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項垂れる王

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「口を閉じよ!の事も出来ぬか!この愚王めが!」


レイリオス公爵の一声に国王は背を議長席の足元を囲う板に擦りつけた。
下がろうにも後ろはない。もう追い詰められたのだと悟るしかなかった。
頭上から議長の【席にお戻りください】と声が降って来るが、足が全く動かない。
見かねた官吏が国王の腕を掴み、元いた席から少し離れた場所に用意された広めの椅子に腰を下ろした。


「議長、発言をよろしいか」


レイリオス公爵が議長席の3人に声を張り上げた。
中央にいる議長の口が開く前に右端にいたポイフル公爵は【許可します。どうぞ】とさらに真面目な顔で許可を出した。2人の議長がポイフル公爵に顔を向けるが、正面を見たままポイフル公爵は涼しい顔である。


「先程、国王はメングローザ公爵が公爵権限を行使したのは殆どがイデオット殿下の行いによるものという発言をされたがそれはあまりにもこの権限を甘く考えておられる。私も父より爵位を受け継ぎ公爵という爵位であるが、私的な事が直接の要因で公爵権限を使ったりはしない。メングローザ公爵もそれに同じだ。副議長席に居られるポイフル公爵もそれに同じ。私的な事で都度行使をしていれば国は立ち行かぬ」

「判りました。詳細についてはこれから審理を致しますので明らかになるでしょう。尚、国王陛下。今後先程のような行為については退場などの処分となります。議会の進行にあたり妨げになる言動は控えられますよう。そしてこの場は公爵権限による審理。各々身分、爵位はあるのは承知だがそれを慮っては真実は詳らかにはならない。議長権限を持ってこの場に限り、全ての立場は平等とする。異議のある者は起立を」


レイリオス公爵が着席する動きだけで誰も立ち上がる事も咳き込む事も、目くばせをする事もない。

「異議はないと認める。それでは審理を始めます。メングローザ公爵挙手はなかったため、第一の事案からとなるが説明を」


「はい。議長、事案の4つは個別ではなくそれぞれが連動しており切り離せるものではない。順不同、そしてそれぞれが絡み合う事をご理解いただきたい」

「判りました。ではどうぞ」

「国王が王太子時代に。国有地であった山脈をエッジ伯爵が山を買取、多くの貴族が出資し共にエッジ伯爵領にある山を試験採掘致しました。その時に目的とした石炭は出なかったのですが付近の山を構成する地質から石炭は出ると思い、エッジ伯爵と相談。我がメングローザ公爵家とポイフル公爵家が資金を出し採掘を継続しました」

「国による支援はどうしたのですか」

「試験採掘をする際、議案を議会に提出いたしましたが、出るやも判らないものに予算は組めぬと却下されました」

「では国からの支援は人的な支援だけだったと?」

「いいえ。国からの支援は何もありませんでした。そして我々は別の個所を工法を変えて採掘をする事にしたのですが、地理的に見ればトンネルさえあれば隣国への最短ルートが出来る事に気が付きました。試験採掘では岩盤ではなく掘りやすい場所がある事も判明していましたので資金を追加しトンネルを抜く事を決めました」

「巨額な工事になったと思いますが、そこで国からの支援が?」

「いいえ。国防もですが、隣国にトンネルを開通しても利益が認められないと却下されました。我々は国の支援なく工事を敢行したのです」

「どうなりましたか」

「はい。トンネルは無事開通し、今まで迂回していたり取引を諦めていた商人たちも利用するようになり、結果的にそれまでよりも広い範囲の領で収穫された農作物など廃棄をする事なく交易で利益を生むようになり、開通2年目で工事で負担となった資金は全額回収。3年目からは莫大な利益が形状されました。トンネルの開通で隣国からもたらされた保存法もあって交易の相手は隣国に限らず海路も使うようになりましたので」

「では本当に国からの支援はなく、現在のあのトンネルがあるという事ですね」

「はいそうです。そして掘削の工法を変更した事で石炭は出ませんでしたがダイヤモンドが発見されました。トンネルが開通していた事もあり、加工などの技術者も交流を始め更に利益を生む事になりましたが、問題が起きました」

「どのような問題でしょうか」

「現陛下のお妃選びです。当時3人の令嬢が婚約者候補として残っておりました。失礼なのですが教育の進捗状況、履修度から王妃殿下は3番手で御座いましたが、王家はエッジ伯爵家にこのダイヤモンド鉱山を持参金として王妃殿下を選定し婚姻を王命としました。鉱山を王家が手にすれば附随して交易の場となるトンネルも管理下に置かれます。鳶に油揚げをさらわれる状況にエッジ伯爵は現金で3千億。当時の国家予算が7千億弱ですので半分を用意し持参金としたのです。ここで強調を致しますがエッジ伯爵は金が惜しかったのではなく、それまで尽力した貴族や庶民の血と汗、そしてダイヤモンド鉱山で働く坑夫、交易をする商人や庶民を守ったのです。利を取ったのではない。生活を守るためだった事はしっかりと議事録に残して頂きたい」

「では王家はその利益目的にエッジ伯爵家に王命をだし婚姻をしたと」

「そうです。それだけではありません。鉱山と交易の利が手に入らないとなると先王は国境税という課税方式を開かれていない議会で可決承認。施行しようとしたのです」

「国境税とは、現在は特例で施行を停止していますが、国境を跨ぐ際に納める税金で妊婦であっても腹の子と2人分を徴収するという税金ですね」

「そうです。国境税は貧しいその日暮らしの日銭を稼ぐために日帰りで行商する者も往復を払わねばならず当時の新卒文官の初任給が月額10万に対し、往路で2万、復路で2万、往復分なら3万という高額なもの。議会で審理されていれば否決し廃案となっていたはずです」

「施行が停止しているのはメングローザ公爵家が存続が条件となっていますね」

「はい。レイリオス公爵家、ポイフル公爵家と共に3公で権限をと先王に直談判し、現状に至っております。お恥ずかしながら当時我がメングローザ公爵家は多額の負債を抱えており指名をされたのだと思います。負債を抱えたのは私の不徳の致すところですが」


「なるほど。他にはありますか」

「はい。エッジ伯爵家からお妃様に迎えられた令嬢が3年間。御子が出来ず不妊治療をしたと記録にはありますがそれは正しくはありません。他家の令嬢に心を寄せていた陛下は世継ぎを作ることを拒否。その令嬢が結婚した事によりイデオット殿下が誕生したのですが、生後間もなくからつけられた乳母はその傾倒した女性の妹。結果として陛下は妃殿下の進言など全て却下し王妃殿下であるに関わらず力を削ぎました。国王の使命となったその女性は姉妹で王子に支給される費用を着服。罷免にはなりましたが王子宮に残る勢力を排除できたのは最近の事です」

「着服された国金は弁済になったのでしょうか」

「スミルナ侯爵家より弁済にはなっておりますが、この事を王家は伏せ告発はしませんでした。我らは盗んだものを返すのは当然だが、罪は罪と裁くべきだと何度も進言致しましたが陛下により一蹴されました。特定の貴族を王家の力で優遇したとしか言えないでしょう。この事は我が娘カーメリアとイデオット殿下との婚約が解消になりましたが無関係ではなく、そこにスミルナ侯爵家の息女が関わっており、その息女にイデオット殿下が不相応な贈り物を婚約者経費から支出していた事も付け加えておきます」

「処罰をせずに、最近まで優遇していたとみなされても不思議ではないですね。先程当人も言っておりましたし、廃太子にすればお咎めなしと考えられていたとなれば‥‥国費は私財と考えてたとも取れますし弁済をしても現段階でスミルナ侯爵家については調査も監査も出されていない…」

「権力の不当行為については議会を通さず廃太子という事も問題だと付け加えます。王族の婚約者の内定、成婚、喜び事だけでなく、廃籍、廃嫡、廃太子なども議会を通さねば出来ない事です。私の知る限りイデオット殿下を廃太子にという議案は提出されておりません。既に廃太子だという事を詳しくご説明頂きたい」

「では、メングローザ公爵、公爵権限を行使しての申し立ては記録した。どのような裁決を望む」


メングローザ公爵は、今一度姿勢を正し、太く大きな声ではっきりと答えた。

「王家の解体。国を王政ではなく共和制にする事を望みます」


貴族たちはその事を周知していたのか、会話中も今も微動だにしない。
しかし庶民は違う。初めて知る事実に何人かは慌てて会場を出て行った。おそらくは新聞記者や文字が読めない者に口頭で聞かせる代弁者だろう。

王妃は静かに前を見据え、国王は項垂れたまま動かなかった。
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