロとするのが妥当だろう!だからこの国は民衆の知恵が足らんと言われているのだ!」
「はぁ~…判りました。では退場を」
「待て!まだ話は終わっていない!放せっ!兵士の分際で私に触れるな!放せっ!どうして!どうして誰も…そうだ!カーメリアを呼べ!カーメリアなら私の素晴らしさを皆に判る様にそれだけは伝えられる!理解力の乏しい民もカーメリアなら判りやすく嚙み砕いて話せるからおおいに理解出来るはずだ!」
ビュンビュン!!と飛んで来る腐った生卵。先程飛んできた量の倍はあるだろう。
見れば貴族議員も一緒になって投げているが止める者は誰もいない。
「貴様らっ!!」
「貴様だと??」
イデオットの言葉に腕を掴んだ兵士が一言バイザーの奥から声を出し、飛んで来る1つを掴むとイデオットの頭でぐしゃりと潰した。
「うあっ…何を…」
「五月蠅い。黙れ。行くぞ」
罵声と共にどんどん飛んで来る腐った生卵。椅子の背に隠れる官吏の行動を咎める者はいない。
ドロドロのデロデロになったイデオットは頭の上に割れた殻をのせ、髪から卵を滴らせながら兵士によって連れ出された。
1つの有期刑が終われば次の国での有期刑。最後は終身刑が待っている。
生涯を牢獄で過ごすイデオット。早々に懲役15年と決まったベルン国はかつてブルーメ王国の軍部による恐怖政治が崩壊した際、国境を超えて犯罪者となった上下関係に兎角五月蠅い軍人崩れが多く収監をされている。
イデオットの口の上手さなら大丈夫だ。
【反感を買わない物言い】
それだけで生き延びる確率は高いのだから。
外では入りきれなかった民衆が王宮の外壁を何重にもなり囲っている。
議場は王宮内にあるため広さにも限りがある。
余りの傍聴人の多さに議場を変更してはどうかという声もあったが、国王と(元)王太子が私室を抜け出した事はどこからか民衆の知るところとなり、民衆側から却下された。
敷地内に入れてしまえばそれがこの結果を待つ庶民だけとは限らないし、城には他の王女や王子もいる。誘拐される可能性もあるのだ。
民衆は王政が廃止になるとしても、王妃や第一王女、第二王女が貧しい者や労働者達の為にいろいろと手を尽くしてきた事を知っているのだ。
第三王女も13歳、第二王子に至ってはまだ4歳。子供に罪はない事を国王以上に民衆は知っている。
「運んでる最中に牛だって逃げる事もあるんだぜ」
「そうだ、そうだ。蛇だって逃げる事があるんだ。牢屋の隙間も潰してしまえ!」
「他人様でも悪さするようなやつは二度と太陽の下に出てくんな!」
当然ながら国王と(元)王太子イデオットに対しての風当たりは強い。
議場にメングローザ公爵は現れなかった。
鋭利な刃物の場合は状況にもよるが縫合などもしやすいし、切り口も比較的早くに塞がるのだが使用されたのは散々鍵穴を壊すために捩じり曲がっていたペーパーナイフだっただめ、まだ安静が必要であるからだ。
国王は官吏ではなく兵士に付き添われて議場に入ってきた。
その姿に貴族議員からも庶民からもどよめきが起こった。美しい金髪は真っ白になり若い頃から美丈夫と名高かったそのかんばせは目は落ちくぼんで頬も白かった肌がドス黒く見えている。
まだ40代前半だと言うのに、背を丸め兵士の中央にいる国王は浮浪者のようにも見える。
対比するように王妃は飾り付けた宝飾品は一切なく、髪もただ結い上げただけ。せいぜい髪を止めている髪紐があるだけだ。ドレスも薄いグレー一色でこれで肩口が白い布地ならまるでシスターである。
化粧もしているのかどうかの薄化粧で唇の色だけが少し頬より色があるだけ。
国王とは違い、背を伸ばし真っ直ぐに前を見据えている。
そしてもう1人。先日リアーノ国から第8王子(第二王女の婚約者)が直々に連行してきたのが(元)王太子イデオットだった。
国王と同じく兵士に連れられて入って来たのだが、その手首には木の枷が嵌められていた。
ただそのような見た目にも関わらず、堂々と肩で風を切るように歩くさまはまるで破落戸だった。
かつて見た目も良かったため、話をした事のない者には【見るだけは目の保養】と言われた事もあったイデオットだが、庶民の傍聴席に陣取った令嬢たちは一様に眉を顰めた。
「それでは、メングローザ公爵による公爵権限の行使についての裁決を発表する前に、公布する事があります。王太子イデオット・アヴィスはその身分を剥奪。アヴィス王家からは廃籍となりました。事由は4か国における強盗団にその身を置き、犯行にも加わっております。ベルン国、ビーノ国からは即決裁判によりそれぞれベルン国では懲役15年、ビーノ国では終身刑が確定をしております。残るブルーメ王国では来月から裁判が開始、リアーノ国では11年が求刑されており結審を待つ段階となっています」
ヒュン!!ベチャっ!!
議長の言葉が一旦途切れた時、何処からか腐った生卵が飛んできてイデオットの少し前に落ちた。投げたのが貴族議員なのか傍聴席の庶民なのかは判らない。
割れた卵からの酷い匂いに議長はコホンと咳ばらいをすると
「気持ちは判りますが、先走りは行けません。最後まで聞くように」と誰に言うでもなく告げた。
官吏がそそくさと割れた卵を片付ける中、議長は続けた。
「イデオット・アヴィスの身分を剥奪したのはリアーノ国で逮捕された連絡を受けた日となっており、犯罪を犯した時刻に於いてはアヴィス王家の者であった事から、被害のあった各国の当主に対し王妃殿下、並びに第一王女、第二王女、第三王女、第二王子の私財よりそれを弁済しております。ですが弁済をしても罪が消える事はなく今回、身分剥奪について申し渡すため、引き渡し条約のあるリアーノ国第8王子のお力添えのもと、この場が設けられた。王子並びに王太子時の私財については全てを没収。スミルナ侯爵令嬢に対しての国費流用も認められたためスミルナ侯爵家は残る動産、不動産を全て差し押さえております。
尚、引き渡し条約に基づき明日13時に王宮の牢を出た後、リアーノ国まで専用荷馬車で護送される事になっております。言葉を交わす事は出来ませんが護送される最中に王子、王太子時代に感慨深い思い出のある方のお声がけ、差し入れまで禁止する事はありませんのでご了承ください」
ヒュン!!ベチャっ!!ヒュン!!グチャっ!!バシッ!!ドロリ‥‥
「俺は明日は仕事で行けねぇんだよ!!チクショー!!」
「俺も明日は日勤なんだよ!コンチクショー!!」
「静かに!!静かに!!話は最後まで聞きなさいと言ったでしょう!!」
ピタリと飛ばなくなる腐った生卵。しかし清掃道具を持った官吏はまだ動かない。
連行してきた兵士は見越していたのだろう。甲冑を付けバイザーを下ろしている。
「では、イデオット。何か異議は」
「私は強盗団に騙されたんだ…何も悪くない。そもそもの諸悪の根源は父上と母上だ。私は何一つ自由になるモノなどなかった!何故罰せられなければならないのだ!品行方正にこの国では生きて来たではないか!他国でやった事を何故罰するのだ?差し引きゼロ、プラマイゼロとするのが妥当だろう!だからこの国は民衆の知恵が足らんと言われているのだ!」
「はぁ~…判りました。では退場を」
「待て!まだ話は終わっていない!放せっ!兵士の分際で私に触れるな!放せっ!どうして!どうして誰も…そうだ!カーメリアを呼べ!カーメリアなら私の素晴らしさを皆に判る様にそれだけは伝えられる!理解力の乏しい民もカーメリアなら判りやすく嚙み砕いて話せるからおおいに理解出来るはずだ!」
ビュンビュン!!と飛んで来る腐った生卵。先程飛んできた量の倍はあるだろう。
見れば貴族議員も一緒になって投げているが止める者は誰もいない。
「貴様らっ!!」
「貴様だと??」
イデオットの言葉に腕を掴んだ兵士が一言バイザーの奥から声を出し、飛んで来る1つを掴むとイデオットの頭でぐしゃりと潰した。
「うあっ…何を…」
「五月蠅い。黙れ。行くぞ」
罵声と共にどんどん飛んで来る腐った生卵。椅子の背に隠れる官吏の行動を咎める者はいない。
ドロドロのデロデロになったイデオットは頭の上に割れた殻をのせ、髪から卵を滴らせながら兵士によって連れ出された。
1つの有期刑が終われば次の国での有期刑。最後は終身刑が待っている。
生涯を牢獄で過ごすイデオット。早々に懲役15年と決まったベルン国はかつてブルーメ王国の軍部による恐怖政治が崩壊した際、国境を超えて犯罪者となった上下関係に兎角五月蠅い軍人崩れが多く収監をされている。
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