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頭の痛い事
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議会の閉会を告げても大半の議員は席を立つことはなかった。
立っている議員も帰るのではなく他の議員の席に行き、今後の事を憂いているのだ。
メングローザ公爵は官吏によって早々に引き上げてしまったし、ポイフル公爵は副議長という立場故にそこに居続ける事も出ない。
貴族たちは必然的にレイリオス公爵を囲うように集まった。
「レイリオス公爵、どう判断される。妃殿下は本気で毒杯を賜るおつもりだ」
「王政は残してもいいのではないか?ただ地位だけとして発言力などは持たせないようにすればいい」
「王家を解体するのは構わないが制度が変われば民は困るのではないか」
「共和制というのは一つの案だが‥‥諸外国に攻められた時にどうするんだ。誰の首を差し出す?まさかその辺を歩いている民を捕まえて差し出すわけにはいかないだろう」
メングローザ公爵は国境税がどちらに転んでも王家は倒れると指示していた。
ただ、諸外国や海の向こうの国を見るに国の代表者が変わる国は10年ともたなかった。
ブルーメ王国ですら軍部が実権を握り恐怖政治をしていたが、後継者問題で揉めた。
将軍2人がそれぞれの勢力を持って争うため、兵士ではない国民は難民となって周りの国に避難し問題にもなった。
レイリオス公爵は国王がその座から降り、幽閉、つまりは毒杯は仕方がないと考えていた。
処遇は後から考えるとしても、誰を次につけるかは悩んだ。
イデオット殿下は頭から除外である。問題しかないからだ。
第二王子は4歳で誰が補佐としてつくかによって国が混乱する。メングローザ公爵が最適だと思われるが、当のメングローザ公爵がリアーノ国に移住をもう決めていて戻るつもりが全くないのだ。
元々結婚をする段階で既に夫人にベタ惚れなので夫人が穏かに過ごせるリアーノ国で家を興し爵位は親戚に譲ると言い出し引き留めるのが大変だったくらいだからもう説得も意味はないだろう。
何よりレイリオス公爵は籍を抜いたとはいえアルマンがリアーノ国にいるのだ。
己も夫人を熱望し、数年かけて妻になってもらったのだ。息子を止める事は出来ない。
第一王女か第二王女を女王としてその婚約者を迎え入れる。
悩ましい所だったが、ブルーメ王国の第4王子の動きは見過ごせないものがある。
「報告をいたします!」
1人の従者が閉会した会場に飛び込んできた。
「イデオット殿下の姿が見当たりません!執事が負傷をしており逃亡したとみられます」
「なんだって?」
一気のその場の空気が張り詰めた。国王夫妻には出席は必ずと議長が伝えていたが、イデオットは任意だった。常日頃から夜会でも挨拶など最低限の役目が終わればスミルナ侯爵令嬢とバルコニーにいたりで周りももう諦めの境地だったが、メングローザ公爵家での愚行で大人しくしていると思っていたのだ。
つい今しがた、イデオットについては【当面の謹慎】を議会の満場一致で可決したばかりだ。
謹慎と言っても王宮に居れば良いのではなく自室以外への行き来は不可。
謹慎中は過去の政務内容で紙が傷んだものを複写していく作業を延々と行う。
当面という期間も短くて2カ月。その間にスミルナ侯爵令嬢への国費を使った散財についての処罰が下される。勿論それだけではなく余罪は腐るほど出てくる可能性はある。
「城の中にはいないのか」
「おそらく。馬が1頭盗まれるのを厩舎係が確認をしており騎士団にも連絡済みです。ですが手配をした時はそれがイデオット殿下とは思わず報告が遅れました」
「持ち出したものは?どこかで換金をしている可能性はないか?」
「はい、それが宝飾品を入れていた箱の中身が少なくなっているそうです。しかしそれらの本物は現在磨きに出されておりまして予備のイミテーションですので換金は断られるかと。他には衣類が無くなっておりましたが上着ばかりでシャツや下着はほぼ揃っている状態。着替えをするにしても…ジャケットだけとなると…こちらは古着屋に行けば買い取ってもらえるため金には出来ると思いますが素材が素材ですので直ぐに足が付くと思います」
「頭の痛い事だ‥‥」
「存在がイタイんじゃないのか?」
溺れる者は藁をも掴むというが、イデオットは藁すらつかめていないまま逃亡してしまった事に貴族たちは改めて【イデオットはない】と思った事だった。
2週間の間、議会は白熱した討論となった。
国王の隠していた事案がぽろぽろと出てくるのだ。王妃が暴露した案件もだがベルン国は雨が少ない国で分水権に食いついたようなものだから婚約解消にはなかなか応じなかった、
王家の使途不明金も先王の時代からあり、一部は私財として蓄えていた事も判った。隠し子もいるのではないかと思われたが、隠し子だけでもいなかった事は不幸中の幸いだ。
ダイヤモンド鉱山も利権をチラつかせてマーデン国に土地の無償提供を求めたり、輝くものをご神体としている正教会などにも発言権を認めさせる内約を取り付けていたのも見つかった。
「国王は有罪ですね。どうします?」
「幽閉しかないだろう」
国王も王妃も現在は謹慎中でそれぞれの自室から出る事は許されていない。
王妃の部屋は静かなものだが、国王は食事を運ぶ従者や着替えや湯あみを手伝う従者に【もう一度説明する場を設けるよう伝えろ】と言っているという。
説明と言っても【自己弁護の言い訳】だけを熱弁するだけになる事は判り切っている。
諸外国の情勢が不安定だったとはいえ、あの日、民を守るために王家を存続させてしまった事は過ちだったとレイリオス公爵は呟いた。
立っている議員も帰るのではなく他の議員の席に行き、今後の事を憂いているのだ。
メングローザ公爵は官吏によって早々に引き上げてしまったし、ポイフル公爵は副議長という立場故にそこに居続ける事も出ない。
貴族たちは必然的にレイリオス公爵を囲うように集まった。
「レイリオス公爵、どう判断される。妃殿下は本気で毒杯を賜るおつもりだ」
「王政は残してもいいのではないか?ただ地位だけとして発言力などは持たせないようにすればいい」
「王家を解体するのは構わないが制度が変われば民は困るのではないか」
「共和制というのは一つの案だが‥‥諸外国に攻められた時にどうするんだ。誰の首を差し出す?まさかその辺を歩いている民を捕まえて差し出すわけにはいかないだろう」
メングローザ公爵は国境税がどちらに転んでも王家は倒れると指示していた。
ただ、諸外国や海の向こうの国を見るに国の代表者が変わる国は10年ともたなかった。
ブルーメ王国ですら軍部が実権を握り恐怖政治をしていたが、後継者問題で揉めた。
将軍2人がそれぞれの勢力を持って争うため、兵士ではない国民は難民となって周りの国に避難し問題にもなった。
レイリオス公爵は国王がその座から降り、幽閉、つまりは毒杯は仕方がないと考えていた。
処遇は後から考えるとしても、誰を次につけるかは悩んだ。
イデオット殿下は頭から除外である。問題しかないからだ。
第二王子は4歳で誰が補佐としてつくかによって国が混乱する。メングローザ公爵が最適だと思われるが、当のメングローザ公爵がリアーノ国に移住をもう決めていて戻るつもりが全くないのだ。
元々結婚をする段階で既に夫人にベタ惚れなので夫人が穏かに過ごせるリアーノ国で家を興し爵位は親戚に譲ると言い出し引き留めるのが大変だったくらいだからもう説得も意味はないだろう。
何よりレイリオス公爵は籍を抜いたとはいえアルマンがリアーノ国にいるのだ。
己も夫人を熱望し、数年かけて妻になってもらったのだ。息子を止める事は出来ない。
第一王女か第二王女を女王としてその婚約者を迎え入れる。
悩ましい所だったが、ブルーメ王国の第4王子の動きは見過ごせないものがある。
「報告をいたします!」
1人の従者が閉会した会場に飛び込んできた。
「イデオット殿下の姿が見当たりません!執事が負傷をしており逃亡したとみられます」
「なんだって?」
一気のその場の空気が張り詰めた。国王夫妻には出席は必ずと議長が伝えていたが、イデオットは任意だった。常日頃から夜会でも挨拶など最低限の役目が終わればスミルナ侯爵令嬢とバルコニーにいたりで周りももう諦めの境地だったが、メングローザ公爵家での愚行で大人しくしていると思っていたのだ。
つい今しがた、イデオットについては【当面の謹慎】を議会の満場一致で可決したばかりだ。
謹慎と言っても王宮に居れば良いのではなく自室以外への行き来は不可。
謹慎中は過去の政務内容で紙が傷んだものを複写していく作業を延々と行う。
当面という期間も短くて2カ月。その間にスミルナ侯爵令嬢への国費を使った散財についての処罰が下される。勿論それだけではなく余罪は腐るほど出てくる可能性はある。
「城の中にはいないのか」
「おそらく。馬が1頭盗まれるのを厩舎係が確認をしており騎士団にも連絡済みです。ですが手配をした時はそれがイデオット殿下とは思わず報告が遅れました」
「持ち出したものは?どこかで換金をしている可能性はないか?」
「はい、それが宝飾品を入れていた箱の中身が少なくなっているそうです。しかしそれらの本物は現在磨きに出されておりまして予備のイミテーションですので換金は断られるかと。他には衣類が無くなっておりましたが上着ばかりでシャツや下着はほぼ揃っている状態。着替えをするにしても…ジャケットだけとなると…こちらは古着屋に行けば買い取ってもらえるため金には出来ると思いますが素材が素材ですので直ぐに足が付くと思います」
「頭の痛い事だ‥‥」
「存在がイタイんじゃないのか?」
溺れる者は藁をも掴むというが、イデオットは藁すらつかめていないまま逃亡してしまった事に貴族たちは改めて【イデオットはない】と思った事だった。
2週間の間、議会は白熱した討論となった。
国王の隠していた事案がぽろぽろと出てくるのだ。王妃が暴露した案件もだがベルン国は雨が少ない国で分水権に食いついたようなものだから婚約解消にはなかなか応じなかった、
王家の使途不明金も先王の時代からあり、一部は私財として蓄えていた事も判った。隠し子もいるのではないかと思われたが、隠し子だけでもいなかった事は不幸中の幸いだ。
ダイヤモンド鉱山も利権をチラつかせてマーデン国に土地の無償提供を求めたり、輝くものをご神体としている正教会などにも発言権を認めさせる内約を取り付けていたのも見つかった。
「国王は有罪ですね。どうします?」
「幽閉しかないだろう」
国王も王妃も現在は謹慎中でそれぞれの自室から出る事は許されていない。
王妃の部屋は静かなものだが、国王は食事を運ぶ従者や着替えや湯あみを手伝う従者に【もう一度説明する場を設けるよう伝えろ】と言っているという。
説明と言っても【自己弁護の言い訳】だけを熱弁するだけになる事は判り切っている。
諸外国の情勢が不安定だったとはいえ、あの日、民を守るために王家を存続させてしまった事は過ちだったとレイリオス公爵は呟いた。
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